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第1章 灰色狼の王国
第5話 鋼の天軍、崩壊の王国
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それは、空が「割れる」音だった。
ギルドの吹き飛んだ天井から見上げる空。そこには、赤く染まった雲を切り裂き、巨大な幾何学模様の「穴」がいくつも開いていた。
「な、なにあれ……」
ミリエルが震える指で空を指す。穴の向こう側から姿を現したのは、この世界のドラゴンでも魔王の軍勢でもなかった。
白銀に輝く、巨大な鋼鉄の船。そして、その甲板から無数に飛び出してきたのは、純白の翼を持ちながらも、全身が冷徹な歯車と魔力回路で構成された、異世界の兵器――『鋼鉄の聖天使(アイアン・エンジェル)』の軍勢だった。
「――全生命体の識別を開始。この座標の文明レベル、規定値以下と判断。掃射を開始せよ」
機械的な、感情を削ぎ落とした声が空から降り注ぐ。
直後、数千もの「聖天使」の指先から、高密度の魔力レーザーが雨のように地上へ放たれた。
ドガガガガガガガガ!! 一瞬だった。ギルドの周辺に広がっていた賑やかな街並みが、光の奔流によってバターのように溶け、爆発し、瓦礫の山へと変わる。逃げ惑う冒険者や市民たちが、悲鳴を上げる間もなく光に焼かれ、蒸発していく。
「ひ、ひぎゃあああああああ!!」
ギルドの中にまで光の束が突き刺さり、床が爆ぜる。
かつて最強を誇ったギルドマスター・ギフターズですら、その一撃を防ぎきれず、右腕を肩から焼き切られて転倒した。
「おいおい、なんだよ。あいつら……」
バッシュが瓦礫の中から立ち上がる。その体には、今しがた掠めたレーザーによる深い火傷が刻まれていたが、黒い霧が立ち込めると同時に、皮膚は急速に再生していく。
「……見たことがない文明だな。だが、都合がいい」
デッド・パーカーは、降り注ぐレーザーの雨の中を、ダンスでも踊るかのような足取りで回避しながら、抜刀した。
「生物じゃなくても、魂が宿っていれば『経験値』になる。あの数……全部殺せば、俺は一気に次元を超えられるぞ」
「欲張りなこった。だが、ありゃあ『死』の味じゃねえ。ただの鉄の味だぜ」
バッシュはペンタラゴンを低く構えた。
「ペンタラゴン、あれも『調停』の対象か?」
【ああ。あれは『秩序の異世界』から来た掃除機どもだ。混沌としたこのブラッシュワールドを、ゴミとして処分しに来たのさ。気に入らねえな、他人の庭で掃除を始めるとは】
一体の「聖天使」が、ギルドの残骸に舞い降りた。
身長は三メートルを超え、顔の部分には十字形のセンサーが不気味に発光している。
「生存者確認。個体名:バッシュ・ブラッドリー。特異点と判断。優先排除対象に指定」
「俺様を知ってるのか? 有名になったもんだ」
バッシュが踏み込む。
だが、聖天使の反応速度は異常だった。機械の翼がブーストを吹かせ、バッシュの剣筋を紙一重で回避。逆に、その重厚な鋼鉄の拳がバッシュの腹部を貫通した。
「ぐ、ふ……っ!!」
内臓をぶち撒け、バッシュの体がくの字に折れる。 聖天使はそのまま、右腕に仕込まれたブレードを展開し、バッシュの胴体を真っ二つに両断した。
「バッシュ!!」
なぜか叫んでいたのは、ミリエルだった。自分を裏切り、見捨てたはずの男が死ぬ姿を見て、彼女の心に何かがよぎったのか。あるいは、彼が死ねば次は自分が殺されるという恐怖からか。
しかし、デッド・パーカーは笑っていた。
「……おい、鉄クズ。そいつに深入りしすぎるな。そいつは『死ぬ』のが趣味なんだよ」
パーカーの言葉通りだった。 二つに分かたれ、地面に転がったバッシュの死体が、凄まじい勢いで腐敗し、煙となって消える。 そして、聖天使の真上――空中に、新たなバッシュが「発生」した。
「――10万と、2回目だ!!」
バッシュの叫び。その右腕は、先ほど聖天使に貫かれたことで「鋼鉄の硬度」を学習していた。 再生された筋肉は鋼よりも硬く、血管には熱線への耐性を備えた魔力が駆け巡る。
ドォォォォン!!
バッシュのペンタラゴンが、聖天使の白銀の頭部を叩き潰した。 火花が散り、油が吹き出す。
「……反応速度、防御力、修正完了だ。次は、もう当たらねえぜ」
着地したバッシュの横を、黒い閃光が通り過ぎた。
デッド・パーカーだ。彼は一瞬で三体の聖天使をバラバラのパーツへと変え、その返り油を浴びて陶酔したような表情を浮かべている。
「素晴らしい……! 一体殺すごとに、俺の神経が加速していく! バッシュ、この街の連中が全員死ぬ前に、空の『船』を落とすぞ!」
「ああ、好きにしろ。ただし、俺様の復讐対象(ミリエルたち)を勝手に殺すんじゃねえぞ。そいつらは、この絶望を最後まで特等席で見せてやるんだからな」
バッシュは背後の瓦礫にうずくまるミリエルを一瞥し、残酷な笑みを浮かべた。
灰色の王国の都は、今や炎と光、そして機械の咆哮が支配する殺戮場と化していた。
空を埋め尽くす異世界の軍勢。
それに対し、たった二人の「狂った英雄」が、蹂躙される街を蹂躙し返すために、地獄の行進を開始した。
ギルドの吹き飛んだ天井から見上げる空。そこには、赤く染まった雲を切り裂き、巨大な幾何学模様の「穴」がいくつも開いていた。
「な、なにあれ……」
ミリエルが震える指で空を指す。穴の向こう側から姿を現したのは、この世界のドラゴンでも魔王の軍勢でもなかった。
白銀に輝く、巨大な鋼鉄の船。そして、その甲板から無数に飛び出してきたのは、純白の翼を持ちながらも、全身が冷徹な歯車と魔力回路で構成された、異世界の兵器――『鋼鉄の聖天使(アイアン・エンジェル)』の軍勢だった。
「――全生命体の識別を開始。この座標の文明レベル、規定値以下と判断。掃射を開始せよ」
機械的な、感情を削ぎ落とした声が空から降り注ぐ。
直後、数千もの「聖天使」の指先から、高密度の魔力レーザーが雨のように地上へ放たれた。
ドガガガガガガガガ!! 一瞬だった。ギルドの周辺に広がっていた賑やかな街並みが、光の奔流によってバターのように溶け、爆発し、瓦礫の山へと変わる。逃げ惑う冒険者や市民たちが、悲鳴を上げる間もなく光に焼かれ、蒸発していく。
「ひ、ひぎゃあああああああ!!」
ギルドの中にまで光の束が突き刺さり、床が爆ぜる。
かつて最強を誇ったギルドマスター・ギフターズですら、その一撃を防ぎきれず、右腕を肩から焼き切られて転倒した。
「おいおい、なんだよ。あいつら……」
バッシュが瓦礫の中から立ち上がる。その体には、今しがた掠めたレーザーによる深い火傷が刻まれていたが、黒い霧が立ち込めると同時に、皮膚は急速に再生していく。
「……見たことがない文明だな。だが、都合がいい」
デッド・パーカーは、降り注ぐレーザーの雨の中を、ダンスでも踊るかのような足取りで回避しながら、抜刀した。
「生物じゃなくても、魂が宿っていれば『経験値』になる。あの数……全部殺せば、俺は一気に次元を超えられるぞ」
「欲張りなこった。だが、ありゃあ『死』の味じゃねえ。ただの鉄の味だぜ」
バッシュはペンタラゴンを低く構えた。
「ペンタラゴン、あれも『調停』の対象か?」
【ああ。あれは『秩序の異世界』から来た掃除機どもだ。混沌としたこのブラッシュワールドを、ゴミとして処分しに来たのさ。気に入らねえな、他人の庭で掃除を始めるとは】
一体の「聖天使」が、ギルドの残骸に舞い降りた。
身長は三メートルを超え、顔の部分には十字形のセンサーが不気味に発光している。
「生存者確認。個体名:バッシュ・ブラッドリー。特異点と判断。優先排除対象に指定」
「俺様を知ってるのか? 有名になったもんだ」
バッシュが踏み込む。
だが、聖天使の反応速度は異常だった。機械の翼がブーストを吹かせ、バッシュの剣筋を紙一重で回避。逆に、その重厚な鋼鉄の拳がバッシュの腹部を貫通した。
「ぐ、ふ……っ!!」
内臓をぶち撒け、バッシュの体がくの字に折れる。 聖天使はそのまま、右腕に仕込まれたブレードを展開し、バッシュの胴体を真っ二つに両断した。
「バッシュ!!」
なぜか叫んでいたのは、ミリエルだった。自分を裏切り、見捨てたはずの男が死ぬ姿を見て、彼女の心に何かがよぎったのか。あるいは、彼が死ねば次は自分が殺されるという恐怖からか。
しかし、デッド・パーカーは笑っていた。
「……おい、鉄クズ。そいつに深入りしすぎるな。そいつは『死ぬ』のが趣味なんだよ」
パーカーの言葉通りだった。 二つに分かたれ、地面に転がったバッシュの死体が、凄まじい勢いで腐敗し、煙となって消える。 そして、聖天使の真上――空中に、新たなバッシュが「発生」した。
「――10万と、2回目だ!!」
バッシュの叫び。その右腕は、先ほど聖天使に貫かれたことで「鋼鉄の硬度」を学習していた。 再生された筋肉は鋼よりも硬く、血管には熱線への耐性を備えた魔力が駆け巡る。
ドォォォォン!!
バッシュのペンタラゴンが、聖天使の白銀の頭部を叩き潰した。 火花が散り、油が吹き出す。
「……反応速度、防御力、修正完了だ。次は、もう当たらねえぜ」
着地したバッシュの横を、黒い閃光が通り過ぎた。
デッド・パーカーだ。彼は一瞬で三体の聖天使をバラバラのパーツへと変え、その返り油を浴びて陶酔したような表情を浮かべている。
「素晴らしい……! 一体殺すごとに、俺の神経が加速していく! バッシュ、この街の連中が全員死ぬ前に、空の『船』を落とすぞ!」
「ああ、好きにしろ。ただし、俺様の復讐対象(ミリエルたち)を勝手に殺すんじゃねえぞ。そいつらは、この絶望を最後まで特等席で見せてやるんだからな」
バッシュは背後の瓦礫にうずくまるミリエルを一瞥し、残酷な笑みを浮かべた。
灰色の王国の都は、今や炎と光、そして機械の咆哮が支配する殺戮場と化していた。
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