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一葉編
10:xx14年1月10日
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年が明けたある日。
乃亜は中学校からの自宅へ帰る中、視線をわずかに下げ、思考の海に沈んでいた。
ぐるぐると頭の中を巡る思考は一向に答えを見出してくれない。
きっかけは、クラスメイトたちの会話だった。
ほんの些細なものだ。
いつものように何人かと一緒に教室内で昼食をとっていた。
それぞれが机や膝に弁当を広げ、談笑しながら食べる。
しかし運が悪いことに、そのうちの一人が膝に乗せた弁当を床に落としたのだ。
おかずの半分以上が床へと転がってしまい、その友人は心底肩を落とした。
「誕生日なのにサイアク!」
そう口にした彼女に、一緒にいた他の友人たちは驚いたように声を上げた。
「なに、あんた今日誕生日だったの?」
「そーだよ!もう、ツイてないなぁ……」
「あ、じゃあ、はい、誕生日プレゼント」
そういって女子の一人がその友人の弁当の蓋に、自分のおかずをひとつ分けた。
それを皮切りに皆がひとつずつおかずを渡す。
乃亜もまた、それに便乗してひとつ分けた。
大葉とチーズを混ぜ込んだ鶏つくねは、なかなか美味しくできたと思う。
「マジ嬉しい……っ!てか乃亜はいいんだよ……?
ただでさえお弁当ちっちゃいんだし乃亜も細っこいんだから……!」
「いえ、その、お誕生日ですから」
「ううっ、女の友情に泣きそうっ!」
その友人はふざけているような泣く仕草をしたが、
それが照れ隠しであることは皆が分かった。
その後落とした弁当については全員で片づけて、昼食の時間はあたたかいものとなったわけだが。
だがその話題のあとに、ふと乃亜はあることに気付いた。
今月は1月。つまり、もうすぐ兄の誕生日がある。
ついでに言うと自分も誕生日が近いわけだが、それはどうでもいい。
敬愛する兄の誕生日、1月19日。あと10日あまりだ。
折角こうして一緒に暮らせるようになったのだ。
それだけでなくて、日々自分に対して様々に気を回してくれている。
優しくあたたかい場所にいさせてくれるだけでもありがたいのに、
常に自分を優先的に動いてくれているように思う。
そんな兄に対して、なにかお礼をしたい。
そう思うのは自然なことだった。
しかし、スムーズに考えられたのはここまでだった。
なにをすればいいかが分からない。
乃亜は溜息を吐き出した。
息が白い。
あの寒い日に、自分を助けてくれた兄と煉矢。
自分はまだ子供で、その恩義に何も返せそうにない。
だからこそ、せめて、誕生日くらいはなにかをしたいと思うのに、
何も思いつかないのは、これもやはり、まだ自分が子供だからだろうか。
ぐるぐると考えている中マンションについてしまった。
いつものように自宅のドアを開けて室内に入る。
シンと冷えを感じ、リビングのエアコンのスイッチを入れた。
いったんダイニングの椅子に荷物を下ろし、中から空のお弁当を取り出す。
蓋を開けて少しでも水につけておけば、
後で洗うのが容易いというのは兄に教えてもらったことだ。
鞄を取り上げ自室へ。
荷物を片付けて着替えを済ませてしまう。
もう一度キッチンへと戻って水につけた弁同箱を手早く洗い始めた。
11月の終わりに、煉矢にも後押しされて乃亜は静に弁当を作りたいことと
朝の後片付けをしたいことを静に告げた。
静は煉矢の言うように、最初は承諾しなかった。
それは迷惑ということではなく、
そんなことは自分がやるから、乃亜はゆっくりすればいい、という
こちらを慮っての言葉だった。
これもまた、煉矢の想定した通りだった。
それに説き伏せられそうになったが、
自分でも出来ることをしたいということを精一杯に話し
ややあって静も折れてくれた。
それを皮切りに、乃亜の朝のスケジュールは大きく変わった。
朝、6時前に目を覚まして、一度私服に着替え、キッチンに立つ。
ましろと出かけることで培われた段取りで弁当を作る。
その間に兄が起きてくる。
兄は自分の横で朝食を作る。
この時間は乃亜にとって、ただただ、楽しい時間でしかない。
そうして作り終えて、二人で一緒に朝食を食べる。
いつも朝食は一人だったので、これもまた乃亜にとっては嬉しい時間になった。
格段に兄と過ごす時間が増えたのだから。
そして兄か出掛けてから、乃亜も制服に着替え、朝食で食べた食器を洗い、学校へ向かう。
以前よりはるかに慌ただしいが、それでもなにもつらくはなかった。
帰ってきてから食べ終えた弁当箱を洗うのも日課になって久しい。
弁当を洗い終え、水切りにそれらを立てかけて、自室へ戻る。
宿題を広げるが、やはり考えるのは、静への誕生日プレゼントだ。
「……私、兄さんのこと知ってるようで知らないのかも」
好みのようなものが思い当たらない。
なんだかひどく寂しい心地がしてしまった。
宿題のノートを広げるも落ち着かない。
誰かに聞いてみようか。
とはいっても、聞ける相手など限られている。
乃亜はしばし考え、おそらく兄について、
一番知っているであろう人に声をかけることにした。
CORDアプリを起動してかの人の名前を見つける。
「羽黒煉矢」と書かれた表記名。
タップしてチャットルームを開くが、
そこで本当に相談して大丈夫かと指が止まった。
尋ねても問題ないだろうか。
なにか忙しくしていたら邪魔になるのではなかろうか。
そういった不安が押し寄せる。
けれどいつか、車の中での出来事を不意に思い出した。
"お前が、「悪い子」だったことなど一度もない"
真剣なまなざしで告げてくれた言葉は心の深いところにしみわたっていた。
煉矢は自分にとってもう一人の兄のような人で、恩人だ。
あのひどく寒い日も、最初に声をかけてくれた人。
まっすぐな赤い瞳で。
「……煉矢さん」
静かな室内。
窓の向こうで車が通りすぎる音がする。
乃亜は伏目がちに、その名前をじっと見つめる。
そのとき、CORDアプリに新着が入った。
どきりとする。
新着マークがついたのは兄の名前だった。
何故か分からないが必要以上に驚いてしまい、どきどきと胸が五月蠅い。
乃亜は一つ息を吐き出し、なぜかうるさい心臓の音を抑え込む。
気を取り直して、兄とのチャットルームを開いた。
『1/19、なにか予定あるか?』
「……予定も、なにも……」
あなたの誕生日ですが。
思わず内心独り言ちた。
しかし予定と言われても、なにもないのも事実だ。
乃亜は首をかしげながらそれを正直に打ち込んだ。
『予定という予定はないです』
『なんだ、そのなにか歯に詰まったような言い方は。
まぁ、ないならいい。少し出かけたいところがあるんだ。
悪いが、開けておいてくれ』
『はい。分かりました』
『スケジュールアプリには入れておく』
それでチャットは終わった。
出掛けたいところがある、とのことだが、こうして明確なことを伝えてくれないのは珍しい。
乃亜はひたすらに首をかしげるが、帰ってきたら聞いてみようと改めて思いなおした。
「……予定はないですけど……
兄さん、自分の誕生日忘れてませんか……」
あり得そうと思ってしまった。
乃亜は何度目か分からない溜息を吐き出した。
そしてもう一度スマートフォンの画面を見る。
良くも悪くも気が抜けてしまった。
改めて、相談相手にメッセージを送ることにする。
きっと大丈夫。
彼なら、悪い子じゃない、と言ってくれた彼なら適当なタイミングで返事をくれるはず。
『すみません、ちょっと相談があって……、お時間あるときに返信いただけませんか』
これで向こうの都合がいい時になにかしら返信がある。
と、思ったが、すぐに既読がついた。
また心臓がどきりと跳ねた。
『今は手が空いてるが、どうした?』
返信。
乃亜はなにか頬が緩みそうになるのを抑え込み、本題に入る。
『19日、兄さんの誕生日なんです。
でも、なにを贈ったらいいか、わからなくて……』
『ああ、そういうことか。
だがおそらくというか確実だが、静はお前がくれたものなら何でも喜ぶぞ』
『いえ、さすがに、それは……』
『まぁ、お前の気が済まないんだろうけどな』
よくご理解いただけている。
乃亜はほっと息を吐いた。
『ちなみに渡したい、贈りたいというような候補はあるのか?』
『いえ、まったく……』
それさえも浮かんでいない。
というよりも、誰かになにかを贈るということさえ、
乃亜にとっては初めてに近い試みである。
それにもう一つ、懸念があったのだ。
それも素直に文面に起こして送信する。
『そもそも私の持ってるお金は、兄さんから頂いてるんです。
私の好きなものを買えと……それで買って、兄さん、喜んでくれますかね……?』
『ああ……、それは……成程』
なにか画面の向こうで思い切り苦笑いを浮かべられている気がする。
乃亜が今所持している金銭は、毎月静が小遣いとしてくれているものだ。
それの多い・少ないについては分からない。
好きなものを買うといい、と渡されているが
乃亜にとってその使いみちは本当にささやかだ。
そのため所持金額はそれなりになってきてはいるのだが、
そもそもそういったものを使って、兄への贈り物を買うというのは
なにかおかしくないだろうかと頭を抱えているのである。
言ってしまえば自分を経由して兄が自分の金で何かを買うようなもの。
しかも本人の好みかどうかは分からない。
それで喜ぶのか心底疑問なのである。
『分からないでもないが、そう気にすることじゃないと思うぞ。
あいつがお前の好きに使えというのだから、
好きに使っても問題とは思わないがな』
『それはそうなんですが……』
『ちなみに、お前はそのもらった金を使うことはあるのか?』
『はい。学校のものとか、ヴァイオリン教室で使うノートとか…』
『……ああ、まあ、想像通りだ』
『はい?』
おかしなことを書いたつもりはない。
必要なものを必要なだけ購入しているだけである。
『いや、いい。ああ、なら、二人で使うものにしてみてはどうだ』
まったく考えも及ばなかったアイデアが落とされた。
乃亜は目を瞬かせた。
『え、二人で使う、ですか?』
『たとえば、家のリビングに飾るインテリアだとか、食器とかな。
静は料理するだろう?
