60 / 61
【第十部】
自分自身に別れを告げて
しおりを挟む
次の日目を覚ますと、俺たちは一緒にシャワーを浴び、二人でキッチンに並んで朝食を作った。
初めて咲の家に泊まった時は、彼に全部やってもらっていたけど、最近は俺も手伝うようになった。いかにハムエッグをうまく作れるようになるか挑戦することが、最近の俺の趣味でもある。
「それで、さ。咲」
「どうしたの?」
全ての用意が終わり、リビングテーブルで向かい合って食事をしている時、なるべくなら不自然にならないように俺は言葉を切り出した。
「咲は、俺との関係、隠したい?」
すると咲はくすくすと笑いだした。俺、ヘンな事聞いたか?
「剛は隠したくないって顔してる」
「まあ、な。でも咲が秘密にしたいのであれば、俺はそれに従う」
「あはは。良いよ。剛がズズニーで言ってくれたでしょ? 『隠さない事に決めた』って。だから、僕もそうしようと思う。もし君が傷つくことがあれば、今度は僕が守るから」
「ヤバい、そんな事言われたら、さらに惚れる。つか、俺も絶対咲を守るから!」
「それは何よりです。次は何を言われたとしても、僕は迷わないから」
「おう。俺も、外野が何を言っても、咲を好きな気持ちは一生変わらない」
「僕もだよ。今日も、その先も、君を愛してる」
大切な人と新たな日を迎えて、食事をして、暮らしを続けていく。
それこそが、俺の望んだ「人を愛する」という事なんだろう。
真上に輝く太陽が照らす、早春の曇り一つない軽やかな青空は、きっと俺たちの未来を祝福してくれている。
繁華街の中、華美な電飾の下で見る作り笑いの咲よりも、今こうして自然な光で無垢な顔で笑う咲を、これから先もずっと大事にしていきたい。
そんな誓いを、俺は心に深く刻んだのであった。
咲と過ごす休日が過ぎ、そうして迎えた登校日。
この日は別々の登校となったけれど、俺たちはある約束をしていた。
授業開始一〇分前、俺はイツメンに囲まれ、ワイワイと雑談を交わしていた。
そんな中、突然周りがざわつく。そう、とある人物が教室に入ってくると同時に。
「ねぇ、あれって誰?」
「こんなかっこいい人、うちのクラスにいたっけ」
彼は男女問わず人目を惹いているようだ。けれどまるで何事も無かったかのように、堂々と通路を歩いていく。
「おい剛、あいつ、知ってるか?」
そう文が尋ね終える前に、俺は彼の名前を呼んでいた。
「咲!」
するとこちらに視線を投げた彼が、にこやかにこちらへと歩いてくる。
以前教室に居た、重ための前髪に分厚い眼鏡で地味な服を着た咲じゃない。
髪もアップバンクにして、グレージュのカラコンを身に着けている。それに今はブランドものじゃない、俺と一緒に買いに行った古着を身に纏っていた。
まるで彼の通った道がぱあっと明るくなるような錯覚さえ覚える程、美しさを放っている。
「と、言うことで。俺、仲間……いや、咲と付き合ってるんだ」
「どうもー。剛とお付き合いさせてもらってる仲間でーす」
すると俺のイツメンは一斉に咲を質問攻めにした。
「ウッソ! ヤッバ、超イケメンじゃん」
「っていうか、剛の好きな人って仲間くんだったんだ!」
「うわー。これはガチで勝ち目ない」
「えっ!? 仲間って、あの地味で陰気そうな仲間?!」
「剛、おめでとー! まあ? ウチは剛が失恋するなんて思ってなかったけど」
そう言って彼を囲む友人たちは、興味津々であることを隠そうともしない。
けれど否定されるよりずっと良い。
正直受け入れられるかっていう不安は、彼が俺の席に来る直前まであった。
それなのに、こいつらは受け入れてくれようとしている。その心遣いがものすごく嬉しかった。
「地味はともかく陰気は失礼だろ」
「まあ地味だし陰気に見えるよね」
そう言って苦笑する咲の肩を、文はがしっと組もうとする。
だから俺はそれを阻止しつつも、彼を自分の方へ引き寄せた。
「それにしても、仲間、お前。モデルみたいじゃん」
「そうだろ。俺の彼氏、超かっこいいんだって」
「あ~はいはい惚気おつ。っていうか仲間も仲間よな~。そんなにイケメンだったらモテてただろによー」
