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第1章 灰色狼の王国
第3話 死んで死んで死にまくれ
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地上に辿り着くまでに、一体何度死んだだろうか。
歪な棘を纏ったドラゴン。岩山のような一ツ目の巨人。地獄の番犬ケルベロスを彷彿とさせる三つ頭の怪鳥。
まともに戦って勝ったわけではない。何度も殺され、貪られ、その度に「復元」された新しい肉体で、泥臭く、執念深く、怪物の喉元を食い破ってきたのだ。
「はぁ、はぁ……。ようやく、着いたぞ」
数ヶ月。あるいはそれ以上の月日が流れたかもしれない。
食料などない地下で、バッシュは殺したモンスターの肉を喰らって生き延びてきた。
空腹で死ぬことはないが、胃の腑を焼くような不快感には耐えられない。もっとも、この世界の怪物の肉はどれだけ調理しようが、泥と鉄の味がして吐き気がする代物だったが。
眩い光を期待してくぐり抜けたダンジョンの出口。
しかし、そこに広がっていたのは、見渡す限りの焦土だった。
【ほら見ろ。言っただろう? この世界はすでに戦争の渦中だ】
「ペンタラゴン……。俺様は、あの中で何回死んだ?」
肩に担いだ黒い剣が、悦に浸るような声で答える。
【良い質問だ。あの地獄の道中にお前の死体が「99,999体」転がっているぞ。……あと一体でキリが良かったんだがな】
「……そうか。その死体、片付けるのは御免だぜ」
【さあな、放置しておけばそのうち何かの食料にでもなるだろうよ】
「……まずは、街に戻る」
【もう手遅れだとは思うがな】
「異世界だの魔王だの、世界がどうなろうと知ったこっちゃねえ。俺様はまず、俺を裏切ったあのクソ共(クラメン)に、きっちり落とし前をつけなきゃならねえんだ」
バッシュはペンタラゴンの腹を指先で弾き、不気味な笑みを浮かべた。地獄を見てきた男の瞳には、かつての卑屈さは微塵も残っていない。
★ 灰色狼王国・冒険者ギルド
「――だから、バッシュは死んだのよ。崖から足を踏み外して、助からなかった」
円卓の騎士団のリーダー、ミリエルは貧乏ゆすりをしながら、ギルドマスターのギフターズに報告していた。 ギフターズは右目の眼帯を指でいじりながら、冷ややかな視線を向ける。
「……そうですか。他のメンバーがかすり傷一つ負っていないのに、彼だけが転落死、ですか。妙なこともあるものだ」
「不運だったのよ! ……それより、この地鳴りは何なの!? 空の色もオーロラも、何もかもが狂ってるわ!」
ミリエルの言う通りだった。外では地震が絶え間なく続き、黒い雲が空を覆い尽くしている。 ギフターズは無精髭を撫でながら、窓の外を見つめた。
「まるで、バッシュ殿の死を世界そのものが嘆いているようではありませんか」
「……はは、そんなわけないでしょ。あんなゴミ一人の死で」
鼻で笑ったその瞬間だった。
「――ぎ、ぎやあああああああああああ!!」
酒場の入り口から、悲鳴と共に一人の女性冒険者が転がり込んできた。 いや、転がってきたのは彼女の「頭部」が先だった。 切断面から鮮血を撒き散らし、ずれた首が床を転がる。
その後ろから、一人の男がゆっくりと歩いてくる。
両目を瞑り、黒い帽子を深く被った東方の異邦人。腰には禍々しい黒刀を二本帯刀している。
「貴様……何者だ。ギルド内で何をしている!」
ギフターズが鋭く問うが、ミリエルは腰を抜かして動けない。
何より異常だったのは、首を落とされたはずの女性が、ゆっくりと立ち上がったことだ。
「あははっ、ばーれちゃったぁ!」
女はけらけらと笑いながら、自分の頭を拾い上げ、接合させる。
そして、呆然としていた円卓の騎士団の一人、戦士ガナバスの首筋に猛然と食らいついた。
「が、あ……っ!?」
「あーら、ごつい男の肉は硬くて美味しくないわねぇ!」
バリ、ボキッ、と生々しい音が響く。 ガナバスは声も出せず、その場に崩れ落ちて即死した。魔性の女は、大きな口を開けて彼の死体を咀嚼し、まるで手品のようにその巨体を平らげていく。
「ヴ、ヴァンパイア……!?」
「いや、違うな。そいつは『魔王』だ」
目を瞑った男が口角を上げた。
「この世界に、尋常じゃない数の魔王クラスが流れ込んできている。面白い場所だ、ここは」
「あら、あたしの正体に気付くなんて。あたしはグルタファールニエル。あなた、この世界の人間じゃないわね?」
「ああ。俺はデッド・パーカー。『殺せば殺すほど強くなる』呪いを受けた、どこぞの国の王子さ。お前を殺せば、一気にレベルが上がりそうだ」
「あらぁ。でも、あたし、とってもお腹が空いてるの」
異世界の魔王と、異世界の狂戦士。 次元の壁が壊れたギルド内が、圧倒的な殺気に支配されたその時。
――ドォォォォォォォォォォン!!
