お爺さんは山へシバかれに、婚約破棄されたお嬢さんは川へ忖度しに行きました

白風

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 私が助けた男性の正体は、王族のハロルド家の次男、クロス様であることが判明した。
 長居しても悪いと思い、私はあの後診療所を出て家へと帰った。
 自室で一人腕を組み、目をつぶって思案する。

(クロス様は王の息子。でも確か王の息子は一人だったはず)

 というのも、王子として世間に知られている男性は別にいるのだ。
 名をバレリアと言う。
 クロスと言う名前は聞いたことがない。
 王族だと嘘をついている?

「うーーん……」

 分からなかった。
 素性もはっきりしない今、素直に彼を信頼するのは危険な気がした。

『お世話になったお礼もしたいし、素性も含めて一度説明させて欲しい』

 と言われたのだった。
 まぁ、それまでは色々考えても無意味か。
 この数時間で色々疲れたし、もう時間も遅いしでクタクタだ。
 お風呂に入って今日はもう寝るとしよう。




 翌日。
 町外れにある、大木の下に私は立っていた。
 この木は何百年も前からあるらしく、町を見守る神聖な存在として大事にされていた。
 クロス様から、昼の12時にここに来てくれと言われたのだ。
 一体どんな話をされるのだろう。
 正体はもしかしたら、噓をついている悪人の可能性だって十分にある。
 昨日愛していた人に捨てられたばかりなのに、もう男を信用しかけているなんて馬鹿な女だと自分で思う。
 でもクロス様は噓をついていない。
 そんな気がしていた。
 数分経った頃、こちらに歩いてくる人影が見えた。
 向こうもこちらの存在に気づいたらしく、駆け足でやって来た。

「待たせてしまってすみません」

 ペコリと頭を下げてきた。

(こうしてみると意外と身長大きいんだなぁ)

 と感じた。
 私も今来たところですからと返事し、クロス様に促されるまま私達はすぐそこにある山へと向かって歩き出した。
 ん? 山?
 人がいないところに連れていかれようとしている?
 これってもしかしてピンチなのでは!?
 急に嫌な汗が吹き出し、寒気さえしてきた。
 ここで引き返すべきなのではないか。
 そんな考えさえ浮かんでくる。

「あ、あの……どうして山なんかに?」

 問われたクロス様は言いにくそうにしながらも教えてくれた。

「山に住んでるので……」

 あ、本格的にまずいのでは?
 底知れない恐怖が沸き上がってきて心臓がバクバク鳴る。
 パニックになって来た時、男性の叫び声が聞こえてきた。

「クロスーー! 無事じゃったかぁ!!」

 聞き覚えるあの声。

「お祖父様!?」

 まさかこんな所で出会うなんて。
 というか、クロス様と知り合いなの!?
 謎だらけだった。
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