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第十三章 グリューン帰還
4 グリューンよ、わたくしは帰ってきましたわ!
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辺境伯領を出て、アリツェたち一行はプリンツ子爵領の領都グリューンへと馬車で向かった。
「はぁ……、なぜアリツェも一緒なんですか?」
クリスティーナから不満げな声が漏れた。
アリツェは頭を抱えたかった。よりにもよってこの長い旅路を、クリスティーナと同じ馬車に同乗する羽目になるとは。周囲の言い分では、同い年の女の子同士、仲良くおしゃべりでもして旅を楽しんでもらおうという配慮らしいのだが……。余計なお世話だった。
「オーッホッホッホ! この件はもともとわたくしに与えられた問題ですわ。クリスティーナ様があとから横入りなさったんですのよ」
アリツェはもう、クリスティーナに対しては雑に対応しようと決めていた。悪役令嬢モードに切り替え、扇子で口元を隠しながら高笑いをあげる。
「まぁっ! この聖女たる私に対して、何たる言い草かしら。これだからちんちくりんは……」
クリスティーナは目をむき、グイっと顔をアリツェに寄せてきた。鬱陶しいことこの上ない。
「何とでもおっしゃってくださいませ。……これから向かうプリンツ子爵家は、わたくしの実家でもありますの。ですから、わたくしが全責任を負うのは当然でございましょう?」
アリツェは近づくクリスティーナの顔を手で押し返し、顔をしかめた。
「ふぅん……、あんた、子爵の養女でもあったんだ」
アリツェの言葉を聞くや、クリスティーナは表情を一変させた。いきなり神妙な顔をされたので、アリツェは少々面食らう。
「不本意ながら、そのとおりですわ」
「ま、あの子爵のうわさはいろいろ聞いているわ。あんたも大変だったのね」
そう口にしながら、クリスティーナはアリツェの頭をやさしく撫でた。
「な、何ですの急に……。何か企んでいらっしゃるのですか?」
突然の態度豹変に、何か含むものでもあるのではないかとアリツェは警戒し、後ずさった。
「いえ、別に……。たまには聖女らしい言葉でもかけようかなって」
クリスティーナはにこりと笑った。……普段からこんな殊勝な態度でいれば、良い友達になれそうなものなのにと、ふとアリツェは思った。
「とにかく、警告しておきますわ。マルティン子爵は娘を平気で殺そうとした男です。決して油断はなさらないでくださいまし」
態度には態度で返すのが礼儀、アリツェはクリスティーナへの態度を幾分正した。だが、ただの気まぐれだとも思えたので、用心だけは怠らない。
「肝に銘じておくわ……」
クリスティーナはゴクリとつばを飲み込み、素直にうなずいた。
かつてのドミニクとの追跡におびえながらの逃避行とはうってかわり、快適な高速馬車での移動だった。辺境伯邸を出て二週間ばかりで、特段の問題も起きずにグリューンの街に入った。
「随分としみったれた街ね」
クリスティーナのグリューンを見ての第一声だった。
「嘘……、これがグリューンですの?」
アリツェは見慣れたはずのグリューンの中央通りを目にし、絶句した。かつては通りの両側に所狭しと並んでいた、異国情緒あふれる様々な露店。それが、今ではすっかり数を減らしていた。通りを歩く人の姿もまばらで、かつての賑わいからは想像できないほどの寂れっぷりだった。
(こいつはひどいな。活気がまったくなくなっているじゃないか……)
悠太も呆然とつぶやいた。
「ヤゲル王国との交易が途絶えて、一気に辺境の田舎街に没落したって感じですわ」
グリューンの街はヤゲル王国と国境を接していたために、辺境とは思えない賑わいを見せていた。精霊教の禁教化でヤゲルの商人の往来が止まってしまえば、このような結果になるのも当然ではあった。
「元は違ったのかしら?」
今の寂寥感漂うグリューンしか知らないクリスティーナは、元の賑わいを全く想像できないのだろう。しきりに首をかしげている。
「ええ、ヤゲル王国の商人の往来も多く、様々な国の物品が所狭しと並べられ、皆うきうきと買い物を楽しむとても活気のある街でしたの。それが、こんな……」