静一人じゃなく、お前も使えるようなものなら、
静からもらった金を使っても、お前も気にならないんじゃないか?』
目からうろこすぎる。
やはり煉矢に相談して良かった。
朝食だけとはいえ、一緒にキッチンに立つことも増えた。
その中で、たとえば、皿などを揃いで買ったら。
兄は料理が嫌いではないようだし、それに料理を盛り付けるのだから
二人で使って、楽しめるかもしれない。
とたん湧き上がる贈り物のイメージに乃亜は息を吸い込み、目を輝かせた。
『ありがとうございます、煉矢さん…!』
『参考になったならいい。
ところで、静の誕生日とお前の誕生日、近くなかったか?』
覚えていてくれたのか、それても兄にきいたのか。
乃亜の心臓がまたちいさく跳ねた。
『はい。私は兄さんの次の日なので』
『20日だな。分かった。また何かあれば連絡してきていい』
『はい、ありがとうございました』
そしてチャットは終わる。
本当に心底、煉矢に相談して良かった。
スマートフォンを抱きかかえ、乃亜は笑う。
今日が10日。まだ買いに行く時間はある。
行くなら隣駅の駅ビルだろうか。
ヴァイオリン教室に通い始めて半年ほど経過し、
帰りはともかく行きは一人で行くようになっていた。
少し買い物がしたいと言って、はやめに出れば買いに行けるはず。
さっそく明日、土曜日に買いに行こう。
乃亜は小さく笑い声を漏らしていた。
同日。
乃亜が静への誕生日プレゼントのことで頭を悩ませている頃。
まったく似たようなタイミングで静もまた、頭を抱えていた。
大学内のカフェ。
研究と講義の合間に時間ができた為、休憩を取っての今である。
郊外に位置するこの大学の広い敷地には、いくつか大学運営の飲食店が存在している。
ここはその一つ。
場所としては外れに存在しているため、いつきても比較的すいている。
学友に邪魔されず少し考えたいことがあったからだ。
それは研究に関することでも、自身の進路のことでもなく、
同居を始めて1年近くたつ妹の誕生日のことだった。
今月乃亜の誕生日があることは少し前から気づいていた。
なにを贈ろうかと考えていたが、まったく思い当たらないのである。
この一年近い月日を共にしていたが、
乃亜は本当に物欲がない。
たまに一緒に出掛けても、なにかをねだられたことなどない。
季節の変わり目で服を買うにしても、
妹の体形はほぼ変わらず、身長も体格もなにも変化がないのか、
新しい服が欲しいと言うこともほぼない。
これについてはましろに相談して、二人で買いに行くようになったようだが、
それ以外、乃亜が自分のものを買うということを見たことが本当になかった。
仕方ないと言えばそうだ。
静はテーブルの上のコーヒーを口にする。
ふわりと揺らぐまだ熱いコーヒーの湯気。
その白い揺らぎに、いつかのひどく寒い日を思い返す。
おそらく多くの子供が人格形成をするような年齢に
劣悪な環境で暴力を振るわれていたのだ。
おそらくその時の経験が、乃亜に、なにかを欲しがる、という思いを
極端に削ったのだと考えている。
それをおもうと眉間にしわが寄る。
静はコーヒーのカップをソーサーに戻す。
自分と暮らす中で、少しでもそういった気持ちが回復してくれたら。
「……まだかかるだろうな」
つい口から洩れた。
静は溜息をはいてそれを打ち消し、今考えるべきことに集中しなおす。
ともあれ、そんな妹になにを贈るべきだろうか。
残念ながら全く思い浮かばない。
「……やはり頼るのが早いか」
聊か情けなくとも思うが、いつまでも悩んでいても仕方ない。
静はスマートフォンのロックを解除し、
いくつかあるアプリの中から、CORDアプリを起動する。
チャットルームの中から「雪見ましろ」の名前をタップした。
ましろは春ごろに乃亜と知り合って以降、
ちょくちょく二人で出かけたり、連絡を取り合ったりしている。
ある意味では自分よりも乃亜の好みを把握しているはず。
そういった希望を込めての相談だ。
『ましろ、すまん、少し知恵を貸してくれ』
5つも離れている、学年で言えばいまだ中学2年生の彼女に
大学1年の自分がこのような言い出しで頼るのは情けない。
しかし、ましろに関してだけ言えば、もはや年齢など関係ないとしか思えない。
それほど彼女は洞察力にも富み、こちらの意図を介するのが早く、
アドバイスなども的確だった。
既読が付いた。
『なに?乃亜関連?』
想像していた以上に話が早すぎる。
『なぜわかる…』
『だって静がそんな風に言うの、乃亜のこと以外ないもの。
どうしたの?』
よくよく理解してくれていることを喜ぶべきか、情けなく思うべきか。
