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第零章 『精霊たちの憂鬱』
7 失敗した世界の尻拭いってこと?
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「改めて自己紹介といこうか。ボクはこのゲームの管理者。名前はまぁ、ヴァーツラフとでも呼んでくれればいいよ」
ヴァーツラフは優雅に一礼した。
「実はボク、君たちの言うところの、宇宙人なんだ」
オレにグイっと顔を寄せてくると、「これ、トップシークレットね」と耳元でささやいた。
「あ、何言ってるんだこいつっていう顔をしているね。うん、いい表情だ。ボクの思っていたとおりの反応だよ」
いちいち癇に障る言い方をするヴァーツラフ。顔が近い。鬱陶しいヤツだな、本当に。
「悠太君は不思議に思ったことはなかった? この世界のVR技術が、急速に進歩したことに」
確かに、ヴァーツラフの言うように、ここ数年でVR技術はあり得ないほどの急激な進化を遂げていた。何らかの技術のブレイクスルーがあったのは間違いない。
「実はその原因、ボクなんだよね」
ヴァーツラフはオレから離れると、両手を大きく広げて、「ボク、すごいでしょ」と言いたげに振舞う。
「もともとボクの星にある技術を、地球に合わせてアレンジして持ち込んだんだ。完成品の流用だから、再現度高かったでしょ? で、地球にない水準の技術を見て、地球の技術者たちも大いに刺激を受けた、と。技術発展のからくりは、そんなところさ」
自慢するだけのことはあるシステムだった。オレも素直に認める。現実とほとんど変わらない知覚情報の再現度は、すさまじいの一言だった。でなければ、あれほど熱中はしなかっただろう。
「で、これからテストプレイをしてもらう世界なんだけど、『精霊たちの憂鬱』とは違った環境を作りたくて、精霊は実装していないんだ。このあたりは、送ったお知らせに載せておいたから、理解していると思うけど」
オレは頷いた。テストプレイの目的の一つが、世界に新たに実装される霊素と精霊術の、適切な普及だったと思い出す。つまり、現時点でまだ、霊素も精霊術も存在していないってことだ。
「精霊術なしで、どこまで文明が発展するか、そして、どのような歴史を重ね、どのような世界になるか……」
ヴァーツラフは顔を上に向けると、どこか遠くを見るような仕草をした。
「ボクはこのゲームシステムを使って、見てみたかったんだよね。そもそも、VRMMOの管理者を始めた理由も、AIの自律進化とその作られる世界の観察を研究したかったからっていうものだし。大学での研究テーマなんだよ。あ、もちろん地球の大学の話じゃないからね」
地球人もやっていそうな研究テーマだ、とオレは思った。ちょっとだけ親近感がわく。――あくまで、ちょっとだけだが。
「実は、『新・精霊たちの憂鬱』の世界は、AI搭載の生命体のみで、すでに数千年の歴史を刻んでいるんだ」
ヴァーツラフはバッと大きく両手を左右に広げた。長い歴史なんだと誇示したいかのように。
「最初、この『新・精霊たちの憂鬱』の世界は、ゲームとして生身のプレイヤーに公開する予定はなかったんだよ」
「どうしてだ?」
オレは首をかしげた。もったいない。
「AIだけの閉じた世界にしておきたかったからさ。研究に支障が出るとまずいし」
「じゃあ、どうしてテストプレイヤーなんかを募り始めたのさ」
「それはね、AIたちがボクの当初想定していただけの文明の発展を、成し遂げられなかったからなんだ。あの世界は今、とても停滞している」
今までの笑顔が一転、ヴァーツラフは顔をしかめ、「失敗なんだよね」とつぶやいた。
「そこで、新たに霊素と精霊術のシステムを導入することで、文明の発展を促す強力な刺激にしようと思ったんだ」
「精霊術がどう、文明の発展に関係するんだ?」
「『精霊たちの憂鬱』の世界のほうが、精霊術を活用した技術開発がみられたりと、より進んだ文明を築き上げているんだ。精霊術の導入で、同様の発展が『新・精霊たちの憂鬱』の世界にも起こると、そう考えたんだよ」
そんなに都合よく事が進むものだろうか、ちょっと安直すぎはしないか、と感じたが、話の腰を折るのも悪いので黙っておいた。
ヴァーツラフは饒舌に、どんどん話を進めていく。
「ボクは管理者とはいっても、元になっているゲームシステムの問題で、直接的な世界への介入はできないんだよね。霊素の導入自体は、もともとのシステムに備わっているものだし、現在オフになっている機能をオンに設定しなおすだけだから可能だよ。けれども、すでに現在を生きているAIたちの体内に、新たに霊素を注入するような真似は不可能なんだ」
ヴァーツラフは大きく息を吐いた。
「霊素保有能力って、体内で遺伝情報として、DNA中に組み込まれていないといけなくってね。簡単に説明すると、霊素を持つためには、全身の細胞に霊素を貯蔵するための細胞小器官の存在が必須なんだよ。この細胞小器官を作り出すための遺伝情報がなければ、どう頑張ったところで霊素は持てない」
意外な事実に驚いた。霊素関連の能力は、誰でも訓練すれば獲得できるものとばかり思っていた。遺伝的な才能も必要としていたとは……。
『精霊たちの憂鬱』内では、プレイヤーの操作するキャラクターに、そのような遺伝的要素が絡む場面が一切なかった。何しろプレイヤーは、一切歳をとらないし、子供も作れないんだから。
なので、今のヴァーツラフの話は、一般には知られていない事実だった。プレイヤーキャラクターについては、初期状態から、多かれ少なかれ霊素は持っていたから。
「唯一ボクが取れる生命体への介入は、新たに生まれる赤子の遺伝情報や才能、能力をある程度いじることだけ。しかも、この介入も最大三回までしか許されていない。それ以上の介入は、システムの崩壊を招いてしまう。今回、このうちの一回を使って、霊素保有の遺伝情報を持った赤子を同時多発的に一気に誕生させるつもりなんだ」
「これが初めての介入なのか?」
「いや、一回目の介入は、最初期のAIの誕生の際に実行したよ。文明発生を効率よく行わせるために、指導的立場を担えるカリスマ持ちを複数誕生させたんだ。だから、今回が二回目の介入になるね」
生物の発生・誕生限定で、しかも三回限りの介入しかできないって、それでも管理者と言えるのだろうか。もう少し柔軟性のあるシステムを組めばよかっただろうにと、素人ながらにオレは思った。
「今聞いた話から判断するとさ、わざわざオレたちに頼み込んだ理由って何だろう、と思うんだけれど……。遺伝情報をいじくったAIを誕生させるだけでも、君の目的――精霊術の導入は果たせるんじゃないのか? 生身のプレイヤー、いらないよね」
オレは首をかしげた。
「ただ単に霊素を持っただけの人間は、その精霊術をうまく発揮できないよ。自分たちで一から試行錯誤をして適切な精霊術を構築していては、実用化までにどれほどの時間がかかるか分かったものじゃない。悠太君も心当たりはないかな? 師匠なしの完全独学で、精霊術を極められると思うかい?」
あぁ、確かに独学は無理だと思う。依り代の必要性や精霊の具現化のやり方、精神リンクの効果的な高め方など、教えてもらわなければわからない技能が多すぎる。
「そこで、同じシステムを使っているVRMMOで活躍してきた生身のプレイヤーの助力を得ようと考えたのさ。この赤子を用いたシステム介入を用い、霊素保有能力持ちの赤子として、悠太君たちを『新・精霊たちの憂鬱』の世界へと送り込む。君たちなら、霊素や精霊術にも十分に慣れ親しんでいるし、効果的な霊素の使い方をAIたちに指導できるでしょ。これが、ボクの考えた、世界への霊素と精霊術の導入方法だよ」
なるほど、生身のプレイヤーが必要な理由は、AIへの教育のためか。精霊使い以外のプレイヤーも、基本的な霊素の知識や扱い方は知っているので、初期導入の手助け程度は可能だろう
「これから悠太君たちにプレイしてもらう世界は、できることならAIだけの世界にしておきたい。さっきも言ったとおり、ボクの本来の目的は、AIの自律進化を見守ること。精霊術の導入役としての君たちは唯一の例外として、それ以外の外部からの干渉は避けたい。だから、テストプレイが終わった後も、一般公開をするつもりはないよ。今までに話を持ち掛けたプレイヤーたちには、テストで問題が発生したから公開は中止するって、伝える予定だしね」
つまり、『新・精霊たちの憂鬱』の世界を楽しめるのは、オレと、誰だか知らないけれどもう一人のテストプレイヤーの、たった二人だけ。
テストプレイの名目で勧誘していたのも、参加を断ったプレイヤーたちに、テストプレイの本来の目的を知らせずにゲームの公開をしない件を説明するのに、実に都合がいいからって理由のようだ。
今回の募集の実態は、実はゲームのテストプレイでもなんでもなかった。そもそも、管理者がゲームとして公開する気がないのだから。
