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【序奏】0:xx23年2月25日
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ステージ中央で、斉王乃亜はヴァイオリンを構え弓を引く。
天井から注がれる光を浴びながら、何一つ迷いなくその音色を会場中に広げ、
一曲前で最高潮にまで高まった観客の興奮は、光の残滓となって霧散していく。
消え去ったというよりも、それ以上の何かに昇華されたような感覚だ。
観客たちは唖然と、その音色に深く酔いしれる。
風の精霊という表現が誇張でないことはもう十分に理解できた。
そんな女性から奏でられるそれは、春風でも、凩でも、突風でも、嵐でもない。
祈り。
深く大きい、祈りの歌。
風の精霊、ヴァイオリニスト斉王乃亜が奏でる最後の曲は、
あまりにもあたたかい、慈愛に満ちた祈りの歌であった。
多くの人が知っているこの曲は、困難や試練に立ち向かうとき、
他者からの支えをもって立ち向かう、立ち向かう力を得る、そういった普遍的な共感を呼ぶ曲だ。
乃亜はこの曲を、このソロコンサートの最後の曲に選んだ。
斉王乃亜として生まれ、優しいばかりの人生ではなかった。
苦しい、つらい、恐怖さえ抱くような日々とてあった。
しかしそれを乗り越えられたのは、大いなる愛があってこそだと、乃亜は強く強く考えている。
ヴァイオリンを奏でる表情は慈愛に満ちた笑み。
乃亜は今の自分を支える人々の顔を思い返している。
水野先生、月城先生、
空良、明日香、茉莉、隼人、
ニックさん、リンディさん、リアムさん、ルーシー、
橘さん、力也さん、昇介さん、花梨さん、如月さん、
羽黒のお義父様、
ましろ、
薬師先生、
兄さん、
そして、煉矢。
本当に苦しい時も、辛いときも、泣きたくなった時もあったけれど、
それでもあなたたちが愛してくれた、守ってくれた、支えてくれた乃亜は、
こうして立って、歩いて、生きてこれました。
精一杯の感謝と愛を込めて、
斉王乃亜としての、最後の曲です。
どうか、あなたたちへ届きますように。
天井から注がれる光を浴びながら、何一つ迷いなくその音色を会場中に広げ、
一曲前で最高潮にまで高まった観客の興奮は、光の残滓となって霧散していく。
消え去ったというよりも、それ以上の何かに昇華されたような感覚だ。
観客たちは唖然と、その音色に深く酔いしれる。
風の精霊という表現が誇張でないことはもう十分に理解できた。
そんな女性から奏でられるそれは、春風でも、凩でも、突風でも、嵐でもない。
祈り。
深く大きい、祈りの歌。
風の精霊、ヴァイオリニスト斉王乃亜が奏でる最後の曲は、
あまりにもあたたかい、慈愛に満ちた祈りの歌であった。
多くの人が知っているこの曲は、困難や試練に立ち向かうとき、
他者からの支えをもって立ち向かう、立ち向かう力を得る、そういった普遍的な共感を呼ぶ曲だ。
乃亜はこの曲を、このソロコンサートの最後の曲に選んだ。
斉王乃亜として生まれ、優しいばかりの人生ではなかった。
苦しい、つらい、恐怖さえ抱くような日々とてあった。
しかしそれを乗り越えられたのは、大いなる愛があってこそだと、乃亜は強く強く考えている。
ヴァイオリンを奏でる表情は慈愛に満ちた笑み。
乃亜は今の自分を支える人々の顔を思い返している。
水野先生、月城先生、
空良、明日香、茉莉、隼人、
ニックさん、リンディさん、リアムさん、ルーシー、
橘さん、力也さん、昇介さん、花梨さん、如月さん、
羽黒のお義父様、
ましろ、
薬師先生、
兄さん、
そして、煉矢。
本当に苦しい時も、辛いときも、泣きたくなった時もあったけれど、
それでもあなたたちが愛してくれた、守ってくれた、支えてくれた乃亜は、
こうして立って、歩いて、生きてこれました。
精一杯の感謝と愛を込めて、
斉王乃亜としての、最後の曲です。
どうか、あなたたちへ届きますように。
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