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第二章 キミと生きる
31.尋問
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「いくつか質問をします。正直に答えて頂けたと感じたら、私たちはあなた方にこれ以上の危害を加えるつもりはありません。また、同様の質問を他の方にも順番に行っています」
平野に佇む見上げるように大きな大木の影になる根元で、初音は務めて静かな口調で話しかけた。
魔法使いを優先的に、先に聞いた人たちによるとリーダー格らしいアスラで3人目になる。
他に捕らえた人たちはジークの監視の元、この遥か高い大木の上で風に吹かれているはずだった。
初音は猿轡だけ外され、手足は縛られて目隠しをされたまま座るアスラを前にする。
まだ若く見える声音の細い身体の青年は、あごをジークに蹴り上げられた際の衝撃で痛々しく腫らしており、時折り歪ませる口元が痛みを持つのが見て取れた。
口の端から垂れた血を、初音は一声掛けて丁寧に拭い取る。
「……お前たちは誰だ。目的はなんだ。言っておくが、俺たちはただの雇われだ。重要な情報なんか何も持っていない」
警戒心を纏った低い声は、けれど緊張と恐怖から震えていた。
「……怖いと思いますが、ひとまず落ち着いて下さい。特に目的はありません。強いて言うなら、狩猟をやめさせたかっただけです」
「ーー………………」
しばしの沈黙が降りる。こちらの意図を図りかねているようだった。
「ーーもし、認識の違いで情報に相違があったらどうなる……?」
「ーーこちらで判断します」
そろりと伺うように尋ねるアスラに、初音は静かに、けれどきっぱりと告げた。
再び走るピリッとした緊張感をしばし静観して、初音は再び口を開く。
「安心して下さい。答えに困るようなことは恐らく聞きません。それに、気休めにはなりますが私は人間です。好き好んで人間を殺そうとは思いません」
「人間? 本当に? 本当ならなぜ獣の肩を持つ? そんな話し信じられるはずがない」
「ーーそう思うのも無理はありません。……私は人間に捨てられ、獣に拾われ育てられました。そう言った理由から、人間に味方をする訳ではありませんが、無闇に危害を加えるつもりもありません。そしてそれは私の家族もまた同様です。なので、私たちに魔法が意味をなさないことは覚えておいて下さい」
「そんなこと、信じられる訳がーー…………」
嘘と真実を内混ぜにした初音の言葉に対して、溢れた言葉は続かず、しばしの後に諦めたようにアスラは項垂れる。
「……質問をしても、良いですか?」
「ーー好きにすれば良い。どの道答えて機嫌を取るか、無益な不興を買うか、どちらかしか残されてないーー」
半ば脅す形での尋問にいくらかの罪悪感を覚えながらも、夕暮れに傾きかけた日の光の中でその時は静かに過ぎて行ったーー。
「どうだった?」
「うん、多分もう大丈夫。ありがとう」
一言でも喋ればわかるからなと、大木に吊るされた猿轡に目隠しの面々に言い捨てたジークが、初音の合図に反応して大木を降りて来る。
時刻はすっかりと日が暮れていた。少し肌寒い風が肌を撫でる一方、その満点の星空は言葉にならぬほどに美しい。
ジークの気配に警戒をしているのか、目隠し越しでもその表情の固さがよくわかった。
主にこの世界や魔法について色々と尋ねた結果として、先に多少聞いた2人とアスラの発言に大きな相違は見られず、特に矛盾を感じることもない。
こちらの話をどこまで信用しているかは不明だが、一般的な情報程度であれば下手に隠し立てするよりも協力する姿勢を見せた方がいいだろうとの判断であるようには感じた。
「……ごめんね、遅くなっちゃった」
「問題ない。で、こいつらはどうするつもりだ?」
すぅと目を細めるジークの言葉にピクリとするアスラを横目に見て、初音は苦笑する。
また要らぬことを考えないようにと、必要以上にわざと脅かしているのだと言うことはわかったが、いくらか気の毒だった。
「アスラさん、色々と教えて下さりありがとうございました。お約束通り、ご協力頂いたのでこれ以上危害を加えるつもりはありません。ただ、解放するにあたり、今後我々の領分をいたずらに侵さないで下さい。また、ただ静かに暮らしたい私たちのことを、不必要に話さないで下さると嬉しいです。私たちはその顔と臭いを覚えています。再び出会えば、容赦はしません」
「……………………」
優しく丁寧で静かな声音ながら、きっぱりと言い放つその内容はどことなく穏やかではなくて、アスラはゴクリと息を飲む。
「……夜になるけれど、大丈夫かな……?」
「……少しでも温情があるなら、明るくなってからの方がマシだとは思うがな」
「やっぱりそうだよね……」
コソコソと今後の算段を練る2人は、ふと顔を上げたジークによって中断される。
「どうしたの……?」
「ーー……昼間にあれだけ騒いで、この人数だ。気づかない方が無理な話だ」
言うが否や、ジークは初音を抱え上げ、アスラの首根っこを引っ掴んで大木の上へと跳躍する。
「死にたくなければ静かにしていろ。……落ちるなよ」
「……うん」
後半だけに含まれる優しい声音に返事をしつつ、再び大木を飛び降りるジークの背を、初音は不安気に見つめたーー。
平野に佇む見上げるように大きな大木の影になる根元で、初音は務めて静かな口調で話しかけた。
魔法使いを優先的に、先に聞いた人たちによるとリーダー格らしいアスラで3人目になる。
他に捕らえた人たちはジークの監視の元、この遥か高い大木の上で風に吹かれているはずだった。
初音は猿轡だけ外され、手足は縛られて目隠しをされたまま座るアスラを前にする。
まだ若く見える声音の細い身体の青年は、あごをジークに蹴り上げられた際の衝撃で痛々しく腫らしており、時折り歪ませる口元が痛みを持つのが見て取れた。
口の端から垂れた血を、初音は一声掛けて丁寧に拭い取る。
「……お前たちは誰だ。目的はなんだ。言っておくが、俺たちはただの雇われだ。重要な情報なんか何も持っていない」
警戒心を纏った低い声は、けれど緊張と恐怖から震えていた。
「……怖いと思いますが、ひとまず落ち着いて下さい。特に目的はありません。強いて言うなら、狩猟をやめさせたかっただけです」
「ーー………………」
しばしの沈黙が降りる。こちらの意図を図りかねているようだった。
「ーーもし、認識の違いで情報に相違があったらどうなる……?」
「ーーこちらで判断します」
そろりと伺うように尋ねるアスラに、初音は静かに、けれどきっぱりと告げた。
再び走るピリッとした緊張感をしばし静観して、初音は再び口を開く。
「安心して下さい。答えに困るようなことは恐らく聞きません。それに、気休めにはなりますが私は人間です。好き好んで人間を殺そうとは思いません」
「人間? 本当に? 本当ならなぜ獣の肩を持つ? そんな話し信じられるはずがない」
「ーーそう思うのも無理はありません。……私は人間に捨てられ、獣に拾われ育てられました。そう言った理由から、人間に味方をする訳ではありませんが、無闇に危害を加えるつもりもありません。そしてそれは私の家族もまた同様です。なので、私たちに魔法が意味をなさないことは覚えておいて下さい」
「そんなこと、信じられる訳がーー…………」
嘘と真実を内混ぜにした初音の言葉に対して、溢れた言葉は続かず、しばしの後に諦めたようにアスラは項垂れる。
「……質問をしても、良いですか?」
「ーー好きにすれば良い。どの道答えて機嫌を取るか、無益な不興を買うか、どちらかしか残されてないーー」
半ば脅す形での尋問にいくらかの罪悪感を覚えながらも、夕暮れに傾きかけた日の光の中でその時は静かに過ぎて行ったーー。
「どうだった?」
「うん、多分もう大丈夫。ありがとう」
一言でも喋ればわかるからなと、大木に吊るされた猿轡に目隠しの面々に言い捨てたジークが、初音の合図に反応して大木を降りて来る。
時刻はすっかりと日が暮れていた。少し肌寒い風が肌を撫でる一方、その満点の星空は言葉にならぬほどに美しい。
ジークの気配に警戒をしているのか、目隠し越しでもその表情の固さがよくわかった。
主にこの世界や魔法について色々と尋ねた結果として、先に多少聞いた2人とアスラの発言に大きな相違は見られず、特に矛盾を感じることもない。
こちらの話をどこまで信用しているかは不明だが、一般的な情報程度であれば下手に隠し立てするよりも協力する姿勢を見せた方がいいだろうとの判断であるようには感じた。
「……ごめんね、遅くなっちゃった」
「問題ない。で、こいつらはどうするつもりだ?」
すぅと目を細めるジークの言葉にピクリとするアスラを横目に見て、初音は苦笑する。
また要らぬことを考えないようにと、必要以上にわざと脅かしているのだと言うことはわかったが、いくらか気の毒だった。
「アスラさん、色々と教えて下さりありがとうございました。お約束通り、ご協力頂いたのでこれ以上危害を加えるつもりはありません。ただ、解放するにあたり、今後我々の領分をいたずらに侵さないで下さい。また、ただ静かに暮らしたい私たちのことを、不必要に話さないで下さると嬉しいです。私たちはその顔と臭いを覚えています。再び出会えば、容赦はしません」
「……………………」
優しく丁寧で静かな声音ながら、きっぱりと言い放つその内容はどことなく穏やかではなくて、アスラはゴクリと息を飲む。
「……夜になるけれど、大丈夫かな……?」
「……少しでも温情があるなら、明るくなってからの方がマシだとは思うがな」
「やっぱりそうだよね……」
コソコソと今後の算段を練る2人は、ふと顔を上げたジークによって中断される。
「どうしたの……?」
「ーー……昼間にあれだけ騒いで、この人数だ。気づかない方が無理な話だ」
言うが否や、ジークは初音を抱え上げ、アスラの首根っこを引っ掴んで大木の上へと跳躍する。
「死にたくなければ静かにしていろ。……落ちるなよ」
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