155 / 272
第十四章 悠太と優里菜、移ろいゆく心
4 悠太様と優里菜様……
しおりを挟む
「それで、あの……。これも、ちょっと言いにくいんだけれど、ラディム君の身体も何というか、大人になったというか……」
一転、優里菜は頬を染めて、言葉を濁した。
「皆まで言わないでくれ、優里菜。アリツェの体も同じなんだ、つい先日、月の物がはじまった」
察した悠太は優里菜を止めた。それ以上言うなと。だんだん、こっぱずかしい暴露大会になりつつあった。
「そう……。このまま私たち、素体側の人格に吸収されちゃうのかな? 本来は私たちのための転生素体だったはずなのにね」
「ヴァーツラフのやつ、いったい何を考えていやがるんだろう」
優里菜もやはり、悠太と同様の懸念を感じているようだ。転生素体側の人格へ同化させられるのではないかと。
「思うんだけれど、やっぱり私と悠太君、入り込むべき身体が逆だったのかもしれないね。どう考えても、人格と身体の性別のギャップのせいで、今の問題が生じているとしか思えないもん」
「そうだよなぁ……」
優里菜の推論が、一番納得のできる現状の説明だと悠太も思った。以前、アリツェとラディムが双子だと判明した際に、悠太と優里菜の人格が入り込むべき素体が逆だったのではないかと考えたことがあった。今のこの状況を鑑みれば、その時の考えは間違ってはいなかったのだと悠太は思う。
悠太がラディム、優里菜がアリツェに入り込んでいたならば、おそらくすんなり人格の統合がなされたはずだ。
「でもそうなると、もう根本的な解決は無理ってことだよね。いまさら身体と人格を交換だなんて、できないし」
優里菜は顔をゆがめ、深いため息をついた。
「もう、それぞれの身体の性別を受け入れて、ラディムやアリツェの人格に素直に統合されるしか、ないのかもしれないな……」
一度流れ始めたこの人格の変化は、いまさら止められないかもしれない。
「別に、記憶は引き継がれるようだし、私たちの人生ってことで変わりはないと言えば、変わりはないのかもしれないけれど……」
「あぁ……、できれば元の人格のままの人生を送りたかったな」
人格の根本の部分が変わってしまっては、やはり第二の人生とは言えないのではないかとも思う。
「ごめんね、悠太君。もうあなたに、特別な感情をほとんど抱けない。ただの仲の良い異性の友人程度にしか……」
優里菜が悲しそうに表情を曇らせる。
「オレも同じだ。優里菜をあれほど好きだったはずなのに、今ではそんな気持ちがどこかに行ってしまった……。すまない」
悠太もユリナ同様だった。無くしてしまった感情を憂い、優里菜に謝罪した。
「身体の性別に合わせて脳の構造も作られているんじゃ、仕方がないよ。もう少し成り行きを見守りつつ、いざ、どうしようもなくなったら、素直に運命を受け入れて人格統合されましょう」
優里菜は半ば、あきらめているようだ。
「そうだな……。こうして、オリジナルの人格で優里菜と話せるのも、これが最後の機会かもしれない。よかったよ、会えて」
変えようがない運命にこれ以上抗う真似は無理だと、悠太も薄々感づいていた。そうであるならば、元の人格が残っているうちに、こうして優里菜とゆっくり話す機会を持てたのは、幸運だったのかもしれない。
「うん、私も……。それじゃあね、悠太君。次に会うときは、ムシュカ伯爵領かな?」
優里菜はうっすらと目に涙を浮かべていた。
「そうだな……。ドミニクとは話がついた。近日中に開催される王都の宴で、婚約破棄が発表され、オレは王国を追放されるだろう。今のところ、予定どおり行先はムシュカ伯爵領になるはずだ」
グリューンに留まれない以上は、ムシュカ伯爵領以外に行く当てがなかった。
「もしそうなったら、先にムシュカ伯爵領で待っていてね。対帝国戦に一息ついたら、私も辺境伯軍からムシュカ伯爵軍に転籍する予定だから」
「まぁ、他国の軍隊で戦うよりは、反乱軍とはいえ、自国の軍で戦ってベルナルドを討った方が、のちのラディムによる権力掌握を考えるといいだろうしな」
今は王国側の参戦の大義名分づくりで辺境伯軍として行動をしているが、最終的には同じ帝国の人間であるムシュカ伯爵領軍に所属し、伯爵領軍が主体で皇帝を討った方が、勝利後、ラディムが皇帝について国を掌握する際、帝国臣民の理解も得られやすいだろう。フェイシア王国からの侵略というイメージは持たれないように、細心の注意を払って行動しなければならない。
「そういうこと。じゃ、また会える日を楽しみにしているよ。その時はもう、悠太君はいなくて、アリツェちゃんだけかもしれないけれどね」
