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しおりを挟むあんなに遠く思えたホールへの扉が、あっという間に目の前まで来ていた。
分厚い扉を僕のかわりに押し開けてくれたこの人は、既にホールに居た人達にすぐに取り囲まれてしまう。
「ダイアさん!ごきげんよう?今日も素敵なドレスね?」
「ありがとう。貴女もとっても素敵だわ」
「ダイアさんっ!見てくださいよ?この蝶ネクタイ良いでしょう?」
「あら本当。グレーのスーツにとっても良く似合っているわ」
代わる代わるやってくる人たちは、皆ドレスやタキシードで着飾っている。
皆それをこの人に褒めて貰いたくて集まって来ているみたいだった。
「あの……」
白い半袖のシャツに吊りのついた半ズボン姿の僕には、カッコいい蝶ネクタイもついていない。
僕はなんだか恥ずかしくなって、思わず赤いドレスの裾を引っ張る。
それに気が付いて振り返ってくれたこの人は、また優しく微笑んで僕を皆の前に差し出した。
「ごめんなさい?皆にご紹介がまだだったわね?このボクちゃんは、今日初めて来たんですって!」
「まあ、そうだったのね?可愛らしいわ!これから宜しくお願いしますね?」
黄色いドレスの小さい女の人は、その場でくるりと一回転して見せてから、僕にペコリとお辞儀した。
「そうかそうか。困ったことがあれば、私達が何でも教えてあげるからね?」
太っちょでお髭の生えたおじさんは、おへその周りが一番太くて、足も頭も小さかった。
「お名前、ダイアさんっていうの?」
「さぁ?ボクちゃん、お名前って何かしら?」
「なんだろう?皆が僕の事を呼ぶときに使うやつ?」
「そうなのね?じゃあ私はダイアさんだわ!ボクちゃんのお名前は、ボクちゃんね?」
「はい。僕の名前はボクちゃんです」
「そりゃいいや。今日から私の名前はお髭だな」
「じゃあ私はプリンセスね?」
「うふふ。ボクちゃんのお陰で皆のお名前が出来たわ!皆とっても嬉しそう!」
ニコニコした顔が僕の周りにいっぱいあって、僕もなんだか嬉しくなった。
僕がお名前の事を皆に教えたのは良い事だったみたいで、自分の気持ちを少しだけ上手に言葉に出来る様になった。
その後すぐに「よーいどん」と「星貼り」も来て、もっと言葉を貰おうと思って頑張ったのだけど、僕はあんまりうまく出来なくて、言葉は一つしか貰えなかった。
飛行船で優しくしてくれるダイアさんとかお髭たちに伝えたい事がまだまだたくさんある。
なのに僕はそれをうまく言葉に表せなくて、悲しい気持ちを抱えていた。
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