静は苦笑いを浮かべるが、もはや彼女に対しては
色々諦めた方がよさそうだともわかっている。
早々に用件を述べることにした。
『少しばかり釈然としないが…乃亜の誕生日があるんだ。
なにを贈るのがいいか悩んでる』
『あーー……………………』
『お前まで絶句しないでくれ頼むから』
その大量の三点リーダは勘弁して欲しい。
ましろでさえそれか。静は人目もはばからず頭を抱えた。
だがややあって返信は続いた。
『私の認識違いだったら悪いんだけどさ、
乃亜ってあんまりモノ欲しがらないよね。
一緒に買い物行っても、必要最低限って感じなんだけど』
『全面的に正しい。
好きなものを買えと言っても、娯楽的なものや趣味のものはほぼ買わないな』
『よねぇ』
どうやら二人で買い物に行った時も、さして様子は違わないようだ。
いよいよ手詰まりだろうか。
そう思った時だった。
『じゃあ、モノ贈るのやめたら』
予想だにしない返信がきた。
『は?』
『誕生日の贈り物って、そのひとが喜ぶために贈る、
つまるところ、喜んでもらうこと、が、贈り物なんだよ。
モノはそのためのツールでしょ。
ならツールは別にモノに拘らなくてもいいんじゃない?』
静はその文面を食い入るように見つめた。
こういうところが、ましろに敵わないと思うところだ。
昔からそうだ。
初めてましろと出会った時、当時ましろはまだ小学生も半ばだったろうか。
そんなころから、ひどく物事の核心をつくようなことを言っていた。
誰もが忘れかけるような大切なことを、つねに中心でとらえているような。
やはり、彼女にはかなわない。完敗だ。
『なにをして喜んでたかなんて、
私よりもずっと一緒にいる静の方が絶対分かるよ。
乃亜、やっぱり、静の傍が一番安心してると思うもの』
なにをして喜んでいたか。
ここしばらくの日々を思い返す。
乃亜が楽しそうに、嬉しそうにしていたのは、朝だ。
乃亜が自分で弁当を作りたいと言った時は驚いたが、
本人がどうしても、というので、了承した。
こちらとしてはそんなことは任せてもらって、朝はゆっくりと寝ていてほしい。
しかし、いざ始まると、乃亜は楽しそうに弁当をこしらえ、
その横で朝食を作る自分と並び、嬉しそうに話をする。
いっしょに朝食を食べれるようになったことは、
自分にとっても喜びだった。
そしてもう一つは、ヴァイオリンだ。
本人は楽しい、と素直に口にできないようだった。
しかしそれでも、見ているこちらとしては、嬉しそうだった。
「……ああ、そうか、それがあったな」
これならきっと、喜んでくれる。
静はふ、と口元を緩めた。
『ありがとう、ましろ。おかげで思いついた』
『どういたしまして。乃亜の誕生日、私もなんか贈るよ。いつなの?』
『20日だ。ああ、友達からのプレゼントだ。あいつも喜ぶ』
『え、兄妹で1日違い?』
『ああ、面白いよな』
『本当に。静にもなにか贈るよ。期待しないで、待ってて』
『楽しみにしてる』
そうしてチャットルームでの会話は終わった。
ましろには本当に頭が下がる。
だがそもそも、自分がかなうわけがないのだ。
あの時から、自分はましろに永久に敵わない。
今、ましろは中学2年。次の4月から3年生になる。
約束の時まで、あと一年だ。
静はその日を楽しみに、けれど、ほんの少しの不安を抱いて待っている。
「……と、さて、調べてみるか」
静は目的のものを探すため、Webブラウザアプリを起動した。
乃亜は中学校からの自宅へ帰る中、視線をわずかに下げ、思考の海に沈んでいた。
ぐるぐると頭の中を巡る思考は一向に答えを見出してくれない。
きっかけは、クラスメイトたちの会話だった。
ほんの些細なものだ。
いつものように何人かと一緒に教室内で昼食をとっていた。
それぞれが机や膝に弁当を広げ、談笑しながら食べる。
しかし運が悪いことに、そのうちの一人が膝に乗せた弁当を床に落としたのだ。
おかずの半分以上が床へと転がってしまい、その友人は心底肩を落とした。
「誕生日なのにサイアク!」
そう口にした彼女に、一緒にいた他の友人たちは驚いたように声を上げた。
「なに、あんた今日誕生日だったの?」
「そーだよ!もう、ツイてないなぁ……」
「あ、じゃあ、はい、誕生日プレゼント」
そういって女子の一人がその友人の弁当の蓋に、自分のおかずをひとつ分けた。
それを皮切りに皆がひとつずつおかずを渡す。
乃亜もまた、それに便乗してひとつ分けた。
大葉とチーズを混ぜ込んだ鶏つくねは、なかなか美味しくできたと思う。
「マジ嬉しい……っ!てか乃亜はいいんだよ……?
