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第八章 皇帝親征
7 魔獣だって!?
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ラディムたち親征軍は、順調に国境地帯付近まで進軍した。
バイアー帝国とプリンツ辺境伯領との境界周辺には、広大な森が広がっている。遠征軍は、その森の中を貫いて走る街道に沿って進んでいた。さすがに帝国領土内で辺境伯軍と鉢合わせするような事態は起こらなかった。だが、国境を越えてからは、そうもいかないだろう。
皇帝の親征軍が動き出せば、プリンツ辺境伯も事態に気づくはずだ。無策でいるはずがない。
人数は帝国軍側が圧倒している。いくらプリンツ辺境伯家が長きにわたり国境防衛任務についてきた武の家とはいえ、帝国側の本気の攻勢を防ぎきれるだけの軍勢を整えきれるとは思えなかった。帝国軍有利な状況は、誰の目にも明らかだった。
「嵐の前の静けさってところかな……」
馬車の中で揺られながら、ラディムは周囲の森の景色を見回した。異常はない。行軍の音以外には何も聞こえない。
ここまでは退屈な旅だったので、ラディムはミアを連れてきて本当に良かったと思っていた。ミアとの戯れで時間を潰せたからだ。同行者も、ほほえましげな表情でラディムとミアを見つめていた。周囲には子供と子猫がじゃれているようにしか見えていないのだろう。
と、そんなとき不意に、軍列の先方で騎士たちの大きな怒声が響いた。
馬車が慌てて止められ、ラディムはその衝撃で大きくしりもちをつく。
「痛ててて……。なんだなんだ、どうしたのだ?」
尻をさすりながら、ラディムは御者に確認した。
「そ、それが……。前方でものすごい土煙が上がっています。何か、戦闘でも起こっているのでしょうか、殿下」
御者が前方を指さし、不安げな声を上げた。
ラディムが示された先を見遣ると、確かに戦闘中らしき大きな土ぼこりが上がっていた。
「何事だ!? まだ国境を超えていないのに、辺境伯軍に鉢合わせをしたか?」
ただ、それにしてはおかしい。剣戟の音がしない。
すると、前方から一人の騎士がラディムの乗る馬車へ向かって走ってきた。
「ラディム殿下! いらっしゃいますか!」
「呼んだか? いったい何事だ?」
血相を変えて馬車の前に飛び出してきた騎士に、ラディムは見覚えがあった。よく騎士団の詰所で模擬戦をした、入団して間もない若い騎士だ。
「へ、陛下がお呼びです! 前方で、何やら魔獣らしきものが暴れているので、殿下のお力が必要だと」
息を切らせながら、騎士はラディムに告げた。
どうやら、魔獣が街道に現れ、足止めを食っているようだ。もしかしたら、先日通りがかった村の村長が話していた個体だろうか。
この大編成での遠征軍なら、ラディムが出るまでもないと思う。だが、わざわざ呼びつけるということは、騎士団のみでは被害が大きくなりそうなほどの、よほど強力な魔獣が現れたのか。
「わかった、すぐ行く。案内してくれ」
騎士に連れられ、ベルナルドの乗る馬車の前まで来た。
ベルナルドはパレードの際に栗毛の馬へ騎乗していたが、通常移動時はさすがに馬車に乗っていた。愛馬は侍従が引いている。
「陛下! ラディム、参りました」
ラディムが馬車へ声をかけると、中からベルナルドが出てきた。
「わざわざ悪いな。状況は薄々わかっているかと思うが、魔獣が街道に立ちふさがっている。今まで見た中でも最大サイズで、正直なところ、まともにぶつかってはこちらの被害もかなりのものになりそうなのだ」
ベルナルドの説明では、これまで帝国で出没が確認されたどの魔獣よりも巨大で、かつ凶暴だそうだ。熊の異常進化系だと思われ、身体能力がかなり高く、騎士も簡単には近づけないらしい。
「そこで、お前の魔術でどうにかならないかと思って、声をかけた」
魔術で遠距離からどうにかしろ、という話だろうか。
「魔獣は物理的な攻撃に強いですから、騎士だけではつらいでしょう」
魔獣は皮膚が『霊素』で強化されている。生半可な物理攻撃ははじき返すのだ。たとえ騎士が接近できたとしても、なかなか効果的なダメージは与えられないはずだ。それこそ、数に任せて四方八方から攻撃し続けて、微小ダメージを何とか蓄積させていくしかない。
「わかりました、用意してきたマジックアイテムでどうにかしてみます。うまく弱らせたら、とどめは任せましたよ?」
だが、魔術なら物理攻撃よりは効果的だ。『生命力』の力と『霊素』の力は、本来同質のもの。生命力による攻撃であれば、霊素の影響をそれほど受けずに相手に届かせることができる。
だが、今のラディムの魔術の力量では、まとわりついている霊素の一部に裂け目を生じさせることはできても、魔獣自身を殺しきるまではできない。持っている火の魔術による爆薬の威力は、そこまで高くはない。
ラディムの爆薬で霊素を剥がしたところに、騎士たちの剣や槍での攻撃で致命傷を与える。これが現状採れる最善策だとラディムは考えた。
「私の魔術で魔獣の皮膚にまとわりついている霊素を剥がします。騎士たちにはその隙に攻撃をするよう指示を与えてください」
ラディムの作戦にベルナルドは頷き、すぐさま指揮官へ指示を飛ばした。
ラディムはいったんベルナルドの馬車から離れ、爆薬を投擲しやすい場所を探した。
バイアー帝国とプリンツ辺境伯領との境界周辺には、広大な森が広がっている。遠征軍は、その森の中を貫いて走る街道に沿って進んでいた。さすがに帝国領土内で辺境伯軍と鉢合わせするような事態は起こらなかった。だが、国境を越えてからは、そうもいかないだろう。
皇帝の親征軍が動き出せば、プリンツ辺境伯も事態に気づくはずだ。無策でいるはずがない。
人数は帝国軍側が圧倒している。いくらプリンツ辺境伯家が長きにわたり国境防衛任務についてきた武の家とはいえ、帝国側の本気の攻勢を防ぎきれるだけの軍勢を整えきれるとは思えなかった。帝国軍有利な状況は、誰の目にも明らかだった。
「嵐の前の静けさってところかな……」
馬車の中で揺られながら、ラディムは周囲の森の景色を見回した。異常はない。行軍の音以外には何も聞こえない。
ここまでは退屈な旅だったので、ラディムはミアを連れてきて本当に良かったと思っていた。ミアとの戯れで時間を潰せたからだ。同行者も、ほほえましげな表情でラディムとミアを見つめていた。周囲には子供と子猫がじゃれているようにしか見えていないのだろう。
と、そんなとき不意に、軍列の先方で騎士たちの大きな怒声が響いた。
馬車が慌てて止められ、ラディムはその衝撃で大きくしりもちをつく。
「痛ててて……。なんだなんだ、どうしたのだ?」
尻をさすりながら、ラディムは御者に確認した。
「そ、それが……。前方でものすごい土煙が上がっています。何か、戦闘でも起こっているのでしょうか、殿下」
御者が前方を指さし、不安げな声を上げた。
ラディムが示された先を見遣ると、確かに戦闘中らしき大きな土ぼこりが上がっていた。
「何事だ!? まだ国境を超えていないのに、辺境伯軍に鉢合わせをしたか?」
ただ、それにしてはおかしい。剣戟の音がしない。
すると、前方から一人の騎士がラディムの乗る馬車へ向かって走ってきた。
「ラディム殿下! いらっしゃいますか!」
「呼んだか? いったい何事だ?」
血相を変えて馬車の前に飛び出してきた騎士に、ラディムは見覚えがあった。よく騎士団の詰所で模擬戦をした、入団して間もない若い騎士だ。
「へ、陛下がお呼びです! 前方で、何やら魔獣らしきものが暴れているので、殿下のお力が必要だと」
息を切らせながら、騎士はラディムに告げた。
どうやら、魔獣が街道に現れ、足止めを食っているようだ。もしかしたら、先日通りがかった村の村長が話していた個体だろうか。
この大編成での遠征軍なら、ラディムが出るまでもないと思う。だが、わざわざ呼びつけるということは、騎士団のみでは被害が大きくなりそうなほどの、よほど強力な魔獣が現れたのか。
「わかった、すぐ行く。案内してくれ」
騎士に連れられ、ベルナルドの乗る馬車の前まで来た。
ベルナルドはパレードの際に栗毛の馬へ騎乗していたが、通常移動時はさすがに馬車に乗っていた。愛馬は侍従が引いている。
「陛下! ラディム、参りました」
ラディムが馬車へ声をかけると、中からベルナルドが出てきた。
「わざわざ悪いな。状況は薄々わかっているかと思うが、魔獣が街道に立ちふさがっている。今まで見た中でも最大サイズで、正直なところ、まともにぶつかってはこちらの被害もかなりのものになりそうなのだ」
ベルナルドの説明では、これまで帝国で出没が確認されたどの魔獣よりも巨大で、かつ凶暴だそうだ。熊の異常進化系だと思われ、身体能力がかなり高く、騎士も簡単には近づけないらしい。
「そこで、お前の魔術でどうにかならないかと思って、声をかけた」
魔術で遠距離からどうにかしろ、という話だろうか。
「魔獣は物理的な攻撃に強いですから、騎士だけではつらいでしょう」
魔獣は皮膚が『霊素』で強化されている。生半可な物理攻撃ははじき返すのだ。たとえ騎士が接近できたとしても、なかなか効果的なダメージは与えられないはずだ。それこそ、数に任せて四方八方から攻撃し続けて、微小ダメージを何とか蓄積させていくしかない。
「わかりました、用意してきたマジックアイテムでどうにかしてみます。うまく弱らせたら、とどめは任せましたよ?」
だが、魔術なら物理攻撃よりは効果的だ。『生命力』の力と『霊素』の力は、本来同質のもの。生命力による攻撃であれば、霊素の影響をそれほど受けずに相手に届かせることができる。
だが、今のラディムの魔術の力量では、まとわりついている霊素の一部に裂け目を生じさせることはできても、魔獣自身を殺しきるまではできない。持っている火の魔術による爆薬の威力は、そこまで高くはない。
ラディムの爆薬で霊素を剥がしたところに、騎士たちの剣や槍での攻撃で致命傷を与える。これが現状採れる最善策だとラディムは考えた。
「私の魔術で魔獣の皮膚にまとわりついている霊素を剥がします。騎士たちにはその隙に攻撃をするよう指示を与えてください」
ラディムの作戦にベルナルドは頷き、すぐさま指揮官へ指示を飛ばした。
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