20 / 42
20
しおりを挟む
だがその疑問は直ぐに解消した。
「この子がね、咲弥が私の願いを何でも叶えてくれるのですもの」
「はい、キャシー様の憂いを晴らす事が私の務めに御座います故……」
「まあいい子ね。咲弥はエセルの次に大好きよ。何時までも私の傍にいて頂戴ね」
「はい、この命尽きる瞬間までキャシー様のお傍におります」
一見なんて事のない麗しい主従関係の様に聞こえていたし実際そう見えてもいたのである。
だが兄である俺からしても咲弥の、そうキャシーに対する想いは相当なものだと思った。
彼女付きの侍女としてまだ7歳であるのにも拘らず大人達と一緒に、いや周囲の大人達よりも完璧に侍女としての仕事をこなしていたのだ。
そうキャシーの痒い所にまで心地よくも手の届く完璧な侍女。
また盲目的にキャシーを崇拝する信者として。
キャシーにとってこれ以上の存在はいないだろうと思わせる。
だが俺はこの時にはまだ知らなかったのだ。
咲弥が一般的な侍女だけではないと言う事実に……。
何しろそれを知ったのが三人目の被害者だった。
「ねぇエセル、これより楽しい催しを見せて差し上げてよ」
「催し?」
相も変わらず母である王妃主催の退屈極まりないけれども、新たなる人脈を作る故に仕方なく出席をしているお茶会での事だった。
何時も通り俺は俺で未来の王としてやるべき事と言わんばかりに将来の駒となる側近候補を見出すべく社交を積極的に行っていた。
だがその反面キャシーは常に孤独だった。
しかしそれは仕方のない事なのである。
出席する令嬢達は何れも将来俺の妃候補を狙い虎視眈々と俺へ狙いを済ませつつも、将を射んと欲すれば先ず馬を射よ――――と言う諺通りに数名の令嬢達は俺の双子の妹であるキャシーのご機嫌を取ろうとしていたのである。
まあその令嬢達も令嬢達だが、キャシーは筋金入りの我儘王女と言うべきなのだろうか。
いや違う。
愛情に飢えていたからこそ兄である俺を奪わんとする者達を受け入れるどころか、それすらも許す事も出来なかったのかもしれない。
両親の代わりに俺達兄妹はずっとお互いを支え合っていたからこそなのだろうな。
俺がキャシーに対しての関心を失う……事なんてない筈なのだが、彼女にしてみればある意味死活問題だったのかもしれない。
また俺へ群がる令嬢達はその何と言うかだ。
容姿や所作の何れもキャシーの足元にも及ばない。
普通にまだ俺達は子供故にそれは仕方のない事だとも思う。
だがキャシーにはそれすらも許せない原因の一つだったのかもしれない。
自分より何一つ秀でていない分際で俺の関心を奪う行為こそが傲慢以外何物でもないと、然も当然とばかりに後になってキャシーはそう断言したのだから……。
「ほらエセルあの令嬢を見て御覧なさい。フフ、後ほんの少しで大騒ぎになってしまうわよ」
「一体何の……⁉」
それはほんの一瞬の出来事だった。
令嬢が一口大サイズへと切り分けているケーキへほんの刹那な時間だったのだ。
キャシーが指し示す方向には何故か咲弥がおり、そして咲弥は誰にも見咎められる事なく本当に瞬きする瞬間にその今にも食べようとするケーキへ何か液体をほんの一滴だけ垂らせば、そのまま何もなかったかの様に給仕をしつつこの場を後にしていった。
俺自身キャシーに注意して見る様にと言われなければ恐らく……いや言われなければ全く気が付かなかっただろう。
それ程までに咲弥は気配を殺し、そして確実に事に当たっていた。
「ごふぉっ、ぐふぁああああああ!!」
それから間もなくだった。
件の令嬢が衆目の前で豪快に吐瀉物を吹き出す様に吐き出したのは……。
「ククク、あはははは。あぁ何て無様で醜いの。ふふふ、私からエセルの関心を奪おうとするからよ。当然の報いだわ。いえ、まだ死なないだけ良かったわね。何と言っても私は優しいのですもの」
「キャシ……何、を言って……」
それが最初に垣間見たキャシーの抱えた心の底に巣くった闇とその願いを叶える妄信する信者咲弥の姿であった。
「この子がね、咲弥が私の願いを何でも叶えてくれるのですもの」
「はい、キャシー様の憂いを晴らす事が私の務めに御座います故……」
「まあいい子ね。咲弥はエセルの次に大好きよ。何時までも私の傍にいて頂戴ね」
「はい、この命尽きる瞬間までキャシー様のお傍におります」
一見なんて事のない麗しい主従関係の様に聞こえていたし実際そう見えてもいたのである。
だが兄である俺からしても咲弥の、そうキャシーに対する想いは相当なものだと思った。
彼女付きの侍女としてまだ7歳であるのにも拘らず大人達と一緒に、いや周囲の大人達よりも完璧に侍女としての仕事をこなしていたのだ。
そうキャシーの痒い所にまで心地よくも手の届く完璧な侍女。
また盲目的にキャシーを崇拝する信者として。
キャシーにとってこれ以上の存在はいないだろうと思わせる。
だが俺はこの時にはまだ知らなかったのだ。
咲弥が一般的な侍女だけではないと言う事実に……。
何しろそれを知ったのが三人目の被害者だった。
「ねぇエセル、これより楽しい催しを見せて差し上げてよ」
「催し?」
相も変わらず母である王妃主催の退屈極まりないけれども、新たなる人脈を作る故に仕方なく出席をしているお茶会での事だった。
何時も通り俺は俺で未来の王としてやるべき事と言わんばかりに将来の駒となる側近候補を見出すべく社交を積極的に行っていた。
だがその反面キャシーは常に孤独だった。
しかしそれは仕方のない事なのである。
出席する令嬢達は何れも将来俺の妃候補を狙い虎視眈々と俺へ狙いを済ませつつも、将を射んと欲すれば先ず馬を射よ――――と言う諺通りに数名の令嬢達は俺の双子の妹であるキャシーのご機嫌を取ろうとしていたのである。
まあその令嬢達も令嬢達だが、キャシーは筋金入りの我儘王女と言うべきなのだろうか。
いや違う。
愛情に飢えていたからこそ兄である俺を奪わんとする者達を受け入れるどころか、それすらも許す事も出来なかったのかもしれない。
両親の代わりに俺達兄妹はずっとお互いを支え合っていたからこそなのだろうな。
俺がキャシーに対しての関心を失う……事なんてない筈なのだが、彼女にしてみればある意味死活問題だったのかもしれない。
また俺へ群がる令嬢達はその何と言うかだ。
容姿や所作の何れもキャシーの足元にも及ばない。
普通にまだ俺達は子供故にそれは仕方のない事だとも思う。
だがキャシーにはそれすらも許せない原因の一つだったのかもしれない。
自分より何一つ秀でていない分際で俺の関心を奪う行為こそが傲慢以外何物でもないと、然も当然とばかりに後になってキャシーはそう断言したのだから……。
「ほらエセルあの令嬢を見て御覧なさい。フフ、後ほんの少しで大騒ぎになってしまうわよ」
「一体何の……⁉」
それはほんの一瞬の出来事だった。
令嬢が一口大サイズへと切り分けているケーキへほんの刹那な時間だったのだ。
キャシーが指し示す方向には何故か咲弥がおり、そして咲弥は誰にも見咎められる事なく本当に瞬きする瞬間にその今にも食べようとするケーキへ何か液体をほんの一滴だけ垂らせば、そのまま何もなかったかの様に給仕をしつつこの場を後にしていった。
俺自身キャシーに注意して見る様にと言われなければ恐らく……いや言われなければ全く気が付かなかっただろう。
それ程までに咲弥は気配を殺し、そして確実に事に当たっていた。
「ごふぉっ、ぐふぁああああああ!!」
それから間もなくだった。
件の令嬢が衆目の前で豪快に吐瀉物を吹き出す様に吐き出したのは……。
「ククク、あはははは。あぁ何て無様で醜いの。ふふふ、私からエセルの関心を奪おうとするからよ。当然の報いだわ。いえ、まだ死なないだけ良かったわね。何と言っても私は優しいのですもの」
「キャシ……何、を言って……」
それが最初に垣間見たキャシーの抱えた心の底に巣くった闇とその願いを叶える妄信する信者咲弥の姿であった。
1
あなたにおすすめの小説
貴妃エレーナ
無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」
後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。
「急に、どうされたのですか?」
「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」
「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」
そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。
どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。
けれど、もう安心してほしい。
私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。
だから…
「陛下…!大変です、内乱が…」
え…?
ーーーーーーーーーーーーー
ここは、どこ?
さっきまで内乱が…
「エレーナ?」
陛下…?
でも若いわ。
バッと自分の顔を触る。
するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。
懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
放蕩な血
イシュタル
恋愛
王の婚約者として、華やかな未来を約束されていたシンシア・エルノワール侯爵令嬢。
だが、婚約破棄、娼館への転落、そして愛妾としての復帰──彼女の人生は、王の陰謀と愛に翻弄され続けた。
冷徹と名高い若き王、クラウド・ヴァルレイン。
その胸に秘められていたのは、ただ1人の女性への執着と、誰にも明かせぬ深い孤独。
「君が僕を“愛してる”と一言くれれば、この世のすべてが手に入る」
過去の罪、失われた記憶、そして命を懸けた選択。
光る蝶が導く真実の先で、ふたりが選んだのは、傷を抱えたまま愛し合う未来だった。
⚠️この物語はフィクションです。やや強引なシーンがあります。本作はAIの生成した文章を一部使用しています。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
私の願いは貴方の幸せです
mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」
滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。
私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる