わたくし悪役令嬢になりますわ! ですので、お兄様は皇帝になってくださいませ!

ふみきり

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第七章 封じられた記憶

6 出生の秘密を知りたいな……

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「ところで、父親はどうなのだ? 一応、実の父は、隣国のカレル・プリンツ前辺境伯ということになっているのだが」

 かつてザハリアーシュからそのように習った。

 カレル・プリンツ前辺境伯の実子という事実が、ラディムをより一層、世界再生教へと帰依させている理由になっている。次期皇帝を目指すのであれば、たとえわずかであっても、精霊教に同情的でいてはいけない。「辺境伯家の人間だから、精霊教に鞍替えしたんだ。皇家にふさわしくない」、と心無い者に突かれるだろうから。

(え!? あなたのお父さん、カレル・プリンツっていうの?)

 心底驚いた、という声を優里菜は上げた。

(……実はね、システム上、遺伝上のラディム君の父親の名前も、カレル・プリンツっていうんだ)

「なんだって!?」

 今度はラディムが驚く番だった。

 実父である前辺境伯と、優里菜が言うラディムの元となった受精卵の父が、まったく同じ名前だった。カレル・プリンツ、と。

(何か、関係があるのかな……)

「今、私の知っている情報だけでは、よく判断がつかないな。明日、母上に少し事情をうかがってみるか」

 ラディムはザハリアーシュから得た程度の情報しか、辺境伯家のことを知らない。母に心の負担を負わせたくなかったので、父親や辺境伯家の話題は意識して避けていたからだ。

(ラディム君のお母さん、話の通じる人? 確か、精神的に問題があるって話じゃ……)

 心許なげな優里菜の声が響く。

「精霊や異能を話題に出さなければ、大丈夫だと思う。だいたい、激昂するのはその二つが話題にのぼる時だし」

 普段母と話すときは、いたって普通だった。品の良い皇女様そのものだ。

 だが、ラディムが少しでも精霊をにおわせるような話題を出せば、態度が豹変した。自然、ラディムは母の前では不用意に精霊の話をしないよう、注意するようになった。

 もし母に尋ねに行くなら、父の話題だけに絞らなければならない。ただ、その父に関する話題も地雷の可能性が高いのが、少々頭の痛いところだったが。

(そっか、じゃあその点に気を付けて、あなたのお父さんのことを確認してみよっか)

 だが、ラディムは知らなければいけない。自身の出自の本当のところを。皇帝になるのであれば、なおさらだ。ラディムの知らない出自の事実に何らかの問題があり、その事実を盾に皇帝候補から引きずり降ろされでもしたら、たまらない。事前に知って、問題があれば対処をしておきたかった。

「それともう一つ、気になっている点があるのだが」

 ラディムは目が覚めた時から気になっていた。

「私の記憶の中に、あなたと違う、別の何かがあるように感じる」

 記憶の奥底に、優里菜と同じような形で、まったく別の大きなひとつの記憶の塊があった。ラディムがゆっくりとその記憶に接触をしようと試みても、すべて拒否される。

(……言われてみれば、確かにあるね。アクセスできないけれど)

 優里菜も試したようだが、ラディム同様に拒絶されたようだ。

「もしかして、あなた以外の人格も私に転生をしていたりは……。ないよな?」

 突飛もない話だ、とラディムは思う。

 だが、ほかに考えられない。なぜなら、この接触を拒む記憶は、優里菜の人格領域と同じような特徴を持っているように、ラディムには感じられたからだ。

(ないと思う。あなたの体は、この世界の管理者ヴァーツラフさんと私とで作った、私の人格を転生させるためのもの。他の人間の記憶が入り込む余地はないはずだよ)

 優里菜はすかさず否定した。

 ではこの保護されている記憶は何なのだろうか。記憶領域の大きさからみても、優里菜の記憶の塊と同程度ある。もう一つの別人格の記憶だといわれても、納得できるのだが……。

「まぁ、手掛かりもないし、今あれこれ思い悩んでも仕方がないか。いずれ何らかのタイミングで、この記憶に触れられたらラッキーだ、とでも思っておこう」

 優里菜にわからないというのなら、もう、どうしようもなかった。

(それくらい緩く考えていたほうがいいと思うよ、私も)

 優里菜の言葉に、ラディムは「そうだよな」とうなずいた。考えてもわからない問題を、いつまでも気にかけている暇はない。

 ラディムは少し間を置き、残ったサンドウィッチを平らげた。エリシュカがサンドウィッチと一緒に持ってきたぶどうジュースも、グイっと一気にあおる。

 一息ついたところで、ラディムは改めて優里菜に意識を向けた。
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