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一葉編
11:xx14年1月19日
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目的の場所近くの駐車場に、いつも外出するときのシェアカーが停まる。
少しは気温は低いものの、よく晴れた冬の、明るい澄んだ陽射し。
エンジンが切られ、乃亜の期待は大きく心音となって高鳴った。
「着いたぞ、乃亜」
「はい……!」
助手席のドアを開けて降りるその足元は、普段のようなローファーや運動靴ではない。
生まれて初めてかもしれないストッキングをはき、
光沢のあるエナメルの白い靴を履いている。
細い二重のストラップには留め金の部分に花を模した飾りが光る。
真冬の為足元は少し寒いが、それでも今は正直その寒さがありがたい。
乃亜はショートボブの髪の右側を緩く編み込み、
先端を藍色のリボンとレース飾りのついたバレッタで留めている。
この髪型をしてくれたのは、運転席から降りてきた兄だ。
彼もまたコートを着込んでいるが、普段よりしっかりと髪をワックスで整え、
そのコートの下には濃紺のジャケットをピシリと着込んでいる。
「時間も丁度よさそうだな」
「はい、開場したところですね」
「よし、それじゃあ行こうか。人も多いみたいだし、はぐれないようにな」
「はい!」
普段よりいくらも声が大きい気がする。
それに聊か恥ずかしさを感じるが、どうにも興奮していると思う。
「ふふ、楽しみにしてくれているようで何よりだ」
「だ、だって……っ」
「いいんだ。お前への誕生日プレゼントなんだからな」
「は、はい……」
くつくつと笑われてしまってさすがに声が小さくなる。
しかし兄は気にした様子はない。
二人は駐車場からすぐにある大きな複合施設へと向かっている。
そこへ向かうのは二人だけではない。
多くの人たちが、自分たちと同じように、少しばかりのオシャレをして向かう。
近づいていくと、施設の大きく開いた出入口に目的のイベント名が書かれていた。
『彩の国ヴァイオリンコンクール ガラコンサート』
静が乃亜に1月19日を空けておけと言ったのは、これの為だった。
一週間ほど前。
夕食を食べ終わった後、ソファに座っていた乃亜に、後片付けを終えた静が声をかけた。
「乃亜、19日なんだが」
「あ、はい」
「これに、行かないか?」
これ、として示したのは、自身のスマートフォンに表示されたサイト。
乃亜は首をかしげてそのサイトを確認する。
乃亜の目が、『彩の国ヴァイオリンコンクール ガラコンサート』という文字列を読み終え、
とたん、隣に座る兄を見上げた。瞳は大きく見開かれていた。
「ヴァイオリンコンクールの入賞者による、ガラコンサートだ。
祝いの記念コンサートのようなものらしいな。
実際にオーケストラと共演する内容だが、興味はあるか?」
「え、そ、それは、はい、興味は……っ」
「お前さえよければ、一緒に行こう」
「!!」
今度こそ、乃亜の瞳がこぼれ落ちるのではと思うほどに見開かれた。
頬は興奮のせいか紅潮している。
「翌日はお前の誕生日だしな。俺からの誕生日プレゼントだ」
「え……っ?!」
「ん?」
「あ……いえ、その、お祝い、してくれるなんて、考えてなくて……」
さすがの静も呆れて苦笑いを浮かべるしかない。
ソファの背もたれに肘を乗せ上げ、こめかみに拳を当てた。
「お前な、可愛い妹の誕生日を祝わないわけがないだろう……」
「い、いえ、でも、兄さんには、もうたくさん、色々していただいてますから……」
「それとこれは全くの別物だ……。
ともかく、それじゃ、19日は行くと言うことでいいな?」
「あ、はい、それは、もちろん……!」
「よし。じゃあ、前日の18日にでも服を見に行こう。
昼公演だが、セミフォーマルくらいには、
めかし込んでいかないといかないとな」
「は、はい……」
そして前日となった18日、話していた通りに、二人は隣駅の商業施設に出向いた。
乃亜としてはそんな服などと思う気持ちと、
コンサートへの期待、興味の間でせめぎ合い、
いるともいらぬとも言えず、ただ兄と店の店員に言われるまま
いくつかの服の試着をする羽目になった。
そして選んだ、というよりも選ばれた一着、
ネイビーに黒、濃灰、深緑といった落ち着いた濃い色のチェック柄のワンピースを着て、
更に髪のセットに使うと、追加で購入したバレッタで髪を彩っての今日である。
髪型については兄が瞬く間に整えてくれた。
本当に妹ながら、兄の万能さには舌を巻くしかない。
車で約2時間。途中軽く食事をして現在時刻はは13時半。
あと30分ほどで開幕である。
チケット受付らしい女性スタッフに、静が手元のスマートフォンを見せる。
内容を確認して画面をスワイプしたスタッフに、会釈し通り過ぎていく。
スタッフが憧憬の眼差しを二人に向けていることにまるで気づかないまま。
広いエントランスホールを思わず見上げる。
高い天井、多く歩いている人々は皆シックで落ち着いたセミフォーマル。
誰もが期待した表情をうかべ、楽しそうな様子で談笑したり歩いたり、
また本日のソリスト4名の紹介ポスターが貼られ、その写真を撮影したりと様々だ。
乃亜もまたそのポスターに目を向ける。男性が二人、女性が二人。
コンクールの上位3名と審査員特別賞の1名。
皆兄と同世代くらいだろうか。
自分よりは年上だろうが、そんな人たちがオーケストラと共に共演すると言う。
「乃亜」
「あ、はい」
「今日の演奏曲らしい。もらっていくか?」
静が示したのはホール内への入り口に沿って置かれた長机の上、
その置かれたA4サイズのチラシだ。
乃亜は頷いてそれを受け取った。
モノクロであるが、ホールにかかっていたポスターと
同じ人物の写真が上半分に添えられ、
その下には共演するオーケストラの写真があった。
各人物の下に演奏する曲目がシックな書体で書かれている。
『ブルッフ:スコットランド幻想曲 第二楽章 』
『チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調 第一楽章』
『ラロ:スペイン交響曲 第五楽章』
『モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲 第1番 変ロ長調』
聞いたことがない曲もある。
あとで楽譜を探してみておいた方がいいだろうか。
それとも実際に聴くまでの楽しみにしておくか。
乃亜は口元を引き締めながらそれをじっと見つめていた。
隠し切れない興奮は頬の赤みとなって表れているが
それに乃亜自身は気づいていない。
静はそれをほほえましそうに見つめ、乃亜の背に触れた。
「さぁ、席に行くぞ」
「はい……!」
やはり乃亜は音楽が心底好きなのだ。
本人が口にできるのはまだ先の話かもしれないが、
静はそれに密かに安堵を覚えていた。
席は三階席。
チケットを取ったのが少し遅かったからかもしれないがステージにはいささか遠い。
しかし小柄な乃亜では一階席ではかえって見にくかったかもしれない。
三階席とはいうものの、ホールの両端に沿って飛び出した位置で
傾斜がかかっておりほぼ二階席と高さは変わらないくらいに見える。
だだ広いホールの指定された席に腰かけ、乃亜はようやく息を吐いた。
「広い会場ですね……」
「そうだな。実際のコンクールの本選もここであったらしいぞ」
「すごいです……。
同じヴァイオリンを弾いていても、まったくの別次元みたいで……」
乃亜がさきほどのチラシを食い入るようにみているのを、
静は横眼でチラと見て正面を見直す。
自分は音楽は完全に素人だ。
乃亜がヴァイオリンを始めてから、クラシックも多少聴くようにはなった。
だから決して細かなことは分からないし、
抱く印象も素人のそれでしかないと自覚している。
それでも、以前乃亜がヴァイオリン教室に初めて行った時の衝撃は忘れられない。
もちろん妹という贔屓目はあるだろう。
しかし、乃亜のヴァイオリンのエネルギーはすさまじかった。
乃亜自身のエネルギーというよりも、発せられる音色が、
こちらの身の内にある感情を沸き起こしてくるような。
あれは果たして、乃亜が特別ではないのか。
などと考えているとき、スマートフォンが揺れる感触を得た。
まだ開演まで多少時間がある。取り出してロックを解除した。
メッセージの新着。煉矢だった。
『誕生日おめでとう。今度なにか奢る』
「……雑なやつめ」
「どうしました?」
「ああ、煉矢から誕生日祝いのメッセージがな」
ディスプレイを見せると、乃亜が小さく笑った。
「兄さん、お誕生日おめでとうございます」
「ああ、ありがとう、乃亜」
兄妹で微笑み合う中、ホールの明かりが落とされる。
ガラコンサートの開演である。
そこからは乃亜にとって忘れようもない時間だった。
ステージ上に並ぶオーケストラ。
広がる拍手と共に、続いてやってきた指揮者に、さらに拍手は大きくなる。
冒頭は主催の挨拶。
先のコンクールにおいて優秀な成績を収めた受賞者たちへの祝辞である。
否応なく自分を含めた会場全体の期待感が高まっていく。
演奏については、審査員特別賞、3位、2位、1位の順番で演奏され、
途中2位と1位の間で休憩が挟まれるそうだ。
挨拶もそこそこで、司会者は壇上より去っていく。
拍手と共にステージへと上がってきたのは、深い青色のドレスをきた女性。
審査員特別賞を受賞した人だ。
乃亜はいよいよ始まる演奏に、チラシを持った手に力がこもるのを感じる。
指揮者がタクトを振るう。
演奏曲は『スコットランド幻想曲 第二章』。
これは聞いたことがない曲だ。
しかし一音目から、乃亜の心は音楽の世界へと引き込まれていった。
オーケストラの壮大な音、
ヴァイオリンのどこか軽やかで歌い上げるような爽快な心地。
果てなく広がる草原で駆け回るような。
舞台は遠い。
けれど音響のせいか目の前で演奏されているかのような迫力。
乃亜の優れた聴力は細かな音の違い、響きの違い、すべてを等しく聞きとっている。
だがそれ以上に引き込まれるのは、ヴァイオリニストの堂々とした振る舞い。
なによりも、真摯にそれに向き合い、踊るように弾いている。
細かな指のうごき、弓を引く姿。
ああもっと、近くで見たい。
十分だと思っていた席とステージの距離が今はひどくもどかしい。
食い入るように見る。瞬きの時間さえ惜しい。
ヴァイオリンだけではない。
オーケストラという巨大なエネルギーに飲み込まれ翻弄されている。
音楽とはこれほどまでに力強い、大きなものだったのか。
乃亜はひたすらに、その巨大な力にしがみつき、
振りほどかれないよう必死にすがるしかなかった。
熱中していたら瞬く間に休憩に入ってしまった。
乃亜は全身が硬直していたのか、くったりと座席に深く背を預け、ふうと息を吐き出した。
「すごい集中していたな」
「……あ、はい、その……つい」
「いい。楽しんでいるなら何よりだ」
静は穏やかに微笑んでいる。
同じ演奏を聴いていたとは思えないほどに、乃亜は疲れ切っていた。
まるで自分が演奏していたかのようにだ。
乃亜は気づいていない。
演奏中、人知れず、自身も指を動かし続けていたことに。
音をきき、演奏している様子を見て、自然と指が動いていた。
そのことに静は途中で気づいた。
チラシを右手で持ちながら、左手は膝の上、手のひらを上に、
まるで見えないヴァイオリンのネックを支えるように、
弦をどう抑えるかを確認するかのようにだ。
その様子に、演奏中の並外れた集中力、それを見て改めて
静は乃亜が、ヴァイオリンや音楽に深く入れ込んでいると察した。
それを本人が、どこまで自覚しているかは別として。
「休憩後は1位受賞者の演奏だな。
曲目は、モーツァルトか」
「はい。私も好きな曲です」
「前から思っていたが、クラシックも、薬師先生のところで?」
「そうです。もちろん、クラシックだけではありませんでしたけど、
時々来てくださっていた音楽の先生たちが、
ピアノやヴァイオリンで聞かせてくれたのが、そうだったので」
「成程」
乃亜は前にいた施設のことを思い出す。
あのあたたかな場所では音楽をはじめとした芸術を通じたメンタルケアを行っていた。
今思い返すとそういうことなのだろうと思う。
不定期にやってくる外部の音楽家。
ヴァイオリンやピアノ、ギターやサックス、様々な種類の楽器の演奏。
それだけでなくみんなで歌ったり、実際にさわらせてもらったりと様々だ。
皆最初はおそるおそる、けれど最後には声を大きく歌っていた気がする。
その中でなぜかヴァイオリンに惹かれた。
理由は自分でもよくわからない。
「そろそろだな」
静が腕時計を確認して言ってすぐ、再びホール内の明かりが落ちた。
観客席のざわめきが落ち着いていくと、オーケストラが再び姿を現した。
拍手がホール中に響きわたる。
指揮者、そして、先のコンクールで1位を受賞したソリストが登場した。
若い男性だった。
チラシを見たわかったが、まだ高校1年生だという。
自分より3つしか違わない。
しかしオーケストラを背後に、指揮者を横にしてまったく怯んでいない。
観客席に対して礼をし、顔があがると拍手が止んだ。
指揮者が若きソリストに目を向ける。小さく首を動かしたように見えた。
タクトが揺れる。
とたん、華やかな音の波が一気に広がった。
まさに波、幾重にも重なった色鮮やかな音のそれに乃亜は大きく目を見開いた。
知ってる曲。確かに知ってる。しかし違う。
あまりにも違いすぎる。こんなにも生演奏は違うのだろうか。
華やかさも繊細さも重厚さもなにもかもが違う。
全身に震えが走った。
今までの2位3位特別賞の人たちの演奏も素晴らしかった。
ただ感動して食い入るように見入った。
しかしこの人はそれを遥かに凌駕しているような気がするのは
自分がまだまだ浅はかだからだろうか。
まるで七色の清流だ。
美しく清らかで、かといって静かではなく大きなうねりを持って飲み込まれそうだ。
飲み込まれたその向こうにある壮大な世界には、なにがあるのだろう。
この込みあがってくるもの、感情はなんだろうか。
ずっと胸の奥深くで沈み込んでいたものが浮上していく。
わからない、知らない、感じたことがない。
否、感じたことはある。遠い昔にあった気がする。
兄と暮らす前、薬師の施設にいた時、それより、前。
古い記憶がうずく。
道端に咲いていたたんぽぽに手を伸ばした。
その直後、暗転。強い衝撃とともに。
ぞっと背筋が冷えた。
素晴らしい演奏に酔っていた気持ちが冷え切っていく。
乃亜は膝の上でチラシを持つ右手に左手を重ね、強く握りしめる。
強く強く握りしめ、左手の爪が右手の肌に食い込む。
なにかあふれそうなものを押さえ込むためだ。
よくない、だめだ、自分に言い聞かせ続ける。
美しい音楽、うっとりとするほどに心に迫る旋律。
何故だろうか、泣きそうになる。
舞台を見つめる視界が細くなる。余りにまぶしくて目がくらむ。
なんて煌びやかで、なんて美しくて、なんて。
「……遠い世界」
泣きそうな笑みでつぶやいた乃亜の独り言は
七色の清流に飲まれ打ち消されていった。
乃亜の初めてのコンサート観覧は終幕した。
まるで夢の世界にいたような心地だった。
コンクールで1位をとった受賞者の演奏もさることながら、
アンコールにおいては四人がそろい、
四重奏を披露するという驚きのプログラムが組まれていた。
コンサート会場を出て、二人は車のある駐車場へと向かう。
室内の温かさと興奮で温まっていた身体が、一月の冷たい風にさらされ
ぐっと思わず肩を浮かせた。
「どうだった、コンサートは」
「本当に感動しました。どれもとても素晴らしくて。
私にはまだまだ難しい曲ばかりですが、
もう少し上達したら、水野先生にも相談したいと思います」
「そうか。それならよかった」
心からの本音を告げれば、静も満足げに笑う。
乗ってきた車が見えてきた。
乃亜はロックを解除する静に改めて告げた。
「素敵な誕生日プレゼント、ありがとうございました」
「ああ、どういたしまして」
目を細めて笑ってくれる兄に、胸があたたかくなる。
家に帰ったら、今度は自分の番だ。
乃亜はそれを想うと少し緊張を覚えるが、
こんなにも素晴らしい贈り物を先にもらったのだ。
どうか少しでも、喜んでくれますように。
乃亜は祈りながら、助手席に乗り込んだ。
自宅に戻った頃にはもう外は暗くなっていた。
時刻としては16:30を過ぎた頃だが、冬は暗くなるのが早い。
さすがに二人とも少しくたびれたところがあり、
今日の夕飯はデリバリーで済ませようと車の中で話が済んでいた。
たまにはそういう日があってもいい。
車をいつものコンビニ内の駐車場に戻し、二人は歩いて自宅のマンションへと戻る。
癖のように郵便受けを静が確認する横で乃亜が待っていると
チラシに紛れて不在伝票が入っていた。
「宅配ですか?」
「ああ。……宅配Boxに入っていそうだな。
乃亜、見てくれるか?3番だ」
「はい」
続けて開錠の為の番号を聞き中を空ける。
ひとつかと思いきや、2つ、ダンボールが入っていた。
乃亜はしゃがみこんでそれらを引き出した。
「……ましろ、と……煉矢さん?」
「……ああ、そうか。ましろは送ると言っていたしな」
静は乃亜からダンボールを受け取り、なにやら納得している。
抱えられる程度の箱が二つ。
乃亜は首をかしげるしかない。
「おそらく、煉矢も同じだろうな。
あいつ、長年の付き合いの俺には雑な祝いしかしないくせに、
妹分のお前はちゃんと祝うんだからな」
「え、……え?」
「ともかく、家に入ろう。中で見てみるといい」
「え、あの、私宛て……なんですか?」
「煉矢の方は間違いなく。ましろの方は、俺たち二人宛て、か。
あいつらしい。さぁ、中に入るぞ」
「は、はい……」
戸惑い疑問符を飛ばしながら兄のあとを追う。
いつものようエレベータに乗り自宅へと帰る。
暗い室内の電気をつけて、自宅に入るとほっと息が漏れた。
外の寒さもそうだが、それなりに長い時間車に乗っていたこと、
なにより壮大な音楽の世界に浸っていた。
身体はそれなりに疲労していたらしい。
リビングのローテーブルに静が二つのダンボールを置いた。
冷え切った室内を温めるようにエアコンの電源を入れ、
静はコートとジャケットを脱いでソファに置く。
乃亜もコートを脱ぎ、それをダイニングの椅子の背もたれにかけた。
視線はリビングに置かれた箱に向けられたままだ。
それに気づいた静はふっと笑い、乃亜に視線で促した。
「開けてみるといい」
「あ、……はい。でも、ましろの方は兄さんの名前もありますし……」
「そうだな。何が入ってるか見てくれ」
「はい……」
静にも促され、乃亜はコートをきたままリビングのラグの上に膝をつく。
まずはましろの名前が書かれている方。
確かに宛先には、自分と兄の二つの名前。
静が引き出しの小物入れからカッターを取り出してきてくれた。
ごく僅かに刃を出して、中身に影響がないように、封をしているテープを切る。
中を空けると、薄いブルーの箱に、
金色のレースリボンがかかっている箱が入っていた。
リボンには1枚のメッセージカードが挟まれており、
カードには"Happy Birthday , Noah"の一言が金字で印字されている。
「こ、これ……!」
「お前への誕生日プレゼントだな」
誕生日プレゼント。自分への。
兄からもらっているだけでも驚きなのに、まさかましろから貰えるなんて思わなかった。
驚きながら薄いブルーの箱を取り出す。
その下に、今度は1cm程度の厚みのある、横向きの封筒サイズの箱が入っていた。
水色のリボン。メッセージカード。
そこには"Happy Birthday , Sei"のメッセージである。
静はそれを取り上げ、ふ、と柔らかな眼差しにかわる。
乃亜はそれに少し驚いた。
今までに見た覚えがない様子だったからだ。
ひどく優しい、自分を見るものとは違う、あまり見たことのない兄の顔。
だがそれを静は自覚していないのか、すぐにこちらに目を向けた。
表情はいつもの兄の顔に戻っていた。
「なにが入っていた?」
「あ、そ、そうですね、開けてみます」
金色のリボンを引き、カードと共に丁寧にまとめる。
箱の蓋を引き上げると、細長い20cmほどの箱が二つ並んでいた。
両方ともデザインは同じ。
しかし一つは明るい緑と黄色のライン、
もう一つは深緑と黄緑色のラインが入っている。
一つを取り出し箱に書かれている文字を確認する。
「ルームフレグランスみたいです……!」
「いいじゃないか。それぞれ香りが違うようだし、楽しめそうだな」
「はい、嬉しいです」
黄色のラインが入っているものはシトラス系、
もうひとつの緑のものは森をイメージしたものらしい。
どちらも使いやすそうだ。
そういえば以前、一緒に買い物に行った時に、
ましろはこういったアロマやお香といったものを好んでいた気がする。
自分は買うことはなかったが、いい香りだと楽しんでいたのを覚えていてくれたのかもしれない。
ましろらしい心配り。
この一年にも満たない中で、メッセージアプリであるCORDでやりとりを続けている。
もちろん直接通話をすることもあれば、会って出掛けることもある。
彼女との出会い、そして交流は、大きく乃亜の世界を広げ彩っている。
フレグランスの箱を指先でなぞり、感謝の思いを改めて感じる。
かさりと音がして振り向くと、静もまた、ダイニングチェアに腰かけ、
ましろからのプレゼントを開けていた。
1cm程度の厚みの白い封筒のような箱。
開いて開けると、何枚かのカードらしきものが入っているようだった。
「兄さんへのプレゼント、なんだったんですか?」
「ポストカードのセットだな」
手元を覗き見ると、美しい空の写真が描かれたポストカードがあった。
真夏を思い出させる青い空と大きな入道雲。
もうひとつはどこまでも広がる海、水平線、雲一つない空。
さらに一枚めくると、今度は夜空だった。
天の川のような満天の星に、どこかの平原、荷馬車、レンガの壁。
そういった様々な空の写真のポストカードのようだった。
「……あいつらしい」
静は目を細め微笑んでいる。
まただ。乃亜は先ほどと同じ感覚に陥る。
見たことがない兄の顔。
ひどく優しい、柔らかなそれ。
それの意味することを、今の乃亜にはわからなかった。
ただ、なんとなくあまりじっと見つめるのもよくない気がした。
乃亜はリビングテーブルの方に戻り、
もうひとつのダンボールを開けることにする。
差出人に書かれた名前、胸の奥まったところがなにかくすぐったい。
乃亜は慎重にカッターを入れてテープを開ける。
中に入っていたのはパステルカラーのマーブル模様の箱だ。
白を基調に、ピンクやブルー、黄色、薄紫といった淡い色が吹き付けられているような。
それらを背景に、水彩画のようなタッチで描かれているのは
バラや苺、ブルーベリーやラズベリー、そして紅茶の絵。
取り出して裏を確認すると、ローズヒップのお茶に、
ベリー系のエッセンスを混ぜたフレーバーティーのティーパックだった。
こういったお茶は飲んだことがない。
けれど見るからに優しい色合いでとても心惹かれる。
乃亜は自然と頬がほころんでいた。
「煉矢からのはなんだったんだ?」
「フレーバーティーのティーパックです。
私、飲んだことがないので、楽しみです」
それを察してくれていたわけではないだろうが、それでも嬉しい。
煉矢とはしょっちゅう連絡を取り合うわけではない。
けれど気が付けば、相談する相手になっている気がする。
兄のようにあたたかく手を引いてくれるのとも違う。
ましろのように広い世界に連れ出してくれるのとも。
そ、と背中を支えるように一歩前へ進むための勇気をくれるような。
今もそうだ。
乃亜は立ち上がり、自室へと少し足早に向かう。
突然立ち上がった妹に、なにごとかと視線で追う静を横目に
自室のクローゼットに置いたままにしていた白い袋を見つける。
喜んでくれるだろうか。
この期に及んでと思うが伸ばす手が、指先が止まる。
けれど大丈夫。きっと大丈夫。
ここに初めて兄が連れてきてくれてから、一年近い年月が経過した。
自分にとって大きく環境が変わった一年だった。
学校生活だけではない。
ましろとの出会い、煉矢との交流。
なにより、他ならぬ静から、大きな愛情を確かに受け続けている。
それを疑うことなどないはずだ。
乃亜は止まった指先をぐっと握り絞め、振り切る。
勢いよくその袋に手をのばし、しっかりとそれを取り上げる。
リビングへと戻る。
静は不思議そうにこちらを見ている。
ダイニングの椅子に座る静の前に立ち、ひとつ小さく呼吸。
「……兄さん、あの、これ……」
「?」
差し出す白い、少し光沢のある袋。
静は目を瞬かせ、それを見つめている。
「た……誕生日の、プレゼント、です……」
「俺に?……お前から?」
「っ、はい……、その、気に入って……もらえたら……」
驚いている様子の静は、乃亜の顔、そして袋をそれぞれ交互に見て、
やがて袋を受け取った。
どきどきと心臓の音を感じながら、乃亜は静の様子をうかがう。
静はまったく考えもしなかったと言う様子で、袋の中を確認する。
中から取り出した、灰色と白のチェック柄の包装紙で包まれた箱。
「……開けてもいいか?」
「は、はい……!」
丁寧に包装紙を外していく。
正直今日一番緊張している乃亜は、所在なく身体の前で指先を交差させる。
包装紙がはずされ、現れた白い箱の中、出てきたのは深いネイビーの磁器のプレート皿。
それが、二枚。
シンプルだが、普段使いしやすく、その深い色合いは、
なにか兄を思い出させるような深みがあった。
もっと模様があった方がいいかと思ったが、
普段から料理をする兄が使うなら、きっと、こういった皿のほうがきっと。
「……困ったな」
「え……」
こぼれた言葉にどきりとする。
なにか気に入らないことでもあっただろうか。
まずいことでもあったか
乃亜はどきりとして内心冷や汗をかく。
しかし、静の表情はやわらかく、皿を大切そうに見つめていた。
「すぐにでも使いたくなってきた。
夕食は、デリバリーにしようとしていたのにな」
「!」
「そうだ、乃亜、明日これに朝食を盛ろう。
きっと、普段よりも美味いだろうな」
少し頬を赤らめて、嬉しそうに言う静の表情に、
そしてその言葉に、乃亜の中にあった緊張が喜びに大きく変化した。
それに促されるまま、乃亜は大きく破顔する。
そっと乃亜の髪に静の手が触れる。
「ありがとうな、乃亜。大切に使う」
