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嵐の前
しおりを挟むメイド達が、ヒソヒソと話します。
「ちょっと、聞いた?人間の国が、なんかちょっとキナ臭いって話」
「聞いた聞いた、もうすぐこちらへ戦を仕掛けてくるんじゃ無いかって話よ」
それを聞いた、私のお姉さま達…
「はあ、本当に、馬鹿よね~」
「そうだね、カンナ」
「人間風情が魔族に勝てるわけないじゃ無い!なんでそれが人間には分からないのかしら」
「そう、ですね…」
すると、突然サイレンが鳴り響く。
「緊急召集!緊急召集!メティス様より、意思疎通の取れる魔族は大広間に集まるようにと!緊急召集!緊急召集!」
「え!?緊急召集ですって、行きましょ!生の魔王様が見れるチャンスだわ~!」
「あーカンナ、また…」
「とりあえず、行きましょうか、お姉ちゃん、お姉様」
緊急召集…一体、何があったのでしょうか。悪いことでなければ良いのですが…。
大広間に着くと、もうすでに多勢の魔族達が集まっています。王座には魔王様が座り、その横にはメティス様とメルクリウス様。
メティス様が辺りを見渡し、頷くと、魔王様が話し始めます。
「王国側が、こちらに戦を仕掛けようとしてきているという情報を、確実に掴みました。どうやら、先日の聖女様の件は、こちらを油断させるためのものだったようです。」
その発言に、魔族達がざわつき始めます。
「なんと卑劣な…」
「これだから人間は…」
「お静かに!」
メティス様の一喝で一瞬にして静寂が訪れます。
「いつ、などという具体的な日にち、時刻まではまだ掴めていません。が、こちらに戦を仕掛けてくるということだけは揺るがぬ事実です。ですので、君たちには準備をしてもらいたい。」
「準備…?」
「なんのだ?」
「俺様のメガスーパー強力パンチで人間なんて一撃だぜ!」
「お 静 か に 。」
め、メティス様、すごい…それよりも、準備ってなんでしょう?
「準備というのは、この城に、トラップを仕掛けて欲しいのです。それと、魔力が使えるものは、その鍛錬を。強い力を持つものもまた、鍛錬を。君たちなら、人間に劣ることなど、負ける事などある筈がないでしょうが、それでも念には念を入れて、です。僕は、君たちに傷一つでも負って欲しくない。」
女性の魔族からキャーっと歓声が上がる。さすが、ファンクラブができるだけありますね…。
隣を見ると、カンナお姉様も同じように歓声をあげていました。魔王様…強し!
「ああそれと、できるだけ人間には傷をつけないで下さい。生け捕りでお願いします」
「なんでだよォ!殺しちまう方が早えじゃねえか!」
「ここにくる人間達には、上のものから指示されて、無理やり…という者達も多そうですから。とにかく、生け捕りでお願いしますね。生け捕りした後は、地下牢へ」
「へーへー。わかりやしたよー」
「おい、そこのお前」
「ヒィッ」
「魔王様にそのような口を聞くとは…不敬極まりない。このメティス自ら、首を刎ねてやろうか」
「す、すんませんしたあ!!!」
すごい…見事なチームプレイだ…なんて感心していると、魔王様と目が合います。いや、合った気がした、だけなのかもしれない、ですけれど。魔王様はこちらを、無機質な、そんな目で、私を、見ていました。
「それにしても、戦ね~、なんだか実感湧かないわ」
「そうだね、今までいざこざはあったけど、ここまで大きな話になったことは無かったし」
「戦争…しなければならないんでしょうか」
「え?」
「だめですよ、しなきゃ!これは躾のなっていないケルベロスに躾をするようなものなんです!」
「そうよ、そもそも、あちらから吹っかけてきたのだから、それに答えるのが、道理ってものではなくて?」
「そうですよね…」