ただでさえお弁当ちっちゃいんだし乃亜も細っこいんだから……!」
「いえ、その、お誕生日ですから」
「ううっ、女の友情に泣きそうっ!」
その友人はふざけているような泣く仕草をしたが、
それが照れ隠しであることは皆が分かった。
その後落とした弁当については全員で片づけて、昼食の時間はあたたかいものとなったわけだが。
だがその話題のあとに、ふと乃亜はあることに気付いた。
今月は1月。つまり、もうすぐ兄の誕生日がある。
ついでに言うと自分も誕生日が近いわけだが、それはどうでもいい。
敬愛する兄の誕生日、1月19日。あと10日あまりだ。
折角こうして一緒に暮らせるようになったのだ。
それだけでなくて、日々自分に対して様々に気を回してくれている。
優しくあたたかい場所にいさせてくれるだけでもありがたいのに、
常に自分を優先的に動いてくれているように思う。
そんな兄に対して、なにかお礼をしたい。
そう思うのは自然なことだった。
しかし、スムーズに考えられたのはここまでだった。
なにをすればいいかが分からない。
乃亜は溜息を吐き出した。
息が白い。
あの寒い日に、自分を助けてくれた兄と煉矢。
自分はまだ子供で、その恩義に何も返せそうにない。
だからこそ、せめて、誕生日くらいはなにかをしたいと思うのに、
何も思いつかないのは、これもやはり、まだ自分が子供だからだろうか。
ぐるぐると考えている中マンションについてしまった。
いつものように自宅のドアを開けて室内に入る。
シンと冷えを感じ、リビングのエアコンのスイッチを入れた。
いったんダイニングの椅子に荷物を下ろし、中から空のお弁当を取り出す。
蓋を開けて少しでも水につけておけば、
後で洗うのが容易いというのは兄に教えてもらったことだ。
鞄を取り上げ自室へ。
荷物を片付けて着替えを済ませてしまう。
もう一度キッチンへと戻って水につけた弁同箱を手早く洗い始めた。
11月の終わりに、煉矢にも後押しされて乃亜は静に弁当を作りたいことと
朝の後片付けをしたいことを静に告げた。
静は煉矢の言うように、最初は承諾しなかった。
それは迷惑ということではなく、
そんなことは自分がやるから、乃亜はゆっくりすればいい、という
こちらを慮っての言葉だった。
これもまた、煉矢の想定した通りだった。
それに説き伏せられそうになったが、
自分でも出来ることをしたいということを精一杯に話し
ややあって静も折れてくれた。
それを皮切りに、乃亜の朝のスケジュールは大きく変わった。
朝、6時前に目を覚まして、一度私服に着替え、キッチンに立つ。
ましろと出かけることで培われた段取りで弁当を作る。
その間に兄が起きてくる。
兄は自分の横で朝食を作る。
この時間は乃亜にとって、ただただ、楽しい時間でしかない。
そうして作り終えて、二人で一緒に朝食を食べる。
いつも朝食は一人だったので、これもまた乃亜にとっては嬉しい時間になった。
格段に兄と過ごす時間が増えたのだから。
そして兄か出掛けてから、乃亜も制服に着替え、朝食で食べた食器を洗い、学校へ向かう。
以前よりはるかに慌ただしいが、それでもなにもつらくはなかった。
帰ってきてから食べ終えた弁当箱を洗うのも日課になって久しい。
弁当を洗い終え、水切りにそれらを立てかけて、自室へ戻る。
宿題を広げるが、やはり考えるのは、静への誕生日プレゼントだ。
「……私、兄さんのこと知ってるようで知らないのかも」
好みのようなものが思い当たらない。
なんだかひどく寂しい心地がしてしまった。
宿題のノートを広げるも落ち着かない。
誰かに聞いてみようか。
とはいっても、聞ける相手など限られている。
乃亜はしばし考え、おそらく兄について、
一番知っているであろう人に声をかけることにした。
CORDアプリを起動してかの人の名前を見つける。
「羽黒煉矢」と書かれた表記名。
タップしてチャットルームを開くが、
そこで本当に相談して大丈夫かと指が止まった。
尋ねても問題ないだろうか。
なにか忙しくしていたら邪魔になるのではなかろうか。
そういった不安が押し寄せる。
けれどいつか、車の中での出来事を不意に思い出した。
"お前が、「悪い子」だったことなど一度もない"
真剣なまなざしで告げてくれた言葉は心の深いところにしみわたっていた。
煉矢は自分にとってもう一人の兄のような人で、恩人だ。
あのひどく寒い日も、最初に声をかけてくれた人。