「はい……!」
乃亜はこの日、誰かの喜びが、
こんなにも心を温めてくれるのだと初めて知った。
少しは気温は低いものの、よく晴れた冬の、明るい澄んだ陽射し。
エンジンが切られ、乃亜の期待は大きく心音となって高鳴った。
「着いたぞ、乃亜」
「はい……!」
助手席のドアを開けて降りるその足元は、普段のようなローファーや運動靴ではない。
生まれて初めてかもしれないストッキングをはき、
光沢のあるエナメルの白い靴を履いている。
細い二重のストラップには留め金の部分に花を模した飾りが光る。
真冬の為足元は少し寒いが、それでも今は正直その寒さがありがたい。
乃亜はショートボブの髪の右側を緩く編み込み、
先端を藍色のリボンとレース飾りのついたバレッタで留めている。
この髪型をしてくれたのは、運転席から降りてきた兄だ。
彼もまたコートを着込んでいるが、普段よりしっかりと髪をワックスで整え、
そのコートの下には濃紺のジャケットをピシリと着込んでいる。
「時間も丁度よさそうだな」
「はい、開場したところですね」
「よし、それじゃあ行こうか。人も多いみたいだし、はぐれないようにな」
「はい!」
普段よりいくらも声が大きい気がする。
それに聊か恥ずかしさを感じるが、どうにも興奮していると思う。
「ふふ、楽しみにしてくれているようで何よりだ」
「だ、だって……っ」
「いいんだ。お前への誕生日プレゼントなんだからな」
「は、はい……」
くつくつと笑われてしまってさすがに声が小さくなる。
しかし兄は気にした様子はない。
二人は駐車場からすぐにある大きな複合施設へと向かっている。
そこへ向かうのは二人だけではない。
多くの人たちが、自分たちと同じように、少しばかりのオシャレをして向かう。
近づいていくと、施設の大きく開いた出入口に目的のイベント名が書かれていた。
『彩の国ヴァイオリンコンクール ガラコンサート』
静が乃亜に1月19日を空けておけと言ったのは、これの為だった。
一週間ほど前。
夕食を食べ終わった後、ソファに座っていた乃亜に、後片付けを終えた静が声をかけた。
「乃亜、19日なんだが」
「あ、はい」
「これに、行かないか?」
これ、として示したのは、自身のスマートフォンに表示されたサイト。
乃亜は首をかしげてそのサイトを確認する。
乃亜の目が、『彩の国ヴァイオリンコンクール ガラコンサート』という文字列を読み終え、
とたん、隣に座る兄を見上げた。瞳は大きく見開かれていた。
「ヴァイオリンコンクールの入賞者による、ガラコンサートだ。
祝いの記念コンサートのようなものらしいな。
実際にオーケストラと共演する内容だが、興味はあるか?」
「え、そ、それは、はい、興味は……っ」
「お前さえよければ、一緒に行こう」
「!!」
今度こそ、乃亜の瞳がこぼれ落ちるのではと思うほどに見開かれた。
頬は興奮のせいか紅潮している。
「翌日はお前の誕生日だしな。俺からの誕生日プレゼントだ」
「え……っ?!」
「ん?」
「あ……いえ、その、お祝い、してくれるなんて、考えてなくて……」
さすがの静も呆れて苦笑いを浮かべるしかない。
ソファの背もたれに肘を乗せ上げ、こめかみに拳を当てた。
「お前な、可愛い妹の誕生日を祝わないわけがないだろう……」
「い、いえ、でも、兄さんには、もうたくさん、色々していただいてますから……」
「それとこれは全くの別物だ……。
ともかく、それじゃ、19日は行くと言うことでいいな?」
「あ、はい、それは、もちろん……!」
「よし。じゃあ、前日の18日にでも服を見に行こう。
昼公演だが、セミフォーマルくらいには、
めかし込んでいかないといかないとな」
「は、はい……」
そして前日となった18日、話していた通りに、二人は隣駅の商業施設に出向いた。
乃亜としてはそんな服などと思う気持ちと、
コンサートへの期待、興味の間でせめぎ合い、
いるともいらぬとも言えず、ただ兄と店の店員に言われるまま
いくつかの服の試着をする羽目になった。
そして選んだ、というよりも選ばれた一着、
ネイビーに黒、濃灰、深緑といった落ち着いた濃い色のチェック柄のワンピースを着て、
更に髪のセットに使うと、追加で購入したバレッタで髪を彩っての今日である。
髪型については兄が瞬く間に整えてくれた。
本当に妹ながら、兄の万能さには舌を巻くしかない。
車で約2時間。途中軽く食事をして現在時刻はは13時半。
あと30分ほどで開幕である。
チケット受付らしい女性スタッフに、静が手元のスマートフォンを見せる。
内容を確認して画面をスワイプしたスタッフに、会釈し通り過ぎていく。
スタッフが憧憬の眼差しを二人に向けていることにまるで気づかないまま。
広いエントランスホールを思わず見上げる。
高い天井、多く歩いている人々は皆シックで落ち着いたセミフォーマル。
誰もが期待した表情をうかべ、楽しそうな様子で談笑したり歩いたり、
また本日のソリスト4名の紹介ポスターが貼られ、その写真を撮影したりと様々だ。
乃亜もまたそのポスターに目を向ける。男性が二人、女性が二人。
コンクールの上位3名と審査員特別賞の1名。
皆兄と同世代くらいだろうか。
自分よりは年上だろうが、そんな人たちがオーケストラと共に共演すると言う。
「乃亜」
「あ、はい」
「今日の演奏曲らしい。もらっていくか?」
静が示したのはホール内への入り口に沿って置かれた長机の上、
その置かれたA4サイズのチラシだ。
乃亜は頷いてそれを受け取った。
モノクロであるが、ホールにかかっていたポスターと
同じ人物の写真が上半分に添えられ、
その下には共演するオーケストラの写真があった。
各人物の下に演奏する曲目がシックな書体で書かれている。
『ブルッフ:スコットランド幻想曲 第二楽章 』
『チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調 第一楽章』
『ラロ:スペイン交響曲 第五楽章』
『モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲 第1番 変ロ長調』
聞いたことがない曲もある。
あとで楽譜を探してみておいた方がいいだろうか。
それとも実際に聴くまでの楽しみにしておくか。
乃亜は口元を引き締めながらそれをじっと見つめていた。
隠し切れない興奮は頬の赤みとなって表れているが
それに乃亜自身は気づいていない。
静はそれをほほえましそうに見つめ、乃亜の背に触れた。
「さぁ、席に行くぞ」
「はい……!」
やはり乃亜は音楽が心底好きなのだ。
本人が口にできるのはまだ先の話かもしれないが、
静はそれに密かに安堵を覚えていた。
席は三階席。
チケットを取ったのが少し遅かったからかもしれないがステージにはいささか遠い。
しかし小柄な乃亜では一階席ではかえって見にくかったかもしれない。
三階席とはいうものの、ホールの両端に沿って飛び出した位置で
傾斜がかかっておりほぼ二階席と高さは変わらないくらいに見える。
だだ広いホールの指定された席に腰かけ、乃亜はようやく息を吐いた。
「広い会場ですね……」
「そうだな。実際のコンクールの本選もここであったらしいぞ」
「すごいです……。
同じヴァイオリンを弾いていても、まったくの別次元みたいで……」
乃亜がさきほどのチラシを食い入るようにみているのを、
静は横眼でチラと見て正面を見直す。
自分は音楽は完全に素人だ。
乃亜がヴァイオリンを始めてから、クラシックも多少聴くようにはなった。
だから決して細かなことは分からないし、
抱く印象も素人のそれでしかないと自覚している。
それでも、以前乃亜がヴァイオリン教室に初めて行った時の衝撃は忘れられない。
もちろん妹という贔屓目はあるだろう。
しかし、乃亜のヴァイオリンのエネルギーはすさまじかった。
乃亜自身のエネルギーというよりも、発せられる音色が、
こちらの身の内にある感情を沸き起こしてくるような。
あれは果たして、乃亜が特別ではないのか。
などと考えているとき、スマートフォンが揺れる感触を得た。
まだ開演まで多少時間がある。取り出してロックを解除した。
メッセージの新着。煉矢だった。
『誕生日おめでとう。今度なにか奢る』
「……雑なやつめ」
「どうしました?」
「ああ、煉矢から誕生日祝いのメッセージがな」
ディスプレイを見せると、乃亜が小さく笑った。
「兄さん、お誕生日おめでとうございます」
「ああ、ありがとう、乃亜」
兄妹で微笑み合う中、ホールの明かりが落とされる。
ガラコンサートの開演である。
そこからは乃亜にとって忘れようもない時間だった。
ステージ上に並ぶオーケストラ。
広がる拍手と共に、続いてやってきた指揮者に、さらに拍手は大きくなる。
冒頭は主催の挨拶。
先のコンクールにおいて優秀な成績を収めた受賞者たちへの祝辞である。
否応なく自分を含めた会場全体の期待感が高まっていく。
演奏については、審査員特別賞、3位、2位、1位の順番で演奏され、
途中2位と1位の間で休憩が挟まれるそうだ。
挨拶もそこそこで、司会者は壇上より去っていく。
拍手と共にステージへと上がってきたのは、深い青色のドレスをきた女性。
審査員特別賞を受賞した人だ。
乃亜はいよいよ始まる演奏に、チラシを持った手に力がこもるのを感じる。
指揮者がタクトを振るう。
演奏曲は『スコットランド幻想曲 第二章』。
これは聞いたことがない曲だ。
しかし一音目から、乃亜の心は音楽の世界へと引き込まれていった。
オーケストラの壮大な音、
ヴァイオリンのどこか軽やかで歌い上げるような爽快な心地。
果てなく広がる草原で駆け回るような。
舞台は遠い。
けれど音響のせいか目の前で演奏されているかのような迫力。
乃亜の優れた聴力は細かな音の違い、響きの違い、すべてを等しく聞きとっている。
だがそれ以上に引き込まれるのは、ヴァイオリニストの堂々とした振る舞い。
なによりも、真摯にそれに向き合い、踊るように弾いている。
細かな指のうごき、弓を引く姿。
ああもっと、近くで見たい。
十分だと思っていた席とステージの距離が今はひどくもどかしい。
食い入るように見る。瞬きの時間さえ惜しい。
ヴァイオリンだけではない。
オーケストラという巨大なエネルギーに飲み込まれ翻弄されている。
音楽とはこれほどまでに力強い、大きなものだったのか。
乃亜はひたすらに、その巨大な力にしがみつき、
振りほどかれないよう必死にすがるしかなかった。
熱中していたら瞬く間に休憩に入ってしまった。
乃亜は全身が硬直していたのか、くったりと座席に深く背を預け、ふうと息を吐き出した。
「すごい集中していたな」
「……あ、はい、その……つい」
「いい。楽しんでいるなら何よりだ」
静は穏やかに微笑んでいる。
同じ演奏を聴いていたとは思えないほどに、乃亜は疲れ切っていた。
まるで自分が演奏していたかのようにだ。
乃亜は気づいていない。
演奏中、人知れず、自身も指を動かし続けていたことに。
音をきき、演奏している様子を見て、自然と指が動いていた。
そのことに静は途中で気づいた。
チラシを右手で持ちながら、左手は膝の上、手のひらを上に、
まるで見えないヴァイオリンのネックを支えるように、
弦をどう抑えるかを確認するかのようにだ。
その様子に、演奏中の並外れた集中力、それを見て改めて
静は乃亜が、ヴァイオリンや音楽に深く入れ込んでいると察した。
それを本人が、どこまで自覚しているかは別として。
「休憩後は1位受賞者の演奏だな。
曲目は、モーツァルトか」
「はい。私も好きな曲です」
「前から思っていたが、クラシックも、薬師先生のところで?」
「そうです。もちろん、クラシックだけではありませんでしたけど、
時々来てくださっていた音楽の先生たちが、
ピアノやヴァイオリンで聞かせてくれたのが、そうだったので」
「成程」
乃亜は前にいた施設のことを思い出す。
あのあたたかな場所では音楽をはじめとした芸術を通じたメンタルケアを行っていた。
今思い返すとそういうことなのだろうと思う。
不定期にやってくる外部の音楽家。
ヴァイオリンやピアノ、ギターやサックス、様々な種類の楽器の演奏。
それだけでなくみんなで歌ったり、実際にさわらせてもらったりと様々だ。
皆最初はおそるおそる、けれど最後には声を大きく歌っていた気がする。
その中でなぜかヴァイオリンに惹かれた。
理由は自分でもよくわからない。
「そろそろだな」
静が腕時計を確認して言ってすぐ、再びホール内の明かりが落ちた。
観客席のざわめきが落ち着いていくと、オーケストラが再び姿を現した。
拍手がホール中に響きわたる。
指揮者、そして、先のコンクールで1位を受賞したソリストが登場した。
若い男性だった。
チラシを見たわかったが、まだ高校1年生だという。
自分より3つしか違わない。
しかしオーケストラを背後に、指揮者を横にしてまったく怯んでいない。
観客席に対して礼をし、顔があがると拍手が止んだ。
指揮者が若きソリストに目を向ける。小さく首を動かしたように見えた。
タクトが揺れる。
とたん、華やかな音の波が一気に広がった。
まさに波、幾重にも重なった色鮮やかな音のそれに乃亜は大きく目を見開いた。
知ってる曲。確かに知ってる。しかし違う。
