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僕たちは生まれた時から一緒に居た。いつ生まれたのかなんてわからない。そんなことを知らなくったって、二人でどこまでも続いているような青空を泳ぎ、時には海の中ではどちらが速いのかを競争していた。僕らには人間の様に血は流れていない。だから僕らの関係は人間みたいにカゾクとかトモダチという呼び名のどれにも当てはまらない。でも僕は、僕らの関係をキョウダイって呼びたいなって思っていた。でもそれも、誰かが聞いてきたコトの受け売りだった。
「なあ、聞いたか?そろそろアイツが動き始める頃だって」
「そっか……」
「どうして、あんなことするんだろう?悪夢なんて気味悪いだけじゃんな?」
「そうだね」
思い出したように始まったこの会話さえしなければ。
僕ら人魚も、人間の様に後悔する事があるのだと、僕はこの時初めて知った。
僕らがいつも食べているのは、人間が不意に吐き出してしまうユメだった。それは夢が叶って嬉しい時もあれば、夢を諦めた時にも、どちらも同じように吐き出される。それを僕らは食べる。口の中に入れるとパチンと弾けて無くなるそれを、僕らはずっと、ずっと前から食べている。
ふっと漏れ出る喜びを孕んだユメは、赤やピンクに輝きながら泡の様にまん丸くなって浮かび出た。それは大概甘くて、時々酸っぱくて、いくら食べても飽きない味だった。
でも人間が諦めた時に吐き出すユメはもう色を失くしていて、だいたい苦くて食べれたもんじゃない。ただ、諦めて吐き出されたユメを人魚に食べてもらう事が出来れば、その人間はもう一度別の夢をみる事が出来る。そんな風に皆が言っていた。だから僕らはそんな苦みに耐えてでも、人間が吐き出すユメは全部食べるようにしていた。
そんな僕らに、アイツのことを理解しろというのは無理な話だ。
「わざわざ厄災を起こしてまで、どうして悪夢を集めて食べたいんだろう?」
「人間の泣き叫ぶ姿なんて、できれば見たくもないのにね?」
「そうだよな?普通の人魚ならそう思うだろ?」
「一度厄災を起こしたら、暫く大人しくしててくれるのが唯一の救いだけどね?」
「でもさ……俺、やっぱ許せないんだよな」
アイツはいつの頃からか悪夢しか食べなくなって、今ではもう僕らとは似ても似つかないような禍々しい姿をしていた。漆黒の身体は光を飲み込み、その眼球は血走ってみえた。僕たちと同じで、その身体は半透明で何にも触れられないはずなのに、何よりも暗く、澱んでみえる。僕はその存在を認知する事すら、禁忌であるのではないかとさえ思っていた。
そんなアイツは数年に一度、思い出したように現れる。その度にどこからか厄災を引き連れて来て、大勢の人々の命を奪ってゆく。アイツが現れる街では大きな山が噴火する。アイツが海に現れれば、そこには大きな津波が起こり、大勢の人間が街ごと飲み込まれてしまうのだった。
その厄災に巻き込まれ、無理やりユメを剥がされながら死んでゆく人間たちは、その最期に悪夢を吐き出す。阿鼻叫喚に混じって吐き出されるその悪夢は炎の様に燃えたままで、その様子を遠くから見てしまっただけでも僕は辛い。
それは決して僕に限ったことではなかった。僕らみたいな普通の人魚は悪夢なんて食べてみたくも無いし、その味の想像すらしない。
でも、アイツはもう、そんな悪夢しか食べないのだった。
「なあ、聞いたか?そろそろアイツが動き始める頃だって」
「そっか……」
「どうして、あんなことするんだろう?悪夢なんて気味悪いだけじゃんな?」
「そうだね」
思い出したように始まったこの会話さえしなければ。
僕ら人魚も、人間の様に後悔する事があるのだと、僕はこの時初めて知った。
僕らがいつも食べているのは、人間が不意に吐き出してしまうユメだった。それは夢が叶って嬉しい時もあれば、夢を諦めた時にも、どちらも同じように吐き出される。それを僕らは食べる。口の中に入れるとパチンと弾けて無くなるそれを、僕らはずっと、ずっと前から食べている。
ふっと漏れ出る喜びを孕んだユメは、赤やピンクに輝きながら泡の様にまん丸くなって浮かび出た。それは大概甘くて、時々酸っぱくて、いくら食べても飽きない味だった。
でも人間が諦めた時に吐き出すユメはもう色を失くしていて、だいたい苦くて食べれたもんじゃない。ただ、諦めて吐き出されたユメを人魚に食べてもらう事が出来れば、その人間はもう一度別の夢をみる事が出来る。そんな風に皆が言っていた。だから僕らはそんな苦みに耐えてでも、人間が吐き出すユメは全部食べるようにしていた。
そんな僕らに、アイツのことを理解しろというのは無理な話だ。
「わざわざ厄災を起こしてまで、どうして悪夢を集めて食べたいんだろう?」
「人間の泣き叫ぶ姿なんて、できれば見たくもないのにね?」
「そうだよな?普通の人魚ならそう思うだろ?」
「一度厄災を起こしたら、暫く大人しくしててくれるのが唯一の救いだけどね?」
「でもさ……俺、やっぱ許せないんだよな」
アイツはいつの頃からか悪夢しか食べなくなって、今ではもう僕らとは似ても似つかないような禍々しい姿をしていた。漆黒の身体は光を飲み込み、その眼球は血走ってみえた。僕たちと同じで、その身体は半透明で何にも触れられないはずなのに、何よりも暗く、澱んでみえる。僕はその存在を認知する事すら、禁忌であるのではないかとさえ思っていた。
そんなアイツは数年に一度、思い出したように現れる。その度にどこからか厄災を引き連れて来て、大勢の人々の命を奪ってゆく。アイツが現れる街では大きな山が噴火する。アイツが海に現れれば、そこには大きな津波が起こり、大勢の人間が街ごと飲み込まれてしまうのだった。
その厄災に巻き込まれ、無理やりユメを剥がされながら死んでゆく人間たちは、その最期に悪夢を吐き出す。阿鼻叫喚に混じって吐き出されるその悪夢は炎の様に燃えたままで、その様子を遠くから見てしまっただけでも僕は辛い。
それは決して僕に限ったことではなかった。僕らみたいな普通の人魚は悪夢なんて食べてみたくも無いし、その味の想像すらしない。
でも、アイツはもう、そんな悪夢しか食べないのだった。
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