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しおりを挟むそんな「偶然」の重なりでこの場所を見つけてから一年が経ち、再び夏が訪れていた。
それは、「最後」という言葉をやたらと耳にする夏だった。
辺りに目立つ木々などないのに、蝉の声が耳につく。
その日も俺たちは「いつも」のその場所へと辿り着き、当たり前のように屋上を目指す。
でもその日、俺は何故かふと、いつもの階段の最初の一段に足をかけて立ち止まった。少し早くなった呼吸が蒸し暑い湿気を吸い込んで、夏の存在を噛みしめてしまう。
その時だった。俺の横をソラが追い越して駆け上がって行く気配がした。ソラが起こした風で前髪が揺れる。少し見上げる様な場所で、ソラが振り返って微笑む。俺の視線の少し先で「早く早く」とソラが急かす。
ソラが俺よりも前に居るのは何だかくすぐったくて、照れ笑いなのか、ソラにつられただけなのかはわからないまま、俺はそれ以上深く考えもせずに、ただその後を追いかけた。
階段の中腹は弛んだソラのスピードに合わせ、一段一段を踏みしめて進んだ。
でも最後は特に示し合わせたわけでも無く、ごく自然に俺がソラを追い越すと、辿り着いた先にある、錆びた扉に手をかけた。
その後からはいつも通り、何時ものように扉を開けると、その勢いで動いた風さえ心地良い。
そして、階段を上り切って辿り着いた達成感に包まれながら屋上へと飛び出して、今にも壊れそうな手すりに並んで寄りかかるのが、俺たちの「いつも」だった。
「ふわぁ……気持ちいいね?」
僅かに流れてゆく雲に風の動きを感じ、ソラの前髪が僅かに揺れる。
ソラは暑くても寒くても変わらない笑顔を振りまきながら、髪の毛にふわりと空気を絡ませている。
ソラとの再会から一年ちょっと。それ以上の長い時間を共有していた様な気がするし、視界にソラが映らなかった日々のコトは、もうすっかり忘れていた。
それに、この先もソラは、ずっと隣で笑っている気がする。
「ソラ、口あきっぱだけど?くくっ、虫食べるなよ?」
「っは。ホントだ……大丈夫、まだ食べてないよ」
ソラは自分の口が開いたままだと知ると、手で口の周りを拭いながら、うっかり何かを食べてしまっていないかどうかを確認していた。隣に並んだソラは暫く口をぽっかりと開けたまま真上を見上げていたから、俺が声を掛けるまで、瞬きすらしていないみたいだった。
「雲ひとつねーし。今日もハズレだな」
ソラがアホみたいな顔で夢中になっていた先には、まっさらな青がとめどなく広がっているだけで、虹雲の群れどころか、雲の欠片すら見当たらない。
「うーん。そうかな?まあ、そうかもね?」
「どっちだよ?」
相変わらずなソラは、虹雲の群れの出現率が皆無なのにもかかわらず、何故だかニコニコとこちらを見ていた。
「なんだよ?」
「ふふっ、楽しいなぁって思って」
「はあ?今日も空振りだろ?どこが……」
俺は「どこが楽しいんだよ?」と言いかけてやめた。
「……楽しいよ、な」
ソラが満足そうに頷くと、繰り返しの様で真新しい今がキラッと何かを反射して光る。
「見て?この青空の色はさ、きっと青春のアオだよね?あっ、青写真とかって言葉もさ、アオ色が入ってるし!」
ソラの指差した先には、何にも切り取られていない場所が広がっていた。
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