まっすぐな赤い瞳で。
「……煉矢さん」
静かな室内。
窓の向こうで車が通りすぎる音がする。
乃亜は伏目がちに、その名前をじっと見つめる。
そのとき、CORDアプリに新着が入った。
どきりとする。
新着マークがついたのは兄の名前だった。
何故か分からないが必要以上に驚いてしまい、どきどきと胸が五月蠅い。
乃亜は一つ息を吐き出し、なぜかうるさい心臓の音を抑え込む。
気を取り直して、兄とのチャットルームを開いた。
『1/19、なにか予定あるか?』
「……予定も、なにも……」
あなたの誕生日ですが。
思わず内心独り言ちた。
しかし予定と言われても、なにもないのも事実だ。
乃亜は首をかしげながらそれを正直に打ち込んだ。
『予定という予定はないです』
『なんだ、そのなにか歯に詰まったような言い方は。
まぁ、ないならいい。少し出かけたいところがあるんだ。
悪いが、開けておいてくれ』
『はい。分かりました』
『スケジュールアプリには入れておく』
それでチャットは終わった。
出掛けたいところがある、とのことだが、こうして明確なことを伝えてくれないのは珍しい。
乃亜はひたすらに首をかしげるが、帰ってきたら聞いてみようと改めて思いなおした。
「……予定はないですけど……
兄さん、自分の誕生日忘れてませんか……」
あり得そうと思ってしまった。
乃亜は何度目か分からない溜息を吐き出した。
そしてもう一度スマートフォンの画面を見る。
良くも悪くも気が抜けてしまった。
改めて、相談相手にメッセージを送ることにする。
きっと大丈夫。
彼なら、悪い子じゃない、と言ってくれた彼なら適当なタイミングで返事をくれるはず。
『すみません、ちょっと相談があって……、お時間あるときに返信いただけませんか』
これで向こうの都合がいい時になにかしら返信がある。
と、思ったが、すぐに既読がついた。
また心臓がどきりと跳ねた。
『今は手が空いてるが、どうした?』
返信。
乃亜はなにか頬が緩みそうになるのを抑え込み、本題に入る。
『19日、兄さんの誕生日なんです。
でも、なにを贈ったらいいか、わからなくて……』
『ああ、そういうことか。
だがおそらくというか確実だが、静はお前がくれたものなら何でも喜ぶぞ』
『いえ、さすがに、それは……』
『まぁ、お前の気が済まないんだろうけどな』
よくご理解いただけている。
乃亜はほっと息を吐いた。
『ちなみに渡したい、贈りたいというような候補はあるのか?』
『いえ、まったく……』
それさえも浮かんでいない。
というよりも、誰かになにかを贈るということさえ、
乃亜にとっては初めてに近い試みである。
それにもう一つ、懸念があったのだ。
それも素直に文面に起こして送信する。
『そもそも私の持ってるお金は、兄さんから頂いてるんです。
私の好きなものを買えと……それで買って、兄さん、喜んでくれますかね……?』
『ああ……、それは……成程』
なにか画面の向こうで思い切り苦笑いを浮かべられている気がする。
乃亜が今所持している金銭は、毎月静が小遣いとしてくれているものだ。
それの多い・少ないについては分からない。
好きなものを買うといい、と渡されているが
乃亜にとってその使いみちは本当にささやかだ。
そのため所持金額はそれなりになってきてはいるのだが、
そもそもそういったものを使って、兄への贈り物を買うというのは
なにかおかしくないだろうかと頭を抱えているのである。
言ってしまえば自分を経由して兄が自分の金で何かを買うようなもの。
しかも本人の好みかどうかは分からない。
それで喜ぶのか心底疑問なのである。
『分からないでもないが、そう気にすることじゃないと思うぞ。
あいつがお前の好きに使えというのだから、
好きに使っても問題とは思わないがな』
『それはそうなんですが……』
『ちなみに、お前はそのもらった金を使うことはあるのか?』
『はい。学校のものとか、ヴァイオリン教室で使うノートとか…』
『……ああ、まあ、想像通りだ』
『はい?』
おかしなことを書いたつもりはない。
必要なものを必要なだけ購入しているだけである。
『いや、いい。ああ、なら、二人で使うものにしてみてはどうだ』
まったく考えも及ばなかったアイデアが落とされた。
乃亜は目を瞬かせた。
『え、二人で使う、ですか?』
『たとえば、家のリビングに飾るインテリアだとか、食器とかな。
静は料理するだろう?
