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試合を見に行ったおはなし
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瑠々は朝から上機嫌だった。髪を丁寧にアイロンで伸ばし、姿見の前に立てばワンピースの裾を持って少しふりふりしてみたり、とにかく誰から見ても浮かれていた。それも無理はない、だって今日は初めて刹那が所属するバレーボール部の試合を見に行くことが許されたのだから。
「セツくんとお揃いの指輪もつけたし、できる範囲のおしゃれもした。これで私、セツくんの隣に立っても恥ずかしくないかな」
たとえ寝癖が激しかろうと刹那が瑠々を恥ずかしいと思うことなどあり得ないのだが、まだ付き合って三カ月。そう簡単に自信など付いては来ず、今日の試合を見に行くというのも自分から刹那に頼み込んで得た許可。
「ちょっと、しつこかったかな」
俯いて髪を耳にかけると、情けない自分の顔が姿見に入りぶんぶんと顔を横に振る。試合を見に来てもいいと言ってくれたのは、それだけ距離も縮まっているということだ。瑠々は自分をそう励ますと、試合が行われる体育センターへと急いだ。
「う、わあぁ……」
試合が始まると、瑠々は開いた口が塞がらなかった。自分と過ごす時の穏やかな刹那ではなく、真剣な眼差しでボールを目で追い、少し細いのに意外と筋肉がある身体でコートを守り、あの頼もしい手で得点を重ねる刹那に胸が熱く震えた。
「もっと、バレーボール勉強してくればよかった」
思わず呟いた自分の一言に、今まで何をしていたんだと勝手に少し落ち込んだ。スポーツとは無縁だった瑠々には、一年でレギュラーになる本当の苦労が正しく理解できていなかったのだ。こんな私だから、すぐに試合を見に行くのを許してもらえなかったのかなと凹む瑠々を無視して、第一試合は自校の圧勝で終わった。
「セツくん、どこかなぁ」
いつもより眉を困ったように下げながら、瑠々は試合が終わった後の刹那を探した。タオルを渡したかったのだ。色んな学校の選手や関係者が行き交う中で、きょろきょろと刹那を探す瑠々は、本人の意思とは裏腹にその可愛さから少し視線を集めていた。そんな瑠々に「あの……」と声がかかる。振り向けば、そこには他校の選手がおり、自分が道をふさいでいたのかなと瑠々はすぐに頭を下げた。
「あ、いやいや。そうじゃなくて、誰か探してる?手伝おうか?」
さすがスポーツマンシップの集まり。そう思って頼ろうと口を開くと、後ろから誰かに抱きしめられ口を手で覆われる。驚いて顔を上を向くと、そこには厳しい目線を選手にやる刹那がいた。
「僕の彼女に、何か用かな?」
「ちっ、んだよ……」
先ほどまでの誠実そうな雰囲気を一気に崩し、相手は去って行った。胸の高鳴りが抑えられない瑠々は刹那の腕の中で固まったまま動けない。刹那は手を離すと、そっと瑠々の頭を撫でる。
「大丈夫?何もされてないよね」
「だっ、だいじょうぶ!」
「そっか、よかった」
「あ、ありがとう」
「ちゃんと見つけるから、次からは大人しく待ってて」
「はい……」
いつものように微笑んでくれる刹那に、少し気まずくて瑠々は視線をそらそうとするが刹那の首にかかったネックレスを見てぱあっと笑顔になる。
「指輪……!」
「くすっ、瑠々は可愛いね」
「あっ、ごめっ」
「褒めてるんだから、そのまま受け取って」
「……うん!」
ここで、今日初めて刹那の前で笑顔になったことに気付き、せっかく応援に来たんだからと瑠々はやる気を取り戻した。少しずつ元気になる瑠々を見て、刹那は嬉しそうに目を細めた。
「あ、私、セツくんにタオルを渡したくて」
「それで探しに来てくれてたんだ」
「うん」
「試合中にいた場所にいないから、僕の方が探したよ」
「えっ、気付いてくれてたの?」
「当たり前でしょ。こんな可愛い女の子、すぐわかるよ」
「セツくんも!かっこよかった!」
「……やっぱりだめだな」
「え?」
爛々と目を輝かせる瑠々を、刹那は人目も憚らず抱きしめた。いや、可愛すぎる瑠々を腕に閉じ込め隠した。という表現が正しいか。
「セツくん……?」
「瑠々、可愛すぎてやっぱり無理。このまま一緒に帰ろう」
「えぇ!セツくん?!あと二試合、頑張って?!」
刹那はその言葉に目を丸くして、瑠々を見つめた。瑠々は、変なこと言っちゃったかなと慌てている。瑠々はあと二試合と言った。つまり、優勝することを信じているのだ。刹那は思わず震えた。これがドラマや映画の中でしか見られない、武者震いというやつか。
