145 / 272
第十三章 グリューン帰還
6 聖女の役目をきちんとまっとうなさってくださいませ
しおりを挟む
翌日、早々に宿を出たアリツェとクリスティーナは領館へと向かった。
「お前は、アリツェ!? 戻ってきたのか!」
門番に要件を告げると、館から血相を変えて初老の男が駆けつけてきた。子爵邸の筆頭執事だった。
「オーッホッホッホ! お久しぶりでございますわ。いつぞやは、わたくしをいない子扱いしてくださったそうですわね。お世話になったエマ様から聞いておりますわ」
エマ経由で聞いたこの男のアリツェへの言い草は、今でも覚えていた。いない娘扱いをした件について一言文句を言ってやりたかったが、今は私情をはさんでいる場合ではない。さっさとマルティンに会うために話をとおさなければならなかった。
「ふんっ、いまさら我が子爵家に何の用だ! 没落した様子を笑いにでも来たのか?」
執事は尊大な態度で言い捨てる。この男とは子爵邸にいたころからあまり折り合いがよかったとは言えない。もともと良い印象は持っていなかったが、再会してみても、アリツェの執事への評価は変わることはなかった。マルティンの権力をかさに着て威張り散らす小物。所詮はその程度の男なのだろう。
「いいえ、違いますわ。……ちょっと、お耳をよろしいかしら」
あまり近づきたくはなかったが、アリツェはぐっとこらえて執事に耳打ちをした。アリツェがこっそり世界再生教に宗旨替えをしたこと、国王からの指示でマルティンに会いに来たこと、アリツェが仲介して国王との関係を取り持つこと、などを。
「それは本当か!? わかった、すぐに旦那様との面会の手はずを整える。しばらく応接室で待っていなさい」
執事は態度を一変させ、慌てて子爵邸へと戻っていった。
あまりの変節ぶりにアリツェは苦笑を漏らしつつ、指示されたように応接室へと向かった。応接室は領館一階にある。
「随分とあっさり入れてもらえたけれど、あんたいったいあの執事に何を話したの?」
一連の流れを黙って見守っていたクリスティーナは、訳が分からないと言いたげにアリツェに向き直り、首をかしげた。
「うふふ、秘密ですわ」
アリツェは悪戯っぽくニコリと笑いかける。
「まっ! 失礼しちゃうわね」
クリスティーナはぷいっと横を向き、口を尖らせた。
「そのうちわかりますわ……。それはそうと、クリスティーナ様は精霊教の『聖女』でいらっしゃいますわよね」
「当り前じゃない。何よ、いまさら」
アリツェの問いに、クリスティーナは鼻を鳴らす。
「そのお役目、ゆめゆめ忘れることのなきよう、お伝えしておきますわ」
これから計画している世界再生教を通じたアリツェとマルティンとの共謀。その場面で、クリスティーナにアリツェたちを糾弾させることこそが、クリスティーナに手柄を立てさせるための作戦だ。なので、しっかりとクリスティーナにはアリツェの意図どおりに動いてもらいたかった。
「いったい何が言いたいの?」
「わたくしと子爵との間に何があろうと、精霊教の『聖女』としての行動をしっかりととっていただきたい。そう申し上げておりますわ」
この場ではっきりと理由を言うわけにもいかないので、アリツェは肝心な部分を濁しながら、なんとかクリスティーナを誘導しようと試みた。ここで『聖女』の義務を強調し、クリスティーナの心に刻んでおけば、きっとクリスティーナは正義感に駆られてアリツェたちを非難するはず。
「……意図がわからないわね」
クリスティーナは頭を振り、ため息をついた。
「その時になれば、お分かりになりますわ」
ドミニクにいいところを見せたいと意気込んでいるのだから、まず間違いなくクリスティーナはアリツェの望んだとおりの行動をしてくれるだろう。せっかく自分を殺してまで、表面上とはいえ嫌いなマルティンと共謀を図るように見せかけるのだ。これで失敗されたらたまらない。
(頼みますわよ、クリスティーナ様……)
「お前は、アリツェ!? 戻ってきたのか!」
門番に要件を告げると、館から血相を変えて初老の男が駆けつけてきた。子爵邸の筆頭執事だった。
「オーッホッホッホ! お久しぶりでございますわ。いつぞやは、わたくしをいない子扱いしてくださったそうですわね。お世話になったエマ様から聞いておりますわ」
エマ経由で聞いたこの男のアリツェへの言い草は、今でも覚えていた。いない娘扱いをした件について一言文句を言ってやりたかったが、今は私情をはさんでいる場合ではない。さっさとマルティンに会うために話をとおさなければならなかった。
