モメント 〜夢の真実を求めて五界を巡る〜

キマリ

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幻想界編

第21話 闘気

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王都闘技場の中央――。
本戦の幕開けを告げる鐘が、金属質な音を空に突き抜けていった。

観客席はぎっしりと埋まり、数千人の視線が一斉に闘技場へ注がれる。
城下から集まった市民、各地の商人、冒険者、兵士……。立ち見の客が壁際にまで押し寄せ、熱気が蒸気のように空気を揺らしていた。

中央には石造りの円形ステージ。
直径は二十メートルほど、足元の石畳には何度も試合が行われた痕跡があり、ひび割れや血の染みがうっすらと残っている。

「それでは組み合わせを見ていきましょう!」
審判が大きく手を広げ、掲げられたトーナメント表が観客の視線を集めた。

第一試合 篝志雄 vs サスケ
第二試合 東雲悠木 vs 小坂吉松
第三試合 氷河 vs カマス
第四試合 ナナシ vs ハク

名前が読み上げられるたびに観客が沸き、場内の熱気はさらに高まっていく。

白装束に身を包んだ二人の男が、観客席の陰でひそひそと声を交わしていた。
フードの下に覗く顔は互いに見えないほど影に沈んでいる。

「まったく……ついてない。私は棄権する」
低く乾いた声が響く。
「後のことは任せる。ハク……いや、雷牙」

もう一人の男が姿勢を正し、深く頭を垂れる。
「……分かっています。副団長として、役目はきちんと果たします」

白い面布をつけ、貴族の和装を思わせる衣を纏ったその男――ハクは、仲間に忠誠を示すように腰を低くした。

最初に口を開いた男は一度だけ振り返り、何も言わずに観客の流れへと消えていった。



氷河は遠巻きにその二人を見ていた。会話の内容までは聞き取れなかったが、ただならぬ気配だけは確かに感じ取った。
「……怪しいな」
彼の視線が一瞬鋭くなり、睨むように白装束の背を追っていた。


「俺からかよ……!? なるほど……サスケ……誰だ?」
志雄が眉をひそめると、背中を軽く叩かれた。

「俺だよ!」

声を掛けてきたのは、茶髪のもみあげを跳ね上げた男。
着ているのは太極拳の中華服を思わせる衣装で、袖も裾も広く、黒地に赤の刺繍で小さな花模様が散りばめられている。
爽やかな笑顔だが、どこか挑発的な眼差しが印象的だった。

「一回戦、よろしくな」

志雄は小さく頷き、両者はステージへと上がった。



「第一試合――篝志雄、サスケ! 前へ!」

審判の声に合わせ、二人は円形ステージの中央に進む。
観客席からは「やれーっ!」という声援や、「坊主大丈夫か?」という野次が飛ぶ。

二人は向かい合い、深々と礼を交わす。

「――始め!」
審判が手を振り下ろした瞬間、空気が一変した。



志雄は息を呑む。
(さて……どう来る――)

考えたその瞬間には、もう目の前にサスケがいた。

「はっ!」

振りかぶりも見えないほどの速さで放たれた蹴りが、志雄の腹を直撃した。
「ぐっ……!」

肺の空気が一気に抜け、身体ごと吹き飛ばされる。場外ぎりぎりまで弾き飛ばされ、石畳に膝をついた。

観客席がどよめく。

「おいおい、一撃かよ!」
「こりゃ坊主には荷が重いな!」

志雄は腹を押さえ、咳き込みながらも立ち上がる。
「げほっ……けっほ……」

サスケは余裕の笑みを浮かべた。
「なんだよ。この程度じゃ、一回戦は余裕か?」

「……クソッ」

志雄は距離を詰め、龍閃を繰り出そうと拳を握る。しかし――

「遅い」

サスケは低く身を伏せ、踵で薙ぎ払うように志雄の足を払った。
体勢を崩した志雄の首を掴み、そのまま地面に叩きつける。

「がはっ……!」

背中に響く衝撃。視界が一瞬白む。

観客席は再び大きなどよめきに包まれる。

「やばいぞ、完全に押されてる!」
「次で決まるか!?」

ツムギは観客席で祈るように手を組み、氷河の肩を揺さぶった。
「氷河さん、どうしましょう!? 志雄くん、負けちゃう!」

氷河は腕を組んだまま、瞳だけをステージに向けて言う。
「大丈夫だ。あいつなら、なんとかやる。信じろ」



サスケは仁王立ちで志雄を見下ろした。
「単調な攻撃だな。大した技術も持ってなさそうだし……なんでお前、この大会に出たんだ?」
「資金に目が眩んだのか? なら言っとくぜ。ここは戦場だ。実力のない奴に報酬を得る資格はない」

挑発するように笑うサスケ。その言葉に、志雄の胸の奥が熱くなる。

「……んなこと分かって戦ってるわ!」

志雄は拳を地面に叩きつけた。

「はぁーーっ!」

轟音とともに石畳がひび割れ、半径二メートルほどに亀裂が走る。
小さな衝撃波が走り、サスケは一歩退いた。

「ほぅ……お前、案外力あるんだな」

志雄は荒い息を吐きながら拳を見つめる。
(やべぇ……戦いにすらなってねぇ。このままじゃ負ける……)

だが、そこで気づいた。

(……血が出てない……? いつもなら拳の皮が裂けてるのに。なんでだ?)

疑問が脳裏をよぎる。すぐに一心との修行の日々が思い出された。

(そういえば、あの時……岩の内部を砕いた時の感覚……あれは、ただの力じゃなかった。あの時、確かに“闘気”を纏ってた……!)



志雄の脳裏で思考が一気に加速する。

(闘気――多分、火属性を発現する前の“素の力”。無属性のまま身体を強化する術なんだ……)
(氷河のスピードも、きっと闘気を纏ってるから出せる。あの人が言ってた“感覚で動け”ってのは、闘気の流れを読むってことなんだ)
(一心の龍神拳に負担が出なかったのも……拳を表面から闘気で覆っていたから。だから壊れなかったんだ)

(つまり――闘気は身体強化そのもの。属性はそこに纏わせることで形を得るが、その前段階が“闘気”なんだ……!)



「隙ありだぜ!」

サスケの拳が志雄の頬を撃つ。
しかし――志雄の身体は吹き飛ばなかった。

「なっ……!?」

志雄は鼻血を滲ませながらも、不敵に笑った。
「ちっとも痛くないぜ」

観客席が一瞬静まり返り、次の瞬間、大歓声に包まれた。

「おおおおおお!!!」
「立ったぞ! 坊主が立った!」
「まだやれるのか!?」

志雄は肩で息をしながらも、目に新たな光を宿す。
「……さあ、ここからが勝負だ、サスケ!」
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