私も、魔王様と同じ気持ちでした。魔族のみんなが、誰一人として傷ついて欲しくない。だって、こんなに私に優しくしてくれた人達なのですから。人間は、奪うばかりでした。だけれど、魔族は、与えてくれた。姉妹を。大切なものを。悪い魔族もいるでしょう。良い魔族もいるでしょう。それは人間も同じなのでしょう。だけれど、それでも。私は、魔族を、最悪の場合、魔族だけでも、守りたいと、そう思ったのでした。
それから私達魔王様ファンクラブと、いろいろな魔族さん達が集まって、トラップ製造が始まったのでした。電気系統に詳しい魔物さん、機械系統に詳しい魔物さん監修の元に、トラップを考案していきます。
「ここはー…アラクネーの糸と、神経毒だったりをつかうといいんじゃないかしら?」
「そうですね!ではここは粘着性にして、落ちてきたところを神経毒でズブリと」
「あの、それ死んじゃいませんか?」
「いえいえ、大丈夫ですよ!ちゃんと加減はしますから!いやーそれにしても、楽しいですねえ、なんだか幼い頃にした図工みたいで」
「ふふっ、そうですね、確かに、言われてみればそうかも知れません」
「そうでしょう、そうでしょう?あとは…ゴースト部屋なんかもいいかも知れませんね!中に宝箱を置いて…」
こんな大事だというのに、すっかり楽しんでしまっています。こんなこと、子供の頃はしたことありませんでした。私がしていたのは…
「エンジュちゃんー?聞いてるの?カンナがここ、どうするか、だって」
「ええっと、そこは…」
そんなことをしているうちに、もうすっかり日が暮れていました。
「ふわぁーあ…疲れた…まあでも、大体終わったね!エンジュちゃん、カレンと私はこれから食堂に行ってご飯食べるけど、一緒にこない?」
「フン、愚妹、ご飯はしっかり食べなきゃだめなのよ」
「は、はい!食べます!一緒に食べたいです!」
「よしきた!では食堂へごー!」
食堂に着くと、多勢の人が溢れかえっていました。
「わ、人がたくさん…」
「あー気にしない気にしない、私たちはテイクアウトするから」
「テイクアウトもできるんですね!すごい」
「もー全く!喧騒が煩わしくってよ!」
「さ、カレンもお怒りのようだし、さっさと注文して帰ろー。カレンのついでに私がエンジュちゃんの分も注文しとくよ。何か食べれないものとか、ある?」
「いえ、特にないです!」
「そっかあーじゃあミミナお姉ちゃんのお任せに期待して!あとはカレンをよろしくっ!」
そう言われてカレンさんのほうを振り向くと、焦点の合っていない目で、ぶつぶつと何かを呟いています。
「うるさい…喧騒…うるさい」
「か、カレンお姉様?」
「あら、アンタ…どうしたの?」
「私、お願いがあるんですけれど…あの、私の事、エンジュって、呼んでもらえませんか?…!あ!すみません、こんな差し出がましいお願い…」
「え、エンジュ…」
「…!はい、お姉様!」
「エンジュ、エンジュ、エンジュ!あ、あのねえ、あ、アタシは恥ずかしくて呼べなかったわけじゃ、ないんだから!なんとなくタイミングを逃して…って、なんでまた泣いてんのよ!もう…落ち着きなさいよ」
カレンお姉様が、私を抱きしめて、背中を摩ります。こんな幸せなことが、あって良いのでしょうか。メルクリウス様は、『触れてもいい』と、仰いました。触れても、いいのでしょうか、触れられて、受け入れても、いいのでしょうか。幸せなのに、嬉しくって仕方がないのに、何故だか涙は止まりませんでした。
「ってカレン…またエンジュちゃんのこと泣かせてる…」
「こ、これは違うのよ!アタシのせいじゃなくって、その、」
「違うんです、その、嬉しくて…ごめんなさい、もう大丈夫です!」
「そう?え、エンジュがそういうなら良いのだけれど、まあとにかく、今日はどこで食べようかしら」
「あー!湖畔なんかが‘いいんじゃない?エンジュちゃん、まだ行ったことないでしょ?」
「はい、無いです。湖畔って、どんなところなんでしょうか?」
「それはついてからのお・た・の・し・み!」
応援ありがとうございます!
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