静一人じゃなく、お前も使えるようなものなら、
静からもらった金を使っても、お前も気にならないんじゃないか?』
目からうろこすぎる。
やはり煉矢に相談して良かった。
朝食だけとはいえ、一緒にキッチンに立つことも増えた。
その中で、たとえば、皿などを揃いで買ったら。
兄は料理が嫌いではないようだし、それに料理を盛り付けるのだから
二人で使って、楽しめるかもしれない。
とたん湧き上がる贈り物のイメージに乃亜は息を吸い込み、目を輝かせた。
『ありがとうございます、煉矢さん…!』
『参考になったならいい。
ところで、静の誕生日とお前の誕生日、近くなかったか?』
覚えていてくれたのか、それても兄にきいたのか。
乃亜の心臓がまたちいさく跳ねた。
『はい。私は兄さんの次の日なので』
『20日だな。分かった。また何かあれば連絡してきていい』
『はい、ありがとうございました』
そしてチャットは終わる。
本当に心底、煉矢に相談して良かった。
スマートフォンを抱きかかえ、乃亜は笑う。
今日が10日。まだ買いに行く時間はある。
行くなら隣駅の駅ビルだろうか。
ヴァイオリン教室に通い始めて半年ほど経過し、
帰りはともかく行きは一人で行くようになっていた。
少し買い物がしたいと言って、はやめに出れば買いに行けるはず。
さっそく明日、土曜日に買いに行こう。
乃亜は小さく笑い声を漏らしていた。
同日。
乃亜が静への誕生日プレゼントのことで頭を悩ませている頃。
まったく似たようなタイミングで静もまた、頭を抱えていた。
大学内のカフェ。
研究と講義の合間に時間ができた為、休憩を取っての今である。
郊外に位置するこの大学の広い敷地には、いくつか大学運営の飲食店が存在している。
ここはその一つ。
場所としては外れに存在しているため、いつきても比較的すいている。
学友に邪魔されず少し考えたいことがあったからだ。
それは研究に関することでも、自身の進路のことでもなく、
同居を始めて1年近くたつ妹の誕生日のことだった。
今月乃亜の誕生日があることは少し前から気づいていた。
なにを贈ろうかと考えていたが、まったく思い当たらないのである。
この一年近い月日を共にしていたが、
乃亜は本当に物欲がない。
たまに一緒に出掛けても、なにかをねだられたことなどない。
季節の変わり目で服を買うにしても、
妹の体形はほぼ変わらず、身長も体格もなにも変化がないのか、
新しい服が欲しいと言うこともほぼない。
これについてはましろに相談して、二人で買いに行くようになったようだが、
それ以外、乃亜が自分のものを買うということを見たことが本当になかった。
仕方ないと言えばそうだ。
静はテーブルの上のコーヒーを口にする。
ふわりと揺らぐまだ熱いコーヒーの湯気。
その白い揺らぎに、いつかのひどく寒い日を思い返す。
おそらく多くの子供が人格形成をするような年齢に
劣悪な環境で暴力を振るわれていたのだ。
おそらくその時の経験が、乃亜に、なにかを欲しがる、という思いを
極端に削ったのだと考えている。
それをおもうと眉間にしわが寄る。
静はコーヒーのカップをソーサーに戻す。
自分と暮らす中で、少しでもそういった気持ちが回復してくれたら。
「……まだかかるだろうな」
つい口から洩れた。
静は溜息をはいてそれを打ち消し、今考えるべきことに集中しなおす。
ともあれ、そんな妹になにを贈るべきだろうか。
残念ながら全く思い浮かばない。
「……やはり頼るのが早いか」
聊か情けなくとも思うが、いつまでも悩んでいても仕方ない。
静はスマートフォンのロックを解除し、
いくつかあるアプリの中から、CORDアプリを起動する。
チャットルームの中から「雪見ましろ」の名前をタップした。
ましろは春ごろに乃亜と知り合って以降、
ちょくちょく二人で出かけたり、連絡を取り合ったりしている。
ある意味では自分よりも乃亜の好みを把握しているはず。
そういった希望を込めての相談だ。
『ましろ、すまん、少し知恵を貸してくれ』
5つも離れている、学年で言えばいまだ中学2年生の彼女に
大学1年の自分がこのような言い出しで頼るのは情けない。
しかし、ましろに関してだけ言えば、もはや年齢など関係ないとしか思えない。
それほど彼女は洞察力にも富み、こちらの意図を介するのが早く、
アドバイスなども的確だった。
既読が付いた。
『なに?乃亜関連?』
想像していた以上に話が早すぎる。
『なぜわかる…』
『だって静がそんな風に言うの、乃亜のこと以外ないもの。
どうしたの?』
よくよく理解してくれていることを喜ぶべきか、情けなく思うべきか。
静は苦笑いを浮かべるが、もはや彼女に対しては
色々諦めた方がよさそうだともわかっている。
早々に用件を述べることにした。
『少しばかり釈然としないが…乃亜の誕生日があるんだ。
なにを贈るのがいいか悩んでる』
『あーー……………………』
『お前まで絶句しないでくれ頼むから』
その大量の三点リーダは勘弁して欲しい。
ましろでさえそれか。静は人目もはばからず頭を抱えた。
だがややあって返信は続いた。
『私の認識違いだったら悪いんだけどさ、
乃亜ってあんまりモノ欲しがらないよね。
一緒に買い物行っても、必要最低限って感じなんだけど』
『全面的に正しい。
好きなものを買えと言っても、娯楽的なものや趣味のものはほぼ買わないな』
『よねぇ』
どうやら二人で買い物に行った時も、さして様子は違わないようだ。
いよいよ手詰まりだろうか。
そう思った時だった。
『じゃあ、モノ贈るのやめたら』
予想だにしない返信がきた。
『は?』
『誕生日の贈り物って、そのひとが喜ぶために贈る、
つまるところ、喜んでもらうこと、が、贈り物なんだよ。
モノはそのためのツールでしょ。
ならツールは別にモノに拘らなくてもいいんじゃない?』
静はその文面を食い入るように見つめた。
こういうところが、ましろに敵わないと思うところだ。
昔からそうだ。
初めてましろと出会った時、当時ましろはまだ小学生も半ばだったろうか。
そんなころから、ひどく物事の核心をつくようなことを言っていた。
誰もが忘れかけるような大切なことを、つねに中心でとらえているような。
やはり、彼女にはかなわない。完敗だ。
『なにをして喜んでたかなんて、
私よりもずっと一緒にいる静の方が絶対分かるよ。
乃亜、やっぱり、静の傍が一番安心してると思うもの』
なにをして喜んでいたか。
ここしばらくの日々を思い返す。
乃亜が楽しそうに、嬉しそうにしていたのは、朝だ。
乃亜が自分で弁当を作りたいと言った時は驚いたが、
本人がどうしても、というので、了承した。
こちらとしてはそんなことは任せてもらって、朝はゆっくりと寝ていてほしい。
しかし、いざ始まると、乃亜は楽しそうに弁当をこしらえ、
その横で朝食を作る自分と並び、嬉しそうに話をする。
いっしょに朝食を食べれるようになったことは、
自分にとっても喜びだった。
そしてもう一つは、ヴァイオリンだ。
本人は楽しい、と素直に口にできないようだった。
しかしそれでも、見ているこちらとしては、嬉しそうだった。
「……ああ、そうか、それがあったな」
これならきっと、喜んでくれる。
静はふ、と口元を緩めた。
『ありがとう、ましろ。おかげで思いついた』
『どういたしまして。乃亜の誕生日、私もなんか贈るよ。いつなの?』
『20日だ。ああ、友達からのプレゼントだ。あいつも喜ぶ』
『え、兄妹で1日違い?』
『ああ、面白いよな』
『本当に。静にもなにか贈るよ。期待しないで、待ってて』
『楽しみにしてる』
そうしてチャットルームでの会話は終わった。
ましろには本当に頭が下がる。
だがそもそも、自分がかなうわけがないのだ。
あの時から、自分はましろに永久に敵わない。
今、ましろは中学2年。次の4月から3年生になる。
約束の時まで、あと一年だ。
静はその日を楽しみに、けれど、ほんの少しの不安を抱いて待っている。
「……と、さて、調べてみるか」
静は目的のものを探すため、Webブラウザアプリを起動した。
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