63 / 272
第六章 一人の少女と一匹の猫
14 マリエは王都へ向かうのか……
しおりを挟む
「ええ、承知しております。ですので、側近につける前に、少し世界を見せて見聞を広げさせようと思ったのです」
司祭はすまなそうに、「殿下には申し訳ないのですが……」と頭を下げた。
「そこまでする必要はあるのか? できれば準成人の期間は侍女教育を受けてほしいのだが……」
侍女兼護衛にするつもりだったラディムとしては、マリエには準成人を期に宮殿に入って、見習い侍女として働いてもらうつもりだった。ラディムが騎士団の寮での任期を終えて宮殿に戻り次第、そのまま傍付き侍女にするために。
「王都滞在中に教育を受けられるよう手配をしております。マリエは優秀です。ただ侍女教育を施すだけではもったいない。今、劣勢に立たされている王国の世界再生教会の実情を見せて、いろいろと考えてほしいと思うのです。殿下の側近として仕えれば、図らずも宗教問題に直面することになるはずです。将来の世界再生教を背負って立つ導師の一人としても、しっかりと世界での教団の実情を、知ってもらいたいのですよ」
司祭は暖かなまなざしをマリエに向けた。
王都滞在中に侍女教育もさせる。見聞が済めばミュニホフに戻る。司祭はそう説明する。
「そういうことか……。わかった」
準成人後の騎士団寮滞在中にマリエに会うのは厳しいだろうし、王都であってもきちんと侍女教育がなされるのであれば、ラディムがこれ以上文句を言う筋合いはないのだろう。確かに、世界を知ることはマリエの将来にもプラスだと思えた。
「マリエ、しばらく会えなくなるが、しっかり頑張ってくれ。私も頑張ろう。お前にバカにされないように、な」
再開した時に、マリエとの実力差が開いていたら恥ずかしい。騎士団に入っても自主鍛錬は怠れないとラディムは胸に刻んだ。
「はいっ! 私も、殿下に追いつき追い越せの勢いで、しっかり務めを果たしてきます!」
マリエはうつむかせていた顔を上げると、精いっぱいの声を張り上げる。マリエの瞳は、燃え上がるように輝いて見えた。
「では、残された時間も少ない。早速研究の続きをやろうか」
互いに決意の言葉を掛け合ったところで、ラディムは話題を変えた。
今日の当初の目的も果たさないといけない。この後にはエリシュカの実家でミアに会う予定もあるのだ。いつまでもおしゃべりをしていては、研究もせずに日が暮れてしまう。
いつものとおり、ラディムはマリエに手を引かれて、奥のマリエの自室へと向かった。
「この一週間の成果を見せますね、殿下。これなんですけれど……」
マリエは机の引き出しから、丸い毛糸球を取り出した。
渡された毛糸球を、ラディムは恐る恐る触りながら確認した。マリエの『生命力』が充満している。属性は……風だろうか。
「おおっ、これはすごいなマリエ!」
見事なマジックアイテムだった。
『生命力』を込めて相手に投げつけると、毛糸球の毛糸がほぐれ透明化し、相手をがんじがらめに拘束するとマリエは説明する。
「これなら格上相手を拘束することもできます。生け捕りが必要な相手に、大変有効かと思って」
褒められたマリエは、フンっと鼻を鳴らしながら胸を張った。
「うんうん、こいつは使える。マリエ、やはり君はすごいよ。魔術の天才だな」
敵を殺さずに無力化できる。軍隊や街の警備隊など、需要はたくさんありそうだった。ただ、発動に『生命力』を要するため、どうしても『生命力』持ちとセットにしなければならないのが難点ではあるが。まあ、そこは運用次第となるだろう。
「そ、そんな……。殿下、褒めすぎです」
マリエは体をよじって照れている。顔が真っ赤だった。
「そんなことはない。こと、魔術に関してはもうお前にはかなわないだろうな。確かに生命力の絶対量は私のほうが多い。だが、扱い方はどう見てもマリエのほうが一段上だ」
今のラディムでは、同じものを一週間以内に作れと言われても作れる自信がなかった。『生命力』での絶対量はマリエのほうが圧倒的に低いのに、マリエはその少ない生命力を巧みに扱うすべを心得ていた。繊細な魔力調整は、断然ラディムよりも上をいっていた。
「ありがとうございます、殿下!」
パッと満面の笑みを浮かべ、マリエは飛び上がった。
その晩――。
(なんだこれは……。夢、か? やけにはっきりとした夢だ)
ラディムは不思議な夢を見た。いや、これは夢なのだろうか。いやに意識がはっきりしていた。
目を前方に向けると、四人の若者の姿が見えた。
大柄の戦士風の男。深緑色のローブを着込んだ細身の青年。長く奇妙な形をした槍を持つ少女。大型の弓を手に持つ女性。
(あれは? 私の知らない者たちだな)
全員がラディムの知らない人間だった。だが、なぜか沸き起こる既視感。
ローブの男の傍らには四匹の動物の姿が見える。黒毛の子犬、トラ柄の子猫、首元が玉虫色にきれいに輝く鳩、栗毛の仔馬。
(それに、あの猫……。ミアにそっくりじゃないか?)