「僕はモテるつもりは無かったからね。でもこうして剛の隣に立つなら、外見を整えておかないと」
そうさらっと言う咲は、イツメンだけじゃない。この教室全ての注目を集めている。
それが誇らしくもあり、けれど同時に俺しか知らない咲をみんなが知っていくような寂しさもあった。
だけど、今こうして咲が前を向いて歩けているならそれが一番良い。
彼の自然体な笑顔が、俺は一番好きだから。
「カーッ! お前、愛されてんなー!」
「おっさんくさいんだよ、お前は。ま、そーゆー事だから、今後ともよろしくな」
「こちらこそ! 仲間くんも、今度一緒に呑みにいこーよ!」
「剛の恥ずかしい話、聞かせろよな」
「あ、だからと言って私たちを差し置いてラブラブしないでね?」
「あはは。了解です。僕も、君たちと色んな話がしてみたいな」
「結婚式には呼んでくれよ~」
「お前ら、気が早すぎ。まあ、将来的にはな。全員来いよ?」
俺たちは本当にいろいろな事があった。
最初は人に言えない関係から始まったし、社会の偏見に惑わされ、離別も経験した。
だからこそ、こうして友人たちが祝福してくれるなんて、誰が想像できただろう。
「剛」
そう咲が名前を呼んでくれるだけで、俺は心がぱっと明るくなる。
それは春の日差しに照らされた、一輪の花のように。
初めて咲の家に泊まった時は、彼に全部やってもらっていたけど、最近は俺も手伝うようになった。いかにハムエッグをうまく作れるようになるか挑戦することが、最近の俺の趣味でもある。
「それで、さ。咲」
「どうしたの?」
全ての用意が終わり、リビングテーブルで向かい合って食事をしている時、なるべくなら不自然にならないように俺は言葉を切り出した。
「咲は、俺との関係、隠したい?」
すると咲はくすくすと笑いだした。俺、ヘンな事聞いたか?
「剛は隠したくないって顔してる」
「まあ、な。でも咲が秘密にしたいのであれば、俺はそれに従う」
「あはは。良いよ。剛がズズニーで言ってくれたでしょ? 『隠さない事に決めた』って。だから、僕もそうしようと思う。もし君が傷つくことがあれば、今度は僕が守るから」
「ヤバい、そんな事言われたら、さらに惚れる。つか、俺も絶対咲を守るから!」
「それは何よりです。次は何を言われたとしても、僕は迷わないから」
「おう。俺も、外野が何を言っても、咲を好きな気持ちは一生変わらない」
「僕もだよ。今日も、その先も、君を愛してる」
大切な人と新たな日を迎えて、食事をして、暮らしを続けていく。
それこそが、俺の望んだ「人を愛する」という事なんだろう。
真上に輝く太陽が照らす、早春の曇り一つない軽やかな青空は、きっと俺たちの未来を祝福してくれている。
繁華街の中、華美な電飾の下で見る作り笑いの咲よりも、今こうして自然な光で無垢な顔で笑う咲を、これから先もずっと大事にしていきたい。
そんな誓いを、俺は心に深く刻んだのであった。
咲と過ごす休日が過ぎ、そうして迎えた登校日。
この日は別々の登校となったけれど、俺たちはある約束をしていた。
授業開始一〇分前、俺はイツメンに囲まれ、ワイワイと雑談を交わしていた。
そんな中、突然周りがざわつく。そう、とある人物が教室に入ってくると同時に。
「ねぇ、あれって誰?」
「こんなかっこいい人、うちのクラスにいたっけ」
彼は男女問わず人目を惹いているようだ。けれどまるで何事も無かったかのように、堂々と通路を歩いていく。
「おい剛、あいつ、知ってるか?」
そう文が尋ね終える前に、俺は彼の名前を呼んでいた。
「咲!」
するとこちらに視線を投げた彼が、にこやかにこちらへと歩いてくる。
以前教室に居た、重ための前髪に分厚い眼鏡で地味な服を着た咲じゃない。
髪もアップバンクにして、グレージュのカラコンを身に着けている。それに今はブランドものじゃない、俺と一緒に買いに行った古着を身に纏っていた。
まるで彼の通った道がぱあっと明るくなるような錯覚さえ覚える程、美しさを放っている。
「と、言うことで。俺、仲間……いや、咲と付き合ってるんだ」
「どうもー。剛とお付き合いさせてもらってる仲間でーす」
すると俺のイツメンは一斉に咲を質問攻めにした。
