1 / 23
第1話 奇妙な扉(ゲート)
しおりを挟む
加藤学──三十歳。
三度の飯より三Dモデリングが好きな男だ。
3Dソフトで作ったモデルをダウンロード販売し、なんとか食いつないでいる。
世間的には「在宅ワーカー」という響きがかっこよく聞こえるかもしれないが、実際は実家暮らしで、近所のスーパーの見切り品が主食の、どこにでもいるおっさんである。
実家はリサイクルショップを営んでおり、俺も時々手伝いをしている。
そんな平凡な日常に、突如として“非日常”が割り込んできた。
「学、倉庫の掃除してきて!」
母の一声で渋々倉庫に向かった俺は、埃をかぶったガラクタをかき分けながら奥へ奥へと進む。
そのときだった──
「……なんだこれ?」
壁際に立てかけられた、大きな木製の扉。
いや、扉だけなら珍しくない。問題は、その扉が明らかに場違いなほど古めかしく、まるで中世ファンタジーの城門を切り取ってきたような造りをしていたことだ。
俺の記憶を探っても、こんなものが家にあった覚えはない。
「開けてみるか」
ガチャリ、と金属の取っ手を回すと──
……そこは山だった。
いや、意味がわからない。
倉庫の奥に山が広がっているわけがない。
青空、鳥の鳴き声、そして鼻に抜ける新鮮な草の匂いまで感じられる。
振り返ると、背後は岩山の裂け目になっており、扉の枠ごと異世界の空間に嵌め込まれているようだ。
「……マジで異世界?」
好奇心が勝った俺は、足を一歩踏み出した。
そこには鬱蒼とした森と、見たこともない植物が生い茂っている。
試しにスマホを取り出し、近くの草を撮影してみる。
すると──
【エリクサ:ランクS】
画面に、まるでRPGの鑑定結果のような文字が浮かび上がった。
しかも足元を見渡すと、その“エリクサ”とやらが雑草レベルで群生している。
「おいおい、これ高級回復薬とかそういうやつじゃないのか……?」
異世界ビジネスの可能性が、脳内で一気に膨れ上がる。
……と、そのとき。
茂みの奥から、腰パンの緑色の小人が棍棒を振り上げて突撃してきた。
「ゴブリン!? 本物!?」
慌てて引き返し、扉を閉める。
心臓がバクバク鳴り、膝がわずかに笑っていた。
「……面白いことができそうだ」
ひとまず頭を冷やそうと倉庫を出ると、扉の足元に紙切れが落ちているのに気づいた。
拾い上げると、見覚えのある名前が目に入った。
『加藤博』
……俺の父親だ。
そして、その下にはこう書かれていた。
【ちょいと世界を救ってくるぜ。勇者ってやつをやってくんで、後は頼んだ。この扉のことは内緒な】
「……あのバカ親父、ガキの俺を置いて勇者デビューかよ」
父は俺が五歳のときに行方不明になった。
それがまさか異世界で勇者稼業をやっていたとは……。
生きているのか死んでいるのかすら分からないが、少なくともこの扉は、俺への遺産みたいなものらしい。
「さて……まずは武器だな」
幸い、ここはリサイクルショップ。武器になりそうなガラクタはいくらでもある。
「母さん、武器っぽいのある?」
「学! まさか銀行強盗でもする気じゃないでしょうね!?」
天然パーマの母が腕を組み、ロゴ入りエプロン姿で俺を睨む。
その迫力は、下手なゴブリンより怖い。
「いやいや、熊と戦おうと思って……冗談だよ。異世界で使うんだ」
「何言ってるのか分かんないけど……あそこに競技用のアーチェリーと、売れ残りの木刀があるよ。どうせ処分するだけだし持っていきな」
「お、助かる!」
俺は木刀とアーチェリーを手に入れた。
弓道部経験あり、剣道も少しかじったことがある。
武器の扱いはそこそこ自信がある。
リュックを三つ背負い、袋を大量に詰め込む。
狙いはもちろん、あのエリクサだ。
「リベンジだ!」
扉を開くと、案の定、さっきのゴブリンが暇そうに突っ立っていた。
俺は岩陰から弓を引き絞る。
矢が真っ直ぐに飛び、ゴブリンの額に突き刺さった。
バタリ──。
奴は悲鳴を上げる間もなく絶命し、血が地面を赤く染める。
【レベル5になりました。ジョブを選択できます】
脳内に響く機械的な声。
視界の端に、ステータス画面のようなものが現れた。
そこには“勇者”“戦士”“魔法使い”など、ゲームでお馴染みのジョブがずらりと並んでいる。
だが、俺が選んだのは──
「よし、これだな。商人!」
勇者? 戦士? そんなのどうでもいい。
欲しいのは金を稼ぐ力だ。
【スキル:交渉】【スキル:商店経営】【スキル:商店拡張】【スキル:商品倉庫】【スキル:鑑定】
これが俺の新しい武器。
このスキル、現実でも使えたら……。
口元が自然と吊り上がった。
胸の奥で、リサイクルショップのおっさんから二世界の商人へと変わる予感が、静かに芽生えていた。
三度の飯より三Dモデリングが好きな男だ。
3Dソフトで作ったモデルをダウンロード販売し、なんとか食いつないでいる。
世間的には「在宅ワーカー」という響きがかっこよく聞こえるかもしれないが、実際は実家暮らしで、近所のスーパーの見切り品が主食の、どこにでもいるおっさんである。
実家はリサイクルショップを営んでおり、俺も時々手伝いをしている。
そんな平凡な日常に、突如として“非日常”が割り込んできた。
「学、倉庫の掃除してきて!」
母の一声で渋々倉庫に向かった俺は、埃をかぶったガラクタをかき分けながら奥へ奥へと進む。
そのときだった──
「……なんだこれ?」
壁際に立てかけられた、大きな木製の扉。
いや、扉だけなら珍しくない。問題は、その扉が明らかに場違いなほど古めかしく、まるで中世ファンタジーの城門を切り取ってきたような造りをしていたことだ。
俺の記憶を探っても、こんなものが家にあった覚えはない。
「開けてみるか」
ガチャリ、と金属の取っ手を回すと──
……そこは山だった。
いや、意味がわからない。
倉庫の奥に山が広がっているわけがない。
青空、鳥の鳴き声、そして鼻に抜ける新鮮な草の匂いまで感じられる。
振り返ると、背後は岩山の裂け目になっており、扉の枠ごと異世界の空間に嵌め込まれているようだ。
「……マジで異世界?」
好奇心が勝った俺は、足を一歩踏み出した。
そこには鬱蒼とした森と、見たこともない植物が生い茂っている。
試しにスマホを取り出し、近くの草を撮影してみる。
すると──
【エリクサ:ランクS】
画面に、まるでRPGの鑑定結果のような文字が浮かび上がった。
しかも足元を見渡すと、その“エリクサ”とやらが雑草レベルで群生している。
「おいおい、これ高級回復薬とかそういうやつじゃないのか……?」
異世界ビジネスの可能性が、脳内で一気に膨れ上がる。
……と、そのとき。
茂みの奥から、腰パンの緑色の小人が棍棒を振り上げて突撃してきた。
「ゴブリン!? 本物!?」
慌てて引き返し、扉を閉める。
心臓がバクバク鳴り、膝がわずかに笑っていた。
「……面白いことができそうだ」
ひとまず頭を冷やそうと倉庫を出ると、扉の足元に紙切れが落ちているのに気づいた。
拾い上げると、見覚えのある名前が目に入った。
『加藤博』
……俺の父親だ。
そして、その下にはこう書かれていた。
【ちょいと世界を救ってくるぜ。勇者ってやつをやってくんで、後は頼んだ。この扉のことは内緒な】
「……あのバカ親父、ガキの俺を置いて勇者デビューかよ」
父は俺が五歳のときに行方不明になった。
それがまさか異世界で勇者稼業をやっていたとは……。
生きているのか死んでいるのかすら分からないが、少なくともこの扉は、俺への遺産みたいなものらしい。
「さて……まずは武器だな」
幸い、ここはリサイクルショップ。武器になりそうなガラクタはいくらでもある。
「母さん、武器っぽいのある?」
「学! まさか銀行強盗でもする気じゃないでしょうね!?」
天然パーマの母が腕を組み、ロゴ入りエプロン姿で俺を睨む。
その迫力は、下手なゴブリンより怖い。
「いやいや、熊と戦おうと思って……冗談だよ。異世界で使うんだ」
「何言ってるのか分かんないけど……あそこに競技用のアーチェリーと、売れ残りの木刀があるよ。どうせ処分するだけだし持っていきな」
「お、助かる!」
俺は木刀とアーチェリーを手に入れた。
弓道部経験あり、剣道も少しかじったことがある。
武器の扱いはそこそこ自信がある。
リュックを三つ背負い、袋を大量に詰め込む。
狙いはもちろん、あのエリクサだ。
「リベンジだ!」
扉を開くと、案の定、さっきのゴブリンが暇そうに突っ立っていた。
俺は岩陰から弓を引き絞る。
矢が真っ直ぐに飛び、ゴブリンの額に突き刺さった。
バタリ──。
奴は悲鳴を上げる間もなく絶命し、血が地面を赤く染める。
【レベル5になりました。ジョブを選択できます】
脳内に響く機械的な声。
視界の端に、ステータス画面のようなものが現れた。
そこには“勇者”“戦士”“魔法使い”など、ゲームでお馴染みのジョブがずらりと並んでいる。
だが、俺が選んだのは──
「よし、これだな。商人!」
勇者? 戦士? そんなのどうでもいい。
欲しいのは金を稼ぐ力だ。
【スキル:交渉】【スキル:商店経営】【スキル:商店拡張】【スキル:商品倉庫】【スキル:鑑定】
これが俺の新しい武器。
このスキル、現実でも使えたら……。
口元が自然と吊り上がった。
胸の奥で、リサイクルショップのおっさんから二世界の商人へと変わる予感が、静かに芽生えていた。
0
あなたにおすすめの小説
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
スキル『倍加』でイージーモードな異世界生活
怠惰怠man
ファンタジー
異世界転移した花田梅。
スキル「倍加」により自分のステータスを倍にしていき、超スピードで最強に成り上がる。
何者にも縛られず、自由気ままに好きなことをして生きていくイージーモードな異世界生活。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる