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無感情の舞台

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 今日も今日とて、ゆらゆらと。
 この身吊られて、ひらひらと。


 見知らぬ人の顔。
 周囲から降り注ぐ喝采。
 ギターの音色が奏でる陽気な音楽。
 キシキシと軋む古びた舞台。
 それが僕が今感じている世界の全てだった。
 僕の仕事は舞台役者。
 この身体の動きで人々を魅了し、お金を得ている。
 決められた台本に沿って動く、操り人形だとも感じている。
 一年ほど前から知名度が上がり、公演をどの街でやってもすぐに人が集まってくる。
 始めた頃からは考えられない人気ぶりだった。
 演技の最中である今もそんなことを考える余裕があるくらい、僕はもうこの演目を何回も何回も繰り返してきた。


 それからもミスなく進行していき、そろそろ終盤に差し掛かった。
 音楽のテンポは更に上がり、動きは激しくなり、観客の熱気も最高潮に達する。
 だけれども、僕の心は冷え切っていた。
 情熱、興奮、感動。
 そういった感情はこの世界のどこかに置いてきてしまったらしい。
 舞台で舞うことの何が楽しいのか。
 繰り返し自問自答しても答えは出ない。
 終始モヤモヤとした感情のまま、幕は閉じた。
 観客に頭を下げると、皆次々に小銭をブリキ缶の中へと入れていった。
 無機質なその音を聞いていると、僕はこの世界に生まれた意味を考えてしまう。
 いつまでこんな日々が続くのだろう。
 ということを。


 人々も去り、周囲には誰もいなくなった。
 場所を移して今日はまだこの後に一公演残っている。
 それまで、しばしの休憩としよう。
 こうして僕は小さな箱へとしまわれた。
 そう。
 僕は操り人形。
 心を持ってしまった木製の人形。
 自由も感じられず操られる日々を送っている存在。


 閉じ込められて真っ黒な視界の中、僕は思う。
 今日も今日とて、ゆらゆらと。
 この身吊られて、ひらひらと。
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