わたくし悪役令嬢になりますわ! ですので、お兄様は皇帝になってくださいませ!

ふみきり

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第六章 一人の少女と一匹の猫

12 皇族としての威厳を持ち続けねばならない

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 ラディムはいつものように、ミュニホフのメインストリートであるギーゼブレヒト大通りを、エリシュカ、ザハリアーシュとともに歩いていた。

 ミュニホフの夏はカラッとしている。日差しが強く日なたにいると肌が焼けるように感じるが、日陰に入ればわりと過ごしやすい。なので、この時期のレストランは道端にテラス席を用意していた。大きめのパラソルで日差しが遮られているので、屋外だが涼しく快適だった。

 ちょうど昼食の時間に差し掛かろうというタイミングだったので、あちこちのレストランのテラス席が埋まり始めていた。市場調査も兼ねて、ラディムたちも食事を近くのレストランのテラス席でとることにした。

「殿下、まもなく準成人ですな」

 注文した料理が届くまでの待ち時間。ザハリアーシュはちびちびと冷えたビールを飲みながらラディムを見つめている。

「ああ……。正直、私に第一皇子としての役割を果たせるのか、不安だ」

 正直な気持ちを吐露した。

 先ほどエリシュカに弱音を吐きだしたことで、少しだけラディムの心は軽くなっていた。なので、ザハリアーシュの前で無理に強がろうという気は起きなかった。いつものラディムであれば、大人らしく振舞おうと虚勢を張っていたに違いない。

「何を心配めさる。こなせるだけの教育を、私たち教育係は殿下に与えてきましたぞ。そして、殿下はその課題に見事応えてくださっておる」

 「自信を持たれよ」と言い、ザハリアーシュは「ガッハッハッ」といつもの調子で笑った。

 たしかに幼いころから、ぎちぎちのスケジュールで、精神的に追い詰められるほどの課題を与えられてきた。エリシュカへのいたずらという気分転換はしたものの、それら課題に対してはすべて独力できちんとこなしてきた。

「そうですよ! 殿下がものすごい努力をなさっているのは、毎日傍で見ている私もよく知っています。自信を持ってください!」

 ラディムの隣でグレープジュースを飲んでいたエリシュカも、ザハリアーシュの言に首肯した。

「ん、そうだな。私が自信のない顔をしていれば、周りが皆、不安になる。よからぬことを企む者にも付け入る隙を与えることになるな」

 皆がこれだけラディムの努力を買っている。つまり、周囲を認めさせられるだけの行動を、今までラディムがしてきたということだ。

 ここで変に覇気のないところを見せてしまえば、せっかく評価している人たちの心まで踏みにじる。

「そうですぞ。皇族は常に威厳を持って振舞わねばなりません」

 満足そうにザハリアーシュは頷いた。

「心しておくよ」

 来月の誕生日に向けて、今日のこのやり取りはとても良い心の支えとなりそうだった。

 ザハリアーシュとエリシュカとのやり取りが一息ついたところで、ちょうど頼んだ料理がきた。

 豚の膝が丸ごとドンッと皿に乗っている、コレノと呼ばれる大陸中央地域の伝統料理だ。その膝にはナイフが突き刺さっている豪快さ。パリパリになった皮が食欲をそそる。

「それはそうと、ザハリアーシュ。昼間からあまり飲みすぎるなよ」

 ラディムは料理をつつきながら、相変わらずビールをあおっているザハリアーシュに苦言を呈した。

「なぁに、この程度水代わりですぞ。ガッハッハ」

 ザハリアーシュは大口を開けて笑った。そしてまたグイっとビールを口に含む。

(いや、確かにビールは水より安いけれど、一応今公務中だぞ。フリーダムすぎるだろう)

 普段はしっかりしているくせに、たまにこうしてだらしのないところも見せる、なんともお茶目な爺だった。






 食事を終え、ラディムたちはしばらく露店の様子を調査した。商環境も安定しているようで、商人や買い物客から、特段不満の声は聞こえてこなかった。ベルナルドの治世は、実に安定していた。

「じゃあ私はこのまま教会に寄っていく。その後、ミアに会いにエリシュカの実家にもいくので、エリシュカ、ご家族によろしく伝えておいてくれ」

「はいっ、わかりました」

「では、私は先に宮殿へ戻っていますぞ」

 必要な調査は追えたので、このまま解散することになった。例によって、ラディムは教会へ魔術の研究に、エリシュカは実家に戻りミアの世話に、ザハリアーシュは宮殿へ一足先に帰還、と相成った。

「実家に先に戻ってますねっ! また後ほど、殿下!」

 パタパタとエリシュカは貴族街に向けて小走りで去っていった。

 ザハリアーシュは来た道を戻り宮殿へ、ラディムは住宅街のはずれの世界統一教の教会へと歩き出した。
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