創者―ソウシャ―

AKISIRO

文字の大きさ
13 / 14

第13話 蒼い魔王デナントス降臨

しおりを挟む
 1人の黒ドワーフがこちらを見て叫んだ。

「待て! このお方は!」

 1人また1人と黒ドワーフが止まった。
 そしてもごもごと会話を始めたではないか。
 ぼくはどうしたものかと彼等を眺めていた。

「さて、このお方は、蒼い魔王ガランドス様ではないだろうか」
「違う、ガランドス様は別大陸に渡られた」
「あのお方は戻ってこなかった」
「違う、ガランドス様は必ず戻って来る!」

「あのーガランドスは親父でして」

「なんだとおおおおおおお」

 黒ドワーフの長らしき人が杖をつついてこちらにやってくる。
 頭を下げて、髭もじゃの髭を撫でながら。
 瞳から涙を流している。

「我ら、お待ちしておりました。ガランドス様の息子さま」

「一体どういう事だ?」

「ここは呪われた遺跡、我らは地上に出る事を許されておりません、出ようとすれば呪いで殺されます。ですがガランドス様がその呪いを解いてくれると誓ってくれたのです。それを待ち、数十年も待ち続けていました。その間。ダンジョンから発生するモンスターを食べて生きておりました」

「一体何人いるんだ?」

「300人でございます。我が民はガランドス様に忠誠を誓っております」

「親父はもういないんだ」

「なんですと!」

「親父、いや父上はもう死んだ」

「そうですか」

「ぼくはデナントスだ。青い魔王」

「いえ、あなたの光は蒼い炎となるはずです。この炎の盃を飲めば」

 後ろからさらに老いた老人がやってくる。
 彼の小さな両手には巨大な杯が握られていた。
 盃の上から溢れんばかりに青い炎がぐねりぐねりと踊っていた。

「青い」

「いえ、これは蒼い炎です。青よりさらに純度が高い蒼でございます」

「これを飲めばいいのか」

「これはあなたの父上様のガランドス様が置いていったものです。この闇の中でも照らし続けてくれると、現にあなたの青い炎はこの闇をも照らしております」

「そうか、飲もう」

 ぼくには一切の迷いもなかった。
 父親の炎を飲む事は一切やった事がない行程だ。
 心のどこかからそれを求める喉の渇きを感じていたのは、確かにあるかもしれない。
 でも父親の臭いを感じ取り。
 父親の暖かさを感じ取り、父親の冷たさを感じ取り。
 一気にぼくはその蒼い炎を飲み込んだのだ。

 口の中に広がる激痛。
 それは火傷を通り越しており、口の中を溶かすようだ。
 だが実際は溶けず。

 父親の記憶が流れてくる。
 記憶は津波となり、頭の中をかき混ぜる。
 沢山の暖かい記憶。
 熱すぎる記憶。
 色々な思い出が流れてくる。 
 頬を雫が垂れた。

 父親がここまで偉業をなしていたのか。
 どれだけの思いを描き。どれだけの覚悟を決めて、ガロルフ大陸でゴブリン達を率いたのか。
 記憶が全てを紐解いてくれる。

 父親は、いや親父は。
 元勇者パーティーのメンバーだったのだから。
 そして勇者グリングシャは元パーティメンバーだったのだから。
 全ては分からない。
 それでも勇者グリングシャと親父は一緒になって戦い。
 一緒に何かを見つけ、そして絶望し。
 何もかも失い。

 そして辿り着いた先で彼等を待っていたのはさらなる絶望で。

 その先は分からない。
 巨大すぎる剣。
 それだけしか見えない。
 剣とは何か、剣がそこにあった。
 あまりにも破壊的で美しい剣。
 その剣を破壊しないといけないのに。
 その巨大すぎる剣を破壊するには絶大なる剣が必用だ。
 それもヴェイクが持っているくらいの剣じゃないと、それもデガスがもっている星の剣くらいじゃないと。

 その1本の巨大な剣の塔が。全てを破壊しつくし。
 全ての世界を統合してしまうのだから。
 それを防ぐために。
 そこで思い出が遮断される。
 何かが邪魔をする。
 
 何かに気付かれる。
 そして意識が覚醒していく。
 青い炎はさらなる純度の高い蒼い炎となりて。
 全身の伝染病のように皮膚が剥がれていく現象ではなく。
 そこにあるのは、皮膚がただれるのではなく。
 単純に蒼い炎そのものの体があった。

「力が凄い」

 指をぱちぱちさせると。炎がまとわりつく。
 今まで怒りを露わにしないと発現しなかったそれは。
 今では静かな怒りをイメージするだけで発現するようになっていった。

 右手に蒼い炎の光をまとめていく。
 次にその炎は地上に向けて放つ。

 天井に巨大な穴が開く。
 そこから光が差し込む。
 黒ドワーフ達が歓声を上げる。

「約束を果たそう、黒ドワーフよ、親父が勝手につけた約束だが。お前達の呪いはぼくが食らいつくそう」

 全身から解き放たれる炎。
 黒ドワーフの全身を焼き尽くす。
 悲鳴が上がるかと思ったら上がらず。
 彼等の皮膚の黒い部分が燃えていく。
 そしてどこにでもいるノーマルドワーフに変貌していく。

 ドワーフ族達は瞳からぽつりぽつりと顔をくしゃくしゃにさせながら。
 ひたすら顔に両手を上げて。
 嗚咽を漏らしながら。わぁわぁと声を上げて泣くのではなく笑っていた。

 顔をぐちゃぐちゃにさせて、しわくちゃな顔なのに。 
 彼等は満足に包まれたかのように、まるで死んでしまったかのように笑っていた。

 ひたすら空を見上げて、巨大な空洞に出来る空洞を見上げて笑っていた。

「空だ!」

「空がある!」

「空があるんだ!」

 彼等はムカデのように岩を駆けのぼる。
 今か今かと遺跡から出て行こうとする。
 地上に向けて。

「さて、ぼくは」

 後ろを振り返る。
 そこには1体の銅像が建てられており。
 黒ドワーフ達が一生懸命作っていたのだろう。
 
 ガランドスという親父の銅像が飾られており。
 銅像はこちらを一心に見つめていたが。
 ただその先にある1本の剣を見ていたのだと知った。

「これは」

 引き抜いた。
 魔剣ではない。
 どこにでもある普通の剣だ。
 だがその剣は折れていた。

「これは、自ら炎を投下させるのか」

 折れた剣から蒼い炎が出現する。

「これは蒼剣にしよう」

 蒼剣。それはぼろぼろの魔剣の次に大事にしようと決意したのだ。

「さて行くか」

 新しい希望に向かって地上に向かった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

二度目の勇者は救わない

銀猫
ファンタジー
 異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。  しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。  それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。  復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?  昔なろうで投稿していたものになります。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

処理中です...