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1章 新入生編
3.団長と副団長
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「はいはーい。じゃぁ今日の演習担当のノア・セシルです。所属は魔物討伐特別部隊の副団長やってます。25歳です、よろしくねっ」
天気の良い午後。ルーン王国を囲む高い壁の外周の草原で、てへっと舌を出しながら可愛く顔の横でピースサインを作るその青年に、ソフィアとフィンを含めた新入生は地面に座ったままにぽかんとその様を見上げた。
その場には束の間無言の時間が流れる。
「ちょ、どうしようめっちゃ滑っちゃった!! 僕このあとこの空気の中でやっていける気がしないんだけど!?」
「……だから普通に自己紹介しろっていつも言ってるだろう……」
「緊張を和らげようとしてるんじゃん!! ダリアったらわかってないんだから、もう!!」
ヤダァなんて謎のオネェ風な口調で、一纏めにした長いブラウンの髪と同色の瞳に眼鏡をかけた風貌のノアは、自身の隣に無言で立っていたもう1人の青年に助けを求める。
その様を相変わらずぽかんと眺める新入生たち。フィンについては何だこの胡散臭そうなヤツはという、怪訝そうでイヤそうな顔を隠しもしない。
そんなフィンをチラと一瞥してから、ダリアと呼ばれた背の高い青年ははぁとため息をついて姿勢を正した。
「ーーダリア・ルドルフです。ノアと共に特別部隊に所属しています。俺は見学なので、いないものと思ってくださいね。……こんなでもノアは頼りになる副団長です。安心して指示に従ってくれて大丈夫ですよ」
まだ何事が騒いでいるノアを歯牙にもかけず、ダリアは爽やかに整えたチャコールブラウンの癖っ毛とその涼やかな蒼い瞳で、その端正な表情を穏やかに緩めて口にする。
「ちょっとちょっと、大事なこと言い忘れてるよダリア! ーーまぁ、わざわざ言うまでもないかも知れないけど、22歳で飛ぶ鳥を落とす勢いの皆様ご存知、その麗しい容姿と物腰に飽き足らず、魔物討伐特別部隊の華麗なるエース!! 団長のダリア・ルドルフさんその人デース!!」
バッバーンと無表情に近いダリアを押し出して騒ぎ立てるノアの一方で、未だ多くがポカン顔の無言の新入生たち。
その無言に流れる時にノアがあれ? と冷や汗をかき出した頃、ダリアが片手で自身の顔を覆った。にっこりと口元には笑みを残したままに、笑っていない瞳の奥が恐ろしい。
「ーーノア、キミが勝手に滑るのは自由だけど、俺を巻き込まないでくれるかな……?」
「い、イヤ、あ、あっれー? おっかしいな、こんなはずじゃ……っ!?」
ジリと不穏な空気を放つダリアにヒエエエエエっ!! と後退るノアの後ろで、1人の新入生がポツリと溢す。
「ーー嘘でしょ……っ」
「え、本物?」
「マジで本物のダリア団長?」
ぽつりぽつりと溢れ出した声は次第に大きく、伴う興奮を溢れさせていく。様子の変わった周囲の空気に、ソフィアとフィンは周囲を見回して顔を見合わせた。
「ダ、ダリア様ぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「ま、まじカッケェぇぇェェェっ!!!」
「こっ、こらこら君たちお触り禁止だよ!!! ハウス! ほら元の場所に戻って!!!」
ぎゃあぁぁぁぁっ!!! とほぼ叫び声を上げながらダリアへと詰めかける一部の新入生との間に入ったノアは、一転して鬼の形相で必死に新入生を止めにかかる。
そんな様子をひとごとのように一歩引いて見守るダリアは、大した興味もなさそうにそっと息を吐いた。
