わたくし悪役令嬢になりますわ! ですので、お兄様は皇帝になってくださいませ!

ふみきり

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第八章 皇帝親征

6 辺境地域の現状はどうなっている?

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 親征軍は街道沿いに、東の国境地帯へ向けて帝国領内を進軍していた。途中の街や村では、盛大な出迎えが待っていた。めったにない皇帝の行幸も兼ねているため、通過する街々で親征軍は必ず一泊し、皇帝自ら帝国臣民との交流を図った。

「本当に陛下は臣民に慕われていますね。見てください、この民の喜びようを」

 ラディムは沿道の両脇に立ち並ぶ住民たちを、ベルナルドに指し示す。

 街や村に入るときには、民に対する皇族のお披露目も兼ねる意味で、ラディムはベルナルドと並んで行動をしていた。

「こうして直に民の様子を見ると、私のやってきたことが間違いではなかったと実感でき、うれしいものだな」

 ベルナルドは頬を緩ませている。

「精霊教を追放したおかげか、大地の『生命力』も豊富なようですね。遠目に見える黄金色の畑が、目にまぶしい」

 ラディムは目を凝らし、村の外に広がる小麦畑を見遣った。なだらかな起伏のある丘陵地帯に広がる黄金のじゅうたん。あたかも海原が風に揺られて緩やかに波打つかのような光景に、思わず絵筆をとりたくなる。美しいとしか言いようのない風景だった。

「今年も収穫は問題ないようだな。だが、帝国辺境の一部では『魔獣』の被害が報告されているから、ここの村長にも警戒は怠らないように注意しておこうか。せっかくの収穫物が食い荒らされたらたまらないし、何より、帝国の貴重な財産である人命が損なわれるのは我慢がならん」

 ベルナルドは副官に村長との面会の指示を飛ばした。

 魔獣――。

 『霊素』を浴びたために異常進化をした動物の総称だ。人にとって、危険極まりない存在だった。強力な個体になると、訓練を積んだ騎士団が相手でも苦戦する。魔獣は総じて、『霊素』によって皮膚を強化しており、そこいらの農民がどうこうできる相手ではなかった。

 ラディムが魔獣についてあれこれと考えていると、副官に連れられて村長がやってきた。

「これはこれは、皇帝陛下。わたくしめにいったい何用でございましょうか?」

 かしこまる村長に、「構わん、構わん」とベルナルドは片手で制し、楽にするよう伝える。

「最近、帝国辺境で魔獣の被害報告が増えてきている。そちたちの村は問題ないかと思って、確認がしたかった」

 ベルナルドの問いに、村長の表情がわずかに陰った。

「もしや、何かあるのか?」

 村長の表情の変化に気づいたベルナルドが小首をかしげた。

 村長は少し言いよどんだが、しかし意を決したように語り始めた。

「実は、ここ二年の話なのですが、あちこちで魔獣の被害らしきものが出ております。幸い、住民に被害が及んでいないため、帝都にはまだ報告は挙げておりませんでして……」

「人命に影響が出ていないのは幸いだ。して、具体的な被害とは?」

 ベルナルドは少しほっとしたような表情を浮かべていた。ラディムも同感だった。人命さえ失われていなければ、また再建ができるのだから。

「畑の一部を食い荒らされたり、乾燥室の乾し肉を奪われたり、といったものです」

 破壊衝動からくる襲撃ではなさそうだ。生きるために食料を狙っているのだろうか。

「ただの野生動物による被害というわけではないのか?」

 なぜ村長は魔獣だと判断したのだろうか。目撃者がいた?

「足跡を見るに、このあたりに住む野生動物のものではないのです。あまりにも大きい」

 村長の説明では、大人の男四人が両腕を広げて囲んだ程度には大きい足跡だという。確かに、普通の野生動物ではない。足跡から推測できる体長は、かなりの大きさになりそうだ。

「なるほど……。で、足跡以外に目撃情報はないのか?」

 ベルナルドは考え込むような仕草をしながら、目線を尊重へと向ける。

「それが、残念ながら。どうやらかなり頭のいい動物のようで、人がいる時をうまく避けているようなのです」

 村長は頭を振って、口惜しそうに表情を歪めた。

「フム……。では、念のため騎士団の一個分隊を派遣するよう、帝都に指示を出しておこう。もし本当に魔獣であれば、騎士でなければ歯が立たないだろうからな」

 騎士団は今、こうして親征軍としてフェイシア王国へ侵攻をしようとしているが、それでも帝都にはまだまだ予備兵力が残っている。一個分隊程度なら問題なく送り込めた。

「ありがとうございます、陛下」

「うむ、今後ともしっかりと村政を頼むぞ」

 ベルナルドの激励に村長は感極まったのか、身体を震わせながら深々と礼をした。
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