あまりにも違いすぎる。こんなにも生演奏は違うのだろうか。
華やかさも繊細さも重厚さもなにもかもが違う。
全身に震えが走った。
今までの2位3位特別賞の人たちの演奏も素晴らしかった。
ただ感動して食い入るように見入った。
しかしこの人はそれを遥かに凌駕しているような気がするのは
自分がまだまだ浅はかだからだろうか。
まるで七色の清流だ。
美しく清らかで、かといって静かではなく大きなうねりを持って飲み込まれそうだ。
飲み込まれたその向こうにある壮大な世界には、なにがあるのだろう。
この込みあがってくるもの、感情はなんだろうか。
ずっと胸の奥深くで沈み込んでいたものが浮上していく。
わからない、知らない、感じたことがない。
否、感じたことはある。遠い昔にあった気がする。
兄と暮らす前、薬師の施設にいた時、それより、前。
古い記憶がうずく。
道端に咲いていたたんぽぽに手を伸ばした。
その直後、暗転。強い衝撃とともに。
ぞっと背筋が冷えた。
素晴らしい演奏に酔っていた気持ちが冷え切っていく。
乃亜は膝の上でチラシを持つ右手に左手を重ね、強く握りしめる。
強く強く握りしめ、左手の爪が右手の肌に食い込む。
なにかあふれそうなものを押さえ込むためだ。
よくない、だめだ、自分に言い聞かせ続ける。
美しい音楽、うっとりとするほどに心に迫る旋律。
何故だろうか、泣きそうになる。
舞台を見つめる視界が細くなる。余りにまぶしくて目がくらむ。
なんて煌びやかで、なんて美しくて、なんて。
「……遠い世界」
泣きそうな笑みでつぶやいた乃亜の独り言は
七色の清流に飲まれ打ち消されていった。
乃亜の初めてのコンサート観覧は終幕した。
まるで夢の世界にいたような心地だった。
コンクールで1位をとった受賞者の演奏もさることながら、
アンコールにおいては四人がそろい、
四重奏を披露するという驚きのプログラムが組まれていた。
コンサート会場を出て、二人は車のある駐車場へと向かう。
室内の温かさと興奮で温まっていた身体が、一月の冷たい風にさらされ
ぐっと思わず肩を浮かせた。
「どうだった、コンサートは」
「本当に感動しました。どれもとても素晴らしくて。
私にはまだまだ難しい曲ばかりですが、
もう少し上達したら、水野先生にも相談したいと思います」
「そうか。それならよかった」
心からの本音を告げれば、静も満足げに笑う。
乗ってきた車が見えてきた。
乃亜はロックを解除する静に改めて告げた。
「素敵な誕生日プレゼント、ありがとうございました」
「ああ、どういたしまして」
目を細めて笑ってくれる兄に、胸があたたかくなる。
家に帰ったら、今度は自分の番だ。
乃亜はそれを想うと少し緊張を覚えるが、
こんなにも素晴らしい贈り物を先にもらったのだ。
どうか少しでも、喜んでくれますように。
乃亜は祈りながら、助手席に乗り込んだ。
自宅に戻った頃にはもう外は暗くなっていた。
時刻としては16:30を過ぎた頃だが、冬は暗くなるのが早い。
さすがに二人とも少しくたびれたところがあり、
今日の夕飯はデリバリーで済ませようと車の中で話が済んでいた。
たまにはそういう日があってもいい。
車をいつものコンビニ内の駐車場に戻し、二人は歩いて自宅のマンションへと戻る。
癖のように郵便受けを静が確認する横で乃亜が待っていると
チラシに紛れて不在伝票が入っていた。
「宅配ですか?」
「ああ。……宅配Boxに入っていそうだな。
乃亜、見てくれるか?3番だ」
「はい」
続けて開錠の為の番号を聞き中を空ける。
ひとつかと思いきや、2つ、ダンボールが入っていた。
乃亜はしゃがみこんでそれらを引き出した。
「……ましろ、と……煉矢さん?」
「……ああ、そうか。ましろは送ると言っていたしな」
静は乃亜からダンボールを受け取り、なにやら納得している。
抱えられる程度の箱が二つ。
乃亜は首をかしげるしかない。
「おそらく、煉矢も同じだろうな。
あいつ、長年の付き合いの俺には雑な祝いしかしないくせに、
妹分のお前はちゃんと祝うんだからな」
「え、……え?」
「ともかく、家に入ろう。中で見てみるといい」
「え、あの、私宛て……なんですか?」
「煉矢の方は間違いなく。ましろの方は、俺たち二人宛て、か。
あいつらしい。さぁ、中に入るぞ」
「は、はい……」
戸惑い疑問符を飛ばしながら兄のあとを追う。
いつものようエレベータに乗り自宅へと帰る。
暗い室内の電気をつけて、自宅に入るとほっと息が漏れた。
外の寒さもそうだが、それなりに長い時間車に乗っていたこと、
なにより壮大な音楽の世界に浸っていた。
身体はそれなりに疲労していたらしい。
リビングのローテーブルに静が二つのダンボールを置いた。
冷え切った室内を温めるようにエアコンの電源を入れ、
静はコートとジャケットを脱いでソファに置く。
乃亜もコートを脱ぎ、それをダイニングの椅子の背もたれにかけた。
視線はリビングに置かれた箱に向けられたままだ。
それに気づいた静はふっと笑い、乃亜に視線で促した。
「開けてみるといい」
「あ、……はい。でも、ましろの方は兄さんの名前もありますし……」
「そうだな。何が入ってるか見てくれ」
「はい……」
静にも促され、乃亜はコートをきたままリビングのラグの上に膝をつく。
まずはましろの名前が書かれている方。
確かに宛先には、自分と兄の二つの名前。
静が引き出しの小物入れからカッターを取り出してきてくれた。
ごく僅かに刃を出して、中身に影響がないように、封をしているテープを切る。
中を空けると、薄いブルーの箱に、
金色のレースリボンがかかっている箱が入っていた。
リボンには1枚のメッセージカードが挟まれており、
カードには"Happy Birthday , Noah"の一言が金字で印字されている。
「こ、これ……!」
「お前への誕生日プレゼントだな」
誕生日プレゼント。自分への。
兄からもらっているだけでも驚きなのに、まさかましろから貰えるなんて思わなかった。
驚きながら薄いブルーの箱を取り出す。
その下に、今度は1cm程度の厚みのある、横向きの封筒サイズの箱が入っていた。
水色のリボン。メッセージカード。
そこには"Happy Birthday , Sei"のメッセージである。
静はそれを取り上げ、ふ、と柔らかな眼差しにかわる。
乃亜はそれに少し驚いた。
今までに見た覚えがない様子だったからだ。
ひどく優しい、自分を見るものとは違う、あまり見たことのない兄の顔。
だがそれを静は自覚していないのか、すぐにこちらに目を向けた。
表情はいつもの兄の顔に戻っていた。
「なにが入っていた?」
