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本編
9 禁じられた果実を口にした代償 1
しおりを挟むラファエルが彼女達の前に現れたのは偶然だった。
仕事が一段落し何気に執務室の窓より外の様子を見ていた所へ、マリアーナの背後を追うスティアの姿を見つけてしまったのである。
咄嗟に思った事はマリアーナの身の安全だった。
俄かには考えられないがスティアが自分の目の届かない所で愛するマリアーナに何かするのではないか……という疑念に駆られたのである。
常のラファエルならば決してありえないもの。
スティアに対してそんな邪推等する筈なんてしなかったのだが、今の彼はマリアーナへ盲目的に恋をしてしまっている。
初めての恋故に物事を正しく見極める判断が出来なくなっていたのだ。
とは言え少し距離を置き彼女達の後を追う場追う程に、恋に曇った眼のラファエルでも次第に何かが可笑しいと感じていく。
スティアではなくマリアーナの異変に……。
そんな時だった。
彼の愛するマリアーナの懐よりキラリと鈍い光を放つ暗器がそれを物語っていた。
しかし正直見たままの事実をラファエルは受け入れ難かった。
いや、受け入れたくはなかったのである。
自分が愛した女性はこの上なく優しく、そしてどんなに愛しても愛し足りないくらい心惹かれる女性が敵だという現実に……。
「マリ何をしている? 君は一体!?」
「――――もうわかっているでしょ、ラファエル?」
真っ直ぐ射抜く様にラファエルをその妖しいまでの紫の双眸で見据えながら、マリアーナは懐よりゆっくりと暗器を取り出す。
「あたしはあの御方の命令によりルガートの王太子を暗殺する為に遣わされた者。あはは本当に滑稽だったわよ。命を狙われている相手に恋するお馬鹿さんを見ていると……ね」
本当ならばこの言葉さえ口には出来ないもの。
そして今までの彼女ならば決して吐かなかった言葉でもある。
何故なら言葉1つでさえも敵に情報を与える事を善しとされない。
またこの王宮の至る所にシャロンの間者は潜み、今も何処かでこのやり取りを見て、恐らくいや間違いなく事の次第をあの御方へと報告される事もマリア―ナは理解している。
多分、この任務が成功しようとも関係なくマリア―ナは処分されるだろう。
しかし彼女の心は不思議と穏やかだった。
正体がバレてしまったというのに、自身の死は確定していると言うのにも拘らず不思議と心は凪いだ海の様に何処までも穏やかだったのである。
恐らくそれはマリアーナがある決意をしたという事も要因の一つかもしれない。
マリアーナはラファエル達へ妖艶な笑みを湛えてはいるのだがその瞳は何処までも空ろだった。
彼女は命じられた通り与えられた任務を遂行するしか道はない。
ラファエ達の周りには様子を聞き、駆けつけた騎士達が徐々に周囲を幾重にも囲んでいる。
もうマリアーナに逃げ道はないし、そしてその場を撤退するという事も許されてはいない。
彼女が残された道はただ1つ。
命令通りラファエルを殺す事――――だが、彼を殺した所で彼女が無事に逃げられる可能性はない。
マリアーナがルガートの騎士達に捕まれば、ありとあらゆる取り調べにより彼女が何処に属しているのかと口を割る前にきっとこの取り囲んでいる騎士達の中に潜んでいるだろう仲間という括りの暗殺者によって、彼女の命が絶たれる事になる。
それはマリアーナ自身よく理解していた。
何故なら自分自身もそうしてきたからだ。
だからふとマリアーナは今まで何人もの命を絶ってきたのだろう……と何気に思ってしまったのと同時に、彼女は次の行動を起こしたのだった。
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