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「もっとシバいて来んかぃ!」
お祖父様は木刀をブンブンと振り回しながら、クロス様に怒鳴っている。
対するクロス様は苦しそうに肩で呼吸をしながらも、勢いをつけてお祖父様に向かって竹刀を振り下ろした。
中々勢いがあったが、それはあっさりと受け止められてしまった。
(お祖父様凄いな……)
椅子代わりの切り株に座り、私は感心していた。
お祖父様は高齢ではあるのだが、腕は筋肉がしっかりついているのが分かる位太い。
動きも機敏で、ずっと若いクロス様のほうが疲れているようだった。
「そっちがもっと来ないなら、こっちからシバくぞぉ! ちゃんと受け見取らないと、フラついてまた川に落ちてしまうぞい!」
と言って、襲いかかるお祖父様。
前に『シバく&シバかれるのが気持ちいい』とか言っていたのはこれのことだったのか。
てっきり山に怪しいお姉さんがいて、いかがわしいことをしているのではと思っていた。
カンカン! と木刀がぶつかる高音が周囲に響いている。
怪我をしないだろうかと、見ているこっちがハラハラしてしまう位迫力があった。
その打ち合いはしばらく続き、満足したのか二人はお辞儀をし合うとこちらに歩いて来た。
「お疲れ様」
と声を掛けると、汗だくの顔に笑顔を浮かべてクロス様が会釈をした。
この場所を案内されてから、私はちょくちょくここを訪れていた。
森の自然の中というのも気持ち良いし、クロス様に会いたいというのも正直な所だ。
お互いのことを色々と話し、だいぶ仲が深まってきたようにも思う。
「まだまだじゃな!」
お祖父様がカッカッカと笑いながら声を掛けていた。
「精進します」
と答えながら、クロス様は頭を掻いていた。
王族の方とこんな所で会っているなんて、なんとも不思議な気分だ。
クロス様は王家に戻りたくないのだろうか?
そんな疑問が頭をよぎった。
ついこの間も、戻る理由もないとか言っていたけど、本音なのだろうか。
「そろそろ暗くなって来たし、ワシは帰ることにするが、クレハはどうする?」
確かに陽は落ちて来ていた。
この辺りは森に囲まれているので街灯は勿論ない。
夜になると真っ暗だ。
でももう少し話をしていたい気持ちが勝る。
「私は後少しだけここにいるわ」
「暗くなり過ぎない内に気をつけて帰ってくるんじゃぞ」
と言い残し、お祖父様は山を降りて行った。
二人きりになった途端、なぜか突然心臓がドキドキして来た。
まさか私は……。
とその時、背後の木の影から何かが飛び出して来た。
「!?」
猪が凄い勢いで私に向かって来ていた。
突然の出来事に体が動かない。
でもこのままだと……。
目前まで迫って来た時、急に体が横に吹っ飛んだ。
数瞬後には地面に倒れ込んでいた。
視線を上げるとクロス様が私に覆い被さるような姿勢になっていた。
(咄嗟に助けてくれたんだ)
と理解した瞬間、目の前にあるクロス様と視線が合い、思わず恥ずかしくなった。
彼も同じ気持ちなのか、慌てて顔を逸らしていた。
猪はというと、そのまま走り去ってしまった。
クロス様は立ち上がり、手を差し出してくれた。
その手を握り立ち上がると、足首にズキッとした痛みが走った。
「大丈夫ですか?」
「なんとか……」
と言って歩き出そうとしたが、クロス様はひょいっと私をお姫様抱っこした。
「!?」
びっくりと恥ずかしさとでオロオロしていると、「送って行きますので」と優しい笑顔で言ってきた。
(体の線は細いのに、意外と力持ちなんだ)
と思わずキュンとしてしまった私であった。
お祖父様は木刀をブンブンと振り回しながら、クロス様に怒鳴っている。
対するクロス様は苦しそうに肩で呼吸をしながらも、勢いをつけてお祖父様に向かって竹刀を振り下ろした。
中々勢いがあったが、それはあっさりと受け止められてしまった。
(お祖父様凄いな……)
椅子代わりの切り株に座り、私は感心していた。
お祖父様は高齢ではあるのだが、腕は筋肉がしっかりついているのが分かる位太い。
動きも機敏で、ずっと若いクロス様のほうが疲れているようだった。
「そっちがもっと来ないなら、こっちからシバくぞぉ! ちゃんと受け見取らないと、フラついてまた川に落ちてしまうぞい!」
と言って、襲いかかるお祖父様。
前に『シバく&シバかれるのが気持ちいい』とか言っていたのはこれのことだったのか。
てっきり山に怪しいお姉さんがいて、いかがわしいことをしているのではと思っていた。
カンカン! と木刀がぶつかる高音が周囲に響いている。
怪我をしないだろうかと、見ているこっちがハラハラしてしまう位迫力があった。
その打ち合いはしばらく続き、満足したのか二人はお辞儀をし合うとこちらに歩いて来た。
「お疲れ様」
と声を掛けると、汗だくの顔に笑顔を浮かべてクロス様が会釈をした。
この場所を案内されてから、私はちょくちょくここを訪れていた。
森の自然の中というのも気持ち良いし、クロス様に会いたいというのも正直な所だ。
お互いのことを色々と話し、だいぶ仲が深まってきたようにも思う。
「まだまだじゃな!」
お祖父様がカッカッカと笑いながら声を掛けていた。
「精進します」
と答えながら、クロス様は頭を掻いていた。
王族の方とこんな所で会っているなんて、なんとも不思議な気分だ。
クロス様は王家に戻りたくないのだろうか?
そんな疑問が頭をよぎった。
ついこの間も、戻る理由もないとか言っていたけど、本音なのだろうか。
「そろそろ暗くなって来たし、ワシは帰ることにするが、クレハはどうする?」
確かに陽は落ちて来ていた。
この辺りは森に囲まれているので街灯は勿論ない。
夜になると真っ暗だ。
でももう少し話をしていたい気持ちが勝る。
「私は後少しだけここにいるわ」
「暗くなり過ぎない内に気をつけて帰ってくるんじゃぞ」
と言い残し、お祖父様は山を降りて行った。
二人きりになった途端、なぜか突然心臓がドキドキして来た。
まさか私は……。
とその時、背後の木の影から何かが飛び出して来た。
「!?」
猪が凄い勢いで私に向かって来ていた。
突然の出来事に体が動かない。
でもこのままだと……。
目前まで迫って来た時、急に体が横に吹っ飛んだ。
数瞬後には地面に倒れ込んでいた。
視線を上げるとクロス様が私に覆い被さるような姿勢になっていた。
(咄嗟に助けてくれたんだ)
と理解した瞬間、目の前にあるクロス様と視線が合い、思わず恥ずかしくなった。
彼も同じ気持ちなのか、慌てて顔を逸らしていた。
猪はというと、そのまま走り去ってしまった。
クロス様は立ち上がり、手を差し出してくれた。
その手を握り立ち上がると、足首にズキッとした痛みが走った。
「大丈夫ですか?」
「なんとか……」
と言って歩き出そうとしたが、クロス様はひょいっと私をお姫様抱っこした。
「!?」
びっくりと恥ずかしさとでオロオロしていると、「送って行きますので」と優しい笑顔で言ってきた。
(体の線は細いのに、意外と力持ちなんだ)
と思わずキュンとしてしまった私であった。
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