そう考えると、是が非でもこのテストプレイに参加をしたいと両親に懇願したオレの判断は、当たりだったといえるだろう。限られた時間しか残されていないオレにとって、人生の追体験とも言える高水準なVRへの誘いは、もう二度と巡ってはこないだろうし。ヴァーツラフ管理のゲーム以外で、これだけのVRの実現は、当面は難しいはずだ。
「悠太君たちの誕生と同時に、世界が霊素を浴びるようになる。今回生まれる赤子は、ボクの介入による遺伝子操作で、皆、ある程度の霊素を持つようになる。精霊使い第一世代ともいうべきものになるんじゃないかな」
ファーストジェネレーション――何やら心惹かれる言葉だ、と思った。
「霊素保有能力は以後、生物の遺伝情報にきっちりと組み込まれていくよ。第一世代が成した子は、遺伝によって霊素を保有するようになるんだ。逆に言うと、それ以外の子は、どう頑張っても霊素を一切持てないんだけれどね。なので、精霊術に関しては、今後、血筋が大きな影響を持っていくかもしれないね。新たに作り上げられていく、霊素保有者かどうかというヒエラルキーが、世界にどのような変革をもたらしていくのか、今から楽しみだよ」
つまるところ、オレは限られた者しか扱えない精霊術が使える人間として、世界のエリートコースに乗れるということか。そして、オレの子孫も特権的地位に就ける可能性が高い、と。何それ、超インチキじゃん。オレ、まだ何もしていないのに、成功が約束されている?
「ただし、副作用として、霊素を浴びた動物も生まれる。一部は魔獣となる危険性があるかもしれない」
『精霊たちの憂鬱』にも存在していた、霊素を帯びた魔獣たち……。霊素を実装するのなら、確かに魔獣たちも同様に実装されると考えて、まず間違いないだろう。
「霊素を持たない現住人たちは、魔獣に対抗する術を持たない可能性が高いねぇ。一方的に殺される被害者を、多数生み出しかねないよ。けれど、こればかりは世界を変革するための必要な犠牲だと、考えるしかないんだ」
ヴァーツラフは申し訳なさそうに頭を振った。
必要な犠牲、ねぇ。なんだか物騒な話をぶっこんできたぞ。状況の進み方によっては、結構殺伐とした世界になりそうな予感がする……。
「あれこれと話したけれど、ボクが一番言いたいことは、せっかくの精霊使いというチートスキルを手にできるんだ。ぜひ大いに活用して、もう一つの人生を楽しんでほしい、ってことかな」
ヴァーツラフは優雅に一礼した。
「実はボク、君たちの言うところの、宇宙人なんだ」
オレにグイっと顔を寄せてくると、「これ、トップシークレットね」と耳元でささやいた。
「あ、何言ってるんだこいつっていう顔をしているね。うん、いい表情だ。ボクの思っていたとおりの反応だよ」
いちいち癇に障る言い方をするヴァーツラフ。顔が近い。鬱陶しいヤツだな、本当に。
「悠太君は不思議に思ったことはなかった? この世界のVR技術が、急速に進歩したことに」
確かに、ヴァーツラフの言うように、ここ数年でVR技術はあり得ないほどの急激な進化を遂げていた。何らかの技術のブレイクスルーがあったのは間違いない。
「実はその原因、ボクなんだよね」
ヴァーツラフはオレから離れると、両手を大きく広げて、「ボク、すごいでしょ」と言いたげに振舞う。
「もともとボクの星にある技術を、地球に合わせてアレンジして持ち込んだんだ。完成品の流用だから、再現度高かったでしょ? で、地球にない水準の技術を見て、地球の技術者たちも大いに刺激を受けた、と。技術発展のからくりは、そんなところさ」
自慢するだけのことはあるシステムだった。オレも素直に認める。現実とほとんど変わらない知覚情報の再現度は、すさまじいの一言だった。でなければ、あれほど熱中はしなかっただろう。
「で、これからテストプレイをしてもらう世界なんだけど、『精霊たちの憂鬱』とは違った環境を作りたくて、精霊は実装していないんだ。このあたりは、送ったお知らせに載せておいたから、理解していると思うけど」
オレは頷いた。テストプレイの目的の一つが、世界に新たに実装される霊素と精霊術の、適切な普及だったと思い出す。つまり、現時点でまだ、霊素も精霊術も存在していないってことだ。
「精霊術なしで、どこまで文明が発展するか、そして、どのような歴史を重ね、どのような世界になるか……」
ヴァーツラフは顔を上に向けると、どこか遠くを見るような仕草をした。
