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しおりを挟むこれは僕とシンがまだ、「ソラ」と「シン」では無かった頃の記憶。
僕らに物心がついて、僕が「シン」と知り合うよりも遥かに前、遠い遠い昔からずっと僕たちは一緒に居た。
その頃、シンには太陽の光を浴びると赤く透ける尾ヒレが付いていて、僕には四月の葉っぱと同じような色の尾ヒレが付いていた。その頃の姿を鏡で見た事は無い。だけど、僕とシンはきっと似たような姿をしていたのだと思う。
僕たちの半透明な身体は、何にもぶつかる事も無く、だから、何にも触れることはできなかった。金魚というには味気ない。けれど、あのお伽話に出てくる「人魚」かと言われれば、あんなに「人間」の要素は含まれていない。曖昧で、非現実的な、何者にも形容できない。僕たちはその頃、そんな姿をしていた。
人間の思い描く「人魚」とは全く違う姿の僕たちは、きっと確かに存在していたのだけど、それが人間の目に映る事は無い。
だから僕らは自分の足で歩く人間たちの間をすり抜けるように自由に泳ぎ、彼らの吐き出すユメを食べて生きる。
そういえば、この世界が目に映るものだけだと信じ込めるのは、人間の特権なのだと誰かが言っていた。
*
宇宙という海に最初に浮かんでいたのはこのアビスだった。
誰からか伝え聞いた話によれば、アビスと地球はある日ピッタリと重なり合うと、もう二度と別れることは無かった。その頃の僕らはまだ意識すら無くて、海の中に生まれた魚と同じように、重なり合った二つの世界でただ、フワフワと漂っているだけだったらしい。
それから幾らかの年月を越える間に、人間は驚くほど増えた。そしてあっという間に地球を牛耳るようになっていた。でも人間にはアビスと重なり合っているという世界の真実など見えず、目に映らないアビスの存在を知る事は無かった。もしかしたらその真実の中に都合の悪い何かが存在して、意図して見えないように進化したのかもしれない。
人間とは比べられない程自由だったはずの僕らは、地球の上を闊歩する人間をすり抜けているうちに、どうやら人間に憧れを抱きだしたみたいだった。それが進化だったのか、退化だったのかも僕は知らない。その後、人間の吐き出したユメを最初に食べた誰かが、ある日今の僕らみたいになった。
それが僕ら、人魚の始まり。
この世界の事をアビスと呼ぶのも、僕らのコトを人魚と呼ぶのも、人間のことが大好きで仕方のない誰かが人間から仕入れて来た。それも遥か昔のコトだった。
僕ら人魚はこの世界のどんな場所でも風のように自由に泳ぎ、地球の空も海も何もかもをすり抜ける。人間のように海で溺れる事も無ければ、肩が触れ合う事も無い。太陽は実体の無い僕たちのカラダをいつもその光で射貫いて、月の輝きにも触れられる事は無かった。
人魚は人間が吐き出すユメを食べるために泳いで、ユメが吐き出される瞬間を待っている。人間はそんな光景を見る事も無く、泣いたり笑ったりしながら可愛く、一生懸命生きていた。僕ら人魚に見える二つの世界も、人間が信じ込んでいる一つだけの世界も、互いに干渉する事は無い。だからそのままでいれば、何の問題も無く廻り続けてゆくはずだったんだ。
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