10 / 71
1. 専属騎士の受難
好条件の意図
しおりを挟む
「……なぜ私なのでしょうか」
このアランジュ家は貴族の中でも富豪だ。そのお嬢様ともなれば、優秀な騎士が選ばれることだろう。
それがなぜ、平民出の若輩にお鉢が回ってきたのか、罠か罰かとしか考えられない。
「君が、娘と普通に会話できたからだね」
「か、……いわ?ですか」
どういう基準だ。
普段寡黙で気難しい性格のお嬢様だとでもいうのか。いやそもそも、貴族の娘と会話したことなど──、
「あ、庭の令嬢」
心当たりが思わず漏れた。
「そうそう、その子。名前はオルガ。彼女はアランジュ家の第二子なんだけど、人と会話するのが難しくてね。家族でさえ話をすることができないんだ。あの子とコミュニケーションが成り立つのは専属のメイドしかいなかったんだけど、今日、もう一人増えた」
君だよ、とツェルンは微笑む。
「あの子はとても用心深く、なかなか人を信用しなくってね。既に5人の有能な騎士を追い返してしまっているんだ。しかし今回は君ならってことだったから──報酬はそれなりのものを用意するけど、どう?」
報酬の確約、そして貴族の専属騎士。好条件としか言いようがない。
──こういう場合、なにかしら裏があると考えるのが普通だ。
「これくらいでどうだろう?」
サラサラと契約書に金額が書かれた。予想を上回る高給に、ラヴィールは目を見張る。
その紙を引き寄せた少年は、満面の笑みを浮かべた。
「ぜひとも、よろしくお願いします」
***
まずは正式に顔合わせをしてこい、とラヴィールは応接間を追われる。
残されたフュリスは紅茶を口に運び、
「うまく隠しましたね。これ法に触れるレベルの隠し事ですよ」
「うん。まぁでも、彼は平民だからきっと大丈夫」ツェルンも自身のカップに口をつけた。
「……それは、いい意味で?」
フュリスの目が細められる。
屋敷の主は物珍しげに目を見開き、次いで笑みをこぼした。
「部下を溺愛してるっていう噂は本当なんだね」
「いえ、その噂は肯定しかねます」
即座に否定した騎士は、居心地悪そうにソーサーにカップを戻す。
「そうじゃないです。……ただのエゴです」
「ほう エゴか。君がそんなことを言う日がくるとは、ますます面白い」
愉しげに笑うアランジュ当主に、騎士は渋い表情を返した。
「エゴでもなんでもいいんだよ。君が、彼の救いになってやれるならね」
凪いだ瞳が紅茶の水面に映る。
「……そもそも、平民を毛嫌いする家ならあのメイドは雇ってないと思うよ」
「ああ、たしかにそうでした。あのメイド、ときどきなにかを探るような視線を投げてくるんでちょっと怖いんですよね……」
フュリスは苦笑を浮かべながら言う。
ツェルンは垂れた瞳を細めながら、
「君を震え上がらせるとは、あの子はやはりすごいな」と笑った。
このアランジュ家は貴族の中でも富豪だ。そのお嬢様ともなれば、優秀な騎士が選ばれることだろう。
それがなぜ、平民出の若輩にお鉢が回ってきたのか、罠か罰かとしか考えられない。
「君が、娘と普通に会話できたからだね」
「か、……いわ?ですか」
どういう基準だ。
普段寡黙で気難しい性格のお嬢様だとでもいうのか。いやそもそも、貴族の娘と会話したことなど──、
「あ、庭の令嬢」
心当たりが思わず漏れた。
「そうそう、その子。名前はオルガ。彼女はアランジュ家の第二子なんだけど、人と会話するのが難しくてね。家族でさえ話をすることができないんだ。あの子とコミュニケーションが成り立つのは専属のメイドしかいなかったんだけど、今日、もう一人増えた」
君だよ、とツェルンは微笑む。
「あの子はとても用心深く、なかなか人を信用しなくってね。既に5人の有能な騎士を追い返してしまっているんだ。しかし今回は君ならってことだったから──報酬はそれなりのものを用意するけど、どう?」
報酬の確約、そして貴族の専属騎士。好条件としか言いようがない。
──こういう場合、なにかしら裏があると考えるのが普通だ。
「これくらいでどうだろう?」
サラサラと契約書に金額が書かれた。予想を上回る高給に、ラヴィールは目を見張る。
その紙を引き寄せた少年は、満面の笑みを浮かべた。
「ぜひとも、よろしくお願いします」
***
まずは正式に顔合わせをしてこい、とラヴィールは応接間を追われる。
残されたフュリスは紅茶を口に運び、
「うまく隠しましたね。これ法に触れるレベルの隠し事ですよ」
「うん。まぁでも、彼は平民だからきっと大丈夫」ツェルンも自身のカップに口をつけた。
「……それは、いい意味で?」
フュリスの目が細められる。
屋敷の主は物珍しげに目を見開き、次いで笑みをこぼした。
「部下を溺愛してるっていう噂は本当なんだね」
「いえ、その噂は肯定しかねます」
即座に否定した騎士は、居心地悪そうにソーサーにカップを戻す。
「そうじゃないです。……ただのエゴです」
「ほう エゴか。君がそんなことを言う日がくるとは、ますます面白い」
愉しげに笑うアランジュ当主に、騎士は渋い表情を返した。
「エゴでもなんでもいいんだよ。君が、彼の救いになってやれるならね」
凪いだ瞳が紅茶の水面に映る。
「……そもそも、平民を毛嫌いする家ならあのメイドは雇ってないと思うよ」
「ああ、たしかにそうでした。あのメイド、ときどきなにかを探るような視線を投げてくるんでちょっと怖いんですよね……」
フュリスは苦笑を浮かべながら言う。
ツェルンは垂れた瞳を細めながら、
「君を震え上がらせるとは、あの子はやはりすごいな」と笑った。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収
ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。
彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。
だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。
自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。
「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」
契約解除。返還されたレベルは9999。
一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。
対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。
静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。
「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」
これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。
(本作品はAIを活用して構成・執筆しています)
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
リストラされた42歳、確率の向こう側へ。~なぜか俺の選択肢がすべて正解になる件~
RIU
ファンタジー
「君には今月いっぱいで席を空けてもらいたい」 42歳、独身、社畜。会社のために尽くしてきた柏木誠は、理不尽な理由でリストラされた。 絶望の中、雨の神社で野良猫を助けた彼は、不思議な光と共に【確率固定】という異能――「無意識に正解を選び続ける豪運」を手に入れる。
試しに買った宝くじは10億円当選。 復讐心に燃える元上司を袖にし、元天才投資家の美女をパートナーに迎えた柏木は、その豪運で現代社会を無双していく。
「俺の選択に間違いはない。なぜなら、確率の方が俺に合わせるからだ」
枯れたおじさんが資産と余裕を手に入れ、美女たちに頼られながら、第2の人生を謳歌する痛快サクセスストーリー!
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる