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第1章 灰色狼の王国
第4話 凶王子デッド・パーカー
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ギルド「灰色狼の牙」の建物が、内側からの圧力に耐えかねたように悲鳴を上げている。
天井から降り注ぐ埃と、焦げ付いた鉄の臭い。その中心で、異世界の魔王グルタファールニエルが、愉悦に満ちた声を上げていた。
「あはっ! この世界の絶望、とっても美味しいわ! ねえ、次は誰の肉体を啜ってあげようかしら?」
魔王の足元では、かつてのバッシュの仲間、戦士ガナバスだった「肉塊」が、食い散らかされた無惨な姿を晒している。
「ひ、ひぃ……あ、ああ……」
リーダーのミリエルは、腰を抜かしたまま後退り、自分の股間が温かくなるのを自覚して顔を屈辱に歪めた。プライドも、野心も、魔王の圧倒的な暴力の前では塵に等しい。
だが、その殺戮の舞台を、冷ややかに見つめる男がもう一人いた。 東方の黒帽子を被った狂王子デッド・パーカーだ。彼は腰の二振りの黒刀に手をかけることもなく、ただ鼻を鳴らした。
「笑わせるな。お前はただの『肥え太った経験値』だ。俺のレベルを上げるための、質の良い餌に過ぎない」
「あら、生意気な口を叩く坊や。死にたいの?」
一触即発。 二つの異世界の理が衝突しようとしたその瞬間――。
ドォォォォォォォォン!!
ギルドの正面扉が、紙屑のように吹き飛んだ。
爆風と共に足を踏み入れたのは、ボロボロの布切れを纏い、泥と返り血に塗れた一人の男だった。
肩には、禍々しいほどの闇を纏った黒い剣。
「……随分と、賑やかじゃねえか。俺様がいねえ間に、クソみたいなパーティでも開いてたのか?」
その声を聞いた瞬間、ミリエルの呼吸が止まった。
「……バ、バッシュ? 嘘よ、死んだはずよ。奈落の底に落ちて、助かるはずなんて……!」
バッシュはミリエルを一瞥だにしなかった。かつて、自分を無慈悲に切り捨てた女。その顔を見ても、今の彼に沸き起こるのは激しい憎悪ではなく、ただ「無」に近い乾いた感情だった。10万回の死は、恨みという感情すらも磨耗させていた。
「バッシュだと……? ミリエル、あいつ、あの最弱のバッシュなのか……?」
震える僧侶クラデリエルが声を漏らすが、バッシュの纏う気配は、彼らの知る「荷物持ち」のそれではない。
デッド・パーカーが、ゆっくりと首を傾けた。
その閉じられた眼の奥から、狂気じみた光が漏れ出す。
「……ほう。面白いのが来たな」
パーカーは魔王から興味を逸らし、バッシュへと歩み寄る。
「お前……いい匂いがするぞ。数え切れないほどの死と、腐りかけた魂の臭いだ。お前を殺せば、俺は一体どれだけ強くなれる?」
「試してみるか? 『殺し屋』さんよ」
バッシュが不敵に笑った、その直後だった。
閃光。
パーカーの抜刀は、視認することすら不可能だった。
シュン、という短い風切り音と共に、バッシュの首が宙を舞った。
鮮血が噴水のように吹き上がり、バッシュの胴体が糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
「あはははは! 馬鹿ね、首を跳ねられたら終わりよ!」
ミリエルが狂ったように笑い声を上げた。自分を裏切り者と糾弾するかもしれない男が消えたことに、安堵したのだ。
だが、パーカーの表情は険しかった。
「……チッ、手応えがない。殺したはずなのに、経験値が少ししか入ってこないだと?」
床に転がっていたバッシュの頭部と胴体。
そして、パーカーの真後ろ。何もない空間からバッシュが「再生」した。
衣服も、髪の一本一本も寸分違わず複製されて。
「――っ、がぁあぁあああああああああ!!」
バッシュが叫ぶ。それは勝利の咆哮ではない。全身の細胞を無理やり繋ぎ合わせ、魂を引き摺り戻される「再生の激痛」への悲鳴だ。
脂汗を流し、バッシュは膝をつく。だが、その瞳は死んでいない。
【ククク、やはりこの男の『死』は美味いな。パーカーよ、お前の殺しは美しい。だが、この男は世界の均衡を壊す調停者……簡単に刈り取れると思うなよ】
バッシュの担ぐペンタラゴンが、不気味に共鳴する。
「……今ので、10万回目だ」
バッシュが立ち上がる。その体つきが、再生する前よりも微かに「太く」なっているのを、パーカーは見逃さなかった。
「死ぬたびに、俺様の肉体はお前への『耐性』を作る。お前の太刀筋、お前の殺気……全部、俺の魂が覚えちまったぜ」
パーカーの口角が吊り上がった。それは歓喜の笑みだった。
「最高だ。無限に殺せて、無限に強くなる糧。お前は俺のために用意された『神の供物』か!」
「勘違いするな。俺様は、誰の道具でもねえ」
バッシュが一歩踏み出す。その踏み込みだけで、石造りの床が蜘蛛の巣状に砕け散った。 速い。
ダンジョンに入る前とは比較にならない、暴力的なまでの身体能力。
バッシュの黒剣と、パーカーの黒刀が真っ向から激突した。 キィィィィィィィィィィィン!!
鼓膜を突き破らんばかりの金属音が響き、衝撃波だけで周囲のテーブルや椅子が粉砕される。
「あはっ、面白そう! 二人まとめて食べちゃっていいかしら!」
蚊帳の外に置かれた魔王グルタファールニエルが、背中から無数の触手を伸ばし、二人に襲いかかる。
だが、バッシュとパーカーは、背中合わせのまま同時に動いた。
「邪魔だ、化け物!」 「経験値(エサ)は黙っていろ」
バッシュの横薙ぎの一閃が魔王の触手を断ち切り、同時にパーカーの刺突が魔王の心臓を貫く。 魔王の叫びがギルドに木霊する中、バッシュは笑った。
「決めたぜ、パーカー。お前を殺すのは最後にしてやる。その代わり……地上に戻ったばかりで、右も左もわからねえんだ。世界がどうなってるか、その刀で教えてくれよ」
「……いいだろう。お前が枯れるまで、何度でも殺してやる」
死ねない男と、殺し続ける男。 最悪の二人が手を組んだ――あるいは、終わりのない殺し合いを始めたその瞬間。
ギルドの窓の外、空が赤く染まった。
異世界からの軍勢が、ついにこの「灰色狼の王国」へと進軍を開始したのだ。
バッシュ・ブラッドリーの、本当の意味での「ロールプレイング」が、今ここに幕を開けた。
天井から降り注ぐ埃と、焦げ付いた鉄の臭い。その中心で、異世界の魔王グルタファールニエルが、愉悦に満ちた声を上げていた。
「あはっ! この世界の絶望、とっても美味しいわ! ねえ、次は誰の肉体を啜ってあげようかしら?」
魔王の足元では、かつてのバッシュの仲間、戦士ガナバスだった「肉塊」が、食い散らかされた無惨な姿を晒している。
「ひ、ひぃ……あ、ああ……」
リーダーのミリエルは、腰を抜かしたまま後退り、自分の股間が温かくなるのを自覚して顔を屈辱に歪めた。プライドも、野心も、魔王の圧倒的な暴力の前では塵に等しい。
だが、その殺戮の舞台を、冷ややかに見つめる男がもう一人いた。 東方の黒帽子を被った狂王子デッド・パーカーだ。彼は腰の二振りの黒刀に手をかけることもなく、ただ鼻を鳴らした。
「笑わせるな。お前はただの『肥え太った経験値』だ。俺のレベルを上げるための、質の良い餌に過ぎない」
「あら、生意気な口を叩く坊や。死にたいの?」
一触即発。 二つの異世界の理が衝突しようとしたその瞬間――。
ドォォォォォォォォン!!
ギルドの正面扉が、紙屑のように吹き飛んだ。
爆風と共に足を踏み入れたのは、ボロボロの布切れを纏い、泥と返り血に塗れた一人の男だった。
肩には、禍々しいほどの闇を纏った黒い剣。
「……随分と、賑やかじゃねえか。俺様がいねえ間に、クソみたいなパーティでも開いてたのか?」
その声を聞いた瞬間、ミリエルの呼吸が止まった。
「……バ、バッシュ? 嘘よ、死んだはずよ。奈落の底に落ちて、助かるはずなんて……!」
バッシュはミリエルを一瞥だにしなかった。かつて、自分を無慈悲に切り捨てた女。その顔を見ても、今の彼に沸き起こるのは激しい憎悪ではなく、ただ「無」に近い乾いた感情だった。10万回の死は、恨みという感情すらも磨耗させていた。
「バッシュだと……? ミリエル、あいつ、あの最弱のバッシュなのか……?」
震える僧侶クラデリエルが声を漏らすが、バッシュの纏う気配は、彼らの知る「荷物持ち」のそれではない。
デッド・パーカーが、ゆっくりと首を傾けた。
その閉じられた眼の奥から、狂気じみた光が漏れ出す。
「……ほう。面白いのが来たな」
パーカーは魔王から興味を逸らし、バッシュへと歩み寄る。
「お前……いい匂いがするぞ。数え切れないほどの死と、腐りかけた魂の臭いだ。お前を殺せば、俺は一体どれだけ強くなれる?」
「試してみるか? 『殺し屋』さんよ」
バッシュが不敵に笑った、その直後だった。
閃光。
パーカーの抜刀は、視認することすら不可能だった。
シュン、という短い風切り音と共に、バッシュの首が宙を舞った。
鮮血が噴水のように吹き上がり、バッシュの胴体が糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
「あはははは! 馬鹿ね、首を跳ねられたら終わりよ!」
ミリエルが狂ったように笑い声を上げた。自分を裏切り者と糾弾するかもしれない男が消えたことに、安堵したのだ。
だが、パーカーの表情は険しかった。
「……チッ、手応えがない。殺したはずなのに、経験値が少ししか入ってこないだと?」
床に転がっていたバッシュの頭部と胴体。
そして、パーカーの真後ろ。何もない空間からバッシュが「再生」した。
衣服も、髪の一本一本も寸分違わず複製されて。
「――っ、がぁあぁあああああああああ!!」
バッシュが叫ぶ。それは勝利の咆哮ではない。全身の細胞を無理やり繋ぎ合わせ、魂を引き摺り戻される「再生の激痛」への悲鳴だ。
脂汗を流し、バッシュは膝をつく。だが、その瞳は死んでいない。
【ククク、やはりこの男の『死』は美味いな。パーカーよ、お前の殺しは美しい。だが、この男は世界の均衡を壊す調停者……簡単に刈り取れると思うなよ】
バッシュの担ぐペンタラゴンが、不気味に共鳴する。
「……今ので、10万回目だ」
バッシュが立ち上がる。その体つきが、再生する前よりも微かに「太く」なっているのを、パーカーは見逃さなかった。
「死ぬたびに、俺様の肉体はお前への『耐性』を作る。お前の太刀筋、お前の殺気……全部、俺の魂が覚えちまったぜ」
パーカーの口角が吊り上がった。それは歓喜の笑みだった。
「最高だ。無限に殺せて、無限に強くなる糧。お前は俺のために用意された『神の供物』か!」
「勘違いするな。俺様は、誰の道具でもねえ」
バッシュが一歩踏み出す。その踏み込みだけで、石造りの床が蜘蛛の巣状に砕け散った。 速い。
ダンジョンに入る前とは比較にならない、暴力的なまでの身体能力。
バッシュの黒剣と、パーカーの黒刀が真っ向から激突した。 キィィィィィィィィィィィン!!
鼓膜を突き破らんばかりの金属音が響き、衝撃波だけで周囲のテーブルや椅子が粉砕される。
「あはっ、面白そう! 二人まとめて食べちゃっていいかしら!」
蚊帳の外に置かれた魔王グルタファールニエルが、背中から無数の触手を伸ばし、二人に襲いかかる。
だが、バッシュとパーカーは、背中合わせのまま同時に動いた。
「邪魔だ、化け物!」 「経験値(エサ)は黙っていろ」
バッシュの横薙ぎの一閃が魔王の触手を断ち切り、同時にパーカーの刺突が魔王の心臓を貫く。 魔王の叫びがギルドに木霊する中、バッシュは笑った。
「決めたぜ、パーカー。お前を殺すのは最後にしてやる。その代わり……地上に戻ったばかりで、右も左もわからねえんだ。世界がどうなってるか、その刀で教えてくれよ」
「……いいだろう。お前が枯れるまで、何度でも殺してやる」
死ねない男と、殺し続ける男。 最悪の二人が手を組んだ――あるいは、終わりのない殺し合いを始めたその瞬間。
ギルドの窓の外、空が赤く染まった。
異世界からの軍勢が、ついにこの「灰色狼の王国」へと進軍を開始したのだ。
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