9 / 13
9.
「東京ってさ、スマホの中の世界みたいじゃない?」
しおりを挟む
渋谷のスクランブル交差点を見下ろすカフェで、涼君が言った。
カラフルなドッドが交差して蠢くように人の波が動く。
その言葉の終わりの方から、切なさが少し込み上げてきた。
「楽しい事も、好きな事も、知りたい事も……何でもある」
ストローを咥えたまま、焦って涼君の表情を確認する。
甘いクリームが口の中でひろがって、冷たさだけが身体の中へ落ちた。
「出会いもすれ違いも、感動も恐怖も……何か人生全てがこの交差点の中にありそうな気がしない?
それが何か似てるなって」
少し困ったように笑う涼君に落ちかけた太陽が影を作ると、教室で明るく振る舞う彼とは違うその表情に思わず見惚れてしまう。
私の作り出した不思議な沈黙を破ったのは涼君の方だった。
「俺の……炎上したやつ知ってたんでしょ?」
「う、うん」
跳ね上がった心臓は、私の表情から涼君にも容易く確認できただろう。
平静を装って振り絞った返事は、彼の眉を更に下げさせてしまった……
「あの日、何食わぬ顔で学校行ったらさ、皆普段と全く同じように話しかけてきて、
最初はそれが心地よかったんだけど
──段々、全員、俺の事、本当は良く思ってないんじゃないかって疑えてきて……」
少し俯きがちになった涼君の長い睫毛に、涙が溜まっていないかを必死で探す。
「そのまま……こう……何ていうか……」
「全部どうでもよくなってきた?」
それが彼の表情を更に曇らせる事なんて簡単に想像できたはずなのに、思わず手元にあったその答えを返してしまう。
まるで彼の事を知っていることを誇示したい私そのものが見えてしまったようで、私の方の瞳が潤んだ。
「そうっ!……はは、情けないよね?あれくらいで」
「そんな事無いよっ!あんな感情になったら誰だってっ」
「なっちゃんてさ、凄い俺の気持ちわかってくれるっていうか……気が合うっていうか……」
「っ、ごめん」
「え?なんで謝るの?なっちゃんのお陰でホント助かったし……」
その目に涙が溜まらない様に見守る私の視線と、涼君の澄んだ瞳がぶつかった。
その反動で左右に揺れる彼の瞳が、濡れていなくて本当に良かった。
すこしぼやけた視界に、決意を込めた様な彼の視線が戻って来る。
二人分だとしても有り余るほどの鼓動の高鳴りを感じ、私は目を見開いてその瞳を確認した。
「……好きです」
店内の騒めきが聞こえなくなり、窓の下では無数のカラフルなドットがまた一斉に動き始めている。
カラフルなドッドが交差して蠢くように人の波が動く。
その言葉の終わりの方から、切なさが少し込み上げてきた。
「楽しい事も、好きな事も、知りたい事も……何でもある」
ストローを咥えたまま、焦って涼君の表情を確認する。
甘いクリームが口の中でひろがって、冷たさだけが身体の中へ落ちた。
「出会いもすれ違いも、感動も恐怖も……何か人生全てがこの交差点の中にありそうな気がしない?
それが何か似てるなって」
少し困ったように笑う涼君に落ちかけた太陽が影を作ると、教室で明るく振る舞う彼とは違うその表情に思わず見惚れてしまう。
私の作り出した不思議な沈黙を破ったのは涼君の方だった。
「俺の……炎上したやつ知ってたんでしょ?」
「う、うん」
跳ね上がった心臓は、私の表情から涼君にも容易く確認できただろう。
平静を装って振り絞った返事は、彼の眉を更に下げさせてしまった……
「あの日、何食わぬ顔で学校行ったらさ、皆普段と全く同じように話しかけてきて、
最初はそれが心地よかったんだけど
──段々、全員、俺の事、本当は良く思ってないんじゃないかって疑えてきて……」
少し俯きがちになった涼君の長い睫毛に、涙が溜まっていないかを必死で探す。
「そのまま……こう……何ていうか……」
「全部どうでもよくなってきた?」
それが彼の表情を更に曇らせる事なんて簡単に想像できたはずなのに、思わず手元にあったその答えを返してしまう。
まるで彼の事を知っていることを誇示したい私そのものが見えてしまったようで、私の方の瞳が潤んだ。
「そうっ!……はは、情けないよね?あれくらいで」
「そんな事無いよっ!あんな感情になったら誰だってっ」
「なっちゃんてさ、凄い俺の気持ちわかってくれるっていうか……気が合うっていうか……」
「っ、ごめん」
「え?なんで謝るの?なっちゃんのお陰でホント助かったし……」
その目に涙が溜まらない様に見守る私の視線と、涼君の澄んだ瞳がぶつかった。
その反動で左右に揺れる彼の瞳が、濡れていなくて本当に良かった。
すこしぼやけた視界に、決意を込めた様な彼の視線が戻って来る。
二人分だとしても有り余るほどの鼓動の高鳴りを感じ、私は目を見開いてその瞳を確認した。
「……好きです」
店内の騒めきが聞こえなくなり、窓の下では無数のカラフルなドットがまた一斉に動き始めている。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
僕《わたし》は誰でしょう
紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。
「自分はもともと男ではなかったか?」
事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。
見知らぬ思い出をめぐる青春SF。
※表紙イラスト=ミカスケ様
ハチミツ色の絵の具に溺れたい
桃本もも
青春
大学生になったばかりの梅若佐保には、ひとつだけ悔やんでも悔やみきれないことがあった。
高校で唯一仲良くしていた美術部の後輩、茜谷まほろが事故に遭うきっかけを作ってしまったことだ。
まほろは一命を取りとめたものの、意識不明がつづいている。
まほろがいない、無味乾燥な日々。
そんな佐保のもとに、入院しているはずのまほろが現れる。
「あたし、やりたいことがあって、先輩のところに来たんです」
意識だけの存在になったまほろとの、不思議なふたり暮らしがはじまる――
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる