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第十三章 グリューン帰還
6 聖女の役目をきちんとまっとうなさってくださいませ
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翌日、早々に宿を出たアリツェとクリスティーナは領館へと向かった。
「お前は、アリツェ!? 戻ってきたのか!」
門番に要件を告げると、館から血相を変えて初老の男が駆けつけてきた。子爵邸の筆頭執事だった。
「オーッホッホッホ! お久しぶりでございますわ。いつぞやは、わたくしをいない子扱いしてくださったそうですわね。お世話になったエマ様から聞いておりますわ」
エマ経由で聞いたこの男のアリツェへの言い草は、今でも覚えていた。いない娘扱いをした件について一言文句を言ってやりたかったが、今は私情をはさんでいる場合ではない。さっさとマルティンに会うために話をとおさなければならなかった。
「ふんっ、いまさら我が子爵家に何の用だ! 没落した様子を笑いにでも来たのか?」
執事は尊大な態度で言い捨てる。この男とは子爵邸にいたころからあまり折り合いがよかったとは言えない。もともと良い印象は持っていなかったが、再会してみても、アリツェの執事への評価は変わることはなかった。マルティンの権力をかさに着て威張り散らす小物。所詮はその程度の男なのだろう。
「いいえ、違いますわ。……ちょっと、お耳をよろしいかしら」
あまり近づきたくはなかったが、アリツェはぐっとこらえて執事に耳打ちをした。アリツェがこっそり世界再生教に宗旨替えをしたこと、国王からの指示でマルティンに会いに来たこと、アリツェが仲介して国王との関係を取り持つこと、などを。
「それは本当か!? わかった、すぐに旦那様との面会の手はずを整える。しばらく応接室で待っていなさい」
執事は態度を一変させ、慌てて子爵邸へと戻っていった。
あまりの変節ぶりにアリツェは苦笑を漏らしつつ、指示されたように応接室へと向かった。応接室は領館一階にある。
「随分とあっさり入れてもらえたけれど、あんたいったいあの執事に何を話したの?」
一連の流れを黙って見守っていたクリスティーナは、訳が分からないと言いたげにアリツェに向き直り、首をかしげた。
「うふふ、秘密ですわ」
アリツェは悪戯っぽくニコリと笑いかける。
「まっ! 失礼しちゃうわね」
クリスティーナはぷいっと横を向き、口を尖らせた。
「そのうちわかりますわ……。それはそうと、クリスティーナ様は精霊教の『聖女』でいらっしゃいますわよね」
「当り前じゃない。何よ、いまさら」
アリツェの問いに、クリスティーナは鼻を鳴らす。
「そのお役目、ゆめゆめ忘れることのなきよう、お伝えしておきますわ」
これから計画している世界再生教を通じたアリツェとマルティンとの共謀。その場面で、クリスティーナにアリツェたちを糾弾させることこそが、クリスティーナに手柄を立てさせるための作戦だ。なので、しっかりとクリスティーナにはアリツェの意図どおりに動いてもらいたかった。
「いったい何が言いたいの?」
「わたくしと子爵との間に何があろうと、精霊教の『聖女』としての行動をしっかりととっていただきたい。そう申し上げておりますわ」
この場ではっきりと理由を言うわけにもいかないので、アリツェは肝心な部分を濁しながら、なんとかクリスティーナを誘導しようと試みた。ここで『聖女』の義務を強調し、クリスティーナの心に刻んでおけば、きっとクリスティーナは正義感に駆られてアリツェたちを非難するはず。
「……意図がわからないわね」
クリスティーナは頭を振り、ため息をついた。
「その時になれば、お分かりになりますわ」
ドミニクにいいところを見せたいと意気込んでいるのだから、まず間違いなくクリスティーナはアリツェの望んだとおりの行動をしてくれるだろう。せっかく自分を殺してまで、表面上とはいえ嫌いなマルティンと共謀を図るように見せかけるのだ。これで失敗されたらたまらない。
(頼みますわよ、クリスティーナ様……)
「お前は、アリツェ!? 戻ってきたのか!」
門番に要件を告げると、館から血相を変えて初老の男が駆けつけてきた。子爵邸の筆頭執事だった。
「オーッホッホッホ! お久しぶりでございますわ。いつぞやは、わたくしをいない子扱いしてくださったそうですわね。お世話になったエマ様から聞いておりますわ」
エマ経由で聞いたこの男のアリツェへの言い草は、今でも覚えていた。いない娘扱いをした件について一言文句を言ってやりたかったが、今は私情をはさんでいる場合ではない。さっさとマルティンに会うために話をとおさなければならなかった。
「ふんっ、いまさら我が子爵家に何の用だ! 没落した様子を笑いにでも来たのか?」
執事は尊大な態度で言い捨てる。この男とは子爵邸にいたころからあまり折り合いがよかったとは言えない。もともと良い印象は持っていなかったが、再会してみても、アリツェの執事への評価は変わることはなかった。マルティンの権力をかさに着て威張り散らす小物。所詮はその程度の男なのだろう。
「いいえ、違いますわ。……ちょっと、お耳をよろしいかしら」
あまり近づきたくはなかったが、アリツェはぐっとこらえて執事に耳打ちをした。アリツェがこっそり世界再生教に宗旨替えをしたこと、国王からの指示でマルティンに会いに来たこと、アリツェが仲介して国王との関係を取り持つこと、などを。
「それは本当か!? わかった、すぐに旦那様との面会の手はずを整える。しばらく応接室で待っていなさい」
執事は態度を一変させ、慌てて子爵邸へと戻っていった。
あまりの変節ぶりにアリツェは苦笑を漏らしつつ、指示されたように応接室へと向かった。応接室は領館一階にある。
「随分とあっさり入れてもらえたけれど、あんたいったいあの執事に何を話したの?」
一連の流れを黙って見守っていたクリスティーナは、訳が分からないと言いたげにアリツェに向き直り、首をかしげた。
「うふふ、秘密ですわ」
アリツェは悪戯っぽくニコリと笑いかける。
「まっ! 失礼しちゃうわね」
クリスティーナはぷいっと横を向き、口を尖らせた。
「そのうちわかりますわ……。それはそうと、クリスティーナ様は精霊教の『聖女』でいらっしゃいますわよね」
「当り前じゃない。何よ、いまさら」
アリツェの問いに、クリスティーナは鼻を鳴らす。
「そのお役目、ゆめゆめ忘れることのなきよう、お伝えしておきますわ」
これから計画している世界再生教を通じたアリツェとマルティンとの共謀。その場面で、クリスティーナにアリツェたちを糾弾させることこそが、クリスティーナに手柄を立てさせるための作戦だ。なので、しっかりとクリスティーナにはアリツェの意図どおりに動いてもらいたかった。
「いったい何が言いたいの?」
「わたくしと子爵との間に何があろうと、精霊教の『聖女』としての行動をしっかりととっていただきたい。そう申し上げておりますわ」
この場ではっきりと理由を言うわけにもいかないので、アリツェは肝心な部分を濁しながら、なんとかクリスティーナを誘導しようと試みた。ここで『聖女』の義務を強調し、クリスティーナの心に刻んでおけば、きっとクリスティーナは正義感に駆られてアリツェたちを非難するはず。
「……意図がわからないわね」
クリスティーナは頭を振り、ため息をついた。
「その時になれば、お分かりになりますわ」
ドミニクにいいところを見せたいと意気込んでいるのだから、まず間違いなくクリスティーナはアリツェの望んだとおりの行動をしてくれるだろう。せっかく自分を殺してまで、表面上とはいえ嫌いなマルティンと共謀を図るように見せかけるのだ。これで失敗されたらたまらない。
(頼みますわよ、クリスティーナ様……)
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