「あ、セツくん!顧問の先生、呼んでるよ」
「残念だな、もう行かなきゃ」
「次の休憩時間は、大人しくしてるね」
「うん。ご褒美、じっくり考えといて。じゃあ、気を付けて戻ってね」
「……ぅえっ!?」
瑠々は真っ赤になった顔に手を当て、一人しゃがみ込んだ。時刻はまだ十一時半。どうやら試合開始のホイッスルは、選手にだけ鳴らされるのではないようだ。
「セツくんとお揃いの指輪もつけたし、できる範囲のおしゃれもした。これで私、セツくんの隣に立っても恥ずかしくないかな」
たとえ寝癖が激しかろうと刹那が瑠々を恥ずかしいと思うことなどあり得ないのだが、まだ付き合って三カ月。そう簡単に自信など付いては来ず、今日の試合を見に行くというのも自分から刹那に頼み込んで得た許可。
「ちょっと、しつこかったかな」
俯いて髪を耳にかけると、情けない自分の顔が姿見に入りぶんぶんと顔を横に振る。試合を見に来てもいいと言ってくれたのは、それだけ距離も縮まっているということだ。瑠々は自分をそう励ますと、試合が行われる体育センターへと急いだ。
「う、わあぁ……」
試合が始まると、瑠々は開いた口が塞がらなかった。自分と過ごす時の穏やかな刹那ではなく、真剣な眼差しでボールを目で追い、少し細いのに意外と筋肉がある身体でコートを守り、あの頼もしい手で得点を重ねる刹那に胸が熱く震えた。
「もっと、バレーボール勉強してくればよかった」
思わず呟いた自分の一言に、今まで何をしていたんだと勝手に少し落ち込んだ。スポーツとは無縁だった瑠々には、一年でレギュラーになる本当の苦労が正しく理解できていなかったのだ。こんな私だから、すぐに試合を見に行くのを許してもらえなかったのかなと凹む瑠々を無視して、第一試合は自校の圧勝で終わった。
「セツくん、どこかなぁ」
いつもより眉を困ったように下げながら、瑠々は試合が終わった後の刹那を探した。タオルを渡したかったのだ。色んな学校の選手や関係者が行き交う中で、きょろきょろと刹那を探す瑠々は、本人の意思とは裏腹にその可愛さから少し視線を集めていた。そんな瑠々に「あの……」と声がかかる。振り向けば、そこには他校の選手がおり、自分が道をふさいでいたのかなと瑠々はすぐに頭を下げた。
「あ、いやいや。そうじゃなくて、誰か探してる?手伝おうか?」
さすがスポーツマンシップの集まり。そう思って頼ろうと口を開くと、後ろから誰かに抱きしめられ口を手で覆われる。驚いて顔を上を向くと、そこには厳しい目線を選手にやる刹那がいた。
「僕の彼女に、何か用かな?」
「ちっ、んだよ……」
先ほどまでの誠実そうな雰囲気を一気に崩し、相手は去って行った。胸の高鳴りが抑えられない瑠々は刹那の腕の中で固まったまま動けない。刹那は手を離すと、そっと瑠々の頭を撫でる。
「大丈夫?何もされてないよね」
「だっ、だいじょうぶ!」
「そっか、よかった」
「あ、ありがとう」
「ちゃんと見つけるから、次からは大人しく待ってて」
「はい……」
いつものように微笑んでくれる刹那に、少し気まずくて瑠々は視線をそらそうとするが刹那の首にかかったネックレスを見てぱあっと笑顔になる。
「指輪……!」
「くすっ、瑠々は可愛いね」
「あっ、ごめっ」
「褒めてるんだから、そのまま受け取って」
「……うん!」
ここで、今日初めて刹那の前で笑顔になったことに気付き、せっかく応援に来たんだからと瑠々はやる気を取り戻した。少しずつ元気になる瑠々を見て、刹那は嬉しそうに目を細めた。
「あ、私、セツくんにタオルを渡したくて」
「それで探しに来てくれてたんだ」
「うん」
「試合中にいた場所にいないから、僕の方が探したよ」
「えっ、気付いてくれてたの?」
「当たり前でしょ。こんな可愛い女の子、すぐわかるよ」
「セツくんも!かっこよかった!」
「……やっぱりだめだな」
「え?」
爛々と目を輝かせる瑠々を、刹那は人目も憚らず抱きしめた。いや、可愛すぎる瑠々を腕に閉じ込め隠した。という表現が正しいか。
「セツくん……?」
「瑠々、可愛すぎてやっぱり無理。このまま一緒に帰ろう」
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「残念だな、もう行かなきゃ」
「次の休憩時間は、大人しくしてるね」
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