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第七章 封じられた記憶
5 私はあなたの息子なのか?
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優里菜の記憶が呼び覚まされた翌日、ラディムはわずかな頭痛とともに目を覚ました。
いつもと変わらない宮殿の自室だ。ラディムは自分の体に目を遣るが、こちらも就寝前とは何ら変わりがない。
寝ている間に、どこか見知らぬ場所に連れ去られたわけではなかった。やはり、昨夜体験したものはあくまで夢だったのだ、と実感する。
ラディムはこめかみのあたりを、指でぐりぐりと押した。夢で感じた激しい痛みは治まったが、残る鈍痛が憂鬱な気持ちにさせる。
夢の中での出来事をゆっくりと考えたい。だが、残った頭痛が思考を乱す。
(――喉が、乾いたな)
ベッドから起き上がり、傍机に置いた水差しに手をやった。
「殿下、おはようございます」
コップに注いだ水を飲もうとすると、エリシュカが入口の扉を開いて声をかけてきた。
「ああ、おはよう……」
「殿下、顔色が悪いですよ? どうかされましたか?」
エリシュカがさっと顔を曇らせた。
「いや、大丈夫。夢見が悪く、少し頭痛がしただけだ」
不安げに手の平をラディムの額に当てようとしたエリシュカを、ラディムは片手で制した。朝っぱらからエリシュカを心配させてもかわいそうだ。
「今日は予定を入れていなかったよな? すまない、少し一人にさせてもらえないか?」
夢の中での優里菜とのやり取りを、もう一度ゆっくりと整理したかった。
「それは構いませんが……。朝食はどうされます?」
エリシュカはコテンと首をかしげる。
「サンドウィッチを、部屋まで持ってきてくれないか?」
「かしこまりました。それでは、厨房から取ってまいりますね」
エリシュカは深々と一礼をすると、部屋から出て行った。
「結局のところ、私はあなたの息子になるのか?」
ラディムはエリシュカの持ってきたサンドウィッチを口に含むと、脳内のもう一つの人格、優里菜に話しかけた。
ラディムの声に応じて、脳の奥底から優里菜の人格が浮き上がってくる。ラディムと優里菜は軽くあいさつを交わした。
そして、少しの間をおいてから、優里菜は質問に答え始めた。
(システム上、遺伝上では、そのとおりかな。おそらく、ラディム君とあなたのお母さんは、遺伝的なつながりがないと思う)
優里菜は「代理母みたいなものよ」と言うが、そもそも『代理母』とは何だろうか。『遺伝』という用語も初耳だった。
「代理母……とは、そして、遺伝とは、何だ?」
聞きなれない言葉に、ラディムは首をひねる。
(他の夫婦の受精卵を自分の子宮に着床させて、代わりに子供を産む。代理母をざっくりと言えばこんな感じかな?)
受精卵とか着床とか、ラディムにはいまいちピンとこなかった。だが、ゆっくりと優里菜の記憶を探ることで、どうにか理解はできた。
(遺伝については、細かい話をしてもわけがわからないだろうし、両親の特徴を引き継ぐ事象とでも、思っておけばいいかな)
「生まれた子供に、両親の顔の特徴や運動神経の良否が現れるようなものか」
(その認識でいいと思う)
「間違いなく、私は母上から生まれ落ちたはずなのだが、母上の特徴は受け継いでいないのか……。不思議な話もあるものだな」
確かに、母ユリナ・ギーゼブレヒトとはそれほど似ていないかもしれない。血のつながりがないのであれば、なるほど、納得はできる。
優里菜の言う代理母による出産は、ラディムの知る限り、この世界では聞いたことがない。優里菜の世界では事例があったのかもしれないが、この世界で行われた実績があるとはとても思えない。
そもそも、受精卵を作るにせよ、母親からどうやって卵子を取り出すのだ。そんな技術、ラディムは聞いた記憶がまったくない。……ザハリアーシュに聞けば、わかるだろうか?
(まぁ、イレギュラーな話だよね。気にしない、気にしない)
優里菜の言うとおり、今の手持ちの情報ではこれ以上わかりようもないのだから、気にする必要はないのだろう。
いつもと変わらない宮殿の自室だ。ラディムは自分の体に目を遣るが、こちらも就寝前とは何ら変わりがない。
寝ている間に、どこか見知らぬ場所に連れ去られたわけではなかった。やはり、昨夜体験したものはあくまで夢だったのだ、と実感する。
ラディムはこめかみのあたりを、指でぐりぐりと押した。夢で感じた激しい痛みは治まったが、残る鈍痛が憂鬱な気持ちにさせる。
夢の中での出来事をゆっくりと考えたい。だが、残った頭痛が思考を乱す。
(――喉が、乾いたな)
ベッドから起き上がり、傍机に置いた水差しに手をやった。
「殿下、おはようございます」
コップに注いだ水を飲もうとすると、エリシュカが入口の扉を開いて声をかけてきた。
「ああ、おはよう……」
「殿下、顔色が悪いですよ? どうかされましたか?」
エリシュカがさっと顔を曇らせた。
「いや、大丈夫。夢見が悪く、少し頭痛がしただけだ」
不安げに手の平をラディムの額に当てようとしたエリシュカを、ラディムは片手で制した。朝っぱらからエリシュカを心配させてもかわいそうだ。
「今日は予定を入れていなかったよな? すまない、少し一人にさせてもらえないか?」
夢の中での優里菜とのやり取りを、もう一度ゆっくりと整理したかった。
「それは構いませんが……。朝食はどうされます?」
エリシュカはコテンと首をかしげる。
「サンドウィッチを、部屋まで持ってきてくれないか?」
「かしこまりました。それでは、厨房から取ってまいりますね」
エリシュカは深々と一礼をすると、部屋から出て行った。
「結局のところ、私はあなたの息子になるのか?」
ラディムはエリシュカの持ってきたサンドウィッチを口に含むと、脳内のもう一つの人格、優里菜に話しかけた。
ラディムの声に応じて、脳の奥底から優里菜の人格が浮き上がってくる。ラディムと優里菜は軽くあいさつを交わした。
そして、少しの間をおいてから、優里菜は質問に答え始めた。
(システム上、遺伝上では、そのとおりかな。おそらく、ラディム君とあなたのお母さんは、遺伝的なつながりがないと思う)
優里菜は「代理母みたいなものよ」と言うが、そもそも『代理母』とは何だろうか。『遺伝』という用語も初耳だった。
「代理母……とは、そして、遺伝とは、何だ?」
聞きなれない言葉に、ラディムは首をひねる。
(他の夫婦の受精卵を自分の子宮に着床させて、代わりに子供を産む。代理母をざっくりと言えばこんな感じかな?)
受精卵とか着床とか、ラディムにはいまいちピンとこなかった。だが、ゆっくりと優里菜の記憶を探ることで、どうにか理解はできた。
(遺伝については、細かい話をしてもわけがわからないだろうし、両親の特徴を引き継ぐ事象とでも、思っておけばいいかな)
「生まれた子供に、両親の顔の特徴や運動神経の良否が現れるようなものか」
(その認識でいいと思う)
「間違いなく、私は母上から生まれ落ちたはずなのだが、母上の特徴は受け継いでいないのか……。不思議な話もあるものだな」
確かに、母ユリナ・ギーゼブレヒトとはそれほど似ていないかもしれない。血のつながりがないのであれば、なるほど、納得はできる。
優里菜の言う代理母による出産は、ラディムの知る限り、この世界では聞いたことがない。優里菜の世界では事例があったのかもしれないが、この世界で行われた実績があるとはとても思えない。
そもそも、受精卵を作るにせよ、母親からどうやって卵子を取り出すのだ。そんな技術、ラディムは聞いた記憶がまったくない。……ザハリアーシュに聞けば、わかるだろうか?
(まぁ、イレギュラーな話だよね。気にしない、気にしない)
優里菜の言うとおり、今の手持ちの情報ではこれ以上わかりようもないのだから、気にする必要はないのだろう。
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