アリツェは再びぐるりと周囲を見回した。街の人の表情も、疲れ切っているかのように暗かった。
「はぁ……、なぜアリツェも一緒なんですか?」
クリスティーナから不満げな声が漏れた。
アリツェは頭を抱えたかった。よりにもよってこの長い旅路を、クリスティーナと同じ馬車に同乗する羽目になるとは。周囲の言い分では、同い年の女の子同士、仲良くおしゃべりでもして旅を楽しんでもらおうという配慮らしいのだが……。余計なお世話だった。
「オーッホッホッホ! この件はもともとわたくしに与えられた問題ですわ。クリスティーナ様があとから横入りなさったんですのよ」
アリツェはもう、クリスティーナに対しては雑に対応しようと決めていた。悪役令嬢モードに切り替え、扇子で口元を隠しながら高笑いをあげる。
「まぁっ! この聖女たる私に対して、何たる言い草かしら。これだからちんちくりんは……」
クリスティーナは目をむき、グイっと顔をアリツェに寄せてきた。鬱陶しいことこの上ない。
「何とでもおっしゃってくださいませ。……これから向かうプリンツ子爵家は、わたくしの実家でもありますの。ですから、わたくしが全責任を負うのは当然でございましょう?」
アリツェは近づくクリスティーナの顔を手で押し返し、顔をしかめた。
「ふぅん……、あんた、子爵の養女でもあったんだ」
アリツェの言葉を聞くや、クリスティーナは表情を一変させた。いきなり神妙な顔をされたので、アリツェは少々面食らう。
「不本意ながら、そのとおりですわ」
「ま、あの子爵のうわさはいろいろ聞いているわ。あんたも大変だったのね」
そう口にしながら、クリスティーナはアリツェの頭をやさしく撫でた。
「な、何ですの急に……。何か企んでいらっしゃるのですか?」
突然の態度豹変に、何か含むものでもあるのではないかとアリツェは警戒し、後ずさった。
「いえ、別に……。たまには聖女らしい言葉でもかけようかなって」
クリスティーナはにこりと笑った。……普段からこんな殊勝な態度でいれば、良い友達になれそうなものなのにと、ふとアリツェは思った。
「とにかく、警告しておきますわ。マルティン子爵は娘を平気で殺そうとした男です。決して油断はなさらないでくださいまし」
態度には態度で返すのが礼儀、アリツェはクリスティーナへの態度を幾分正した。だが、ただの気まぐれだとも思えたので、用心だけは怠らない。
「肝に銘じておくわ……」
クリスティーナはゴクリとつばを飲み込み、素直にうなずいた。
かつてのドミニクとの追跡におびえながらの逃避行とはうってかわり、快適な高速馬車での移動だった。辺境伯邸を出て二週間ばかりで、特段の問題も起きずにグリューンの街に入った。
「随分としみったれた街ね」
クリスティーナのグリューンを見ての第一声だった。
「嘘……、これがグリューンですの?」
アリツェは見慣れたはずのグリューンの中央通りを目にし、絶句した。かつては通りの両側に所狭しと並んでいた、異国情緒あふれる様々な露店。それが、今ではすっかり数を減らしていた。通りを歩く人の姿もまばらで、かつての賑わいからは想像できないほどの寂れっぷりだった。
(こいつはひどいな。活気がまったくなくなっているじゃないか……)
悠太も呆然とつぶやいた。
「ヤゲル王国との交易が途絶えて、一気に辺境の田舎街に没落したって感じですわ」
グリューンの街はヤゲル王国と国境を接していたために、辺境とは思えない賑わいを見せていた。精霊教の禁教化でヤゲルの商人の往来が止まってしまえば、このような結果になるのも当然ではあった。
「元は違ったのかしら?」
今の寂寥感漂うグリューンしか知らないクリスティーナは、元の賑わいを全く想像できないのだろう。しきりに首をかしげている。
「ええ、ヤゲル王国の商人の往来も多く、様々な国の物品が所狭しと並べられ、皆うきうきと買い物を楽しむとても活気のある街でしたの。それが、こんな……」
アリツェは再びぐるりと周囲を見回した。街の人の表情も、疲れ切っているかのように暗かった。
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