16 / 27
第一章
【15】
しおりを挟む
「おい西園寺これは一体どういう事なんだ」
なんでここに春夏冬さんが来たの!?
「は、春夏冬少尉、自分はここにいらっしゃる民間人のご令嬢を保護しようとしたのです」
西園寺さんはさっきと同じ様に綺麗な敬礼姿で春夏冬さんへ報告しているって、そっか、三等飛行兵曹より少尉の方が上の立場なんや。よう知らんけどな。
畏まって報告する西園寺さんに春夏冬さんは大きく右手を振り……。
「わざとらしい態度を止めろよな輝」
「はは、これでも一応上官を立てようと頑張っているんだよ」
「全く、だから上官から華族の道楽なんて揶揄されるんだろ」
「本当だな。だが道楽でお国へ命を捧げる華族がどこにいるって言うのだろうな」
「ここにいるだろうが」
「ごもっともで。だがこの戦時下において華族も平民も大して変わらんだろう。金は持てども米はない。今のご時世軍需産業や田舎の庄屋の方が華族よりも裕福だと思うがな」
「まぁ大きな声では言えないがそうなんだろう……で葵さん、随分探しましたよ。こんな奥まで女性が一人でくる様な場所ではないでしょう」
いきなり矛先が変わってしまった。
つい今し方西園寺さんと仲良く笑って話していたのになんでこっちを見る目は厳しいんって、それは私が春夏冬さんに嫌な思いをさせたし、まだ謝ってもいいひんし怒っていても当然……か。おまけに途中で逃げたのは私なんだもん。
「おいおい春夏冬、貴様の眼つきが怖くて葵嬢の顔が真っ青だぞ」
「い、いや別に俺は葵さんを詰問しようと思ってはいない」
「何を仰る少尉殿、眉間にこれでもかとしわが寄っているだろうが」
「だ、黙れ西園寺、俺は別に眉間にしわを寄せては……」
「いーや寄せているね。普段温厚で仏様のような春夏冬少尉が、こうも感情を露わにする場面を見る日がこようとは、いやはや人間長生きはするものだな」
「何が長生きだ。まだ二十一年しか生きていないだろうが」
「おや、それを言うなら貴様は二十二年しか生きてはいないだろう。なのに既に人生を達観している様な奴に言われたくはないね」
あはは達観って、でも西園寺さんが茶々を入れてくれて良かったとはいえ、春夏冬さんに謝罪をしなくてはいけないけれどなんでなんやろう謝るタイミングが全然わからへんし、第一春夏冬さんになんて言って謝ればいいん。
まだ反省の途中やし、せめてもう少しだけ時間がほしい。ほんの少しだけ、そうしたらちゃんと春夏冬さんを傷つけてしまった事を謝るからお願い!!
「あ、」
「え、葵さん!?」
お願いが通じたのかなんてわからへん。春夏冬さんの私を呼ぶ声に思わず目を開けば、徐々に彼と西園寺さんの姿が薄くなってスーっと消えていく。あぁきっと私の幽体が過去の時代から姿を消したのだとこの時初めて理解した。
今度また戻る事があればその時はちゃんと彼に謝ろう。絶対に逃げないからそれまで春夏冬さんごめんね。
「おーお本当に綺麗に消えたな」
「…………」
春夏冬と西園寺は葵の姿が消えて行ったのを静かに見つめていた。
「まだ日が暮れていないのに現れては消えてゆく愛らしい幽霊嬢……か」
「まだ幽霊とは決まっていないだろ。それに昼間の時も現れたんだ。それに……」
「それに……?」
「……彼女は死に装束を纏ってはいない」
「あ、確かに!! 死に装束ではないが何とも変わった洋装姿だな。帝都でもあのような洋装は見ないというかだ。気にすべきはスカートの丈だ。流石にあれは短過ぎないか? まあ彼女には似合っていたけれどね」
少しおどけながら口上を垂れる西園寺に春夏冬は眉間にしわを寄せ、じろりと睨む。
「西園寺、婦女子の足をジロジロと見るのは些か破廉恥過ぎるぞ」
「では春夏冬少尉は葵嬢の美しいおみ足が全く視界に入らなかったのでありますか?」
「そういう時だけ敬語を使うな。それに葵さんにも失礼だ」
「はは、まぁそう言いなさるな。俺も貴様もここへ来た以上早ければ今日明日にでも出撃命令が出るんだ。真実葵嬢が幽霊であったとしても可憐なお嬢さんだ。何というのか命を国へ捧げる前にこういう出逢いもいいかもな。あ、もしかして出撃が明日で、それまでに葵嬢と会えなかったら俺達はあの世で彼女に再会するのだろうか」
隣で真剣な面持ちで阿呆な事を勝手に話す友人に、春夏冬は軽く一瞥してから溜め息を吐く。
「どうした? 葵嬢と何かあったのか」
「……あぁ彼女に大人げない態度をとってしまった」
「おやまぁ、では今度会えばしっかりと謝ればいい。いや、地上で無理ならあの世へ行った時に思い存分謝ろう。その時は吝かではないが俺も援護をしてやろう」
「だからまだ幽霊確定じゃないって言っているだろ!!」
常より少し大きな声で春夏冬は叫ぶ。そんな彼の背中を押しつつ二人は林の中にある三角兵舎へと戻って行った。
なんでここに春夏冬さんが来たの!?
「は、春夏冬少尉、自分はここにいらっしゃる民間人のご令嬢を保護しようとしたのです」
西園寺さんはさっきと同じ様に綺麗な敬礼姿で春夏冬さんへ報告しているって、そっか、三等飛行兵曹より少尉の方が上の立場なんや。よう知らんけどな。
畏まって報告する西園寺さんに春夏冬さんは大きく右手を振り……。
「わざとらしい態度を止めろよな輝」
「はは、これでも一応上官を立てようと頑張っているんだよ」
「全く、だから上官から華族の道楽なんて揶揄されるんだろ」
「本当だな。だが道楽でお国へ命を捧げる華族がどこにいるって言うのだろうな」
「ここにいるだろうが」
「ごもっともで。だがこの戦時下において華族も平民も大して変わらんだろう。金は持てども米はない。今のご時世軍需産業や田舎の庄屋の方が華族よりも裕福だと思うがな」
「まぁ大きな声では言えないがそうなんだろう……で葵さん、随分探しましたよ。こんな奥まで女性が一人でくる様な場所ではないでしょう」
いきなり矛先が変わってしまった。
つい今し方西園寺さんと仲良く笑って話していたのになんでこっちを見る目は厳しいんって、それは私が春夏冬さんに嫌な思いをさせたし、まだ謝ってもいいひんし怒っていても当然……か。おまけに途中で逃げたのは私なんだもん。
「おいおい春夏冬、貴様の眼つきが怖くて葵嬢の顔が真っ青だぞ」
「い、いや別に俺は葵さんを詰問しようと思ってはいない」
「何を仰る少尉殿、眉間にこれでもかとしわが寄っているだろうが」
「だ、黙れ西園寺、俺は別に眉間にしわを寄せては……」
「いーや寄せているね。普段温厚で仏様のような春夏冬少尉が、こうも感情を露わにする場面を見る日がこようとは、いやはや人間長生きはするものだな」
「何が長生きだ。まだ二十一年しか生きていないだろうが」
「おや、それを言うなら貴様は二十二年しか生きてはいないだろう。なのに既に人生を達観している様な奴に言われたくはないね」
あはは達観って、でも西園寺さんが茶々を入れてくれて良かったとはいえ、春夏冬さんに謝罪をしなくてはいけないけれどなんでなんやろう謝るタイミングが全然わからへんし、第一春夏冬さんになんて言って謝ればいいん。
まだ反省の途中やし、せめてもう少しだけ時間がほしい。ほんの少しだけ、そうしたらちゃんと春夏冬さんを傷つけてしまった事を謝るからお願い!!
「あ、」
「え、葵さん!?」
お願いが通じたのかなんてわからへん。春夏冬さんの私を呼ぶ声に思わず目を開けば、徐々に彼と西園寺さんの姿が薄くなってスーっと消えていく。あぁきっと私の幽体が過去の時代から姿を消したのだとこの時初めて理解した。
今度また戻る事があればその時はちゃんと彼に謝ろう。絶対に逃げないからそれまで春夏冬さんごめんね。
「おーお本当に綺麗に消えたな」
「…………」
春夏冬と西園寺は葵の姿が消えて行ったのを静かに見つめていた。
「まだ日が暮れていないのに現れては消えてゆく愛らしい幽霊嬢……か」
「まだ幽霊とは決まっていないだろ。それに昼間の時も現れたんだ。それに……」
「それに……?」
「……彼女は死に装束を纏ってはいない」
「あ、確かに!! 死に装束ではないが何とも変わった洋装姿だな。帝都でもあのような洋装は見ないというかだ。気にすべきはスカートの丈だ。流石にあれは短過ぎないか? まあ彼女には似合っていたけれどね」
少しおどけながら口上を垂れる西園寺に春夏冬は眉間にしわを寄せ、じろりと睨む。
「西園寺、婦女子の足をジロジロと見るのは些か破廉恥過ぎるぞ」
「では春夏冬少尉は葵嬢の美しいおみ足が全く視界に入らなかったのでありますか?」
「そういう時だけ敬語を使うな。それに葵さんにも失礼だ」
「はは、まぁそう言いなさるな。俺も貴様もここへ来た以上早ければ今日明日にでも出撃命令が出るんだ。真実葵嬢が幽霊であったとしても可憐なお嬢さんだ。何というのか命を国へ捧げる前にこういう出逢いもいいかもな。あ、もしかして出撃が明日で、それまでに葵嬢と会えなかったら俺達はあの世で彼女に再会するのだろうか」
隣で真剣な面持ちで阿呆な事を勝手に話す友人に、春夏冬は軽く一瞥してから溜め息を吐く。
「どうした? 葵嬢と何かあったのか」
「……あぁ彼女に大人げない態度をとってしまった」
「おやまぁ、では今度会えばしっかりと謝ればいい。いや、地上で無理ならあの世へ行った時に思い存分謝ろう。その時は吝かではないが俺も援護をしてやろう」
「だからまだ幽霊確定じゃないって言っているだろ!!」
常より少し大きな声で春夏冬は叫ぶ。そんな彼の背中を押しつつ二人は林の中にある三角兵舎へと戻って行った。
10
あなたにおすすめの小説
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
【完結】私が愛されるのを見ていなさい
芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定)
公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。
絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。
ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。
完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。
立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
短編)どうぞ、勝手に滅んでください。
黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。
あらすじ)
大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。
政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。
けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。
やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。
ーーー
※カクヨム、なろうにも掲載しています
絵姿
金峯蓮華
恋愛
お飾りの妻になるなんて思わなかった。貴族の娘なのだから政略結婚は仕方ないと思っていた。でも、きっと、お互いに歩み寄り、母のように幸せになれると信じていた。
それなのに……。
独自の異世界の緩いお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる