葵 ~永遠に還る笑顔

Hinaki

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第一章

【15】

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「おい西園寺これは一体どういう事なんだ」

 なんでここに春夏冬さんが来たの!?

「は、春夏冬少尉、自分はここにいらっしゃる民間人のご令嬢を保護しようとしたのです」

 西園寺さんはさっきと同じ様に綺麗な敬礼姿で春夏冬さんへ報告しているって、そっか、三等飛行兵曹より少尉の方が上の立場なんや。よう知らんけどな。

 畏まって報告する西園寺さんに春夏冬さんは大きく右手を振り……。

「わざとらしい態度を止めろよな輝」
「はは、これでも一応上官を立てようと頑張っているんだよ」
「全く、だから上官から華族の道楽なんて揶揄されるんだろ」
「本当だな。だが道楽でお国へ命を捧げる華族がどこにいるって言うのだろうな」
「ここにいるだろうが」
「ごもっともで。だがこの戦時下において華族も平民も大して変わらんだろう。金は持てども米はない。今のご時世軍需産業や田舎の庄屋の方が華族よりも裕福だと思うがな」

「まぁ大きな声では言えないがそうなんだろう……で葵さん、随分探しましたよ。こんな奥まで女性が一人でくる様な場所ではないでしょう」

 いきなり矛先が変わってしまった。
 つい今し方西園寺さんと仲良く笑って話していたのになんでこっちを見る目は厳しいんって、それは私が春夏冬さんに嫌な思いをさせたし、まだ謝ってもいいひんし怒っていても当然……か。おまけに途中で逃げたのは私なんだもん。

「おいおい春夏冬、貴様の眼つきが怖くて葵嬢の顔が真っ青だぞ」

「い、いや別に俺は葵さんを詰問しようと思ってはいない」
「何を仰る少尉殿、眉間にこれでもかとしわが寄っているだろうが」
「だ、黙れ西園寺、俺は別に眉間にしわを寄せては……」
「いーや寄せているね。普段温厚で仏様のような春夏冬少尉が、こうも感情を露わにする場面を見る日がこようとは、いやはや人間長生きはするものだな」
「何が長生きだ。まだ二十一年しか生きていないだろうが」
「おや、それを言うなら貴様は二十二年しか生きてはいないだろう。なのに既に人生を達観している様な奴に言われたくはないね」

 あはは達観って、でも西園寺さんが茶々を入れてくれて良かったとはいえ、春夏冬さんに謝罪をしなくてはいけないけれどなんでなんやろう謝るタイミングが全然わからへんし、第一春夏冬さんになんて言って謝ればいいん。

 まだ反省の途中やし、せめてもう少しだけ時間がほしい。ほんの少しだけ、そうしたらちゃんと春夏冬さんを傷つけてしまった事を謝るからお願い!!


「あ、」
「え、葵さん!?」

 お願いが通じたのかなんてわからへん。春夏冬さんの私を呼ぶ声に思わず目を開けば、徐々に彼と西園寺さんの姿が薄くなってスーっと消えていく。あぁきっと私の幽体が過去の時代から姿を消したのだとこの時初めて理解した。

 今度また戻る事があればその時はちゃんと彼に謝ろう。絶対に逃げないからそれまで春夏冬さんごめんね。








「おーお本当に綺麗に消えたな」
「…………」

 春夏冬と西園寺は葵の姿が消えて行ったのを静かに見つめていた。

「まだ日が暮れていないのに現れては消えてゆく愛らしい幽霊嬢……か」
「まだ幽霊とは決まっていないだろ。それに昼間の時も現れたんだ。それに……」

「それに……?」

「……彼女は死に装束を纏ってはいない」
「あ、確かに!! 死に装束ではないが何とも変わった洋装姿だな。帝都でもあのような洋装は見ないというかだ。気にすべきはスカートの丈だ。流石にあれは短過ぎないか? まあ彼女には似合っていたけれどね」

 少しおどけながら口上を垂れる西園寺に春夏冬は眉間にしわを寄せ、じろりと睨む。

「西園寺、婦女子の足をジロジロと見るのは些か破廉恥過ぎるぞ」

「では春夏冬少尉は葵嬢の美しいおみ足が全く視界に入らなかったのでありますか?」

「そういう時だけ敬語を使うな。それに葵さんにも失礼だ」
「はは、まぁそう言いなさるな。俺も貴様もここへ来た以上早ければ今日明日にでも出撃命令が出るんだ。真実葵嬢が幽霊であったとしても可憐なお嬢さんだ。何というのか命を国へ捧げる前にこういう出逢いもいいかもな。あ、もしかして出撃が明日で、それまでに葵嬢と会えなかったら俺達はあの世で彼女に再会するのだろうか」

 隣で真剣な面持ちで阿呆な事を勝手に話す友人に、春夏冬は軽く一瞥してから溜め息を吐く。

「どうした? 葵嬢と何かあったのか」

「……あぁ彼女に大人げない態度をとってしまった」
「おやまぁ、では今度会えばしっかりと謝ればいい。いや、地上で無理ならあの世へ行った時に思い存分謝ろう。その時はやぶさかではないが俺も援護をしてやろう」

「だからまだ幽霊確定じゃないって言っているだろ!!」

 常より少し大きな声で春夏冬は叫ぶ。そんな彼の背中を押しつつ二人は林の中にある三角兵舎へと戻って行った。
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