「ボクはこのゲームシステムを使って、見てみたかったんだよね。そもそも、VRMMOの管理者を始めた理由も、AIの自律進化とその作られる世界の観察を研究したかったからっていうものだし。大学での研究テーマなんだよ。あ、もちろん地球の大学の話じゃないからね」
地球人もやっていそうな研究テーマだ、とオレは思った。ちょっとだけ親近感がわく。――あくまで、ちょっとだけだが。
「実は、『新・精霊たちの憂鬱』の世界は、AI搭載の生命体のみで、すでに数千年の歴史を刻んでいるんだ」
ヴァーツラフはバッと大きく両手を左右に広げた。長い歴史なんだと誇示したいかのように。
「最初、この『新・精霊たちの憂鬱』の世界は、ゲームとして生身のプレイヤーに公開する予定はなかったんだよ」
「どうしてだ?」
オレは首をかしげた。もったいない。
「AIだけの閉じた世界にしておきたかったからさ。研究に支障が出るとまずいし」
「じゃあ、どうしてテストプレイヤーなんかを募り始めたのさ」
「それはね、AIたちがボクの当初想定していただけの文明の発展を、成し遂げられなかったからなんだ。あの世界は今、とても停滞している」
今までの笑顔が一転、ヴァーツラフは顔をしかめ、「失敗なんだよね」とつぶやいた。
「そこで、新たに霊素と精霊術のシステムを導入することで、文明の発展を促す強力な刺激にしようと思ったんだ」
「精霊術がどう、文明の発展に関係するんだ?」
「『精霊たちの憂鬱』の世界のほうが、精霊術を活用した技術開発がみられたりと、より進んだ文明を築き上げているんだ。精霊術の導入で、同様の発展が『新・精霊たちの憂鬱』の世界にも起こると、そう考えたんだよ」
そんなに都合よく事が進むものだろうか、ちょっと安直すぎはしないか、と感じたが、話の腰を折るのも悪いので黙っておいた。
ヴァーツラフは饒舌に、どんどん話を進めていく。
「ボクは管理者とはいっても、元になっているゲームシステムの問題で、直接的な世界への介入はできないんだよね。霊素の導入自体は、もともとのシステムに備わっているものだし、現在オフになっている機能をオンに設定しなおすだけだから可能だよ。けれども、すでに現在を生きているAIたちの体内に、新たに霊素を注入するような真似は不可能なんだ」
ヴァーツラフは大きく息を吐いた。
「霊素保有能力って、体内で遺伝情報として、DNA中に組み込まれていないといけなくってね。簡単に説明すると、霊素を持つためには、全身の細胞に霊素を貯蔵するための細胞小器官の存在が必須なんだよ。この細胞小器官を作り出すための遺伝情報がなければ、どう頑張ったところで霊素は持てない」
意外な事実に驚いた。霊素関連の能力は、誰でも訓練すれば獲得できるものとばかり思っていた。遺伝的な才能も必要としていたとは……。
『精霊たちの憂鬱』内では、プレイヤーの操作するキャラクターに、そのような遺伝的要素が絡む場面が一切なかった。何しろプレイヤーは、一切歳をとらないし、子供も作れないんだから。
なので、今のヴァーツラフの話は、一般には知られていない事実だった。プレイヤーキャラクターについては、初期状態から、多かれ少なかれ霊素は持っていたから。
「唯一ボクが取れる生命体への介入は、新たに生まれる赤子の遺伝情報や才能、能力をある程度いじることだけ。しかも、この介入も最大三回までしか許されていない。それ以上の介入は、システムの崩壊を招いてしまう。今回、このうちの一回を使って、霊素保有の遺伝情報を持った赤子を同時多発的に一気に誕生させるつもりなんだ」
「これが初めての介入なのか?」
「いや、一回目の介入は、最初期のAIの誕生の際に実行したよ。文明発生を効率よく行わせるために、指導的立場を担えるカリスマ持ちを複数誕生させたんだ。だから、今回が二回目の介入になるね」
生物の発生・誕生限定で、しかも三回限りの介入しかできないって、それでも管理者と言えるのだろうか。もう少し柔軟性のあるシステムを組めばよかっただろうにと、素人ながらにオレは思った。
「今聞いた話から判断するとさ、わざわざオレたちに頼み込んだ理由って何だろう、と思うんだけれど……。遺伝情報をいじくったAIを誕生させるだけでも、君の目的――精霊術の導入は果たせるんじゃないのか? 生身のプレイヤー、いらないよね」
オレは首をかしげた。
「ただ単に霊素を持っただけの人間は、その精霊術をうまく発揮できないよ。自分たちで一から試行錯誤をして適切な精霊術を構築していては、実用化までにどれほどの時間がかかるか分かったものじゃない。悠太君も心当たりはないかな? 師匠なしの完全独学で、精霊術を極められると思うかい?」
あぁ、確かに独学は無理だと思う。依り代の必要性や精霊の具現化のやり方、精神リンクの効果的な高め方など、教えてもらわなければわからない技能が多すぎる。
「そこで、同じシステムを使っているVRMMOで活躍してきた生身のプレイヤーの助力を得ようと考えたのさ。この赤子を用いたシステム介入を用い、霊素保有能力持ちの赤子として、悠太君たちを『新・精霊たちの憂鬱』の世界へと送り込む。君たちなら、霊素や精霊術にも十分に慣れ親しんでいるし、効果的な霊素の使い方をAIたちに指導できるでしょ。これが、ボクの考えた、世界への霊素と精霊術の導入方法だよ」
なるほど、生身のプレイヤーが必要な理由は、AIへの教育のためか。精霊使い以外のプレイヤーも、基本的な霊素の知識や扱い方は知っているので、初期導入の手助け程度は可能だろう
「これから悠太君たちにプレイしてもらう世界は、できることならAIだけの世界にしておきたい。さっきも言ったとおり、ボクの本来の目的は、AIの自律進化を見守ること。精霊術の導入役としての君たちは唯一の例外として、それ以外の外部からの干渉は避けたい。だから、テストプレイが終わった後も、一般公開をするつもりはないよ。今までに話を持ち掛けたプレイヤーたちには、テストで問題が発生したから公開は中止するって、伝える予定だしね」
つまり、『新・精霊たちの憂鬱』の世界を楽しめるのは、オレと、誰だか知らないけれどもう一人のテストプレイヤーの、たった二人だけ。
テストプレイの名目で勧誘していたのも、参加を断ったプレイヤーたちに、テストプレイの本来の目的を知らせずにゲームの公開をしない件を説明するのに、実に都合がいいからって理由のようだ。
今回の募集の実態は、実はゲームのテストプレイでもなんでもなかった。そもそも、管理者がゲームとして公開する気がないのだから。
そう考えると、是が非でもこのテストプレイに参加をしたいと両親に懇願したオレの判断は、当たりだったといえるだろう。限られた時間しか残されていないオレにとって、人生の追体験とも言える高水準なVRへの誘いは、もう二度と巡ってはこないだろうし。ヴァーツラフ管理のゲーム以外で、これだけのVRの実現は、当面は難しいはずだ。
「悠太君たちの誕生と同時に、世界が霊素を浴びるようになる。今回生まれる赤子は、ボクの介入による遺伝子操作で、皆、ある程度の霊素を持つようになる。精霊使い第一世代ともいうべきものになるんじゃないかな」
ファーストジェネレーション――何やら心惹かれる言葉だ、と思った。
「霊素保有能力は以後、生物の遺伝情報にきっちりと組み込まれていくよ。第一世代が成した子は、遺伝によって霊素を保有するようになるんだ。逆に言うと、それ以外の子は、どう頑張っても霊素を一切持てないんだけれどね。なので、精霊術に関しては、今後、血筋が大きな影響を持っていくかもしれないね。新たに作り上げられていく、霊素保有者かどうかというヒエラルキーが、世界にどのような変革をもたらしていくのか、今から楽しみだよ」
つまるところ、オレは限られた者しか扱えない精霊術が使える人間として、世界のエリートコースに乗れるということか。そして、オレの子孫も特権的地位に就ける可能性が高い、と。何それ、超インチキじゃん。オレ、まだ何もしていないのに、成功が約束されている?
「ただし、副作用として、霊素を浴びた動物も生まれる。一部は魔獣となる危険性があるかもしれない」
『精霊たちの憂鬱』にも存在していた、霊素を帯びた魔獣たち……。霊素を実装するのなら、確かに魔獣たちも同様に実装されると考えて、まず間違いないだろう。
「霊素を持たない現住人たちは、魔獣に対抗する術を持たない可能性が高いねぇ。一方的に殺される被害者を、多数生み出しかねないよ。けれど、こればかりは世界を変革するための必要な犠牲だと、考えるしかないんだ」
ヴァーツラフは申し訳なさそうに頭を振った。
必要な犠牲、ねぇ。なんだか物騒な話をぶっこんできたぞ。状況の進み方によっては、結構殺伐とした世界になりそうな予感がする……。
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