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シェヘラザードに蛇足
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四畳半に無理やり入れたソファーベッドの端からは蛇兄さんの足がはみ出していた。
隣に寝転んだ蛇兄さんが肘をついて語るのは、不思議と真実味のある御伽噺。でも空気を孕んだ低い声が紡ぐその世界は、確実に存在しているようにも感じる。
「……というワケで、空の上から運命の人を見つけたその星は夜這い星となってこの世に降り注いだのでした。めでたしめでたし」
「その星は運命の人に出会えたの?」
「さあね。出会える星もあるし、出会えない星もあるかもな?」
「会えなかったら切ないね?」
「会わない方が幸せなこともあるさ」
「どんな?」
「それはまた別のお話」
「聞かせてよ?」
「お話は一夜に一話って決まってるんだよ、さあ良い子はねんねしな」
そうして初めてのお話が終わると、流れ星は夜這い星になった。私は蛇兄さんに頭を撫でられて、この世から一人おちてゆく。
*
蛇兄さんは朝になるとすでに居ない時もあったし、私の横で窮屈そうに眠ったままの時もあった。
眠っている蛇兄さんはやっぱり変で、この人には人としての営みの全てが似合わないということに、私はやっと気が付いた。
主人公がどんな世界に行っても友達ができなかった原因が、この地球にたった一人で取り残されてしまったことを忘れたままでいる宇宙人だったから。というお話はもう六話目だったけれど、この先もまだまだ続くらしい。タイトルも無いその御伽噺の中で今のところの私でも理解できるのは、地球で「普通」になることを望んだ宇宙人は、故郷と「不通」になってしまっているということだけだった。
次の日、私は蛇兄さんにダメもとで「昨日の続きが気になる」とねだってみたのだけど、案の定蛇兄さんは大事な飴を砂場で無くしてしまった蟻喰いの話をした。
そして蛇兄さんと私の夜が増える度に夕方は細かく別れていった。だからいつも黄昏時か宵闇の頃になると、家には必ず蛇兄さんが居た。
私は自分と蛇兄さんの餌代を稼ぐために時々家を空けた。でも私の家はこれまでとは違い、どんな夜でも空っぽになることはなかった。私が必ずここに戻ってきて夜を越すのは、蛇兄さんの語る御伽噺を一話も聞き逃したくなかったから。それに、蛇兄さんは私が聞き逃してしまった話を二度としてくれない様な気がしていたから。
*
「そういやさ、嬢ちゃんは何でこんなにボロいアパートに住んでんの?」
それまでの蛇兄さんは私のことについてあまり訊きたがらなかった。だから突然のこの質問には驚いた。
「働きたくないの。だから私の価値で貰えるお金で賄える範囲の暮らしをしてるってだけ」
蛇兄さんにはあまり知られたくなかった。そんなことを思いながら、本当の親でもないのに私のことを養ってくれる人たちのオハナシを蛇兄さんに教えてあげることにした。でも蛇兄さんは私が話し始めた途端に飽きてしまったようで、ろくに話も聞かずにベッドの端を弄りだす。私はそれに少しだけイラっとして、中途半端なままでそのオハナシをやめた。
でも、どこかで私は蛇兄さんに咎めて欲しがっていた。
隣に寝転んだ蛇兄さんが肘をついて語るのは、不思議と真実味のある御伽噺。でも空気を孕んだ低い声が紡ぐその世界は、確実に存在しているようにも感じる。
「……というワケで、空の上から運命の人を見つけたその星は夜這い星となってこの世に降り注いだのでした。めでたしめでたし」
「その星は運命の人に出会えたの?」
「さあね。出会える星もあるし、出会えない星もあるかもな?」
「会えなかったら切ないね?」
「会わない方が幸せなこともあるさ」
「どんな?」
「それはまた別のお話」
「聞かせてよ?」
「お話は一夜に一話って決まってるんだよ、さあ良い子はねんねしな」
そうして初めてのお話が終わると、流れ星は夜這い星になった。私は蛇兄さんに頭を撫でられて、この世から一人おちてゆく。
*
蛇兄さんは朝になるとすでに居ない時もあったし、私の横で窮屈そうに眠ったままの時もあった。
眠っている蛇兄さんはやっぱり変で、この人には人としての営みの全てが似合わないということに、私はやっと気が付いた。
主人公がどんな世界に行っても友達ができなかった原因が、この地球にたった一人で取り残されてしまったことを忘れたままでいる宇宙人だったから。というお話はもう六話目だったけれど、この先もまだまだ続くらしい。タイトルも無いその御伽噺の中で今のところの私でも理解できるのは、地球で「普通」になることを望んだ宇宙人は、故郷と「不通」になってしまっているということだけだった。
次の日、私は蛇兄さんにダメもとで「昨日の続きが気になる」とねだってみたのだけど、案の定蛇兄さんは大事な飴を砂場で無くしてしまった蟻喰いの話をした。
そして蛇兄さんと私の夜が増える度に夕方は細かく別れていった。だからいつも黄昏時か宵闇の頃になると、家には必ず蛇兄さんが居た。
私は自分と蛇兄さんの餌代を稼ぐために時々家を空けた。でも私の家はこれまでとは違い、どんな夜でも空っぽになることはなかった。私が必ずここに戻ってきて夜を越すのは、蛇兄さんの語る御伽噺を一話も聞き逃したくなかったから。それに、蛇兄さんは私が聞き逃してしまった話を二度としてくれない様な気がしていたから。
*
「そういやさ、嬢ちゃんは何でこんなにボロいアパートに住んでんの?」
それまでの蛇兄さんは私のことについてあまり訊きたがらなかった。だから突然のこの質問には驚いた。
「働きたくないの。だから私の価値で貰えるお金で賄える範囲の暮らしをしてるってだけ」
蛇兄さんにはあまり知られたくなかった。そんなことを思いながら、本当の親でもないのに私のことを養ってくれる人たちのオハナシを蛇兄さんに教えてあげることにした。でも蛇兄さんは私が話し始めた途端に飽きてしまったようで、ろくに話も聞かずにベッドの端を弄りだす。私はそれに少しだけイラっとして、中途半端なままでそのオハナシをやめた。
でも、どこかで私は蛇兄さんに咎めて欲しがっていた。
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