魔王様は世界でいちばん強い!

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誓い

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 それからの毎日は、とても楽しいものでした。あれから魔王様には会えることがなくなってしまいましたが、カンナさんのおかげでメイドさん達の態度は軟化し、話し掛ければ普通に受け応えてくれるようになりました。

 今私、すごく楽しいのです。この幸せがずっと続けばいいのに、と、心からそう思います。

「ねえ、あんた、今日の夜、ミミナと飲…いや、女子会しようと思ってるんだけど、来ない?」
「い、行っていいんですか?!行きたいです!」
「アタシがいいって言ってんだから良いっていつもいってるでしょぉ!?」

 あれからというものの、カンナさんは私のことをすごく、ものすごく気遣ってくれるようになりました。
 それはきっと、同情なのでしょうが、私にもお姉ちゃんが出来たようで、すごく嬉しいです。

「じゃあ夕餉が終わったら、アタシ達の部屋に来なさい。場所は…分かるわよね?」
「はい!分かります!楽しみです~~!」
「っちょ、そのニヤケ面やめなさい!」
「だって、嬉しくて」
「もう、仕方ないんだから…」

 カンナさんは穏やかに微笑みます。涙がこみ上げそうになりますが、堪えました。なんだか最近は本当に、泣いてばっかりです。もっと、強くならなければ。魔王様の、ためにも。



「ほら、始めるわよ!グラスを持って!」
「「かんぱーい!」」
「か、乾杯…」

 なんと、女子会は、女子会という名ばかりの飲み会だったようです…!私はまだ、一応元の世界では未成年なのですが、いいのでしょうか…?

「あの、私まだ未成年で…」
「えぇ?あんたいくつなのよ?」
「18です」
「ハァ?!18なんてとっくに大人よ!さっさとその手に持ってるもん飲みなさい!」
「ちょっと、カンナ…えっと、そうなの、魔物の世界では、10歳でもう立派な成人だから…」
「じゅっ、10歳!?あの、失礼なことを聞くようで申し訳ないのですが、お二人は…」
「104よ」
「私は、72です」
「ま、全くそんな風には見えないです…!」
「そりゃそうでしょ、あんた達人間とは価値観も成長速度も違うの!」
「魔物は、10歳までは普通のスピードで成長して、10歳を過ぎると急速に成長スピードが下がるの」
「はわー…そうなんですね…だからお二人はこんなにお綺麗なんですね…」
「オーッホッホ!そうなのよ!アタシ達は美しいの!あんたも誇りを持ちなさい!ミミナ!」
「カ、カンナ…はあ、カンナ、お酒にすっごく弱くて…」
「あ、そ、そうなんですね…」

 色んな疑問に納得し、グラスに入った赤紫色の液体をぺろりとひと舐めする。

「おいしい…!」
「そおでしょお!?これはね、アタシの秘蔵の…」
「秘蔵の…なんですか?」
「…あー完全に寝てるみたいだね。ごめんね、エンジュちゃん」
「あ、いえ全然…!それより、お二人の事を知れて嬉しかったです。私まだ、この国の事とか、全然知らないので…」
「あ、そうなんだ?じゃあ私が今から説明しようか?」
「ぜひお願いします!」
「じゃあまず最初に、この国の名前、アルデングェイム王国。それは知ってるよね?」
「はい!」
「で、何千年前とかに、この国の空に突然魔界のゲートが開いたの。まあ、みんなパニックだよね。魔界の者も、人間も。それで、魔界の者達は、一体なにがあったんだと、意思疎通の取れる者達で話し合って、一旦ゲートの外に出てみることにしたらしいの。そろりそろりとゲートを抜けて、国に上陸?っていうのかな、降りたら、突然。本当に突然、ゲートが閉まっちゃったんだ。もうみんな、殆ど半狂乱で、だけどその時代、魔界を統治していたのが、かなーり力を持った強い魔王様で、みんなを一声で沈めると、この国の王に謁見を求めに行ったの。自らね。まあ勿論、王も渋る訳なんだけど、ゲートが閉じちゃった以上魔界には戻れないから、どうしようもなく国の一部を魔界の者達に分け与えることにしたの、それは、互いに不可侵を守るという条約付きで。当時は相当反発もあったらしいんだけど、そうやって騒ぐ人間達に魔王様が姿を表すと、一瞬でみんな黙ってどこかへ行っちゃったんだって。それから魔王城が作られて暫くは平和だったんだけど、今の魔王様に代替わりしてからかな、人間が不可侵を侵そうと企み始めたんだ。なんでこれが分かったのかというと、前魔王様がすっごく有能だったから。事前に密偵を人間の国に忍ばせてたんだって。…まあグレーだよね?だから、今は一応、魔界側と人間は共存しているっていう体ではあるんだけど、人間が裏切ろうと…反旗を翻そうとしてる、って感じかなー。」
「なるほど、そんなことが…」
「でも、人間ってバカだなあって、本当に思うよ。だって魔王様に、魔物達に勝てる訳ないもん。人間のエンジュちゃんには、悪いけど…」
「いえいえ!そんなことは!」
「…あのね、人間の国に、奴隷っていうのがあるでしょ」
「…?はい、私もそれで…」
「昔ね、カンナ…お姉ちゃんの友達が、人間に拐われたの」
「えっ!?でも、不可侵は…!」
「そう、相当うまくやってたみたい。その子、エルフでね…まだ若くって…魔法もろくに使えなくって。私もよく、その子と遊んであげたことがあったの。小柄で、花みたいに笑う子で…だから目をつけられたんだろうね。その子は、人間に拐われて、奴隷にされてたの」
「…!」
「あんなにちっちゃくて可愛い子に、暴力を振るって、陵辱して…っ!誘拐が発覚して、こちらに戻した頃には、もうボロボロだった!!魂も!身体も!!!全部!!!!…花みたいに笑う子が、笑わなくなって、どんなに頼んでも、食事も摂らなくなって…弾力あった肌が、どんどん皮だけになって、窶れていって…それでそのうち、死んじゃった。…馬鹿みたい、馬鹿みたいよ本当に!!!お姉ちゃんは、魔王様は優しい、強いのよなんて言うけど!!!そんなの嘘だわ!!人間よりは強いかも、そうかもね、でも!!!!あんなを魔王だなんて呼んでやるもんですか!!!!あの子を拐った人間を、甚ぶった人間を!!!あの男は、人間の国の法律で裁けと、そう言ったのよ!!!!あくまでこちらは不可侵だから、だけど、二度目はないとかなんとか言って!!馬鹿みたい…本当に、馬鹿よ…みんな馬鹿ばかりなの…どうして分からないのかな…やられたことは、やり返さなきゃ、そうでしょ?私が間違ってるの?私が、私がこの手で、そいつらをズタズタに、あの子にしたことよりもっと酷いことを、してやりたかった…!!もう、遅いの…あの子は帰って、こない……」

 そんな痛々しい告白に、胸が締め付けられるようでした。嗚咽するミミナさんの背中を摩ります。どうか、今だけは私の穢れも、身体の奥底に、収まってくれますようにと、そう願いながら。魔王様のとった方法が、間違っていないのも、分かります。どんな意味でその選択をしたのかも、分かります。でも、でも…遺された者は、それでは納得できなかったでしょう。どれだけ苦しかったでしょう。どれだけ辛かったでしょう。こんな気持ちを抱えて、ずっと生きていかなければならないなんて、あまりにも残酷です。

 私も、人間が嫌いです。人間の体を持ちながら、人間を嫌悪する。それってなんて、皮肉的なのでしょう。どうして魔王様に触れられた時、嫌悪しなかったのか。その理由が、今、分かりました。彼は魔物です。人間ではありません。同じ性を持ちながらも、種族が異なるのです。魔族と人間。でも一体、種族以外に、何が違うのでしょう。

 魔王様は、人間と魔物たちが共存できる世界を望みました。
 私は、神様には逆らえません。神様の望みは、自分の意思と反していても、叶えたい。それが私の、存在意義なのですから。

 私が、ミミナさんに出来る事って、何があるのでしょう。人間の私が側に居ては、彼女を苦しませてしまうのではないか。ただでさえ、穢れた私が、こんなに綺麗な心を持った彼女に、関わってはいけないのではないか。だけれど、それでも、ミミナさんの救いになりたいのです。救いなんて大層なことは出来ません。少しでも、少しでも、ミミナさんの苦痛を和らげることが出来るなら。私はなんだってしましょう。







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