「ふんっ、いまさら我が子爵家に何の用だ! 没落した様子を笑いにでも来たのか?」
執事は尊大な態度で言い捨てる。この男とは子爵邸にいたころからあまり折り合いがよかったとは言えない。もともと良い印象は持っていなかったが、再会してみても、アリツェの執事への評価は変わることはなかった。マルティンの権力をかさに着て威張り散らす小物。所詮はその程度の男なのだろう。
「いいえ、違いますわ。……ちょっと、お耳をよろしいかしら」
あまり近づきたくはなかったが、アリツェはぐっとこらえて執事に耳打ちをした。アリツェがこっそり世界再生教に宗旨替えをしたこと、国王からの指示でマルティンに会いに来たこと、アリツェが仲介して国王との関係を取り持つこと、などを。
「それは本当か!? わかった、すぐに旦那様との面会の手はずを整える。しばらく応接室で待っていなさい」
執事は態度を一変させ、慌てて子爵邸へと戻っていった。
あまりの変節ぶりにアリツェは苦笑を漏らしつつ、指示されたように応接室へと向かった。応接室は領館一階にある。
「随分とあっさり入れてもらえたけれど、あんたいったいあの執事に何を話したの?」
一連の流れを黙って見守っていたクリスティーナは、訳が分からないと言いたげにアリツェに向き直り、首をかしげた。
「うふふ、秘密ですわ」
アリツェは悪戯っぽくニコリと笑いかける。
「まっ! 失礼しちゃうわね」
クリスティーナはぷいっと横を向き、口を尖らせた。
「そのうちわかりますわ……。それはそうと、クリスティーナ様は精霊教の『聖女』でいらっしゃいますわよね」
「当り前じゃない。何よ、いまさら」
アリツェの問いに、クリスティーナは鼻を鳴らす。
「そのお役目、ゆめゆめ忘れることのなきよう、お伝えしておきますわ」
これから計画している世界再生教を通じたアリツェとマルティンとの共謀。その場面で、クリスティーナにアリツェたちを糾弾させることこそが、クリスティーナに手柄を立てさせるための作戦だ。なので、しっかりとクリスティーナにはアリツェの意図どおりに動いてもらいたかった。
「いったい何が言いたいの?」
「わたくしと子爵との間に何があろうと、精霊教の『聖女』としての行動をしっかりととっていただきたい。そう申し上げておりますわ」
この場ではっきりと理由を言うわけにもいかないので、アリツェは肝心な部分を濁しながら、なんとかクリスティーナを誘導しようと試みた。ここで『聖女』の義務を強調し、クリスティーナの心に刻んでおけば、きっとクリスティーナは正義感に駆られてアリツェたちを非難するはず。
「……意図がわからないわね」
クリスティーナは頭を振り、ため息をついた。
「その時になれば、お分かりになりますわ」
ドミニクにいいところを見せたいと意気込んでいるのだから、まず間違いなくクリスティーナはアリツェの望んだとおりの行動をしてくれるだろう。せっかく自分を殺してまで、表面上とはいえ嫌いなマルティンと共謀を図るように見せかけるのだ。これで失敗されたらたまらない。
(頼みますわよ、クリスティーナ様……)
0
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています
黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。
彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。
ようやく手に入れた穏やかな日々。
しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。
彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。
そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。
「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。
「いつものことだから、君のせいじゃないよ」
これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。
二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。
心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる