御機嫌ようそしてさようなら  ~王太子妃の選んだ最悪の結末

Hinaki

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 そうして不毛な押し問答の末にと申しましょうか、ただ単に私自身往生際が悪く隣にある寝室へ向かう勇気が持てなかっただけの話なのです。

 
 何故なら16歳となるこの瞬間まで私は侍女以外に肌を見せた事なんてなかったのですもの!!
 
 お母様ですら見せてはいない……赤ん坊の時までは知りませんわ。
 でも侍女以外の同性ですら見せた事のない身体を、ましてこの様なはしたなくも頼りなさ過ぎる夜着を身に纏って夫となられた貴方の許へ行く――――あぁそれだけでもう失神ものです。


 なので多少の時間は許して頂きたい。
 幾ら儀式とは言え、この姿で貴方の前へ出る為の勇気を、歩みを進める私へ勇気をどうか神様お与え下さい。

 私は心の中でそう神へ祈りと言うお願いをしつつまた背後では撤退を許さないと侍女達はじりじりと私を追い詰めていくのです。
 心臓は今までに考えられないくらいに打ち鳴らせばです。
 頬……だけではなく顔や全身が熱を持った様に熱くなり始めます。
 頭が少しぼーっとするのは緊張故なのでしょうね。

 そうしてふらり一歩一歩確実に、侍女達へ促される様にふわふわとする絨毯の上を歩いていきます。

「妃殿下、お心が落ち着かれたご様子で安心致しました」
「ええ、とても気分は落ち着いていてよ」

 そうとてもふわふわとするけれども……。
 
「先ほどお飲みになられた果実水には緊張を解す物が入っておりますれば、これより先は万事殿下の御心のままにその御身をお委ねになられまするよう……」

 そう言って侍女達は私の部屋より辞していった。
 先程迄不安で押し潰されそうになった心とは違い、今の私は夢心地の様に気分がいいのです。
 ですので何のためらいもなく寝室の扉を開け――――。

「……っろ!! いい加減にっうあ!!」
「ほほほ、あはは、その様な事を仰りながらもエセルの昂りが私の胎で大きくも硬くってよ。本当に貴方のは最高だわっっ」

 
 ……?
 これは……夢?
 一体何……を私は見せ、られている……の?

 
 ふわふわとした気分は一気にサーっと言う音と共に醒めていきました。
 本当に音が聞こえたのですよ、滑稽な程に……。


 寝室の扉はとても重厚で防音が施されておりますの。
 ですから扉をしっかりと開けなければ寝室内の声や音は隣室まで漏れ聞こえない設計なのだと、妃教育で王宮の作りについて学んだのをふと思い出しました。

 ああそう、あの意味はこういう事だったのだとお二人を見て私はここで初めてその意味を理解しました。

 そうですよね。
 誰しも……まして王族ともあろう者達がご自分達のあられもない声や音を他人へ聞かせたくはないのでしょう。
 それは私とて理解は出来ましてよ。
 ええっ、今しっかりはっきりと理解出来ましたわっっ。

「リズ!!」
「あら、嫌ね邪魔を――――あんンっ!!」

 寝台で素肌を晒した貴方の上で激しく踊る様に動いていらっしゃるのはキャサリン王女。
 頬と言わず全身を紅潮させれば何かに感じておられる様に、その姿はとても艶めかしく同性である私ですら直視できない程に蠱惑的な美しさを放っておいででした。

 当然キャサリン様も一糸纏わぬ御姿で、16歳の成人したての私とは違いお胸は大きくもツンと上を向いておればしなやかでキュッと括れた美しい腰そしてこのぺちゃぺちゃとまたはぐちゅぐちゅとした何とも言えない、何故なのかとても聞くに堪えない音または聞いてはいけない厭わしき音とでも申しましょうか。

 この様な音等今まで聞いた事なんてなかった筈なのに、何故か無意識にも両手で耳を押さえつければキラキラなるものが再び出口を求めせり上がってくるのです。
 
「おうぇっっ⁉」
「嫌ね、 吐くのなら違う所で吐いてよ!! ああもう本当に汚らわしい女だわ」
「やめ、ろ!! エリザ……リズを侮辱するな!!」
「やめろと言われてもエセルの昂りが大き過ぎて抜けないのよン。や、やめたければ早く、子種私の胎へたっぷりとを吐き出して!! それまでは絶対にやめてあげないわ」
「キャシー!!」
「嫌よ!! エセルは私のモノって昔から決まっているでしょ!!」

 
 私がキラキラを止める事も出来ずに胃の中にあるモノをずっと泣きながら吐き出している間、抑え込まれた貴方は声でキャサリン王女を牽制はするものの私の許へは来てはくれませんでした。

 吐き続けながら、何もかも吐き出しながら私はほんの少しだけ……僅かに残っていた貴方への恋心もこの瞬間キラキラと共に吐き出したのだと思っていたのですが……。
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