お爺さんは山へシバかれに、婚約破棄されたお嬢さんは川へ忖度しに行きました

白風

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 お祖父様とまさかの遭遇をし、三人で山道を進んで行った。
 20分位経っただろうか。
 それまで周囲を木々に囲まれていた視界が、ぱっと開けた。
 そこは小さな広場のように、地面が平らで木が生えていなかった。
 前方には小さな小屋のような物が見える。

「あれが僕の家です」

 クロス様が指差しながら教えてくれた。

「ワシが建てたんだぞい!」

 お祖父様が得意気に胸を張った。
 手先が器用で、幼い頃は作ってくれたおもちゃでよく遊んでいたっけ。
 とは言っても流石にあんな大きなものまで作れるとは。
 っていうかいつの間に建てたんだ。
 最近山の方によく行っていたのは、これを作る為だったのだろうか。
 案内されて小屋に入ると、中の物はきっちり整頓されていて、意外と住心地が良さそうだ。
 ベッドや簡易な台所なんかもある。

「お座りになって下さい」

 クロス様が椅子を勧めてくれたので腰掛けた。
 ここに住んでいるのか。
 でも何でこんな山の中に?
 と思っていると、クロス様が口を開いた。

「改めて昨日は本当にありがとうございました。おかげで命が助かりました」
「いえいえ、そんな」

 なんだか気恥ずかしくなり、ぶんぶんと手を振った。

「クロスが川に落ちた時はびっくりしたぞい! てっきり死んだかと思ったわ」

 ガハハ! と笑うお祖父様。二人に一体何があったのだろうか。

「お祖父様、何があったのか説明してくださらない? 分からないことだらけで……」
「あ、それは私からお話させて頂きます」

 小さく手を挙げたクロス様は、『どこから話したものか』と呟くと、語り始めた。

「信じてもらえないかも知れませんが私は一応、王族の者なんです。他の人には内密にしておいて欲しいのですが」

 と言われても本当なのだろうかと思った時、お祖父様が発言した。

「クロスは第二王子なんだぞい! わしは昔仕事で王家に出入りしていたこともあったが、彼がまだ幼かった時何度も会ったことがある」

 お祖父様が嘘を言うとは思えないし、この話は本当なのだろう。

「ですが王子はバレリア様のみで、第二王子がいるとは聞いたことがないのですが……」
「ああ、それはですね、複雑な理由がありまして」

 少し複雑そうな表情を浮かべるクロス様。
 その後説明された事実は、驚くべきものだった。
 

 クロス様は、生まれながらにして病弱で身体が弱かったそうだ。
 地位と威厳を保つことばかりに執着していた王は、クロス様をあっさり見限った。
 それでも母は愛情を注いでくれていたようだ。
 第二王子が生まれたという事実は、当時世間に公表されたが、程なくして病気で亡くなった。と発表された。
 クロス様の存在はないものとされたのだ。
 それからずっと人目につかないように外へ出ることが許されないまま、クロス様は大人になった。

(可哀想に)

 同情してしまった。
 クロス様は人の目を盗んでは夜に度々屋敷を抜け出していたらしい。
 ある日山に行った時、木刀を振って鍛錬していた私のお祖父様と出会ったとのことだった。
 強くなりたい。
 という想いを秘めていたクロス様は、その場でお祖父様に弟子入りを志願したという。
 やがてこの小屋が出来ると、クロス様は屋敷には帰らずここに住むようになったのだそうだ。

「ですが、こんな所に住むのが許されるのですか? 王族の身でありながら」
「まぁ確かにそういう身分ではあるんですが、捜索されることはありませんでした。父も邪魔者が消えて嬉しがっていると思いますよ」

 何と悲しい事実だろう。
 私は胸が痛んだ。
 それからしばらく、私達三人は夜が更けるまで語り合った。
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