ダンデリオンの花

木風 麦

文字の大きさ
27 / 71
3. 憩いの別荘

王子の見初めた相手

しおりを挟む
 手当を終えた指をじっと見つめていた王子は「そうだ」と懐から封の閉じられた手紙を取り出した。
「これをお姫様に渡さないとだった。今度のローズ・ガーデンで僕がエスコートしようか?っていう内容の手紙だよ」
 王子は令嬢に手紙が渡る前に内容を暴露した。受け取りかけた令嬢の手が止まり、そっと手を下げた。
「専属騎士任命式に渡すとは……この騎士がそのイベントのときには居なくなっているとでもいいたいようですね」
 メイドの凄みを王子は笑って受け流す。
「普通は騎士がエスコートするもんなんですか?」
 ラヴィールの問いにメイドは首肯する。
「ローズ・ガーデンの主役は騎士ですから」
「そうそう。このダルダン都市を創った英雄である騎士が薔薇の花を愛していたとか……それで英雄を称える意味もあって、毎年薔薇の季節には王家がパーティーを開くんだ。まあ最近はそういう意味じゃなくて普通に婚活パーティーみたくなってるけどね」
 なにかにかこつけて催しをしたがるさがは全人類共通らしい。その「なにか」の裏を知らずに婚活パーティーにするとは。ラヴィールは拳を固くした。
「……お断りするってのは」
「王室からのお達しを無視すると、顔を上げて生活できなくなりますよ」
 当たり前でしょう、とメイドはため息をつく。
「けど、今までずうっとお姫様は出席してないよね?」
 王子の指摘に令嬢は黙りこくる。メイドがなにも言い返さないあたり、その指摘は合っているのだろう。
 俯く令嬢を横目に、
「あ、そっか。ベールとか全部取らなきゃ失礼に当たるんだもんね。そりゃあ来られても怖いし、このまま家から出ないほうが安心するんだろうね。ほんとこの国の人たちって未知のものを受け入れようとしないんだなぁ」
 挑発とも揶揄ともとれる発言に言い返せる者はいなかった。

「それでも、今回は出てもらうよ」

 にこり、と端正な顔に笑みが浮かぶ。天使のような表情とは裏腹に、やっていることは恐喝と変わらない。
 令嬢が息を呑むのがわかった。

「……でも、エスコートの優先順位はたぶんお──私ですよね?」

 自身を指すラヴィールに王子は目をパチリと瞬く。
「そうだね。君がパーティーのときまで専属騎士で居られたら」
 と笑顔で言う。
「それは心配ないですよね?」
 首をかしげるラヴィールに、王子が「なぜ?」と答えを促すように目を細めた。
「わざわざ教えてくれたじゃないですか。私が狙われていると」
「……挑発だとは思わないの?」
「思いません。敵意くらいわからないと騎士はできません」
 はっきり言い切るラヴィールに、王子の目が丸くなる。しんと静まった部屋に、「あははっ」と明るい笑いが響いた。
「そっかそっか……ふふっ 君はまっすぐだね。気に入った」
「「………………気に入っ……?」」
 ラヴィールとメイドの声が重なる。唖然とする二人を無視した王子は、
「ほんとはお姫様が気に入らなければあげるつもりなかったんだけど、……それはまたの機会に、見定めさせてもらうことにするよ」
 と内ポケットから白い小さな箱を取り出し、手紙と共に令嬢へ差し出す。
 おそるおそる箱を開いた令嬢は小さく吐息を漏らした。箱の中には小さな銀色のリングが入っていた。指輪にするには小さすぎるサイズで、チェーンに通してネックレスにするアクセサリーのようだ。
「それは聖品。首から下げてたら効果があるはずだよ」
 聖品といえば、以前メイドが欲していたものだ。何に使うか、何に使えるのか不明だが令嬢には必要なものだと雰囲気から伝わる。
「……お嬢様へのプレゼントでしょうか」
 訝しむメイドに、
「え、まさか。貸してあげるだけ。壊さないでね?」
 と王子は清々しい笑みでメイドに言う。鋭い目つきが一層迫力を増すメイドと笑顔の鉄仮面を崩さない王子との間に何度目かの緊張が走る。
 そんなメイドの袖を引き、令嬢がボソボソと何言か呟いた。メイドは「かしこまりました」と受け、
「お嬢様からの伝言にございます。王子殿下からこのような贈り物を拝借すること、とても有難く思います。この御恩はいずれ別の形で返すとお約束します──とのことです」
 令嬢はメイドの通訳に合わせてぺこりと頭を下げた。王子は「いーえ」とつまらなそうに応じ、騎士ににこりと微笑みかける。
「君とは今後も仲良くしたいなぁ。人目がないとこでは僕のことエルって呼んでよ。僕もラビって呼ぶから」
「……お、王子を、愛称呼びですか」
「うん、文通もしよう?君ともっと仲良くなりたいんだ」
「口説く相手間違ってませんか」
 手を握られながらどう躱すのが正解なのか必死に考えるも、なにも思いつかない。
「間違ってないよ。僕が興味あるのはラビだけだもの」
 早速愛称呼びしてきやがった。藁にもすがる思いでメイドを振り返るも、案の定スルーされた。

 結局断りきれず要求を呑んだ騎士が住所を吐かされるまでに時間はかからなかった。しかし三日ごとに手紙が送られてくる日々に、このときの選択を深く後悔するラヴィールだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

リストラされた42歳、確率の向こう側へ。~なぜか俺の選択肢がすべて正解になる件~

RIU
ファンタジー
「君には今月いっぱいで席を空けてもらいたい」 42歳、独身、社畜。会社のために尽くしてきた柏木誠は、理不尽な理由でリストラされた。 絶望の中、雨の神社で野良猫を助けた彼は、不思議な光と共に【確率固定】という異能――「無意識に正解を選び続ける豪運」を手に入れる。 試しに買った宝くじは10億円当選。 復讐心に燃える元上司を袖にし、元天才投資家の美女をパートナーに迎えた柏木は、その豪運で現代社会を無双していく。 「俺の選択に間違いはない。なぜなら、確率の方が俺に合わせるからだ」 枯れたおじさんが資産と余裕を手に入れ、美女たちに頼られながら、第2の人生を謳歌する痛快サクセスストーリー!

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

ガルシア戦記

千山一
ファンタジー
ガルシアはひょんな事に幼なじみと出会う。そこで意気投合する。けれど、自分が考えている道からドンドン外れてしまった。果たして、人生の道はハッピーエンドなのか?バッドエンドなのか?そこで待ち受けるものは…

処理中です...