わたくし悪役令嬢になりますわ! ですので、お兄様は皇帝になってくださいませ!

ふみきり

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第九章 二人の真実

6 お兄様の決断ですわ

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「私の力で陛下を叛意させられるか、不安なんだ」

 自信なさげにラディムはつぶやいた。

「でも、皇帝はお兄様を大分可愛がられていらっしゃったんですよね。きっと、話せばわかっていただけるのでは?」

 皇子として恥ずかしくないようにと振舞っているラディムの姿しか、アリツェはまだ見たことがなかった。なので、気落ちしている様子を目にして、意外に感じた。

「アリツェは陛下と顔を合わせた経験がないから、わからないだろうな。……私は常々言われていたのだ。万が一にも精霊教に加担するような事態になれば、躊躇なく私を処刑するだろうと」

 ラディムは何かを握りつぶすかのように、手をぎゅっと力強く握りしめた。

「血縁の甥ですのよ。そんな乱暴な処遇は……」

 信じられなかった。たしか、皇帝ベルナルドは実子がいないはずだ。ラディムを処刑しては、跡取りがいなくなるのではないだろうか。……帝国側はまだ知らないかもしれないが、アリツェにも皇位継承権を主張できる血のつながりはある。皇女ユリナ・ギーゼブレヒトの実子なのだから。

 ただ、今までまったく帝国とかかわりを持つ機会のなかったアリツェに、そんな気はさらさらなかったが。

「アリツェ、それが権力の頂点に立つ者の使命でもあるのだ。民に対して、示しのつかない真似はできない」

 アリツェも下級とはいえ、領地を治める地方貴族の家に育った。ラディムの言わんとしている言葉の意味も、分からなくはなかった。ただ、納得はしきれない。

「だから、私は命を懸ける覚悟で、陛下を説得しに行く」

 ラディムはギリッと唇をかみしめる。

「でも、命あってのものだねですわ。危ないと思ったら、躊躇せずお逃げくださいませ、お兄様」

 死んでしまっては、もうそこですべてが終わる。生き延びてこそ、次のチャンスは巡ってくるものだ。

「しかし……」

「生きてさえいれば、いくらでも説得の機会は訪れますわ。まずは、生きてお戻りになることを最優先にしてくださいませ。……妹からのお願いですわ」

 言葉を濁すラディムに、アリツェは微笑んだ。深刻に考えすぎてほしくないと、そんな気持ちを込めて……。

「……わかった。善処する。それに、叔父上からの書状の件もあるしな」

「そういえば、結局何が書かれていたのですか?」

 昨晩、フェルディナントが二通の書状をラディムに渡していた。一通は皇帝ベルナルド宛、もう一通はラディム宛だ。

「アリツェには伝えても大丈夫だろう。他言無用だ。もちろん、今の段階ではドミニクにも黙っていてほしい」

 ピッと人差し指を立て、ラディムは念を押した。

 どうやら、よほど重要な話が書かれていたようだ。

「叔父上は、皇帝の叛意が無理だと悟った段階で、私を皇帝に祭り上げて帝国と事を構えるつもりらしい」

「え!?」

 思わぬ内容に、アリツェは目を丸くした。

「ある程度時間さえ確保できれば、帝国と戦えるだけの戦力をそろえること自体は可能なようだ。今は肝心の時間がないから、こうやって小手先の休戦協定に頼っているがな」

 ラディム宛の書状に掛かれていた内容を、ラディムはかいつまんで説明した。

 皇帝の考えをこのまま放置していては、いずれ必ず領内に攻め込まれ、精霊教徒である領民が虐殺されかねない。領民を護るためにも、有利な段階で勝負をかける必要があると、フェルディナントは考えているようだ。

 帝国と事を構えるに際し、他国に対して王国側の大義名分を得るためにも、皇位継承権のあるラディムが立ち上がるという形をとるのが最上だというわけだ。

「戦争、ですか……。嫌ですわね」

 まだアリツェは戦場に立った経験はない。だが、物語で読む戦争は、どれもこれも陰鬱なものだった。

「もちろん、叔父上も戦争が回避可能であれば、むやみに戦を吹っ掛ける気はないようだがな」

 戦をすれば領は荒廃する。苦労するのは領民たちだ。たしかに、する必要のない戦を仕掛ける必要性はない。外交で済ませられるのであれば、その方がよほど良い。戦争はあくまで、最終手段であるべきだとアリツェも思う。

「まぁ、私も無駄死にをするつもりはさらさらない。十分気を付けるさ。ただ、陛下の考えが頑ななのは間違いない。私の身に万が一が起こらないとも限らないっていうのは、紛れもない事実なんだ」

「はい、その点は理解していますわ」

 第一皇子ですら、叛意を見せれば処刑をすると宣言する皇帝ベルナルド。ラディムの身に危険が及ぶ可能性は、かなり高い。ここまでのラディムの話で、アリツェも十分に分かった。

「そこでだ、アリツェ。君に頼みたいことがあって、こうして呼んだんだ」

「では、ここからが本題と?」

 ラディムは首肯した。ずいぶんと長い前振りだった。
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