街全体を揺らすほどの地響きと、大轟音が響き渡った。 それは、世界が決定的な「終わり」を告げる音であり、同時に、地獄から生還した一人の男が、この乱世に乱入した合図でもあった。
歪な棘を纏ったドラゴン。岩山のような一ツ目の巨人。地獄の番犬ケルベロスを彷彿とさせる三つ頭の怪鳥。
まともに戦って勝ったわけではない。何度も殺され、貪られ、その度に「復元」された新しい肉体で、泥臭く、執念深く、怪物の喉元を食い破ってきたのだ。
「はぁ、はぁ……。ようやく、着いたぞ」
数ヶ月。あるいはそれ以上の月日が流れたかもしれない。
食料などない地下で、バッシュは殺したモンスターの肉を喰らって生き延びてきた。
空腹で死ぬことはないが、胃の腑を焼くような不快感には耐えられない。もっとも、この世界の怪物の肉はどれだけ調理しようが、泥と鉄の味がして吐き気がする代物だったが。
眩い光を期待してくぐり抜けたダンジョンの出口。
しかし、そこに広がっていたのは、見渡す限りの焦土だった。
【ほら見ろ。言っただろう? この世界はすでに戦争の渦中だ】
「ペンタラゴン……。俺様は、あの中で何回死んだ?」
肩に担いだ黒い剣が、悦に浸るような声で答える。
【良い質問だ。あの地獄の道中にお前の死体が「99,999体」転がっているぞ。……あと一体でキリが良かったんだがな】
「……そうか。その死体、片付けるのは御免だぜ」
【さあな、放置しておけばそのうち何かの食料にでもなるだろうよ】
「……まずは、街に戻る」
【もう手遅れだとは思うがな】
「異世界だの魔王だの、世界がどうなろうと知ったこっちゃねえ。俺様はまず、俺を裏切ったあのクソ共(クラメン)に、きっちり落とし前をつけなきゃならねえんだ」
バッシュはペンタラゴンの腹を指先で弾き、不気味な笑みを浮かべた。地獄を見てきた男の瞳には、かつての卑屈さは微塵も残っていない。
★ 灰色狼王国・冒険者ギルド
「――だから、バッシュは死んだのよ。崖から足を踏み外して、助からなかった」
円卓の騎士団のリーダー、ミリエルは貧乏ゆすりをしながら、ギルドマスターのギフターズに報告していた。 ギフターズは右目の眼帯を指でいじりながら、冷ややかな視線を向ける。
「……そうですか。他のメンバーがかすり傷一つ負っていないのに、彼だけが転落死、ですか。妙なこともあるものだ」
「不運だったのよ! ……それより、この地鳴りは何なの!? 空の色もオーロラも、何もかもが狂ってるわ!」
ミリエルの言う通りだった。外では地震が絶え間なく続き、黒い雲が空を覆い尽くしている。 ギフターズは無精髭を撫でながら、窓の外を見つめた。
「まるで、バッシュ殿の死を世界そのものが嘆いているようではありませんか」
「……はは、そんなわけないでしょ。あんなゴミ一人の死で」
鼻で笑ったその瞬間だった。
「――ぎ、ぎやあああああああああああ!!」
酒場の入り口から、悲鳴と共に一人の女性冒険者が転がり込んできた。 いや、転がってきたのは彼女の「頭部」が先だった。 切断面から鮮血を撒き散らし、ずれた首が床を転がる。
その後ろから、一人の男がゆっくりと歩いてくる。
両目を瞑り、黒い帽子を深く被った東方の異邦人。腰には禍々しい黒刀を二本帯刀している。
「貴様……何者だ。ギルド内で何をしている!」
ギフターズが鋭く問うが、ミリエルは腰を抜かして動けない。
何より異常だったのは、首を落とされたはずの女性が、ゆっくりと立ち上がったことだ。
「あははっ、ばーれちゃったぁ!」
女はけらけらと笑いながら、自分の頭を拾い上げ、接合させる。
そして、呆然としていた円卓の騎士団の一人、戦士ガナバスの首筋に猛然と食らいついた。
「が、あ……っ!?」
「あーら、ごつい男の肉は硬くて美味しくないわねぇ!」
バリ、ボキッ、と生々しい音が響く。 ガナバスは声も出せず、その場に崩れ落ちて即死した。魔性の女は、大きな口を開けて彼の死体を咀嚼し、まるで手品のようにその巨体を平らげていく。
「ヴ、ヴァンパイア……!?」
「いや、違うな。そいつは『魔王』だ」
目を瞑った男が口角を上げた。
「この世界に、尋常じゃない数の魔王クラスが流れ込んできている。面白い場所だ、ここは」
「あら、あたしの正体に気付くなんて。あたしはグルタファールニエル。あなた、この世界の人間じゃないわね?」
「ああ。俺はデッド・パーカー。『殺せば殺すほど強くなる』呪いを受けた、どこぞの国の王子さ。お前を殺せば、一気にレベルが上がりそうだ」
「あらぁ。でも、あたし、とってもお腹が空いてるの」
異世界の魔王と、異世界の狂戦士。 次元の壁が壊れたギルド内が、圧倒的な殺気に支配されたその時。
――ドォォォォォォォォォォン!!
街全体を揺らすほどの地響きと、大轟音が響き渡った。 それは、世界が決定的な「終わり」を告げる音であり、同時に、地獄から生還した一人の男が、この乱世に乱入した合図でもあった。
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