異世界⇔現実 両方やってます商店 ~商売で成り上がってレベルアップ!~

AKISIRO

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第9話 宝石売りの商人

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 再び異世界の村に辿り着いた俺は、まず村の真ん中にある井戸を見た。
 昨日までは干上がっていたそれが、村人たちの手で見事に掘り直され、水が再び湧き出ていた。
 バケツを手にした子ども達が嬉しそうに水を汲んでいる姿を見て、胸の奥が温かくなる。

「よかった……」

 安堵していると、村の広場で腕を組む二人の姿が目に入った。ナナミーとガルだ。

「どうしたんだ?」

 俺が近づくと、ガルが少し困ったように言葉を濁す。

「それが……街に野菜を売りに行こうと思っていたんです」
「なるほど。あの怪物サイズの野菜なら、一儲けできるな」
「はい、ですが……でかすぎて運搬が大変でして」

 ガルの逞しい腕が組まれ、眉間にしわが寄る。
 確かに、あのキャベツや玉ねぎを馬車に積むのは一苦労だろう。

「だったら俺の商品倉庫を使えばいい。――それと、俺は街で宝石を売ろうと思ってる」
「え、宝石……!?」

 ナナミーが驚いて目を見開いた。

「ああ、あるけど……欲しいか?」
「は、はいっ! ぜひ……!」

 その必死な声に押され、俺はリュックから一つ取り出して手渡す。
 透明な輝きを放つそれは、俺の世界では子どものおもちゃに過ぎない。だが、ナナミーは宝石を両手で抱きしめ、目に涙を溜めていた。

「……っ、こんなに美しい宝石、初めて見ました……!」

 その反応に俺も少し不安になり、思わず鑑定を発動する。

【魔法石:ダイヤモンド】
「……やっぱりな」

 俺の世界での玩具は、この世界では魔力を帯びた本物の宝石として扱われるらしい。
 村で迂闊にばらまけば大騒ぎになることは間違いない。
 そこへ、村長がやってきた。

「街に行くのなら、ガルに案内させましょう」
「助かります」
「わ、私も行きます!」

 ナナミーが勢いよく手を挙げる。
 こうして俺、ガル、ナナミーの三人による小さな旅が始まった。

 街道を進むと、定番のようにゴブリンが現れる。
 俺とガルは馬車に揺られながら石を投げるだけで頭を砕き、ナナミーは目を丸くしていた。

「マナブさんって……石ころだけでゴブリン倒せるんですね」
「石は安いし補充しやすいからな」

 実際は倉庫から出した“ただの石”だ。
 こうしてゴブリンを片っ端から排除しつつ進んだが、レベルが10に近づくと、なかなか経験値が入らなくなってきた。
 馬がいないため、ガルが馬車を引く。
 尋常ではない力持ちで、汗一つかかずに進むその姿は、もはや人力戦車のようだ。
 しかも彼は毎日、俺の商品倉庫から持ち出したカップラーメンを平らげている。

「……最近、カップ麺の減りがやけに早いな」

 だが、不思議なことに食えば食うほど彼の筋肉は厚みを増し、動きも軽快になっていった。
 異世界補正なのか、インスタント食品がまるでパワーアップアイテムのようになっているのかもしれない。
 ナナミーと他愛のない会話を続けるうちに、遠くに城壁が見えてきた。
 巨大な門の向こうに広がるのは、多種多様な人種が暮らす街。耳の長いエルフ、背丈の低いドワーフ、獣耳や尻尾を持つ獣人。
 異世界を実感させる景色に、思わず息をのむ。

 門には屈強な守衛が立っていた。

「うぉい、なんで人が馬車を引いてるんだ?」
「馬が全滅しちゃってたんですよ」

 ガルが堂々と答える。いや、それ説明になってないだろ……と心の中で突っ込む俺。

「……そうか」

 いや守衛、それで納得するなよ!

「何用で街に来た?」
「商売です。野菜と……宝石を売りに」
「宝石、だと?」

 守衛の目が一瞬光ったが、すぐに頷いた。

「なら通れ」

 賄賂でも要求されるかと思ったが、この街では法律が厳しく、そういうことはできないらしい。

 街に入ると、まず馬屋で荷台だけを預かってもらう。
 馬がいないことに驚かれたが、無料で保管してくれることになった。
 石畳の通りを歩きながら視線を横に向けると、奴隷市場が目に入った。
 首輪をつけられた人々がうなだれ、瞳から光を失っている。

「……」

 胸がざわつく。だが、ガルは淡々と口にする。

「奴隷は仕方ありません。助けようと思わないでください」
「……いや」

 俺は心の中で決めた。
 必ず、この街の奴隷を買い上げて解放する、と。

「まずは野菜と宝石を売ろう。金を貯めたら、次は店を買いたい」
「マナブさんならきっとできます! 宝石なら、あそこの宝石商が良いです!」

 ナナミーが指差したのは、立派な石造りの建物。
 俺たちは中に入った。
 店内には煌びやかな宝石がずらりと並び、三人の獣人ガードマンが鋭い視線を送っている。
 カウンターには小太りの犬獣人の男――宝石商がいた。

「何用で?」
「宝石を売りたい」
「……ほう。見慣れない服装だな」
「少し遠くから来た」
「そうか」

 宝石商の目がぎらりと光った。
 俺はリュックから宝石を取り出す。
 ナナミーに一つ渡したので、残りは九十九個。
 その数に、宝石商の顔色がみるみる変わっていく。

「あ、あなた様は何者ですか……!? 一つだけでも百万――いや、百万メトムはしますぞ!」
「百万円!?」

 思わず声が出る。
 ガルが慌てて説明を補足した。

「宿屋に三日泊まって一万メトムほど。五百メトムで一食分です」
「……ってことは、一個で百万円分の価値ってことかよ」

 99個――9,900万メトム。
 現実世界の感覚なら、9,900万円。
 俺は目が回りそうになった。

 宝石商は震える手で奥の金庫から巨大な袋を引きずり出した。
 樽ほどもある袋の中には、金貨がぎっしり詰まっている。

「こちらが9,900万メトムでございます……!」

 信じられない量に一瞬ひるむが、鑑定で確認したところ確かに9,900万メトム。
 どうやら誤魔化されてはいない。

「なぁ、宝石商さん。店を買いたいんだが、どこで手続きすればいい?」
「そ、それなら領主の館です。近くに潰れた商家がありまして……900万メトムで購入できます。ただ……幽霊が出ると噂されていますが」
「幽霊か……それでもいい。むしろ面白そうだ」

 こうして、俺たちの次の目的地は領主の館に決まった。
 作物の販売はまだ残っているが、それよりも――俺の胸は、新たに手に入る「店」という響きに高鳴っていた。


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