「ウッソ! ヤッバ、超イケメンじゃん」
「っていうか、剛の好きな人って仲間くんだったんだ!」
「うわー。これはガチで勝ち目ない」
「えっ!? 仲間って、あの地味で陰気そうな仲間?!」
「剛、おめでとー! まあ? ウチは剛が失恋するなんて思ってなかったけど」
そう言って彼を囲む友人たちは、興味津々であることを隠そうともしない。
けれど否定されるよりずっと良い。
正直受け入れられるかっていう不安は、彼が俺の席に来る直前まであった。
それなのに、こいつらは受け入れてくれようとしている。その心遣いがものすごく嬉しかった。
「地味はともかく陰気は失礼だろ」
「まあ地味だし陰気に見えるよね」
そう言って苦笑する咲の肩を、文はがしっと組もうとする。
だから俺はそれを阻止しつつも、彼を自分の方へ引き寄せた。
「それにしても、仲間、お前。モデルみたいじゃん」
「そうだろ。俺の彼氏、超かっこいいんだって」
「あ~はいはい惚気おつ。っていうか仲間も仲間よな~。そんなにイケメンだったらモテてただろによー」
「僕はモテるつもりは無かったからね。でもこうして剛の隣に立つなら、外見を整えておかないと」
そうさらっと言う咲は、イツメンだけじゃない。この教室全ての注目を集めている。
それが誇らしくもあり、けれど同時に俺しか知らない咲をみんなが知っていくような寂しさもあった。
だけど、今こうして咲が前を向いて歩けているならそれが一番良い。
彼の自然体な笑顔が、俺は一番好きだから。
「カーッ! お前、愛されてんなー!」
「おっさんくさいんだよ、お前は。ま、そーゆー事だから、今後ともよろしくな」
「こちらこそ! 仲間くんも、今度一緒に呑みにいこーよ!」
「剛の恥ずかしい話、聞かせろよな」
「あ、だからと言って私たちを差し置いてラブラブしないでね?」
「あはは。了解です。僕も、君たちと色んな話がしてみたいな」
「結婚式には呼んでくれよ~」
「お前ら、気が早すぎ。まあ、将来的にはな。全員来いよ?」
俺たちは本当にいろいろな事があった。
最初は人に言えない関係から始まったし、社会の偏見に惑わされ、離別も経験した。
だからこそ、こうして友人たちが祝福してくれるなんて、誰が想像できただろう。
「剛」
そう咲が名前を呼んでくれるだけで、俺は心がぱっと明るくなる。
それは春の日差しに照らされた、一輪の花のように。
0
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第3巻 - 甘美な檻と蹂躙の獣
大の字だい
BL
失われかけた家名を再び背負い、王都に戻った参謀レイモンド。
軍務と政務に才知を振るう彼の傍らで、二人の騎士――冷徹な支配で従わせようとする副団長ヴィンセントと、嗜虐的な激情で乱そうとする隊長アルベリック――は、互いに牙を剥きながら彼を奪い合う。
支配か、激情か。安堵と愉悦の狭間で揺らぐ心と身体は、熱に縛られ、疼きに飲まれていく。
恋か、依存か、それとも破滅か――。
三者の欲望が交錯する先に、レイモンドが見出すものとは。
第3幕。
それぞれが、それぞれに。
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
俺にだけ厳しい幼馴染とストーカー事件を調査した結果、結果、とんでもない事実が判明した
あと
BL
「また物が置かれてる!」
最近ポストやバイト先に物が贈られるなどストーカー行為に悩まされている主人公。物理的被害はないため、警察は動かないだろうから、自分にだけ厳しいチャラ男幼馴染を味方につけ、自分たちだけで調査することに。なんとかストーカーを捕まえるが、違和感は残り、物語は意外な方向に…?
⚠️ヤンデレ、ストーカー要素が含まれています。
攻めが重度のヤンデレです。自衛してください。
ちょっと怖い場面が含まれています。
ミステリー要素があります。
一応ハピエンです。
主人公:七瀬明
幼馴染:月城颯
ストーカー:不明
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる