魔王様は世界でいちばん強い!

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懺悔

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「あの、お姉様、そういえばこのお城には教会があると聞いたのですが…」
「そうね、確かにあるわよ。まあ魔族の連中に神を信じているものなんて居ないから、殆ど使われていないみたいだけれどね」
「エンジュちゃん、教会に興味があるの?」
「はい、少し…」
「じゃあせっかく有給取った事だし、今から行ってきたら?場所は…わかるかな?」
「分からないです…すみません」
「謝る事じゃないよ!えっとねーじゃあ私が今から絵で地図書いてあげるから、待ってて!」

 数分後、渡された紙には、かなり精巧な地図が書かれていました。

「すごい…!本物の地図みたいです…!」
「そうなの、ミミナってば、絵がとんでもなく上手なのよね。さ、それを持って、行ってらっしゃい!もし魔王様を見かけたら、会話をして、戻ってきたら会話録に書き込む事!分かったわねえーーー!!!!」
「は、はい!行ってきます!」

 教会までの道は、かなり程遠く、それに驚愕していましたが、そもそも魔王城の大きさが規格外なのでしょう…。なんとか教会に辿り着き、教会の扉を開きます。

「エンジュ…?」
「ま、魔王様」
「髪を切って、素の色に戻したんですね!とても綺麗です」

 …?

「あ、そうなんです、カンナお姉様と、ミミナお姉ちゃんが…って、あ」

 魔王様が、目を瞬く。

「姉妹が、できたのですか…?それはよかったですね!」

 魔王様が抱きつこうとしてきたところを、既の所で避ける。

「エンジュ…?」
「あの、すみません、私、懺悔室に用があって!」
「あ、エンジュ…!」

 振り返らずに、懺悔室へと急いだ。 
 懺悔室の中に入り、呼吸を整える。大丈夫、大丈夫だ。穢れが、穢れが完全に消えるまでは。

「司祭様、懺悔します、私は、大きな罪を抱えたまま、贖うことができず、穢れを振りまいています。私は、私はどうしたら…いいのでしょうか?私の罪とは、何なのでしょうか?産まれてしまったことが、罪なのでしょうか?」
「エンジュ、君が生まれた事は罪ではないよ」
「その、声…メルクリウス様…?!」
「いいから、聞いて。君が生まれた事は罪ではない。では何が罪なのか、それは周りの人間達だった。元の世界の、ね」
「でも、それじゃあ、罪に穢された私は、私は…」
「君は、罪に穢されてしまったのかい?」
「そうです、何年、何十年、毎日、毎日、穢されて…そしてここに来てからも、一度、私は自らの意思で、自分を穢しました」
「うん、知っているよ。ここに来てからのことは、仕方のないことだった。非力で、知識のない君では、ああすることでしか、少女達を救えなかった。」
「…なんで、それを…?」
「僕はみていたから。見せられていたから。」
「それは、どういう…」
「詳しい事は言えないんだ、ごめんね」
「じゃあメルクリウス様、私は、穢れていないのですか?大切だと思った人に、手を伸ばしてもいいのですか?」
「大切だと思うのも、手を伸ばすのも、いいだろう、構わないよ。だけれどね、君の穢れは、消えない。奥底に残った、もはや埋もれてしまった穢れは、消えない」
「どうして…!」
「それは、君自身が生み出した穢れだからさ。君以外の誰かに生みつけられた穢れは、君を脅かした者達の穢れだ。だけれど、それは君が生み出したもの。君がそれに気付き、労わり、愛情を与える事でしか、消えないんだよ」
「穢れに、愛情…?一体どういうことなんです、メティス様!教えてください!穢れを…穢れを払う方法を!」
「ごめんね、時間切れみたいだ。また会う時までに、その“穢れ”が無くなっていることを願うよ。それじゃあね」
「メティス様!」

 メティス様は行ってしまわれた。どういうことなのだろう。私自身が生み出した穢れ?愛情を与える?わからない、分からない!突然、頭の中で何かが暴れ回っているような感覚に襲われる。苦しい、痛い、痛い!!

「エンジュ!」
「怖い、怖いんです、何かが、頭の中で暴れまわるんです、痛い、痛いの…助けて…ママ…ママ…?ママ、どこへ行ったの?やめて!置いていかないで、お願い、いい子にするから、お願い、お願い!!ごめんなさい、ごめんなさい、いい子にするから、お願い!嫌!嫌なの!あそこへ戻さないで!いや…いやなの…いやなの…う…ひぐっ…っは、は、はぁ、はぁ」
「…!過呼吸か!」

 息が、うまく出来ません。息って、どうやってしていたんだっけ?ああでも、たくさん幸せを貰えたのだし、このまま死んでしまっても、いいかも…

「エンジュ!ごめん…!」

 唇に何かが当てられます。息が、吹き込まれていきます。顔に、ポツポツと、雨が…?それでも私は、朦朧とする意識に耐えきれず、深い意識の底まで落ちて行くのでした。






「エンジュ、エンジュ、何が、何が君を、こんなに…いや、わかっているんだ。きっと、あの人たちの影に、囚われているんだ。クソ、クソ…!何が君を守るだ!僕は君を、守りたい、守りたいのに…」

「愛しているよ、エンジュ。ごめんね、惰弱な、僕で…もっと、強くなるから」

「君に醜く執着している僕の方が余程、大罪だ。きっと天上へは、戻れないだろう」
魔王は、エンジュを抱き抱えながら、空に浮かぶ月を見て、そう呟いた。






「ん…」
「おはよう、エンジュ。よく眠れましたか?」
「は、はい、そ、それはもう…あの、すみません、過呼吸を起こして、処置をして、ここまで運んでくださって…処置?」
「ああ、すみません、教会には僕以外誰もいなく、どうしようもなかったものだから、その、人工呼吸を…」

羞恥で顔が赤らみます。でも、でも、穢れが、ああ、どうしましょう、魔王様に、穢れが…。

「…すみません、嫌でしたよね。でもあの時は、どうしようもなくって…」
「いえ!嫌なわけでは!無いです!」

…食い気味に答えてしまいました。

「…そ、そっかあ…嫌じゃなかった、かあ…ふふ、はあ、本当に、良かったです…」

心底嬉しそうな顔をする魔王様を見て、私は何も言えなくなってしまいました。







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