今の人格変化の速度を考えれば、優里菜の言うとおり、次に会うときはもう人格がそれぞれの転生素体に吸収されている可能性が高い。やはり、これが元人格として会える最後の機会だろう。
「テストプレイが終わったら、いつかリアルでも会ってみたいな。まぁ、ベッドから身動きの取れないオレには、適わない願いだけれどな」
完全介護の寝たきり状態の悠太には、とても実現不可能な望みだった。
「うん、そうだね……」
優里菜も悲しげな表情でつぶやいた。
悠太と優里菜の会話が終わり、再びアリツェとラディムの人格が浮上した。
アリツェはいい機会だと思い、立ち上がって部屋の隅に移動した。
「お兄様……」
アリツェはそう口にしながら、棚に置かれた素焼きの壺を手に取った。
「どうした、アリツェ」
突然のアリツェの行動に、ラディムは首をかしげた。
「こちらを……。どうか、お兄様のところで、眠らせてあげてくださいませ」
アリツェはラディムの傍に移動すると、手に持つ壺を手渡した。
「これは、もしや……」
ラディムは壺に掛けられた布を外し、中身を覗き込んで目を見開いた。
「ええ、マリエさんの遺骨ですわ」
アリツェは渋面を浮かべつつ、うなずいた。
「……わかった」
ラディムは壺を大事に胸に抱くと、ゆっくりと目を閉じ、マリエの名を呼んだ。
(これで、わたくしのお兄様とマリエ様に対する贖罪はすべてですわ。お二人が納得してくれるかどうかは別と致しまして、勤めは果たしましたわ)
眼前で涙を流すラディムの姿を見遣りながら、アリツェは胸を突き上げる気持ちを必死で抑え、涙をこらえた。今泣くのは、ラディムのみであるべきだと思い……。
一転、優里菜は頬を染めて、言葉を濁した。
「皆まで言わないでくれ、優里菜。アリツェの体も同じなんだ、つい先日、月の物がはじまった」
察した悠太は優里菜を止めた。それ以上言うなと。だんだん、こっぱずかしい暴露大会になりつつあった。
「そう……。このまま私たち、素体側の人格に吸収されちゃうのかな? 本来は私たちのための転生素体だったはずなのにね」
「ヴァーツラフのやつ、いったい何を考えていやがるんだろう」
優里菜もやはり、悠太と同様の懸念を感じているようだ。転生素体側の人格へ同化させられるのではないかと。
「思うんだけれど、やっぱり私と悠太君、入り込むべき身体が逆だったのかもしれないね。どう考えても、人格と身体の性別のギャップのせいで、今の問題が生じているとしか思えないもん」
「そうだよなぁ……」
優里菜の推論が、一番納得のできる現状の説明だと悠太も思った。以前、アリツェとラディムが双子だと判明した際に、悠太と優里菜の人格が入り込むべき素体が逆だったのではないかと考えたことがあった。今のこの状況を鑑みれば、その時の考えは間違ってはいなかったのだと悠太は思う。
悠太がラディム、優里菜がアリツェに入り込んでいたならば、おそらくすんなり人格の統合がなされたはずだ。
「でもそうなると、もう根本的な解決は無理ってことだよね。いまさら身体と人格を交換だなんて、できないし」
優里菜は顔をゆがめ、深いため息をついた。
「もう、それぞれの身体の性別を受け入れて、ラディムやアリツェの人格に素直に統合されるしか、ないのかもしれないな……」
一度流れ始めたこの人格の変化は、いまさら止められないかもしれない。
「別に、記憶は引き継がれるようだし、私たちの人生ってことで変わりはないと言えば、変わりはないのかもしれないけれど……」
「あぁ……、できれば元の人格のままの人生を送りたかったな」
人格の根本の部分が変わってしまっては、やはり第二の人生とは言えないのではないかとも思う。
「ごめんね、悠太君。もうあなたに、特別な感情をほとんど抱けない。ただの仲の良い異性の友人程度にしか……」
優里菜が悲しそうに表情を曇らせる。
「オレも同じだ。優里菜をあれほど好きだったはずなのに、今ではそんな気持ちがどこかに行ってしまった……。すまない」
悠太もユリナ同様だった。無くしてしまった感情を憂い、優里菜に謝罪した。
「身体の性別に合わせて脳の構造も作られているんじゃ、仕方がないよ。もう少し成り行きを見守りつつ、いざ、どうしようもなくなったら、素直に運命を受け入れて人格統合されましょう」
優里菜は半ば、あきらめているようだ。
「そうだな……。こうして、オリジナルの人格で優里菜と話せるのも、これが最後の機会かもしれない。よかったよ、会えて」
変えようがない運命にこれ以上抗う真似は無理だと、悠太も薄々感づいていた。そうであるならば、元の人格が残っているうちに、こうして優里菜とゆっくり話す機会を持てたのは、幸運だったのかもしれない。
「うん、私も……。それじゃあね、悠太君。次に会うときは、ムシュカ伯爵領かな?」
優里菜はうっすらと目に涙を浮かべていた。
「そうだな……。ドミニクとは話がついた。近日中に開催される王都の宴で、婚約破棄が発表され、オレは王国を追放されるだろう。今のところ、予定どおり行先はムシュカ伯爵領になるはずだ」
グリューンに留まれない以上は、ムシュカ伯爵領以外に行く当てがなかった。
「もしそうなったら、先にムシュカ伯爵領で待っていてね。対帝国戦に一息ついたら、私も辺境伯軍からムシュカ伯爵軍に転籍する予定だから」
「まぁ、他国の軍隊で戦うよりは、反乱軍とはいえ、自国の軍で戦ってベルナルドを討った方が、のちのラディムによる権力掌握を考えるといいだろうしな」
今は王国側の参戦の大義名分づくりで辺境伯軍として行動をしているが、最終的には同じ帝国の人間であるムシュカ伯爵領軍に所属し、伯爵領軍が主体で皇帝を討った方が、勝利後、ラディムが皇帝について国を掌握する際、帝国臣民の理解も得られやすいだろう。フェイシア王国からの侵略というイメージは持たれないように、細心の注意を払って行動しなければならない。
「そういうこと。じゃ、また会える日を楽しみにしているよ。その時はもう、悠太君はいなくて、アリツェちゃんだけかもしれないけれどね」
今の人格変化の速度を考えれば、優里菜の言うとおり、次に会うときはもう人格がそれぞれの転生素体に吸収されている可能性が高い。やはり、これが元人格として会える最後の機会だろう。
「テストプレイが終わったら、いつかリアルでも会ってみたいな。まぁ、ベッドから身動きの取れないオレには、適わない願いだけれどな」
完全介護の寝たきり状態の悠太には、とても実現不可能な望みだった。
「うん、そうだね……」
優里菜も悲しげな表情でつぶやいた。
悠太と優里菜の会話が終わり、再びアリツェとラディムの人格が浮上した。
アリツェはいい機会だと思い、立ち上がって部屋の隅に移動した。
「お兄様……」
アリツェはそう口にしながら、棚に置かれた素焼きの壺を手に取った。
「どうした、アリツェ」
突然のアリツェの行動に、ラディムは首をかしげた。
「こちらを……。どうか、お兄様のところで、眠らせてあげてくださいませ」
アリツェはラディムの傍に移動すると、手に持つ壺を手渡した。
「これは、もしや……」
ラディムは壺に掛けられた布を外し、中身を覗き込んで目を見開いた。
「ええ、マリエさんの遺骨ですわ」
アリツェは渋面を浮かべつつ、うなずいた。
「……わかった」
ラディムは壺を大事に胸に抱くと、ゆっくりと目を閉じ、マリエの名を呼んだ。
(これで、わたくしのお兄様とマリエ様に対する贖罪はすべてですわ。お二人が納得してくれるかどうかは別と致しまして、勤めは果たしましたわ)
眼前で涙を流すラディムの姿を見遣りながら、アリツェは胸を突き上げる気持ちを必死で抑え、涙をこらえた。今泣くのは、ラディムのみであるべきだと思い……。
0
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています
黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。
彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。
ようやく手に入れた穏やかな日々。
しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。
彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。
そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。
「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。
「いつものことだから、君のせいじゃないよ」
これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。
二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。
心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる