empathy

hana4

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1.

それは、木曜日の朝だった。

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寝起きのルーティンでスマホをチェックすると、夜中の間に彼の一言が炎上していた。


私には全く気にならない一回の彼の呟きを拾い上げて、その火種は電波の中で燃え広がったみたいだった。

誰が何の為に火種を放ったのか、あるいは悪気も無くだったのかは、私には全くわからなかったけど……


───この心には小さくても確実な焦げ跡が出来ている。


幸い、彼の人となりを擁護する人も同じように多く現れて、それは既に鎮火しているように見えた。

彼は目立つ存在ではあったけど、人が嫌がる様な事等しないし、何ならどんなタイプのクラスメイトにも平等に接してくれる。
誰かに恨まれるとすれば、告白を断られた子達だろうか……?
でもそれだって酷い断り方をしたわけでは無いということについては、友人が玉砕したばかりの私もよく知る所だった。


実は今の大きな問題はそれでは無く……
私が彼、同じクラスの佐伯涼さえきりょう君と既に「同期」した状態にある事だった。


…………
……


多種多様な体質が存在すると思うけど、その中でも私は「エンパス体質」だった。
それも超が付くほどの強力なヤツ。

エンパス体質は日本人に多くいると言われてる。
英語で「共感」って意味のempathyエンパシーが語源で、いわゆる「共感力」だから持っていても悪くはない様な気がするけど……

共感ってのは他人と喜怒哀楽の感情を共有するってことなのだ。

だから、楽しい時だけなら良いけれど、辛く悲しい気持ちまで自分のコトの様に味わってしまうワケで……
他にも相手の気持ちを察し過ぎて辛かったり、一日の中だけでも自分の意思に反して気分の浮き沈みがあるし、結構厄介な面が多い。
他人からの影響を受けすぎて生き辛いとか。人の気持ちがわかりすぎるのも大変なのだ。

そして、私の場合は「超エンパス体質」とでも名付けようか……?

母が「どうやらこの子は普通ではない」と最初に気が付いたのは、私が四歳の時だったらしい。

ある日、急に私は「にゃー」と鳴くと、ペロペロと体を舐めだした。
その時は近所の猫と「同期」したみたいだ。
それから、4歳の私は3日間猫の様に過ごすこととなる。
最初はふざけて猫に「なりきって」遊んでいると思っていた母も、一向にそれを止めない娘に対して、ついに「いい加減にしなさい!」と怒鳴ったらしい。

猫化した私はそれに驚き、母を「シャーっ」と威嚇すると階段を四つん這いで駆け上がり、勢い余って転がり落ち、まんまと病院へ運ばれた。

この時から一年に数回、私は別の何かに「なりきる」ようになってしまった。
その「なりきり」は一日で終わる時もあれば、一週間程続く時もあり……
もちろん自分ではどうする事も出来なかった。

ちなみに私が「猫」だった時、骨折しているにもかかわらず、暴れに暴れてベッドから動こうとする私はとうとう鎮静剤を打たれ、目が覚める度に「にゃー」と鳴くかどうかを確認されたのだという。

中二位までは、そんな風に全く制御ができなかったけれど、思春期をやや過ぎた最近は、自分の中に他者の感覚が入ってきてしまっても「自分」まで見失うことはなかった。

そんな私と長年付き合ってくれている主治医の見解によれば、共感力のもともと高い私の脳は、他者の「脳波」を時たま受信しているらしく、この波長が合い過ぎてしまうと「同期」したような状態になってしまうのではないか?ということだった。

「まあ体質だからしょうがないし、これもあくまで俺の仮説だけどね~」

と軽く言い放ってしまう、この呑気な主治医の存在はとても大きく、私は不安な時にはすぐに相談に行くようになったし、こんな体質をそこまで悲観的にならずに過ごせていた。

それなのに、今回の「同期」が何故大問題なのかというと……
彼の一言が炎上したばかりだからとかではない。


それは、私が密かに彼、佐伯涼君を好きになった後だったからだ。
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