「す、すごい人気なんだね、ダリア団長さんって……っ!! フィンは知ってた?」
「え? あぁ、まぁ一応ね? 有名人だし名前と顔くらいは知ってるよ。……実際に見たのは初めてだけど……」
じとっとダリアを半目で眺めて言葉を濁すフィンに気づかず、ソフィアは周囲に感化された興奮で目を輝かせる。
「すごいねぇ、かっこいいのもそうだけど、あんなに綺麗なお顔立ちの上に優しそうで、団長になるくらい強いなら、この人気も頷けるよねぇ」
「はぁっ!?」
うんうんと思ったままに素直な感想をダリアへと送るソフィアに、フィンが弾かれるように目を吊り上げて顔を向ける。
「ちょっ、ソフィアはあんな優男みたいな奴が好みなわけ!?」
「え? な、何の話し!?」
「あいつだよあいつっ!!!」
「ちょっ!! 人を指さしたらいけません!!」
急に騒ぎ出したフィンに慌てるソフィアと、2人の様子を息を潜めて横目で静観するクラスメイトを遠目に眺めて、ダリアはそっと口を開く。
「ーー例の特待生、ちゃんと入学したみたいだね」
「ーーあれがダリアが言ってた特待生……と、そのお姉ちゃん?」
「……あの様子を見るにそのようだ」
「へぇ? なんか思ってたよりは普通だねぇ。……特にお姉ちゃん」
「……まぁ特待生がやたらと執着している姉。という情報なだけだから」
「どんなお姉ちゃんかとちょっと楽しみにしてたのに普通に地味ーー」
「おい、なんか言ったかそこの眼鏡っ!!!」
「フィンっ!!?」
クワっと目を吊り上げてノアを睨みつけにかかるフィンに、ソフィアは真っ青になってその身体を押さえにかかる。
驚きに目を見開く新入生たちと、急に自分に向いた矛先に度肝を抜かれて仰け反るノア。それを横目にダリアはため息を吐いて腕を組むと、俺は知らないよとでも言うように視線を逸らした。
すみません、すみません、と何度も頭を下げるソフィアに、あわあわと手を振るノア。顔を背けるフィンに、どこ吹く風と他人事のように我関せずなダリアを、新入生たちは遠巻きに見守るほかなかったーー。
天気の良い午後。ルーン王国を囲む高い壁の外周の草原で、てへっと舌を出しながら可愛く顔の横でピースサインを作るその青年に、ソフィアとフィンを含めた新入生は地面に座ったままにぽかんとその様を見上げた。
その場には束の間無言の時間が流れる。
「ちょ、どうしようめっちゃ滑っちゃった!! 僕このあとこの空気の中でやっていける気がしないんだけど!?」
「……だから普通に自己紹介しろっていつも言ってるだろう……」
「緊張を和らげようとしてるんじゃん!! ダリアったらわかってないんだから、もう!!」
ヤダァなんて謎のオネェ風な口調で、一纏めにした長いブラウンの髪と同色の瞳に眼鏡をかけた風貌のノアは、自身の隣に無言で立っていたもう1人の青年に助けを求める。
その様を相変わらずぽかんと眺める新入生たち。フィンについては何だこの胡散臭そうなヤツはという、怪訝そうでイヤそうな顔を隠しもしない。
そんなフィンをチラと一瞥してから、ダリアと呼ばれた背の高い青年ははぁとため息をついて姿勢を正した。
「ーーダリア・ルドルフです。ノアと共に特別部隊に所属しています。俺は見学なので、いないものと思ってくださいね。……こんなでもノアは頼りになる副団長です。安心して指示に従ってくれて大丈夫ですよ」
まだ何事が騒いでいるノアを歯牙にもかけず、ダリアは爽やかに整えたチャコールブラウンの癖っ毛とその涼やかな蒼い瞳で、その端正な表情を穏やかに緩めて口にする。
「ちょっとちょっと、大事なこと言い忘れてるよダリア! ーーまぁ、わざわざ言うまでもないかも知れないけど、22歳で飛ぶ鳥を落とす勢いの皆様ご存知、その麗しい容姿と物腰に飽き足らず、魔物討伐特別部隊の華麗なるエース!! 団長のダリア・ルドルフさんその人デース!!」
バッバーンと無表情に近いダリアを押し出して騒ぎ立てるノアの一方で、未だ多くがポカン顔の無言の新入生たち。
その無言に流れる時にノアがあれ? と冷や汗をかき出した頃、ダリアが片手で自身の顔を覆った。にっこりと口元には笑みを残したままに、笑っていない瞳の奥が恐ろしい。
「ーーノア、キミが勝手に滑るのは自由だけど、俺を巻き込まないでくれるかな……?」
「い、イヤ、あ、あっれー? おっかしいな、こんなはずじゃ……っ!?」
ジリと不穏な空気を放つダリアにヒエエエエエっ!! と後退るノアの後ろで、1人の新入生がポツリと溢す。
「ーー嘘でしょ……っ」
「え、本物?」
「マジで本物のダリア団長?」
ぽつりぽつりと溢れ出した声は次第に大きく、伴う興奮を溢れさせていく。様子の変わった周囲の空気に、ソフィアとフィンは周囲を見回して顔を見合わせた。
「ダ、ダリア様ぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「ま、まじカッケェぇぇェェェっ!!!」
「こっ、こらこら君たちお触り禁止だよ!!! ハウス! ほら元の場所に戻って!!!」
ぎゃあぁぁぁぁっ!!! とほぼ叫び声を上げながらダリアへと詰めかける一部の新入生との間に入ったノアは、一転して鬼の形相で必死に新入生を止めにかかる。
そんな様子をひとごとのように一歩引いて見守るダリアは、大した興味もなさそうにそっと息を吐いた。
「す、すごい人気なんだね、ダリア団長さんって……っ!! フィンは知ってた?」
「え? あぁ、まぁ一応ね? 有名人だし名前と顔くらいは知ってるよ。……実際に見たのは初めてだけど……」
じとっとダリアを半目で眺めて言葉を濁すフィンに気づかず、ソフィアは周囲に感化された興奮で目を輝かせる。
「すごいねぇ、かっこいいのもそうだけど、あんなに綺麗なお顔立ちの上に優しそうで、団長になるくらい強いなら、この人気も頷けるよねぇ」
「はぁっ!?」
うんうんと思ったままに素直な感想をダリアへと送るソフィアに、フィンが弾かれるように目を吊り上げて顔を向ける。
「ちょっ、ソフィアはあんな優男みたいな奴が好みなわけ!?」
「え? な、何の話し!?」
「あいつだよあいつっ!!!」
「ちょっ!! 人を指さしたらいけません!!」
急に騒ぎ出したフィンに慌てるソフィアと、2人の様子を息を潜めて横目で静観するクラスメイトを遠目に眺めて、ダリアはそっと口を開く。
「ーー例の特待生、ちゃんと入学したみたいだね」
「ーーあれがダリアが言ってた特待生……と、そのお姉ちゃん?」
「……あの様子を見るにそのようだ」
「へぇ? なんか思ってたよりは普通だねぇ。……特にお姉ちゃん」
「……まぁ特待生がやたらと執着している姉。という情報なだけだから」
「どんなお姉ちゃんかとちょっと楽しみにしてたのに普通に地味ーー」
「おい、なんか言ったかそこの眼鏡っ!!!」
「フィンっ!!?」
クワっと目を吊り上げてノアを睨みつけにかかるフィンに、ソフィアは真っ青になってその身体を押さえにかかる。
驚きに目を見開く新入生たちと、急に自分に向いた矛先に度肝を抜かれて仰け反るノア。それを横目にダリアはため息を吐いて腕を組むと、俺は知らないよとでも言うように視線を逸らした。
すみません、すみません、と何度も頭を下げるソフィアに、あわあわと手を振るノア。顔を背けるフィンに、どこ吹く風と他人事のように我関せずなダリアを、新入生たちは遠巻きに見守るほかなかったーー。
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