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第五章 帝国の皇子
2 精霊術は邪な術なのか?
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「では、今日は『魔術』についてお話させていただきましょうか」
ザハリアーシュは大きく一つ咳ばらいをした。
「『魔術』? それって、巷では確か『精霊術』って言われてるやつだよな?」
一般に『精霊術』という名で広まっている不可思議な術。なぜだか世界再生教会内ではかたくなに『魔術』と呼ばれていた。『精霊術』などと言えば、偉い人に怒られる。
「ま・じゅ・つ、でございます、殿下。魔術を精霊術などという忌まわしいものと一緒になさらないでほしいですな」
グイっと顔をラディムに近づけ、ザハリアーシュは抗議した。少し顔が紅潮している。やはり、今のラディムの台詞は禁句だったらしい。
ザハリアーシュは、一緒にされて心外だという顔をしている。
「ふーん、で、何が違うんだ?」
鬱陶しく近づくザハリアーシュの顔から眼をそらしつつ、ラディムは聞いた。名称にこだわっているだけで、大した意味はないのではないかとラディムは思っていた。なので、聞き方もややおざなりだ。
「まったく違います! 術をかける対象が違うのです」
ザハリアーシュは少し大げさに両手を広げ、頭を振った。
「対象が違うだけで、理屈は同じなんじゃないのか?」
わざわざ名前を分けるような理由があるのだろうか。結果が変わってくるのか?
「我々の魔術は、非生命体しか対象にしておりません。それに引き換え、精霊術とやらは、主に使い魔と呼ばれる生命体を対象としております」
聞いたことがある。それ故に、精霊教は使い魔となり得る動物の保護に力を入れているらしい。将来精霊使いになれる素養を持った者が、容易に使い魔を得られるようにと。
なぜだか動物に好かれやすいラディムは、どちらかと言えば精霊教のほうが肌に合いそうだなどと考えたこともある。以前そんなことを口にしたら、ザハリアーシュに鬼のような形相で怒られたことがあったので、以後、バカな考えは起こさないようにしているが。
「これは、大きな違いですぞ! この、使い魔を使役する点が問題なのです」
「はぁ、何だかよくわからんな。小難しい話は勘弁だぞ?」
使い魔を介すると、術者の意図を使い魔が読み取って、うまいこと動いてくれるとも聞いたことがある。それならば、使い魔対象に術を使った方が、術者本人は別の行動をとれていいのではないかとラディムは思うのだが。
「優秀な殿下が何をおっしゃります……」
ラディムの態度に対し、ザハリアーシュは大いに不満げな表情を浮かべる。
「殿下、精霊とは何ですか?」
「この世界の生命から力を奪い取って、自分の力にしている連中、だろ?」
何を当たり前のことを、とラディムは顔をしかめた。
「そのとおりでございます。彼奴らは我々の体内にある『生命力』を――精霊教の者どもは『霊素』などと言っているようですが――使い魔を介して奪い、この世にはない妖の術を使うのでございます」
そんなことは知っている。ただ、現れる結果だけを見れば、魔術も、妖の術とザハリアーシュが言う精霊術も、同じようなものにしか見えないのだが。
「魔術も同じじゃないのか? 魔術も『生命力』を取り出して何らかの作用を及ぼしているんだよな?」
いまいちザハリアーシュの言いたいことがわからない。ラディムは首をかしげた。
「確かに魔術も『生命力』を取り出すことで行使しております。しかし、その『生命力』の提供はあくまで術者――導師側の制御の及ぶ範囲のみでございます」
ザハリアーシュは少し間を置き、語気を強めて続けた。
「ところが! 精霊教徒どもの扱う精霊術は違います。奴らは使い魔を介して、術者の意図しない『生命力』まで奪おうとするのです。意志を持つ生物である使い魔と精霊が結託して、術者の思いがけない結果を招こうとするのです」
少し目を細めて、ザハリアーシュはラディムを見遣る。
「特に、精霊術を行使できる『生命力』を持つ者は、殿下と同年代のいまだ年若い子供のみ。使い魔たちの悪意に翻弄されやすいと言ってよいでしょうな」
ザハリアーシュは忌まわしそうに、不快感に顔をゆがませた。
「そいつは初耳だ。つまりなんだ、精霊術を行使する術者は、術者の意図しない『生命力』まで奪われるってことか?」
事実であれば、とんでもない話だった。使い魔が術者の意志に反して術者の生命力を大量に奪ってしまえば、術者はどうなる。普段から飼いならし、信頼関係が築けている使い魔ならいいだろう。だが、そうでなかった場合はどうだ? 何も知らずに魔獣などの危険な生物を使い魔にしてしまえば、想像するだに恐ろしい結果となるだろう。
特に、術を使えるのは現状ではラディムと歳の変わらない少年少女だけだ。そんな子供が、使い魔と十分な信頼関係を、果たして築けているだろうか?
ラディムは冷や汗をかいた。
ザハリアーシュは大きく一つ咳ばらいをした。
「『魔術』? それって、巷では確か『精霊術』って言われてるやつだよな?」
一般に『精霊術』という名で広まっている不可思議な術。なぜだか世界再生教会内ではかたくなに『魔術』と呼ばれていた。『精霊術』などと言えば、偉い人に怒られる。
「ま・じゅ・つ、でございます、殿下。魔術を精霊術などという忌まわしいものと一緒になさらないでほしいですな」
グイっと顔をラディムに近づけ、ザハリアーシュは抗議した。少し顔が紅潮している。やはり、今のラディムの台詞は禁句だったらしい。
ザハリアーシュは、一緒にされて心外だという顔をしている。
「ふーん、で、何が違うんだ?」
鬱陶しく近づくザハリアーシュの顔から眼をそらしつつ、ラディムは聞いた。名称にこだわっているだけで、大した意味はないのではないかとラディムは思っていた。なので、聞き方もややおざなりだ。
「まったく違います! 術をかける対象が違うのです」
ザハリアーシュは少し大げさに両手を広げ、頭を振った。
「対象が違うだけで、理屈は同じなんじゃないのか?」
わざわざ名前を分けるような理由があるのだろうか。結果が変わってくるのか?
「我々の魔術は、非生命体しか対象にしておりません。それに引き換え、精霊術とやらは、主に使い魔と呼ばれる生命体を対象としております」
聞いたことがある。それ故に、精霊教は使い魔となり得る動物の保護に力を入れているらしい。将来精霊使いになれる素養を持った者が、容易に使い魔を得られるようにと。
なぜだか動物に好かれやすいラディムは、どちらかと言えば精霊教のほうが肌に合いそうだなどと考えたこともある。以前そんなことを口にしたら、ザハリアーシュに鬼のような形相で怒られたことがあったので、以後、バカな考えは起こさないようにしているが。
「これは、大きな違いですぞ! この、使い魔を使役する点が問題なのです」
「はぁ、何だかよくわからんな。小難しい話は勘弁だぞ?」
使い魔を介すると、術者の意図を使い魔が読み取って、うまいこと動いてくれるとも聞いたことがある。それならば、使い魔対象に術を使った方が、術者本人は別の行動をとれていいのではないかとラディムは思うのだが。
「優秀な殿下が何をおっしゃります……」
ラディムの態度に対し、ザハリアーシュは大いに不満げな表情を浮かべる。
「殿下、精霊とは何ですか?」
「この世界の生命から力を奪い取って、自分の力にしている連中、だろ?」
何を当たり前のことを、とラディムは顔をしかめた。
「そのとおりでございます。彼奴らは我々の体内にある『生命力』を――精霊教の者どもは『霊素』などと言っているようですが――使い魔を介して奪い、この世にはない妖の術を使うのでございます」
そんなことは知っている。ただ、現れる結果だけを見れば、魔術も、妖の術とザハリアーシュが言う精霊術も、同じようなものにしか見えないのだが。
「魔術も同じじゃないのか? 魔術も『生命力』を取り出して何らかの作用を及ぼしているんだよな?」
いまいちザハリアーシュの言いたいことがわからない。ラディムは首をかしげた。
「確かに魔術も『生命力』を取り出すことで行使しております。しかし、その『生命力』の提供はあくまで術者――導師側の制御の及ぶ範囲のみでございます」
ザハリアーシュは少し間を置き、語気を強めて続けた。
「ところが! 精霊教徒どもの扱う精霊術は違います。奴らは使い魔を介して、術者の意図しない『生命力』まで奪おうとするのです。意志を持つ生物である使い魔と精霊が結託して、術者の思いがけない結果を招こうとするのです」
少し目を細めて、ザハリアーシュはラディムを見遣る。
「特に、精霊術を行使できる『生命力』を持つ者は、殿下と同年代のいまだ年若い子供のみ。使い魔たちの悪意に翻弄されやすいと言ってよいでしょうな」
ザハリアーシュは忌まわしそうに、不快感に顔をゆがませた。
「そいつは初耳だ。つまりなんだ、精霊術を行使する術者は、術者の意図しない『生命力』まで奪われるってことか?」
事実であれば、とんでもない話だった。使い魔が術者の意志に反して術者の生命力を大量に奪ってしまえば、術者はどうなる。普段から飼いならし、信頼関係が築けている使い魔ならいいだろう。だが、そうでなかった場合はどうだ? 何も知らずに魔獣などの危険な生物を使い魔にしてしまえば、想像するだに恐ろしい結果となるだろう。
特に、術を使えるのは現状ではラディムと歳の変わらない少年少女だけだ。そんな子供が、使い魔と十分な信頼関係を、果たして築けているだろうか?
ラディムは冷や汗をかいた。
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