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シェヘラザードに蛇足
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七月二十日 夕方、代々木公園で蛇兄さんを拾った。
大きな樹の下の縁石にドカッと座り、項垂れているから顔は見えない。
ぐしゃぐしゃの黒髪、だぼだぼの服、黒いつっかけサンダル。
通り過ぎ様に横目で見てはいけない。見惚れるなんてほど遠い様子。
持て余したように組んだ長い指。その違和感の正体は薬指に巻き付く様に彫られたタトゥーのせいだと思う。左右の耳に開けられたピアスは確認できるだけでも合わせて五つ。 大きな黒い塊の耳元で揺れるシルバーの飾りが、現代的でありながら人ならざるモノの象徴にも思えた。
ソレに私の心は惹かれ、そそられる。
「……ん」
ソレから声が聞こえた様な気がして、コンクリートにへばりついたサンダルを剥がす。
この好奇心は悟られたくなくて、忍び足で近づいてみる。すると、ソワソワと落ち着かなくなった足首に力が入った。いくつになっても、悪戯をする時はワクワクするものらしい。
しかもそれが隠し事になった時の罪悪感なんてすぐに忘れてしまうから、その時の私は、後先なんて考えようとも思わなかった。
見下ろす私のつま先を確認したソレが徐に顔をあげても、長すぎる前髪のせいで顔の全容が見えない。しかしその薄い唇はじわじわと横に広がって、シューっという音と共に空気が漏れ出していた。
「ぎゅう…どん」
「は?」
「牛丼が食いてえ……」
それまでの私が、どんな言葉を望んでいたのかさえも忘れた。そして意外過ぎる単語を耳が拾う。それにもかかわらずソレにご所望された品物なら、私にも用意できそうだったことに心が躍る。でも困ったな、生憎ここは私のテリトリーではないし、近くの牛丼屋さんなんて心当たりが無い。
だから私は仕方なく……というワケでもないけど。
妖怪なのか、神様なのか、最悪ただの人間かもしれないソレを、自分の寝床に連れて帰ることにした。
大きな樹の下の縁石にドカッと座り、項垂れているから顔は見えない。
ぐしゃぐしゃの黒髪、だぼだぼの服、黒いつっかけサンダル。
通り過ぎ様に横目で見てはいけない。見惚れるなんてほど遠い様子。
持て余したように組んだ長い指。その違和感の正体は薬指に巻き付く様に彫られたタトゥーのせいだと思う。左右の耳に開けられたピアスは確認できるだけでも合わせて五つ。 大きな黒い塊の耳元で揺れるシルバーの飾りが、現代的でありながら人ならざるモノの象徴にも思えた。
ソレに私の心は惹かれ、そそられる。
「……ん」
ソレから声が聞こえた様な気がして、コンクリートにへばりついたサンダルを剥がす。
この好奇心は悟られたくなくて、忍び足で近づいてみる。すると、ソワソワと落ち着かなくなった足首に力が入った。いくつになっても、悪戯をする時はワクワクするものらしい。
しかもそれが隠し事になった時の罪悪感なんてすぐに忘れてしまうから、その時の私は、後先なんて考えようとも思わなかった。
見下ろす私のつま先を確認したソレが徐に顔をあげても、長すぎる前髪のせいで顔の全容が見えない。しかしその薄い唇はじわじわと横に広がって、シューっという音と共に空気が漏れ出していた。
「ぎゅう…どん」
「は?」
「牛丼が食いてえ……」
それまでの私が、どんな言葉を望んでいたのかさえも忘れた。そして意外過ぎる単語を耳が拾う。それにもかかわらずソレにご所望された品物なら、私にも用意できそうだったことに心が躍る。でも困ったな、生憎ここは私のテリトリーではないし、近くの牛丼屋さんなんて心当たりが無い。
だから私は仕方なく……というワケでもないけど。
妖怪なのか、神様なのか、最悪ただの人間かもしれないソレを、自分の寝床に連れて帰ることにした。
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