年上イケメン彼女と頼られたい年下彼氏

木風 麦

文字の大きさ
1 / 32

馴れ初め〈彼方語り〉

しおりを挟む
「ねぇ、付き合って」
 美人な女性は形の良い唇を動かした。
 一瞬頭が真っ白になる。いや、一瞬じゃない。多分一分くらいはボケっとした間抜けな表情で彼女をまじまじと見ていたのではないだろうか。
 可愛らしい顔立ちの彼女は、俺の行きつけのカフェの常連客だ。ちなみに、行きつけになったのは彼女が通っているのを知ったからという訳では無い。その理由も無くはないが、そのカフェは人がそこまで多くない上にケーキセットが他のカフェより少し安いのだ。
 理由としては、経営しているのが老人夫婦で利益を求めていないから、そして相場がよく分からなかったが受け継いだ店だから経営出来ればいいや、ということらしい。
 なんともいい加減な経営者である。
 貯蓄が沢山あり、老後の生活をただ楽しむことのできる夫婦だから成し得る芸当である。
 話がズレてしまった。俺の名前は市野塚いちのづか彼方かなた。ほんの先週高校生になった、いわゆるDKである。家族構成は妹一人に姉一人、父と母。それからもう百·····何年生きているかわからないひいばぁちゃんとで暮らしている。父親はIT起業の職員、母親は料理教室の先生兼小説家である。食を題とした小説なのだが人気らしい。
 要は、別段特別な家というわけではないのだ。ましてひときわ素晴らしい容姿をもちあわせたわけでもない。
 そんな奴が、カフェ美人(カフェで優雅に過ごしている美人を勝手に呼んでいる)と有名な彼女から告白されたのだ。驚かない奴など居まい。
 知り合って話すようになったきっかけは、以前カフェに通う彼女と相席になったことがあったことだろう。(そしてそれがなければ高嶺の花の存在の扱いで終わるか、ストーカー化していたかもしれない。)
 珍しく席がいっぱいだった時、彼女から声をかけてくれたのだ。「良かったら相席どうですか」と。
 あの笑顔、あの美声、忘れるわけがない。
 その日のうちに死ぬのではと何回も思った。
 そしてその次の日も相席するようになった。なぜか?満席だったからだ。
 彼女は見た目よりずっと大人だった。てっきり女子大生くらいかと思っていたのだが、二十五歳のバリバリの社会人だった。
 そこで少し落ち込んだ。当時中学生だった俺などが相手にされるわけがないと知っていたからだ。
 だが、逆にそれを利用することにした。
 中学生という名目を使い、勉強を教えてもらったり雑談したりと相席するのを習慣化することに成功した。
 彼女は彼氏はいないと言っていたし、話すくらい別にいいだろうと開き直った。
 良い雰囲気というより、姉弟のような雰囲気だったと思う。
 でもそれで良かった。
 ただ一緒に居たかっただけだから。
 中学を卒業し、早生まれな俺は行先のカフェのオーナーにバイトとして雇ってもらえないかと頼み、晴れて従業員となった。
 制服を彼女に見せると、「かっこいいね」と笑顔で言ってくれた。サラリと誉めるから照れる。
 仕事にも慣れ、初任給を出されたので彼女をデートに誘った。いや、デートとは言ってない。「いつも話とか聞いてくれたから、お礼がしたい」と言ったのだ。
 知ってる。自分がどれほどチキンなのかよく知ってる。
 だけど誘えたことを褒めて欲しい。自分としては頑張ったのだ。
 デート(?)を終えて、彼女から今日のお礼にとレストランに誘われた。なんとも言えない気持ちになった。お礼にお礼を返されてしまうという··········。
「うーん·····お礼っていうのは建前で、ただ君ともう少し居たいだけなんだけど、ダメ?」
 その聞き方はずるい。
 俺は無言で頷いた。
 レストランはパスタとピザが有名な所らしかった。
 どちらも好物だ。
 席につき、俺はマルゲリータ、彼女はペペロンチーノを頼んだ。
 料理が運ばれてくると、彼女はくるくるとパスタを巻き、ずいと差し出してきた。
「美味しいんだよ、ここのパスタ。一口どうぞ」
 え、ちょ。美味しそうなのは見てわかるけど、タイム。
 「あーん」じゃん!これ!
 戸惑っていると、彼女は微笑を浮かべて「どうぞ」と勧めてくる。
 好意を無下にできない。カップルぽい。という理由でパスタを食べる。美味い。
 もぐもぐと咀嚼していると、彼女は嬉しそうにニコニコしている。あーーその顔大好き。
 食べ終わってデザートをつついていると、彼女から冒頭の言葉を投げかけられたのだ。
 思わずフォークを落としそうになったわ。
「やだ?」
 悲しそうな表情を向けてくる。
「やじゃないっ」
 思わず口走った。
 もうちょっとスマートに答えたかった。
「お、俺·····まだ高校生なったばかりだけど、いいの?」
 不安に思っていたことを直球で彼女に言った。
「好きになるのに年齢は関係ないよ」
 サラッと好きって言ってくれたァァ!
 頬に熱が集中する。
「君を絶対幸せにするね」
 サラッと言われたァァァ!
 それ、俺が言うセリフなのでは!?ていうか言いたかったんだけど!?



 四月四日、そうしてチキンな俺に年上美人の彼女が出来た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...