「あ、そ、そうですね、開けてみます」
金色のリボンを引き、カードと共に丁寧にまとめる。
箱の蓋を引き上げると、細長い20cmほどの箱が二つ並んでいた。
両方ともデザインは同じ。
しかし一つは明るい緑と黄色のライン、
もう一つは深緑と黄緑色のラインが入っている。
一つを取り出し箱に書かれている文字を確認する。
「ルームフレグランスみたいです……!」
「いいじゃないか。それぞれ香りが違うようだし、楽しめそうだな」
「はい、嬉しいです」
黄色のラインが入っているものはシトラス系、
もうひとつの緑のものは森をイメージしたものらしい。
どちらも使いやすそうだ。
そういえば以前、一緒に買い物に行った時に、
ましろはこういったアロマやお香といったものを好んでいた気がする。
自分は買うことはなかったが、いい香りだと楽しんでいたのを覚えていてくれたのかもしれない。
ましろらしい心配り。
この一年にも満たない中で、メッセージアプリであるCORDでやりとりを続けている。
もちろん直接通話をすることもあれば、会って出掛けることもある。
彼女との出会い、そして交流は、大きく乃亜の世界を広げ彩っている。
フレグランスの箱を指先でなぞり、感謝の思いを改めて感じる。
かさりと音がして振り向くと、静もまた、ダイニングチェアに腰かけ、
ましろからのプレゼントを開けていた。
1cm程度の厚みの白い封筒のような箱。
開いて開けると、何枚かのカードらしきものが入っているようだった。
「兄さんへのプレゼント、なんだったんですか?」
「ポストカードのセットだな」
手元を覗き見ると、美しい空の写真が描かれたポストカードがあった。
真夏を思い出させる青い空と大きな入道雲。
もうひとつはどこまでも広がる海、水平線、雲一つない空。
さらに一枚めくると、今度は夜空だった。
天の川のような満天の星に、どこかの平原、荷馬車、レンガの壁。
そういった様々な空の写真のポストカードのようだった。
「……あいつらしい」
静は目を細め微笑んでいる。
まただ。乃亜は先ほどと同じ感覚に陥る。
見たことがない兄の顔。
ひどく優しい、柔らかなそれ。
それの意味することを、今の乃亜にはわからなかった。
ただ、なんとなくあまりじっと見つめるのもよくない気がした。
乃亜はリビングテーブルの方に戻り、
もうひとつのダンボールを開けることにする。
差出人に書かれた名前、胸の奥まったところがなにかくすぐったい。
乃亜は慎重にカッターを入れてテープを開ける。
中に入っていたのはパステルカラーのマーブル模様の箱だ。
白を基調に、ピンクやブルー、黄色、薄紫といった淡い色が吹き付けられているような。
それらを背景に、水彩画のようなタッチで描かれているのは
バラや苺、ブルーベリーやラズベリー、そして紅茶の絵。
取り出して裏を確認すると、ローズヒップのお茶に、
ベリー系のエッセンスを混ぜたフレーバーティーのティーパックだった。
こういったお茶は飲んだことがない。
けれど見るからに優しい色合いでとても心惹かれる。
乃亜は自然と頬がほころんでいた。
「煉矢からのはなんだったんだ?」
「フレーバーティーのティーパックです。
私、飲んだことがないので、楽しみです」
それを察してくれていたわけではないだろうが、それでも嬉しい。
煉矢とはしょっちゅう連絡を取り合うわけではない。
けれど気が付けば、相談する相手になっている気がする。
兄のようにあたたかく手を引いてくれるのとも違う。
ましろのように広い世界に連れ出してくれるのとも。
そ、と背中を支えるように一歩前へ進むための勇気をくれるような。
今もそうだ。
乃亜は立ち上がり、自室へと少し足早に向かう。
突然立ち上がった妹に、なにごとかと視線で追う静を横目に
自室のクローゼットに置いたままにしていた白い袋を見つける。
喜んでくれるだろうか。
この期に及んでと思うが伸ばす手が、指先が止まる。
けれど大丈夫。きっと大丈夫。
ここに初めて兄が連れてきてくれてから、一年近い年月が経過した。
自分にとって大きく環境が変わった一年だった。
学校生活だけではない。
ましろとの出会い、煉矢との交流。
なにより、他ならぬ静から、大きな愛情を確かに受け続けている。
それを疑うことなどないはずだ。
乃亜は止まった指先をぐっと握り絞め、振り切る。
勢いよくその袋に手をのばし、しっかりとそれを取り上げる。
リビングへと戻る。
静は不思議そうにこちらを見ている。
ダイニングの椅子に座る静の前に立ち、ひとつ小さく呼吸。
「……兄さん、あの、これ……」
「?」
差し出す白い、少し光沢のある袋。
静は目を瞬かせ、それを見つめている。
「た……誕生日の、プレゼント、です……」
「俺に?……お前から?」
「っ、はい……、その、気に入って……もらえたら……」
驚いている様子の静は、乃亜の顔、そして袋をそれぞれ交互に見て、
やがて袋を受け取った。
どきどきと心臓の音を感じながら、乃亜は静の様子をうかがう。
静はまったく考えもしなかったと言う様子で、袋の中を確認する。
中から取り出した、灰色と白のチェック柄の包装紙で包まれた箱。
「……開けてもいいか?」
「は、はい……!」
丁寧に包装紙を外していく。
正直今日一番緊張している乃亜は、所在なく身体の前で指先を交差させる。
包装紙がはずされ、現れた白い箱の中、出てきたのは深いネイビーの磁器のプレート皿。
それが、二枚。
シンプルだが、普段使いしやすく、その深い色合いは、
なにか兄を思い出させるような深みがあった。
もっと模様があった方がいいかと思ったが、
普段から料理をする兄が使うなら、きっと、こういった皿のほうがきっと。
「……困ったな」
「え……」
こぼれた言葉にどきりとする。
なにか気に入らないことでもあっただろうか。
まずいことでもあったか
乃亜はどきりとして内心冷や汗をかく。
しかし、静の表情はやわらかく、皿を大切そうに見つめていた。
「すぐにでも使いたくなってきた。
夕食は、デリバリーにしようとしていたのにな」
「!」
「そうだ、乃亜、明日これに朝食を盛ろう。
きっと、普段よりも美味いだろうな」
少し頬を赤らめて、嬉しそうに言う静の表情に、
そしてその言葉に、乃亜の中にあった緊張が喜びに大きく変化した。
それに促されるまま、乃亜は大きく破顔する。
そっと乃亜の髪に静の手が触れる。
「ありがとうな、乃亜。大切に使う」
「はい……!」
乃亜はこの日、誰かの喜びが、
こんなにも心を温めてくれるのだと初めて知った。
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