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3. 憩いの別荘
王子の見初めた相手
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手当を終えた指をじっと見つめていた王子は「そうだ」と懐から封の閉じられた手紙を取り出した。
「これをお姫様に渡さないとだった。今度のローズ・ガーデンで僕がエスコートしようか?っていう内容の手紙だよ」
王子は令嬢に手紙が渡る前に内容を暴露した。受け取りかけた令嬢の手が止まり、そっと手を下げた。
「専属騎士任命式に渡すとは……この騎士がそのイベントのときには居なくなっているとでもいいたいようですね」
メイドの凄みを王子は笑って受け流す。
「普通は騎士がエスコートするもんなんですか?」
ラヴィールの問いにメイドは首肯する。
「ローズ・ガーデンの主役は騎士ですから」
「そうそう。このダルダン都市を創った英雄である騎士が薔薇の花を愛していたとか……それで英雄を称える意味もあって、毎年薔薇の季節には王家がパーティーを開くんだ。まあ最近はそういう意味じゃなくて普通に婚活パーティーみたくなってるけどね」
なにかにかこつけて催しをしたがる性は全人類共通らしい。その「なにか」の裏を知らずに婚活パーティーにするとは。ラヴィールは拳を固くした。
「……お断りするってのは」
「王室からのお達しを無視すると、顔を上げて生活できなくなりますよ」
当たり前でしょう、とメイドはため息をつく。
「けど、今までずうっとお姫様は出席してないよね?」
王子の指摘に令嬢は黙りこくる。メイドがなにも言い返さないあたり、その指摘は合っているのだろう。
俯く令嬢を横目に、
「あ、そっか。ベールとか全部取らなきゃ失礼に当たるんだもんね。そりゃあ来られても怖いし、このまま家から出ないほうが安心するんだろうね。ほんとこの国の人たちって未知のものを受け入れようとしないんだなぁ」
挑発とも揶揄ともとれる発言に言い返せる者はいなかった。
「それでも、今回は出てもらうよ」
にこり、と端正な顔に笑みが浮かぶ。天使のような表情とは裏腹に、やっていることは恐喝と変わらない。
令嬢が息を呑むのがわかった。
「……でも、エスコートの優先順位はたぶんお──私ですよね?」
自身を指すラヴィールに王子は目をパチリと瞬く。
「そうだね。君がパーティーのときまで専属騎士で居られたら」
と笑顔で言う。
「それは心配ないですよね?」
首をかしげるラヴィールに、王子が「なぜ?」と答えを促すように目を細めた。
「わざわざ教えてくれたじゃないですか。私が狙われていると」
「……挑発だとは思わないの?」
「思いません。敵意くらいわからないと騎士はできません」
はっきり言い切るラヴィールに、王子の目が丸くなる。しんと静まった部屋に、「あははっ」と明るい笑いが響いた。
「そっかそっか……ふふっ 君はまっすぐだね。気に入った」
「「………………気に入っ……?」」
ラヴィールとメイドの声が重なる。唖然とする二人を無視した王子は、
「ほんとはお姫様が気に入らなければあげるつもりなかったんだけど、……それはまたの機会に、見定めさせてもらうことにするよ」
と内ポケットから白い小さな箱を取り出し、手紙と共に令嬢へ差し出す。
おそるおそる箱を開いた令嬢は小さく吐息を漏らした。箱の中には小さな銀色のリングが入っていた。指輪にするには小さすぎるサイズで、チェーンに通してネックレスにするアクセサリーのようだ。
「それは聖品。首から下げてたら効果があるはずだよ」
聖品といえば、以前メイドが欲していたものだ。何に使うか、何に使えるのか不明だが令嬢には必要なものだと雰囲気から伝わる。
「……お嬢様へのプレゼントでしょうか」
訝しむメイドに、
「え、まさか。貸してあげるだけ。壊さないでね?」
と王子は清々しい笑みでメイドに言う。鋭い目つきが一層迫力を増すメイドと笑顔の鉄仮面を崩さない王子との間に何度目かの緊張が走る。
そんなメイドの袖を引き、令嬢がボソボソと何言か呟いた。メイドは「かしこまりました」と受け、
「お嬢様からの伝言にございます。王子殿下からこのような贈り物を拝借すること、とても有難く思います。この御恩はいずれ別の形で返すとお約束します──とのことです」
令嬢はメイドの通訳に合わせてぺこりと頭を下げた。王子は「いーえ」とつまらなそうに応じ、騎士ににこりと微笑みかける。
「君とは今後も仲良くしたいなぁ。人目がないとこでは僕のことエルって呼んでよ。僕もラビって呼ぶから」
「……お、王子を、愛称呼びですか」
「うん、文通もしよう?君ともっと仲良くなりたいんだ」
「口説く相手間違ってませんか」
手を握られながらどう躱すのが正解なのか必死に考えるも、なにも思いつかない。
「間違ってないよ。僕が興味あるのはラビだけだもの」
早速愛称呼びしてきやがった。藁にもすがる思いでメイドを振り返るも、案の定スルーされた。
