御機嫌ようそしてさようなら  ~王太子妃の選んだ最悪の結末

Hinaki

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 最初は偶然。
 二回目以降は――――必然。


 誰が言った言葉なのだろう。
 そしてそれが現実となったのはそれから直ぐの事だった。

 次の犠牲者となってしまった令嬢は伯爵家の者だった。
 やはり彼女もまた俺の妃候補の一人で、性格は穏やかだったし容姿は普通……だったと思う。
 そんな彼女は綺麗な声で伸びやかに詩を朗読していたのを今も忘れてはいない。

 
 王妃主催の朗読会で子供ながらに堂々と朗読したのは見事だと素直に思ったものだった。
 だがその次に催される朗読会が始まる直前だった。
 控室にいたであろう彼女が朗読する前に持参した蜂蜜を舐め、そのまま詩を朗読しようとしたのだろう。
 けれども順番が来て彼女より発せられた声は凡そ人間の発するものではなく、また犬や猫等の動物でもない。
 蛙の発する声よりも尚酷い声となれば令嬢自身はパニックになりながらその声のまま泣き叫んでいた。

 おまけに焦る気持ちを抑えきれずに無理をして声を思いっきり発したのが悪かったのだろう。
 喉は潰れ、医師よりもう二度と声を発して話す事は出来ないと診断をされたのだ。

 残念でしかない。
 あの清らかで美しい声はもう二度と聞けないのかと思った瞬間だった。

「ふふ、幾ら見目が平凡だからと言って声でエセルを取り込もうなんて浅ましいったらないわ」
「キャシー?」
「でももう安心してエセル。あの蟾蜍ヒキガエル女はもう二度と貴方の前には現れないわって言うか、あの様な声で私達の前に出られないでしょうね。普通の神経ならば自殺ものだわ」

 そう言って愉しげに微笑む妹の姿に俺は違和感を覚えた。
 まさか、でもっ、確かにキャシーは幼い頃より俺の傍から離れたがらない。
 しかしそれはあくまでも両親の愛に飢えていたからで、双子の兄妹で今まで支え合ってきた……とは言えだ。


 一度目は偶然。
 でも二度目となれば必然なのか。
 
 この瞬間より俺はキャシーへ何とも言えない疑惑を抱いてしまう。
 しかし抱いたところでまだ10歳の子供がこの様な大それた事。
 いや、現時点で二名の人生を大きく狂わせてしまっただけの事が果たして俺と同じ子供である筈のキャシーに、果たして現実の行えるのだろうかと俺にははなはだ疑問だったのだ。
 

 確かにキャシーは子供ながらに美しい容姿をしている。
 また気位も王女故に高い。
 だがそれだけなのだ。
 俺の様に頭脳明晰と言う訳でもなければ騎士の如く体力に秀でていると言うものでもない。
 至ってその辺りは普通の令嬢と何ら変わりはしないのだ。

 だからこその疑問だった。
 何も出来ない王女であるキャシーがそこまで、あの二名の人生を狂わせられる程の怪我を負わせられるのかを――――!!
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