トラ柄の子猫は、エリシュカが飼っている例の子猫、ミアに瓜二つだ。柄の模様がほとんど同じに見えた。
(なんだろう、初めて見るはずの光景なのに、なぜか懐かしく感じる……)
若者たちはどこかの建物の中にいた。目の前には金に輝く巨大な扉が行く手を阻んでいる。
施された細工をよく見ると、世界再生教で悪の化身とされる龍がかたどられていた。
ローブの青年が他の3人に何やらつぶやくと、その金の扉をゆっくりと押し開き始めた。
――そこで、夢から醒めた。
気が付いたら、いつもの宮殿のベッドの上だった。
「やはり夢……。なんだったんだ……」
汗でべっとりと寝間着が肌に張り付いている。
ラディムは頭を振り、意識を覚醒させた。所詮は夢、あまり深く考えても仕方がないと思い、ベッドから這い出た。
もう二度寝をするような時間でもないので、エリシュカを呼び早々に着替えることにした。
まもなく準成人の儀、準備しなければならないことは、それこそ山ほどある。せっかく早起きをしたのだ、時間を有効に使おうじゃないか、とラディムは動き始めた。
司祭はすまなそうに、「殿下には申し訳ないのですが……」と頭を下げた。
「そこまでする必要はあるのか? できれば準成人の期間は侍女教育を受けてほしいのだが……」
侍女兼護衛にするつもりだったラディムとしては、マリエには準成人を期に宮殿に入って、見習い侍女として働いてもらうつもりだった。ラディムが騎士団の寮での任期を終えて宮殿に戻り次第、そのまま傍付き侍女にするために。
「王都滞在中に教育を受けられるよう手配をしております。マリエは優秀です。ただ侍女教育を施すだけではもったいない。今、劣勢に立たされている王国の世界再生教会の実情を見せて、いろいろと考えてほしいと思うのです。殿下の側近として仕えれば、図らずも宗教問題に直面することになるはずです。将来の世界再生教を背負って立つ導師の一人としても、しっかりと世界での教団の実情を、知ってもらいたいのですよ」
司祭は暖かなまなざしをマリエに向けた。
王都滞在中に侍女教育もさせる。見聞が済めばミュニホフに戻る。司祭はそう説明する。
「そういうことか……。わかった」
準成人後の騎士団寮滞在中にマリエに会うのは厳しいだろうし、王都であってもきちんと侍女教育がなされるのであれば、ラディムがこれ以上文句を言う筋合いはないのだろう。確かに、世界を知ることはマリエの将来にもプラスだと思えた。
「マリエ、しばらく会えなくなるが、しっかり頑張ってくれ。私も頑張ろう。お前にバカにされないように、な」
再開した時に、マリエとの実力差が開いていたら恥ずかしい。騎士団に入っても自主鍛錬は怠れないとラディムは胸に刻んだ。
「はいっ! 私も、殿下に追いつき追い越せの勢いで、しっかり務めを果たしてきます!」
マリエはうつむかせていた顔を上げると、精いっぱいの声を張り上げる。マリエの瞳は、燃え上がるように輝いて見えた。
「では、残された時間も少ない。早速研究の続きをやろうか」
互いに決意の言葉を掛け合ったところで、ラディムは話題を変えた。
今日の当初の目的も果たさないといけない。この後にはエリシュカの実家でミアに会う予定もあるのだ。いつまでもおしゃべりをしていては、研究もせずに日が暮れてしまう。
いつものとおり、ラディムはマリエに手を引かれて、奥のマリエの自室へと向かった。
「この一週間の成果を見せますね、殿下。これなんですけれど……」
マリエは机の引き出しから、丸い毛糸球を取り出した。
渡された毛糸球を、ラディムは恐る恐る触りながら確認した。マリエの『生命力』が充満している。属性は……風だろうか。
「おおっ、これはすごいなマリエ!」
見事なマジックアイテムだった。
『生命力』を込めて相手に投げつけると、毛糸球の毛糸がほぐれ透明化し、相手をがんじがらめに拘束するとマリエは説明する。
「これなら格上相手を拘束することもできます。生け捕りが必要な相手に、大変有効かと思って」
褒められたマリエは、フンっと鼻を鳴らしながら胸を張った。
「うんうん、こいつは使える。マリエ、やはり君はすごいよ。魔術の天才だな」
敵を殺さずに無力化できる。軍隊や街の警備隊など、需要はたくさんありそうだった。ただ、発動に『生命力』を要するため、どうしても『生命力』持ちとセットにしなければならないのが難点ではあるが。まあ、そこは運用次第となるだろう。
「そ、そんな……。殿下、褒めすぎです」
マリエは体をよじって照れている。顔が真っ赤だった。
「そんなことはない。こと、魔術に関してはもうお前にはかなわないだろうな。確かに生命力の絶対量は私のほうが多い。だが、扱い方はどう見てもマリエのほうが一段上だ」
今のラディムでは、同じものを一週間以内に作れと言われても作れる自信がなかった。『生命力』での絶対量はマリエのほうが圧倒的に低いのに、マリエはその少ない生命力を巧みに扱うすべを心得ていた。繊細な魔力調整は、断然ラディムよりも上をいっていた。
「ありがとうございます、殿下!」
パッと満面の笑みを浮かべ、マリエは飛び上がった。
その晩――。
(なんだこれは……。夢、か? やけにはっきりとした夢だ)
ラディムは不思議な夢を見た。いや、これは夢なのだろうか。いやに意識がはっきりしていた。
目を前方に向けると、四人の若者の姿が見えた。
大柄の戦士風の男。深緑色のローブを着込んだ細身の青年。長く奇妙な形をした槍を持つ少女。大型の弓を手に持つ女性。
(あれは? 私の知らない者たちだな)
全員がラディムの知らない人間だった。だが、なぜか沸き起こる既視感。
ローブの男の傍らには四匹の動物の姿が見える。黒毛の子犬、トラ柄の子猫、首元が玉虫色にきれいに輝く鳩、栗毛の仔馬。
(それに、あの猫……。ミアにそっくりじゃないか?)
トラ柄の子猫は、エリシュカが飼っている例の子猫、ミアに瓜二つだ。柄の模様がほとんど同じに見えた。
(なんだろう、初めて見るはずの光景なのに、なぜか懐かしく感じる……)
若者たちはどこかの建物の中にいた。目の前には金に輝く巨大な扉が行く手を阻んでいる。
施された細工をよく見ると、世界再生教で悪の化身とされる龍がかたどられていた。
ローブの青年が他の3人に何やらつぶやくと、その金の扉をゆっくりと押し開き始めた。
――そこで、夢から醒めた。
気が付いたら、いつもの宮殿のベッドの上だった。
「やはり夢……。なんだったんだ……」
汗でべっとりと寝間着が肌に張り付いている。
ラディムは頭を振り、意識を覚醒させた。所詮は夢、あまり深く考えても仕方がないと思い、ベッドから這い出た。
もう二度寝をするような時間でもないので、エリシュカを呼び早々に着替えることにした。
まもなく準成人の儀、準備しなければならないことは、それこそ山ほどある。せっかく早起きをしたのだ、時間を有効に使おうじゃないか、とラディムは動き始めた。
0
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています
黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。
彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。
ようやく手に入れた穏やかな日々。
しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。
彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。
そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。
「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。
「いつものことだから、君のせいじゃないよ」
これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。
二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。
心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる