わたくし悪役令嬢になりますわ! ですので、お兄様は皇帝になってくださいませ!

ふみきり

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第十四章 悠太と優里菜、移ろいゆく心

3 お兄様の不意の訪問ですわ

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 初経を迎えた翌日、意外な客人がグリューンにやってきた。

「お嬢様、ラディム様がいらっしゃっておりますが」

「まぁ、お兄様が! 応接室にお通しして」

 侍女からの報告を受け、アリツェは驚いて声を上げた。何の先触れも寄こさずに訪れるとは、何かあったのだろうか。

 アリツェは急ぎ支度をし、応接室に向かった。






「今、辺境伯軍を離れて大丈夫なんですの? お兄様が旗印になっているのですから、支障があるのでは?」

 アリツェは応接室に入るや、開口一番、ラディムの状況を憂うた。

 対帝国の大義名分となるのが、ラディムの存在だ。そのラディムが単独で軍を離れて、前線とは真逆のグリューンに足を運ぶのは、正直、あまり好ましくはないと思う。つまりは、そうせざるを得ないほど、何か重大な問題が発生したのではないかと、アリツェは疑った。

「ああ、まぁな……。ただ、叔父上に無理を言って、後を託してきた。実は、アリツェに相談したい件があってな」

「わたくしに相談ですの?」

 やはり、何か問題が発生したようだ。だが、わざわざアリツェに相談とは、いったい何だろうか。

「……何というか、ちょっとデリケートな話題というか……。同じ転生者で、片割れでもあるお前にしか相談ができない」

 ラディムは少しバツが悪そうに言葉を濁した。

「わかりました、伺いますわ」

 転生者であり双子の妹であるアリツェにしか相談できない悩み。はたして、何だろうか。

「いや、実はな。相談したいのは私ではなくて、優里菜なんだ。それも、悠太と話がしたいと」

 ラディムの言葉にアリツェは首をかしげた。ラディム本人ではなく、優里菜が、しかも、アリツェではなく悠太と話したいとは。ということは、転生者の現実世界の話か、VRMMO『精霊たちの憂鬱』がらみの話か……。

「はぁ……。では、ここではちょっと場所が悪いですわね。二人が表に出て会話をしている場面を、家の者に見られるとまずいですわ。わたくしの部屋に移動しましょう」

 フェルディナントから送り込まれた信頼のできる者しか、今は傍においていない。だが、転生がらみの話はまさにトップシークレットともいえる。むやみやたらに知られるわけにもいかなかった。






 ラディムを伴い自室に戻ると、アリツェはベッドサイドに腰を下ろした。ラディムもアリツェの勧めた椅子に座り込む。

「では、わたくしは眠りにつき、あとは悠太様にお任せしますわ」

 アリツェはゆっくりと目を閉じた。

「こちらも優里菜に代わる。優里菜、あとは任せたぞ」

 ラディムの声が聞こえたところで、アリツェの意識は落ちていった……。






 やがて、悠太は意識を浮上させ、目を開いた。同じく目を開いた優里菜をそっと見つめる。

「……久しぶりだね、悠太君」

「ああ、久しぶりだ、優里菜」

 悠太は優里菜と挨拶を交わしあい、押し黙った。しばしの沈黙が流れる。

「実はね、相談があるんだ。……その、私の身体のこと、そして、私の考え方の変化のこと……」

 やがて、意を決したかのように、優里菜はぽつりぽつりと語りだした。

「もしかして……、優里菜もなのか?」

 悠太は優里菜の言葉を聞き、ハッと目をむいた。まさに、今悠太が悩んでいる内容と同じではないかと。

「え? もしかして、悠太君も……?」

 優里菜は戸惑ったようにぽかんとしている。

「身体の性別に、人格の思考が引きずられているって話だろ? オレも最近、アリツェっぽい考え方になってきて、悩んでいるんだ。……あまつさえ、君ではなくて、ドミニクに心惹かれる始末だ。参ったよ」

 悠太は顔をしかめながら、頭を振った。

「そうなんだ……。私も、思考がラディム君っぽくなってきて、しかも、悠太君へのこだわりもだいぶ薄くなってきたの」

 優里菜は力なさげに肩を落とす。

「自分の転生素体の父に、悠太君――カレルを選ぶくらいに、好きだったはずなのに」

 優里菜は「なんでかなぁ……」とため息をついた。
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