結局断りきれず要求を呑んだ騎士が住所を吐かされるまでに時間はかからなかった。しかし三日ごとに手紙が送られてくる日々に、このときの選択を深く後悔するラヴィールだった。
「これをお姫様に渡さないとだった。今度のローズ・ガーデンで僕がエスコートしようか?っていう内容の手紙だよ」
王子は令嬢に手紙が渡る前に内容を暴露した。受け取りかけた令嬢の手が止まり、そっと手を下げた。
「専属騎士任命式に渡すとは……この騎士がそのイベントのときには居なくなっているとでもいいたいようですね」
メイドの凄みを王子は笑って受け流す。
「普通は騎士がエスコートするもんなんですか?」
ラヴィールの問いにメイドは首肯する。
「ローズ・ガーデンの主役は騎士ですから」
「そうそう。このダルダン都市を創った英雄である騎士が薔薇の花を愛していたとか……それで英雄を称える意味もあって、毎年薔薇の季節には王家がパーティーを開くんだ。まあ最近はそういう意味じゃなくて普通に婚活パーティーみたくなってるけどね」
なにかにかこつけて催しをしたがる性は全人類共通らしい。その「なにか」の裏を知らずに婚活パーティーにするとは。ラヴィールは拳を固くした。
「……お断りするってのは」
「王室からのお達しを無視すると、顔を上げて生活できなくなりますよ」
当たり前でしょう、とメイドはため息をつく。
「けど、今までずうっとお姫様は出席してないよね?」
王子の指摘に令嬢は黙りこくる。メイドがなにも言い返さないあたり、その指摘は合っているのだろう。
俯く令嬢を横目に、
「あ、そっか。ベールとか全部取らなきゃ失礼に当たるんだもんね。そりゃあ来られても怖いし、このまま家から出ないほうが安心するんだろうね。ほんとこの国の人たちって未知のものを受け入れようとしないんだなぁ」
挑発とも揶揄ともとれる発言に言い返せる者はいなかった。
「それでも、今回は出てもらうよ」
にこり、と端正な顔に笑みが浮かぶ。天使のような表情とは裏腹に、やっていることは恐喝と変わらない。
令嬢が息を呑むのがわかった。
「……でも、エスコートの優先順位はたぶんお──私ですよね?」
自身を指すラヴィールに王子は目をパチリと瞬く。
「そうだね。君がパーティーのときまで専属騎士で居られたら」
と笑顔で言う。
「それは心配ないですよね?」
首をかしげるラヴィールに、王子が「なぜ?」と答えを促すように目を細めた。
「わざわざ教えてくれたじゃないですか。私が狙われていると」
「……挑発だとは思わないの?」
「思いません。敵意くらいわからないと騎士はできません」
はっきり言い切るラヴィールに、王子の目が丸くなる。しんと静まった部屋に、「あははっ」と明るい笑いが響いた。
「そっかそっか……ふふっ 君はまっすぐだね。気に入った」
「「………………気に入っ……?」」
ラヴィールとメイドの声が重なる。唖然とする二人を無視した王子は、
「ほんとはお姫様が気に入らなければあげるつもりなかったんだけど、……それはまたの機会に、見定めさせてもらうことにするよ」
と内ポケットから白い小さな箱を取り出し、手紙と共に令嬢へ差し出す。
おそるおそる箱を開いた令嬢は小さく吐息を漏らした。箱の中には小さな銀色のリングが入っていた。指輪にするには小さすぎるサイズで、チェーンに通してネックレスにするアクセサリーのようだ。
「それは聖品。首から下げてたら効果があるはずだよ」
聖品といえば、以前メイドが欲していたものだ。何に使うか、何に使えるのか不明だが令嬢には必要なものだと雰囲気から伝わる。
「……お嬢様へのプレゼントでしょうか」
訝しむメイドに、
「え、まさか。貸してあげるだけ。壊さないでね?」
と王子は清々しい笑みでメイドに言う。鋭い目つきが一層迫力を増すメイドと笑顔の鉄仮面を崩さない王子との間に何度目かの緊張が走る。
そんなメイドの袖を引き、令嬢がボソボソと何言か呟いた。メイドは「かしこまりました」と受け、
「お嬢様からの伝言にございます。王子殿下からこのような贈り物を拝借すること、とても有難く思います。この御恩はいずれ別の形で返すとお約束します──とのことです」
令嬢はメイドの通訳に合わせてぺこりと頭を下げた。王子は「いーえ」とつまらなそうに応じ、騎士ににこりと微笑みかける。
「君とは今後も仲良くしたいなぁ。人目がないとこでは僕のことエルって呼んでよ。僕もラビって呼ぶから」
「……お、王子を、愛称呼びですか」
「うん、文通もしよう?君ともっと仲良くなりたいんだ」
「口説く相手間違ってませんか」
手を握られながらどう躱すのが正解なのか必死に考えるも、なにも思いつかない。
「間違ってないよ。僕が興味あるのはラビだけだもの」
早速愛称呼びしてきやがった。藁にもすがる思いでメイドを振り返るも、案の定スルーされた。
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